7s Sprinter   作:マシロタケ

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Restrict 7s

…3…4…5

 

祝日のトレセン練習場、最近手入れが入ったのか路面状況が以前より綺麗に整っていた。

時刻はだ昼前。まだ日が高い位置から若人たちを見守る。その下で一人のウマ娘が楕円に広がるコースを駆け抜けていく。

 

砂浜トレーニングを経た彼女の走りは、それまでとはまた少し変わった。

以前よりも効率よく路面を蹴り、無駄な力の分散を防ぐ。より体を脇を締めて風の抵抗をできるだけ最小限に。呼吸により意識を置き、体中に不足することなくエネルギーの源である酸素を供給する。

 

全ての動作に意味を持たせ、その全てを余すことなく前へ進むための推進力へと変えてゆく。

 

すべては2000mの頂点を勝ち取るために。

 

しかし、元々彼女の体は1200~1400の短距離で勝負するためにチューニングされた体である。

いくら走り方を変えたとしても、いきなりでその世界ましてやその頂点へ太刀打ちするのは容易な話ではない。

 

短距離で使い果たしていた体力のリソースを、2000m全てを走りきる為に調整しなくてはならない。

…その大きな犠牲となったのは7秒スパートだった。

 

彼女のスパートは、誰も触れることのできない絶対的な力を宿しつつある。

だが、逆を言えば一回のレースの中で一番体力を、スタミナを消費する部分でもある。

 

今まで通りにそのスパートを100%使い続ければ、レース全体のペース配分は無理が生じるものになる。

 

だからと言ってそれを止めさせるというのも得策ではない。…それだけが、彼女のたった一つの武器だから。

 

彼女に課せられた次の課題は、スパートの抑制だった。

7割、一度のスパートでかけられる力をその程度に抑える。無論7秒の制約は変わらない。

 

「トバしすぎだ!その先が続いてることわすれんなよ!」

一度スパートに入ってしまえば、後先を考えない全力集中モードに入るのだが、そこでくっと心にブレーキをかける。

 

あと少しいけそうだけど、というところで抑える。

 

「ひぃ…ひぃ…」

「もうちょいか。…ムツかしいもんだな。」

大城は親指で眉間を掻いてそういった。

 

あと100m残したところでマーシャルは失速した。

十分にペース配慮をしたつもりだったのに。

 

「だが、悪くない。見込みで言えばこの間あいつらと走った時よりもタイムは良くなってるハズだ。…きいてんのか?」

「…へ?…へぇ?」

「またいるかアレ?」

そういって大城はカバンから酸素吸入器をとりだしてマーシャルに投げる。

 

「さぁて、ただでさえ強豪が挙って集う天皇賞、出るだけでも一苦労だ。エゲつねぇ倍率をくぐり抜けることになる。そんで、スプリントから来たお前は中距離の実績もない。そこで出場するためにゃ、しっかり段取りを踏んでいく必要がある。」

「段取り…?」

「優先出場権を取りに行くのさ。まずはオールカマー。2200mだ。」

 

2200m。彼女の目標値、2000mの+200m

その200mがあまりに大きすぎることを、二人は理解している。

 

 

「…ほんとは新潟記念とか紫苑Sとか肩慣らしを踏ませたかったが、生憎面倒ごとに引っ張られたからな。ほぼぶっつけに近いが…いけるか?」

「…ふぁい。」

「しっかりしろよ、クラウンの背中に追いつくんだろ?」

「お母さん…。はい!」

母の名を聞いたマーシャルの目に、光が宿る。

 

そして立ち上がる。

「…トレーナーさん。私のお母さんは、天皇賞で勝つためにどんなことしてたんですか?」

「アイツねぇ…まぁ、断崖絶壁の崖上らせたり、リッターバイク背負わせて坂道走らせたりああ、特急電車の4駅区間を並走させるってのもしたな。…半ば冗談半分でさせたモンもあったが、マジで全部やりきりやがったから、逆にこっちが焦った。」

はっはっはと笑いながら大城はとんでもないことをいう。

 

「…私のお母さん、そんなことしてたんですか?」

マーシャルは唖然とする。

 

「お前もやりたいか?」

「お母さんが、乗り越えた壁なら…!」

「ジョーダンだ。やらなくていい。あれはアイツだからできたことだ。お前にはさせられん。…それにクラウンを目指すことはいいが、なにもクラウンがやってきたことを踏襲する必要はない。…お前にはお前だけのやりかたがある。…そうだろ?」

 

「私だけの…やり方。」

「お前にはアイツみてぇな並外れた体力はない。だが、7秒がある。それで戦え。もっとお前の7秒(スパート)を手懐けろ。」

「…私、もうすこし走ってもいいですか?」

「…OK。行ってこい。」

 

そういって再びマーシャルはターフへと駆け出して行った。

 

その背中を見送った時だった。

「…うっ!!…はうっ!!…がッ…ああ。」

再び発作が彼を襲った。

 

「…クッソッ…ざけんじゃねぇ…。」

大城は体を引きずるようにして陰に隠れる。

 

彼は直感で感じていた。

…自分自身のリミットがもうそこまで近づいてきていることを。

鎌を構えた死神が、すぐ自分の背後にいることを。

 

…マーシャルに見られなかったのだけが、幸いだった。

 

 

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