7s Sprinter   作:マシロタケ

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ワガママ

『…隠し通して、それが彼女の為だと、これ以上言うのなら、貴方は…トレーナーとして失格だ。』

その日(・・・)はいつ来るかわかりませんよ。一ヵ月後かもしれませんし、明日かもしれない。』

『…何も知らないまま、急に別れを告げられるのが、一番サイアクだ。』

『…一人のトレーナーとして..知らない別れを待たせるなんて…あまりにも残酷だ。』

 

練習場の柵に、背中を預けた大城は天を仰ぎながら、ブローオフするかのような溜息を吐く。

 

「皆して言いたい放題いってくれらぁ…」

だが、それを伝えなければならないことも、また彼に課せられた使命の一つだった。

 

「トレーナーさん、お待たせしました。」

そこにマーシャルがやってくる。

 

ちょっと浮かない表情は先日のことを引きずっているのか。

 

「おう…。なんだ?まだしょぼくれてんのかよお前。」

「い…いえ!大丈夫です!」

大城の一言に彼女の身は引き締まる。

 

そしてエンジンがかかったかのように、目が光る。

今の彼女は、スプリンターを制した王者ではなく、中距離の世界に挑むチャレンジャー。

今までのように、困難な壁があれば立ち向かう。

 

何度くじけたっていい。それでこそなのだから。

その気丈な気持ちでマーシャルは自分を奮い立たせた。

 

「…。」

そんなマーシャルの顔を見た大城は、少し沈潜した。

 

彼女は何度も何度も分厚い壁に当たっては、それを何とか乗り越えようと立ち向かっている。

それに比べて自分はどうなんだろうか。

 

彼女に真実を告げなければならない。そのことから、ただただずっと逃げ続けている。

 

もしこのまま言えず終いで、その時を迎えてしまったらどうするのだろうか。

自分は…もう誰にも顔向けできない。

 

本当のクソ野郎だ。

 

今日だ。…今日。決めろ。

 

大城は自分に誓った。

 

「…?どうしたんですか?トレーナさん。」

大城の妙な沈黙に疑問を抱いたマーシャルはそっと尋ねた。

 

「マーシャル…俺…な」

「はい?」

目をぱちくりさせてきょとんとするマーシャルに、大城は目を合わせずに口を開こうとした。

 

だが、ふと視界に彼女の表情が入った途端に、うまく次の言葉が出てこなくなる。

 

「あ…いや。」

「トレーナーさん…今日ちょっとヘンですよ。」

 

なぜだろう。今まで女を誑かす時でさえも、嫌いな上司や権威ある者たちへ牙を向けた時でさえ、こんなに言葉を詰まらせることなんてなかった。

 

だた一言…もうじき俺は死ぬ。とその一言がどうしても言えない。

 

そのあとのことが、どうしても想像できない。

 

大城はふぅとため息をまたつく。

 

「なぁマーシャル…。」

「はい?今日のトレーニングはどうしますか?」

「そうだな…今日は…」

 

 

「今日は遊びに行こうぜ。」

 

 

「…へぇ?」

 

 

――――――――――――――

 

「いいんですか?私、まだまだなのに…遊んじゃって。」

「いーんだよ。ガス抜きってもんだ。たまにはこうして遊ぶこともトレーニングの一環さ。」

「本当ですかぁ?」

 

大城を怪訝な目で見るマーシャル。

彼の突発的な発言に、せっかく着替えた練習着から、ちょっと粧した今どきな少女らしい服装へ着替える。

 

そして街へ。

考えてみれば今日は日曜日だ。

どこもかしこも賑わっている。

 

「さ、なんでもいいぞ。たまにはワガママになってみろよ。」

フンと笑いながら大城は言った。

 

「言いましたね!…じゃあ…あれ!」

とマーシャルが指したのは…。

 

 

二人はモダンなウッドデッキテラスに設置された、ローズウッドのテーブル席へ通される。

そして彼らの前に出されたものは…メイプルソースとホイップと鮮やかな色どりあるフルーツの載った大きなパンケーキ。

 

「…いきなりコレかよ。」

その甘ったるそうなパンケーキに、甘いものが苦手な大城は少しどんより顔。

「トレーナーさんがいいって言ったんですよ!さあ!いただきましょうよ!」

そういってマーシャルは手を合わせる。

 

周りを見渡す限り、若い女性客やカップルばかり。

大城ほどの年齢の客は今のところ見当たらない。

 

こんな若いウマ娘とパンケーキ屋にいるなど、傍目から見れば娘のワガママに付き合ってる父親か、所謂パパ活の一部始終といったところだろうか。

 

そんなミスマッチな雰囲気の中に身を置いた大城はパンケーキになかなか手を付けない。

対照的にマーシャルは笑顔でそれを頬張る。

 

「…トレーナーさん?食べないんですか?」

「ああ…こういうのはちょっとな…。」

「だめです!ちゃんと食べてください!」

「お前一人でも食いきれるだろこんくらい?」

「そういうことじゃないんです!」

 

そうするとマーシャルは、一口サイズに切ったパンケーキをフォークにさして大城へ。

 

「はい。あーんしてください。」

「勘弁しろよ。俺大概いいオヤジなんだぞ。」

「今日の私はワガママなんですよ!さ!トレーナーさん!」

大城は自分の言ったことに少し後悔しながらも、観念して口を開く。

 

マーシャルはそれを口へ押し込む。

 

「…んぐっ!」

「どうですか?」

「…ほぉ、案外悪くない。」

「でしょ!さ!もっと食べてくださいよ!」

 

大城は内心驚く。

今まで敬遠していたものが、意外とそうでもないことに。

一度ラインを踏んでしまえば、それ以降は…。

 

この癌の告白でさえも、そうなってくれるものだろうか。

と心の片隅でぼやいた大城は再びパンケーキを口へ運んだ。

 

――――――――――――――

 

「案外ハラに溜まるんだなこれ。」

「そうですか?私まだまだいけますけど?」

「お前と一緒にすんなよ。」

 

とケラケラ笑いながら二人は、街を歩く。

 

「おい、これいいじゃねぇか。行ってみようぜ?」

と大城はあるものを見つける。…それは。

 

「お…お化け屋敷ですか?」

「ナンだ…ビビってんのか?」

「い…いえ!行きますよ!怖くないんですから!こんなの!」

と、息巻くマーシャルだが。

 

「ひぃやぁあああああ!!!!」

と、ちょっと脅かされたマーシャルはすぐに大城の背中へ。

「と、トレーナーさん!!や、やっつけてくださいよあんなの!!」

「やっつけるもどーもねぇだろお前。」

チープなお化け人形にビビりあがるマーシャルを満足そうに眺めた大城は、そのまま彼女を置いて歩く。

 

「ま…まってくださいよぉ!」

暗がりに彼の背中が消えていく。

「…?」

マーシャルはその一瞬の光景に、妙な不安を覚えた。

まるで…。

 

とその時にまたドンッ!とお化け人形が脅かしに来る。

 

「ぎゃああああああ!!」

 

―――――――――――――――

 

「情けねーな。G1ウマ娘あろうもんが。」

「だってぇ…。」

マーシャルは大城の袖を離さなかった。

 

「んじゃ、気分直しにゲーセンでもいくか?」

「…あ!この間のレースゲーム!私もやってみたいです!」

 

二人は大きなゲームセンターへ。

そこには大型のプライズゲームや、アーケード機、リズムゲームなど盛りだくさん。

 

「あーん…故障中ですって。」

マーシャルはその目当てのゲームの前で耳をペタンと倒す。

 

「はん…ツイてねーなー。…お、代わりにゾンビホラーガンシューティングとかあるぞ?」

「もうヤです!…あ!トレーナーさん!あれ!」

とマーシャルが指をさす。

 

その先にあったのはプリントシール機…いわゆるプリクラ。

 

「…お前なぁ。」

大城はパンケーキに続いて呆れた声を出す。

彼女には自分があと30年くらい若く見えているのだろうか。

 

「撮りましょ!ね!」

そういって彼の袖を引っ張る。

 

「平成初期に流行ったのは知ってたが…まだあるんだなぁ。」

 

大城はされるがまま、カーテンの中へ。

 

「メンキョ取るときの証明写真思い出すな。」

その殺風景なカーテンの内側で大城はぽつんとつぶやく。

 

「トレーナーさん!ここで背景選べますよ!…この天国背景とかどうですか?」

「…エンギでもねぇ。…お。こりゃサーキット場か?」

「レースクイーン風な写真が撮れるみたいですね!トレーナーさん好きですもんね。これにしましょうか!」

 

『では、好きなポーズをとってね!』

と音声案内がいう。

 

「どうしますか?」

「そりゃあ…いつものアレだろうが。」

「はい!」

 

そういって二人はロックサインをレンズに向かって掲げた。

 

「できましたよ!」

そこに出てきたプリントシール。

 

「ははは…これ俺かよぉ」

大城はそこに映る美化された自分を見て笑った。

 

『〇月◎日 トレーナーさんと♡』

と記載された文言に大城はニヤッと笑う。

 

「ハートマークたぁ、お前もとうとう色気づきやがったな?」

「い…いや!違いますよ!これはその…この写真撮るときの文化っていうか!」

無意識につけたそのマークの指摘にマーシャルはしどろもどろ。

 

「はっはっは!まぁ、有難く頂いとくさ。」

 

―――――――――――――――

 

そんなこんなをしながら、日が傾いてきた頃。

駅ビルのレストランで食事を済ませた二人は、最後そこの景色を眺めようと屋上へ。

そこに。

 

「あ!トレーナーさん!観覧車ありますよ!あっちのほうがもっと綺麗に景色見えますよ!乗りましょうよ!」

と指をさす。

 

…だが。

「あ…ありゃあいいんじゃねぇか?」

大城はそっぽを向く。

その表情はどうも乗り気じゃないといった様子。

 

「え?どうしてですか?」

「どうしてって…ガキじゃあるめぇしよぉ。」

「今更なんですか!…ほーら!行きましょうよ!」

 

大城は彼女に引っ張られて観覧車へ。

 

「…うわぁ、綺麗。前のレストランのとこもよかったですけど、ここもいいですよね!」

「…そうだな。」

「?…どうしたんですか?」

 

顔をガラスにへばりつけて外を眺めるマーシャルとは対照的に、大城は腕を組んだまま下をずっと向いていた。

 

「…大丈夫ですか?気分とか…悪くなっちゃいました?」

マーシャルは立ち上がって大城のところへ行こうとする。

その時大城が慌てて彼女を静止する。

 

「ま!待て!立つな!!…ってか、揺らすな。」

その大城の妙な挙動にマーシャルはピンとくる。

 

「もしかしてトレーナーさん…観覧車怖いんですか?」

「…。」

大城は沈黙した。

 

「いや怖いとか…何つーか。苦手なんだよな。…ケツがふわふわ浮くみてぇで、安定感ないっていうか。」

大城は下をむいたままそういった。

 

意外な彼の一面に驚きつつもマーシャルは、そっと観覧車を揺らさないように大城の隣へ座る。

「意外ですね…トレーナーさんにも怖いものがあるなんて。」

「…ウルセェ。」

 

マーシャルは大城の手をそっと取った。

「…大丈夫ですよ。…私がそばにいますから!」

そういって大城に笑顔を向ける。

 

「…ああ、頼もしいよ。」

 

それからは、観覧車が下死点にくるまで、二人は身を寄せ合った。

 

――――――――――――

 

「わぁ!もう真っ暗!」

時刻は…もういくら急いでも門限に間に合わなさそう。

 

「どうしよう…寮長さんに叱られちゃう…。」

マーシャルは不安を顔に出す。

 

「ああ…もうそんな時間だったのか。」

大城は腕時計を確認する。

 

…結局言えず終い。

これだけ一緒の時間を作れば、どこかできっといえるだろうとタカをくくっていたが、そう甘くはなかった。

 

今日決める。そう誓ったはずなのに。また先延ばしにするのか。

そうなれば…あまりにも不甲斐ない。時間もないというのに。

 

(いいや…決めたコトなんだ。今日…だ。)

 

「トレーナーさん!早く戻らないと!」

そう焦るマーシャルに大城は言った。

 

「なぁマーシャル。」

「…はい?」

「お前…今晩俺ん家にこねぇか?」

 

 

 

「…え?」

 

 

 

 

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