あれから、引っ越しのアルバイトは週3回で続けている。
そのほかのトレーニングも、瞬発力強化の為、筋力系を中心とした無酸素運動がメインだった。
それに、四六時中履いているこの超重量級の蹄鉄付きシューズにも、少しづつ慣れてきて、やっとほかの娘たちと同じくらいの歩幅で歩けるようになっていった。
気が付けば、私の体は以前に比べて結構筋肉質になっていた。
自分の引き締まった体を鏡で見るのは、少々気分がいい。
そのせいもあってか、私の体には最近異変が生じている。
それは…最近やたらにご飯がおいしい。
―――――――――
トレセン、昼休みの食堂にマーシャルの姿はあった。
彼女の目の前のテーブルには、これでもかというほどの空の丼が重ねてあった。
ハフハフ、モグモグ…。
依然彼女の食事をする手は止まらない。
その様子を親友のモモミルクとトップギアは唖然と見ていた。
「マーシャルちゃん…最近よく食べるねぇ…。」
「ああ、こいつこんなに食うヤツだっけ?」
彼女たちの話し声も、マーシャルには届いていなかった。
「おいマーシャル!…あんまり食ってるとハラ壊すぞ?」
「!!」
トップギアの声にようやく気が付いたマーシャルは手を止めた。
「…ぷは、ごめんね、最近ずっとお腹すいてて。」
「まぁ、よく食べることはいいことだよ。」
モモミルクは優しく微笑む。
「まるでスペシャルウィークだな。新しいトレーナーのシゴキはそんなにハラすかせんのか?」
「ん…まぁ、そうだね。」
「ねぇねぇ、今どんなトレーニングしてるの?」
「えっと…引っ越し…かな?」
「「は?」」
二人はポカンと口を開ける。
「え…えっとね!その、トレーナーさんの知り合いさんのところの引っ越し屋さんでアルバイトしてて…その、それがトレーニングだって…。」
「...はぁ、なんか最近引っ越し屋で若いウマ娘がバイトしてるってウワサだったけど...お前のことだったのか。」
ギアは呆れるように言う。
「でも、大丈夫なの?うちのトレセン、アルバイトOKなんだっけ?」
「さ、さぁ?私だって好きでやってるわけじゃないよ!トレーナーさんが無理やり…。」
「まったくワカラン人だなぁ、大城先生って。」
―――――――――――
「…ふぅ。」
人通りの少ない廊下で、大城は壁に背を預け、懐をさすりながら溜息をつく。
そしていつもの錠剤を口に含み、一息ついてから先に向かおうとしたとき。
「大城さん!」
その声の方向に振り向く。
そこには、片方だけ剃り込みが入った特徴的な髪形をし、口に飴の棒を引っさげたチームスピカのトレーナー、沖野トレーナーの姿が。
「よォ、沖野。ナンだ、今日は飲みいかねーぞ?」
「いいえ!俺も素寒貧なモンで...。」
二人の付き合いは長い。大城は沖野が新人だったころの直属の先輩でもあった為、その親交は深い。
「聞いたぜ?お前のトコの若いの、有馬獲ったんだって?…お前も大したもんだな。」
「いいえ、俺じゃなくて、テイオーの信念と努力の賜物です。…俺は何も。」
「…はっ、変わらんなぁお前は。」
「大城さん、どうしてまた急にトレーナーを?」
「俺がトレーナーやってちゃ何か問題か?」
ジョーク半ばに飛ばす。
「いいえ、ここを退職されるとは聞いていたので…何かあったのかと。」
「上玉を見つけて血が騒いだ…っていやぁ納得できるか?」
「…いつもわからない人ですね、あなたは。」
「悪いが、お前だけには言われたくねぇぞ?」
「な!!」
「じゃあな!若造!」
そういうと大城はそのまま廊下の奥へと消えていく。
沖野はそんな彼の背中をどこか不安そうに見ていた。
―――――――ー
「ちょっと…食べ過ぎちゃったかなぁ。」
ずいぶんと肥大化したその腹をさすりながら、マーシャルは次の授業のため教室へと向かう。
その向かい側から、自身のトレーナー、大城の姿が見えた。
「トレーナーさん!」
「おう、マーシャル!ちょうどよかった今お前に…。」
その言葉の最中、大城の目線はマーシャルの腹に移る。
「…どうした?オトコに引っ掛けられたか?」
「ち…ちがいますうう!!!」
レッドよろしく顔を真っ赤にしながらマーシャルは憤る。
「…で、どうかしたんですか?」
「ちょっと付き合え、お前に行かせたいところがある。」
「行かせたいところ?…でも私、次の授業が。」
「ああ、行かなくていいぞ」
「え?」
「お前の早退届さっき出してきたところだ。」
「ええ!?」
マーシャルは持っていた教科書を落とした。
「じゃ、準備でき次第駐車場に来い。以上」
そういって大城は颯爽とどこかへ行ってしまった。
「ほんとに…勝手な人…。」