『椎名ユウ』という名前は今やゲームやアニメを知らない人でも一度は聞いたことがあるところまでに知名度が高いと言ってしまっても良い。だが、『椎名ユウ』という名前だけでそれ以外のことは何も公開されていない。顔も分からなければ勿論、男なのか女のかすら分からない。
これはプラチナ世代よりも前に大中芸術大学に入学して『天才』と呼ばれた少年の物語。
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大中芸術大学を卒業してから二年も経たないうちに『椎名ユウ』という名前は有名になった。個人的には有名になったのは…それなりに嬉しいけど……休みが欲しい!!!!これは切実な悩みだよ!!このまま働き続けると途中で倒れてしまうのではないだろうかと思ってしまうこともしばしばあったりする。
有名になってしまったことで…仕事は引っ切り無しにやってくるし、一つの仕事が終わっても次の仕事というループの繰り返し。
まあ、自分が好きだからこの仕事を選んだわけだから後悔というものはしていないけどね。
自宅のソファーに寝転がりながらそんな事を考えていると…固定電話機が大きな音で鳴り出した。ソファーから起き上がり固定電話機を取り耳に当てると…受話器からは懐かしい声が聞こえてきた。
「お~~い、元気か?」
「……ああ、それなりにはね」
「それは良かったわ。てっきり仕事に疲れて死どると思ったわ」
「疲れているのは事実だけど…死んではいないよ。それに死んでたらこんな風に喋る事も出来ないからね」
「まあ、『椎名ユウ』は有名やからな。どんな駄作であっても『椎名ユウ』が製作に関わっているなら絶対に売れると言われるぐらいやしな」
駄作…って……まあ、現実問題それぐらいの知名度があるらしい。これは同僚から言われたことなんだけどね。
「…知名度があるのは嬉しいことなんだけどね。それで態態、連絡をしてくると言うことは何か頼みがあるんだよね?」
「分かった?」
「うん。君が連絡をしてくれるのはそれぐらいだからね」
「『椎名ユウ』……いや、椎名姫…に臨時講師として大中芸術大学に一か月来て欲しい…と加納ちゃんが言っとるんや」
特別講師……よりにも寄ってボクを呼ばなくても良いんじゃないかな。ボク以外にも大中芸術大学卒で業界で活躍している人はいたりする。
「それは今のボクの仕事のスケジュールを分かって言っているのかな?」
「まあ、忙しいのは知っとると思うよ」
「それを知っているのに…特別講師として母校に出向けと………無茶なことを言ってくれるよ」
「やっぱり断る?」
普通に考えれば仕事を放棄してまで母校の臨時講師に出向くことは絶対にしないと思う。だけどボクはその臨時講師というものに興味がないわけでもない。
「断らないよ。だけどさすがに今すぐにとはいかないね。ボクも仕事があるからね。だから二年後でどうだろうか?二年あればある程度の仕事をこなせるから一か月ぐらいの休みなら言えば取れると思うしね」
正直、そんな事を言ったが…一か月という休暇を取るのは非常に難しい。それは一か月分のボクの仕事をそれ以上前にこなさなくてはならないのだから。
「…じゃあ、それでお願いする」
「君はもう少し先輩を敬っても良いんじゃないかな?罫子くん」
この子は初めて出会った時からボクのことを下に見ているのか…敬うような発言を全くと言っていいほどしてくれない。別に敬われたいとは思っていないけど
「それは無理やな」
そしてそれから少し会話をして、電話が切り、ボクはこれから忙しくなることを想像して…嫌だなぁと思いながらも………これから輝いていく若者たちは一体どんな輝きを見せてくれるのか少し楽しみだな。