7s Sprinter   作:マシロタケ

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「…はぁ。ったくよぉ!いくらカラダ作っても、気持ちが乗らねぇなら意味ねぇんだよ!」
「でも…でも…」
「じゃあコレだ。」

「え…えっと?」
「えっとじゃねぇだろ?#%"&&"!だよ、迷ったら"%#$%"$に行け。」
「ろ…&%#$%&"?」

「気持ちが折れそうになった時、いつも俺を助けてくれたのは&#%$&#%"だ。迷ったらこう叫ぶんだよ『#'!!"??#&$'"#&$'"』ってな。」


合言葉

「ねぇ、ゴルシ…本当に大丈夫なの?」

と、体操着に着替えターフにてシューズのセットをするテイオーが神妙そうな面持ちでゴールドシップに尋ねる。

 

「ああ…アイツならきっとまた起き上がってこれるハズだ。…あの小島が信じたヤツだぞ。」

「でも、もし…上手くいかなかったら?」

「アタシがこのクビを差し出してやるさ。…きたぞ。」

 

クイっとゴールドシップが顎でその方角を指す。

 

「…」

そこに彼女はいた。学園内の地下バ道から練習場のターフへの境目。

マーシャルはその一歩手前で佇んでいた。

 

天皇賞以来、一度も踏んでいなかったターフ。

その緑に茂る絨毯に足を踏み入れることに、彼女は躊躇いを感じていた。

 

この芝を見るだけで、また彼女の何かがフラッシュバックするようだった。

あんなに慣れ親しんだ場所だったのに。…だからこそなのかもしれない。

 

「マーシャルちゃん…。」

そこにスペシャルウイークの姿が。硬い表情で芝を見つめるマーシャルに対しそっと手を差し伸べた。

 

「スぺちゃん…。」

そういうとマーシャルはスペの手をそっと握って、エスコートされるようにゆっくりと足を上げ、そして芝を踏んだ。

芝は意外にも柔らかく感じた。あの日以来芝を踏まなかった彼女、自分の記憶とギャップが出来るほどに期間が空いてしまったのだろうか。

 

そのまま彼女はトンと背中を押されるように、残された足も芝につく。

その瞬間少しバランスを崩して前のめりになりそうになるが、スペがそれを受け止めた。

 

「大丈夫?」

マーシャルはスぺの胸で肩を動かすほどの大きい呼吸を何度か。

「うん…大丈夫。」

そういった後にマーシャルはスぺの補助を解いて一人でターフへ立ち上がった。

 

練習場の芝はこんなに広かったのだろうか。

練習場を見渡す彼女が最初に思ったのがそれだった。…いやというほどに走りこんだ場所だというのに。

 

「どうだ?マーシャル。」

そこに沖野が、彼女に声をかける。

 

「大丈夫そうか?…どうしてもというのなら、無理はしなくていい。」

沖野の顔にも緊張が走る。

 

「大丈夫…です。」

マーシャルは首を横に振った。

 

そしてゴールドシップの待つスタートラインへ歩き、マーシャルはゴルシの前に立った。

 

それを見たゴルシは黙って頷く。

 

「柔軟体操は?」

「一応…。」

「OK、距離は1200m一本勝負。チビ、お前の独壇場だ。最後に訊く…走れるか?」

「ゴルシさん…私は走っていいんですか…?」

マーシャルのその瞳は迷いに満ちていた。

「その答えは自分で見つけろ。それがスピカの掟だ。…全員位置につけ。」

 

そういってスピカとマーシャルが横一列でスタートラインへ着く。

 

 

「いいか…おまえら?」

沖野のその言葉に全員が頷く。

 

「3…2…1…GO!」

 

その合図と共に、8人のウマ娘たちが一斉に駆け出した。

 

――――――――――――――――

 

…。一度走りだしてしまえば、ある程度は体が覚えててくれている。

手続き記憶…とでも言うんだったんだろうか。

 

だけどある程度までだ、大事なことは自分で処理しないといけない。

 

例えば、勝負に持っていくまでに、どこでどう構えるべきか。

 

どこのポジションを押さえればその後が有利に働くのか。

 

…勝負に入ってからは、どうするべきなのか。

 

今の彼女にはその大事な部分が欠落していた。

 

確かに走ることはできている。

八人のウマ娘、前方にサイレンススズカ、中団位置にスペシャルウイークとウオッカ、テイオーにスカーレット、その少し後ろにゴールドシップとメジロマックイーン。マーシャルはそれよりも後ろにいる。

 

マーシャルは大きく掛かり、乱れていた。

今までできていた整った呼吸が今もできているのかすらも怪しい。

 

(…やっぱり…私)

これじゃあまるで、あの時の、初等部生にすら負かされていた、チームでも最弱扱いされていたあの頃と同じだ。

 

しかし、一歩一歩踏み出すたびに、彼と歩んできた思い出が、壊れたビデオテープのように一瞬一瞬、ブツブツと切れたりノイズを引き連れながら、断片的に彼女の脳内へ映し出される。

 

それが抵抗となって、それ以上を彼女は踏み出せないでいた。

 

(そんな…こんなんじゃ…ダメ…なのに)

スピカたちの背中が遠のいていく。

 

先頭を逃げるスズカなんて、もう輪郭がぼやけてくるほど。

 

…あれだけ、付きっ切りで彼に教えてもらった走りが全くできない。

それどころか、どんどん息が上がってくる。

 

(やっぱりもう…ダメなんだ…私。)

情けないよ…彼がいなくったって一人で歩いて行けるって言ったじゃない。

 

わかってるよ。彼を安心させなきゃいけないのに。それなのに。

 

お母さんからもらった不屈の心はどこへ行ったの?あなたのレッドのその名は飾りなの?

 

そんなこと言ったって…だって私にはもう走る価値なんて、ないもの。

大事な人からもらった戦い方を…亡くしてしまったんだもの。

 

本当に亡くしたの?

試してもないくせに。

 

何を…?

 

本当は自分が傷つくのを怖がってるだけ。もうこれ以上見たくないものを見ないようにしているだけ。

 

それは…いけないことなの?

 

ううん、何も悪くない。

でもね…本当にあなたが見たい景色はね。

 

 

見たくないものの中にあったりするんだよ。

 

 

…わかってるよ。そんなことくらい。

 

 

なら話が早いね。じゃあ見ておいでよ。

 

簡単に言ってくれる。

 

簡単だよ。一歩踏み出してみればいい。

 

…怖いよ。

 

大丈夫だよ。あなた(わたし)だもの。何も怖くない。

 

さぁ、もう一度目を開いて。

深く息を吸って。

 

あなた(わたし)ならできるよ。彼と過ごした日々は…偽りじゃないんだもの。

 

 

――――――――――――――――――

 

距離も残すところ…数百m。だが依然マーシャルは勝負を仕掛けてこない。

 

(マーシャルッ!)

沖野は祈った、それが彼に残された唯一の手札だから。

 

本当に彼女の7秒は消えてしまったのか。

 

そう思った瞬間だった。

「!!?」

 

沖野は目を見開いて、慌てて振り返った。

でも、そこには誰もいなかった。

 

しかし…今確かに感じた。

 

 

居た。

 

 

もう居ないハズの…気配が。

 

 

それと同時に少しだけ暖かい突風が吹いた。

 

 

――――――――――――――――――

 

マーシャルはもう一度だけ、前を向いた。

彼女が7秒の武器を手に入れる前から持っていた、たった一つの悪あがき。

 

それが、前を向いてみることだった。

 

しかしそれで事態が好転した試しなんてほとんどなかったが、やらないよりかは…マシかもしれない。

 

(…)

マーシャルは大きく息を吸ってみる。

 

足に力を入れてみる。

 

-$#&"-

 

やはりできない…もう一度

 

 

-7%#%"~~-

 

(やっぱり…だめだ…)

スパートに入った瞬間の血が沸騰するような、脳がハイになるような、体が浮くようなあの感覚が呼び戻せない。

 

でも、見えた。

 

自分が恐れているラインが。

 

ここを超えてしまえば、その後どうなるかわからないというゾーンへ踏み込むための、境目が。

 

その先に待っているのは天国かもしれないし、恐れていた地獄かもしれない。

 

(…怖い。)

また彼女の心にブレーキがかかる。

 

 

『お前にはここで立ち止まってほしくはない。俺は…お前の行く末を見たいんだ。』

また、彼の言葉がフラッシュバックする。

 

(ごめんなさい…トレーナーさん、やっぱり私にはもう)

 

 

走る価値も

 

 

資格も

 

 

ありませんでした。

 

 

マーシャルの足が少しづつ、緩み始めた。

 

その時だった。

「!!!」

 

彼女に何かが纏った。

目には見えない何かが。

 

だけどその見えない何かからは、確かに香った。

 

タバコと香水の入り混じった…どうも懐かしい香り。

 

この秋の終わりを示す冷たい風と、芝の香りが立ち込める練習場に、そんな香りを誘発させることなど不可能だ。

 

だから本当にそれは気のせいなのかもしれない。

でも、確かに感じる。

 

マーシャルは気が付いた。

 

(…いるんだ。)

 

目には見えないけど。

 

 

(すぐそこに…来てるんだ…。トレーナーさん。)

 

 

信じられないけど、姿なんて見えないけど。

 

 

確かにそこに彼はいるんだ。

 

 

 

 

トレーナーさん。

 

 

ああ…ごめんなさい。

 

 

またあなたに心配かけてしまった。

 

『お前がそんなんだと…俺が安心できねぇよ。』

 

そうですよね。

 

でも、私にはもう。

 

『気持ちで負けんな。いつもそう言ってる。』

 

…だけど。

 

『なんだ。また尻を叩かれねぇとダメか?』

 

そうかもしれません。

 

『じゃあこれだ。』

 

これ?

 

『はぁ!?お前知らねぇのか!?ツェッペリンにパープル、クイーンにKISS、ユーライア・ヒープにバッドカンパニー!あの…!!』

 

あの…。

 

あの…。

 

あの…。

 

 

ああ…そうか。

 

 

そうでした。

 

 

それは、私たちが幾度なく口にしてきた合言葉。

忘れるはずなんて…ない。

 

 

 

 

 

 

思い出せた?

 

うん。

 

まだ怖い?

 

…なんでだろう。そうでもないかも。

 

あなたは誰?

 

レッドマーシャル。不屈の赤を持つウマ娘。

 

合言葉は?

 

Let's Rock

 

…合格。いってらっしゃい。

 

 

―――――――――――――――――

 

『気持ちが折れそうになった時、いつも俺を助けてくれたのはロックだ。迷ったらこう叫ぶんだよ。』

 

大丈夫、もう…忘れない。

 

『「Let's Rock!」』

 

 

そうマーシャルは口に出した。誰にも届かない声で。

だが確かにその瞬間から、彼女の心がすぅっと軽くなっていく。

 

私ってば贅沢だ。だけど罰当たりだ。

こんなに誰かに愛されて生きているというのに、それに気が付かなかった。目を背けた。

 

マーシャルの視界に、はっきりとスピカたちが映し出される。

 

自暴自棄になって…でも、それじゃあいけないよね。

こんな私を本気で心配してくれて、本気で叱ってくれて、本気で愛してくれる人たちが、こんなにも近くにいてくれたのに。

 

…でももう、大丈夫。

心配はいらないよ。

 

私は今度こそ、一人で立ち上がれる。

 

お父さん、お母さん。

 

ギアちゃん、モモちゃん。

 

会長さん。

 

沖野さん。

 

ゴールドシップさん。テイオーさん。マックイーンさん。スズカさん。ウオッカさん。スカーレットさん。スぺちゃん。

 

そして…トレーナーさん。

 

みんな

 

 

本当に

 

 

ありがとう。

 

 

 

 

 

-7.000-

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

「「「「「「「!!」」」」」」」

 

ターフを駆ける7人が確かに感じた。

 

この寒い冷気を焼き尽くすほどの炎が、自分たちの後ろで急に灯ったことを。

 

-6.598-

吸った息を全身に巡らせる。

 

血が沸騰する。

 

心臓が高鳴りを覚える。

 

視界は前方を中心に狭くなる。

 

耳は聞こえにくくなる。

 

そして、弾かれた弾丸のように前にかっ飛んでいく。

 

前方にはゴールドシップとマックイーン。

どうやらイン側を譲ってくれる気はないらしい。

 

だったら、外側に回ればいい。

 

もつれないよ。それが私の7秒だから。

 

-6.250-

 

「な!?大外から!?」

「来やがったな!チビ助!」

 

その影を二人はすぐに察する。

 

「このアタシに大外から仕掛けてくるたぁ!いい度胸だ!マックイーン!ヘバってんじゃねぇ!行くぞ!」

「そんなこと仰ったって!」

 

二人がそんな掛け合いをしている一瞬の間に。

 

その大きい影はスピカのステイヤー組をまとめてオーバーテイク。

 

「なんて瞬発力!初めてお会いしたあの日と…比べ物になりませんわ。」

「…どこがチビなんだよ、んなデッケェ覇気構えやがってよぉ!!」

 

そんな彼女らの声も置き去りにして、マーシャルは前へ前へ。

 

-4.598-

 

(…くぅ、やっぱスプリントじゃ全力出し切れねぇ…)

ウオッカがそう心でボヤいたとき。

 

「ちょっと!ウオッカ!!」

とスカーレットの声が彼女の耳に。

 

「あ?なん…」

そう言いかけた時に、コトは終わっていた。

 

「…だよ。」

ウオッカの目前に赤い闘気(ドレス)を纏ったマーシャルの姿があった。

 

「マーシャルセンパイ…そりゃあヤバすぎんだろ。」

 

ウオッカは目を丸くする。

 

-3.123-

 

そして…赤い炎は、スペシャルウイークの背後へ。

(マーシャルちゃん…!)

 

彼女の背後で赤く燃える情熱。

 

あの時のおどろおどろしい、ドロドロした覇気などではなかった。

 

不純物のない、鮮明な赤色。

そう、彼女の色だ。

 

(それでこそ…マーシャルちゃんだよ!)

スペは慣れないスプリントでも、少し粘ってみた。

 

でも、水を得た魚状態のマーシャルをとてもカバーなどできなかった。

 

 

-1.988-

 

そして狙うは、得意の大逃げサイレンススズカ。

 

1200といえど、その逃げスタイルは伊達じゃない。

 

しかし今回は、どうもそう簡単に逃がしてくれそうにはないようだ。

 

(あの距離から、たった7秒で追い上げてくるなんて。)

どこまで末恐ろしい存在なのだ。とスズカは驚嘆する。

 

(迷いが…消えてる。すごくはっきりしてる)

スズカはマーシャルにそう感じた。

 

まるで霧が晴れたかのような、そんな気概を。

 

(でもまだちゃんと…毒はあるようね。)

 

そして…マーシャルは憧れの背中すらも

 

 

その足で貫いた。

 

 

「…大城さん。やっぱアンタすげぇよ…マーシャルっていう存在は…本当にとんでもない…。」

マーシャルが感じた大城の香り…それは沖野も感じ取っていた。

 

「俺も…まだまだ…ですよね。」

そう顔を涙でぐしゃぐしゃにしながら、そういった。

 

 

 

レッドマーシャル

 

トレセン学園

 

芝1200

 

チームスピカをフルオーバーテイク。

 

 

そうして、マーシャルはゴールラインを迎えた。

 

その瞬間、さっきまで感じていた香りが、天に吸い込まれていくように消えていった。

 

 

マーシャルは空を見上げる。

 

 

そして。

 

 

ロックサインを天高らかに突き上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

















縺倥c縺ゅリ縲ょソ倥l繧九↑繝ィ
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