神々の世界にファーさんがいるのは間違っているだろうか?   作:セフィム

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改訂版10話 とあるエルフの受難 前編

 その日、ロキ・ファミリア団員のエルフ。アリシア・フォレストライトは過去にないほど恐怖と緊張、混乱で頭がいっぱいであった。

 

「(どうしてこんなことになってしまったんでしょう……うぅ)」

 

 ダンジョンの上層、第五層をとぼとぼと歩くアリシアはため息が出そうなのを堪える。

 レベル4であり、ロキ・ファミリアの第二軍(第二級冒険者)の中核メンバーの一人であるアリシアの能力的に第五層のモンスターなど敵ではない。

 では、何故ここまで意気消沈しているのかと言えば自分の前を歩く人物が原因だった。

 

「何をしている。さっさと来い」

 

 比較的暗いダンジョンの中でも星のように輝く美しい銀色の髪にそこらに居る神々よりも整っている容姿。トレードマーク的な真っ白なローブを着た人物。

 そうパンドラ・ファミリアの団長、ルシファー・クラネルである。

 

 しかもルシファー(パンドラ・ファミリア)アリシア(ロキ・ファミリア)、二人だけの奇妙なパーティである。

 

 ルシファーの後を追いながらアリシアは、今度は堪えることなくため息をつく。

 

「(私が悪いとは言え、うぅ……)」

 

 何故二人がパーティを組み、ダンジョンに潜っているのか。

 それはかれこれ二時間ほど前に起こった出来事が原因だった。

 

 

◆◇◆

 

 

 豊穣の女主人で起こった一件からしばらく経ち、オラリオがもうすぐ始まる祭り怪物祭の準備で忙しなくも楽しそうに賑わっている中、ロキ・ファミリアは贖罪のために色々と動いていた。

 

 まず真っ先に行ったのは迷惑をかけてしまったアストレア・ファミリアとパンドラ・ファミリアに謝罪と多額の謝罪金及びどんな冒険者依頼(クエスト)をも受けるということで二つのファミリアとは何とか和解した。

 また、当分の間は酒類と宴の禁止。管理機関(ギルド)からは上層にミノタウロスの大群を進出させて駆け出しやレベル1といった多くの冒険者を危険にさらしたとして多額の罰則金を支払うことになった。

 

 ファミリアの財政的にかなり厳しくなったが、一応ファミリアの面目を保つことができた団員達は、酒場で言われたルシファーの言葉を胸に深く刻み生活をしていた。

 遠征が終わったばかりのロキ・ファミリアは一部を除いて殆どの団員に休みを与えられ、誰もが思い思いの休日を過ごしていた。

 

 その中の一人、アリシア・フォレストライトは仕えているハイエルフのリヴェリアを他の同族に任して日頃の気分転換として最近出来て人気となっているカフェへと足を運んでいた。

 

「(……ここが最近できたカフェ『青空亭』ですか)」

 

 外観は派手すぎずシックで纏まり、少々こじんまりとした見た目だが、エルフのアリシアにとっては入りやすいいいお店だと思えた。

 早速店内に入ると真っ先に珈琲の良い香りがアリシアの鼻孔をくすぐった。

 普段珈琲ではなく紅茶派のアリシアだが、珈琲の良い香りに店に入っただけで何故かリラックスできてしまう。

 

 すると、アリシアの前に青いデニムの生地できたエプロンを着た茶髪の美少年(サンダルフォン)がお盆を片手にやって来る。

 

「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」

「一人ですが、空いていますか?」

「すいません、只今満席でして……」

「そうなのですか。どれくらいに空きますか?」

「そうですね。先ほど来店したばかりのお客様もいますので……早くても三十分は待ってもらうかもしれません」

「そうですか……」

 

 さすが人気店なだけあって既に満席状態の店内は多くの客、ヒューマンやエルフ、ドラフなどの亜人や神。特に女性客が大半を占めていた。

 皆楽しそうに談笑しながら珈琲やケーキ、サンドイッチを口にしていた。

 

 女性同士の話はかなり長い、今日は諦めて帰ろうかと考えていると。

 

「あれでしたら相席でも大丈夫ですか?」

「相席ですか?」

「はい。他のお客様から許可を頂けないといけませんが……」

 

 エルフは基本、高潔で潔癖性な一面もあるため他の種族とは相性が悪い。

 もし他のエルフに相席でも大丈夫かと聞けば十中八九断られるだろう。しかし、アリシアは他のエルフと同じ潔癖性な一面もあるがそれでも基本的には融通が利く人物である。

 よほど下品、痴れ者ではない限り、拒絶はない。

 アリシアは少し考えた後、ゆっくりと口を開いた。

 

「相席でも大丈夫です」

「ありがとうございます。では、少々お待ちください」

 

 そう言って美少年が場を離れると、アリシアは改めて店の内装や装飾品に目を向けた。

 カウンター席、テーブルは全て満席。その奥のオープンキッチンには珈琲を入れるための様々な道具が綺麗に並べられている。

 その中でもアリシアの目を引いたのは、巨大な花の様な魔道具だった。

 

「(あれは何でしょうか? 見たことのない形状をしていますが……?)」

 

 その魔道具からは弦楽器を用いて奏でられる美しい音色が店のBGMとして良い雰囲気を作っていた。

 魔道具に夢中になっていると、相席の許可を得たのか笑顔が眩しい美少年が戻ってくる。

 

「相席の許可が貰えたのでご案内いたします」

「えぇ、お願いします」

 

 美少年に案内されたのは店奥の隅、窓際の席だった。

 ここでアリシアは異変に気が付いた。別に目の前の美少年に何かをされたわけではない。

 奥に進むにつれて店内が静かになり、近くの席の客を様子見すると殆どの客がアリシアが案内されている席の方へと視線を向けている。

 

 一体何があるのか? 確認しようにも意外と身長の高い美少年の背によって前が見えないため、確認の仕様がない。

 どんな人物と相席なのかと想像をしながら案内されたのは、日当たりの良い窓際の席であった。

 

「相席失礼いたしま――――ッ!?」

 

 美少年の身体が退き、相席相手の姿を見て思わずアリシアは言葉を詰まらせた。

 

 そこには星のように美しい青年が居た。

 青年は容姿端麗であるエルフを凌駕し、神ですらその美しき容姿に嫉妬するほどの美貌だった。温かな日の光に当てられて鈍く光る銀髪に、保護欲を搔き立てる今すぐにでも消えてしまいそうな気怠い雰囲気。

 

 店内の客の視線を奪う青年に、アリシアは酷く見覚えがあった。

 同じ冒険者として知らない人物ではないが、アリシア(ロキ・ファミリア)にとっては大きな関わりがあった。

 

「……ルシファー・クラネル」

「では、私はこれで……くれぐれも失礼の無いよう」

 

 アリシアに小さく忠告した茶髪の美少年(サンダルフォン)はメニューを机に置くと他の席のお客の所へと向かってしまった。

 残されたアリシアはどうすればいいのか、パニック状態になっていた。

 

「(あ、相席相手がルシファー・クラネルだなんて聞いていませんわ!?)」

 

 まさかの相席相手に席に着くべきか、Uターンして帰るべきか?

 だがしかし、店員がルシファーから相席の許可を取りルシファーがそれにOKを出したなら問題はないはずだ。それに店員とルシファーの厚意を無下にしたらしたらで逆に失礼過ぎてせっかく面目を保つことのできたロキ・ファミリアの顔に泥の上塗りをしてしまうことになるのではないか?

 目を回しながらどうするべきか頭を悩ませていると。

 

「……おい、」

「は、はい! な、何でしょうか!?」

「? いつまでそこに突っ立て居るつもりだ。座らないのか? それともサンダルフォンが言っていた相席相手は貴様じゃないのか?」

「い、いえ私です! で、では前失礼します……」

 

 混乱しながらも席についたアリシアはメニューを手に同じファミリアの友人から教えてもらった『青空亭』オススメメニューのケーキと珈琲のセットを素早く店員に頼み机の端を見詰める。

 

「(ど、どどうしましょう!? ルシファー・クラネルとは酒場の一件があって顔を物凄く合わせずらい。一応和解はしましたけどどうすれば!? で、でも、団長とリヴェリア様が謝罪に行ったとは言え同じ団員として止めれなかった責任が私にもある! ここは一度謝罪して!)」

 

 ガバッ! っと勢いよく顔を上げたアリシアは珈琲を嗜み読書をしているルシファーに酒場での一件について謝罪しようとしたその時。

 

「お待たせしました。こちらご注文のケーキセットでございます」

 

 間が悪く、店員の茶髪の美少年がアリシアが頼んだケーキセットを持ってきたことにより謝罪の機会を見失ってしまう。

 何食わぬ顔で珈琲とケーキを机に置いていく店員に内心恨みつつ、アリシアはどうするべきかと再び頭を悩ませる。

 

「(う、うぅ……。このまま気まずいまま過ごしたくはありませんわ……。それにしてもこの方は豊穣の女主人で見た時から思っていましたが本当に美しいですわね)」

 

 机の端へと戻した視線をルシファーへと向けると、何度目かわからぬほどにルシファーの容姿に見惚れてしまう。

 するとずっと何やら大量の付箋が張られた手帳に何かを書き込んでいたルシファーの手が止まり暁の空を閉じ込めたような美しい青みの掛かった瞳がアリシアを見据えた。

 

「おい」

「は、はい! な、何でしょうか?」

「先ほどからジロジロと俺を見ているが何か用でもあるのか?」

「え、えっと……申し訳ございません!」

 

 店内に大きく響き渡るアリシアの謝罪にルシファーは眉をひそめ、周りの客たちは好奇と訝しんだ目を向ける。

 その視線に気づいたのかアリシアは顔を羞恥で染めて俯いてしまう。

 

「謝罪の意図が不明だ。何の謝罪だ?」

「そ、その……私の名はアリシア・フォレストライト。ロキ・ファミリア所属の冒険者です。神々から頂いた二つ名は【純潔の園(エルリーフ)】……」

「ロキ・ファミリア……」

「はい。実は私はあの酒場に居合わせていまして、それで――――」

「なるほど。先ほどの謝罪は居合わて置きながら止められなかった事についてか」

「はい……ですので、私としては何かお詫びを」

「いらん」

「え?」

 

 呆然としてしまうアリシアにルシファーは、面倒そうにため息をつくと珈琲で喉を一度潤す。

 

「ルシフェルとソーンから報告は受けている。俺の所(パンドラ・ファミリア)ベルの所(アストレア・ファミリア)に莫大な謝罪金と冒険者依頼(クエスト)をも受けることで和解したと。なら話はそこで終わりだ。謝罪は不要だ」

「そ、そうですか……でも、それでも私の気が収まらないので今一度謝罪させてください」

「……好きにしろ」

「ありがとうございます。そして改めて申し訳ございませんでした」

 

 再びため息をつくとまた何やら手帳に羽ペンを走らせるルシファーにアリシアは、ようやく落ち着いてケーキと珈琲を楽しむことができると運ばれたケーキに手を付ける。

 

 穏やかな空気が流れる。

 ケーキを楽しむアリシアは、ふとルシファーの手帳に目を向けた。自分と相席になる前から書き込んでいる手帳、共有で使っているテーブルの上には自身のケーキセット以外に間に付箋が貼られ積み重ねられた分厚い数冊の本と飲みかけの珈琲カップがある。

 

 積み重ねられた本の背表紙には魔法関連について、強力な魔法を使う英雄譚もある。

 ルシファーが今羽ペンを走らせている手帳を少し覗いたが、魔法陣や詠唱呪文らしきものが確認できた。

 

「あの。先ほどから何をされているのですか?」

 

 質問してから後悔した。

 相手は同じファミリアでなければ、特段親しい関係でもない。そんな相手にわざわざ自分の事をしていることを言う義理は無いだろう。

 現にルシファーからは訝しげな視線を向けられている。

 

「申し訳ござ――――」

「……お前は、エルフか」

「!? そ、そうですが……」

「……魔法と深い関わりのあるエルフからの意見は貴重か」

 

 まさか気づいてなかった!? 

 謝罪を遮り自分の種族に気づいていなかったことに驚いてしまうもすぐに気分を一度落ち着かせようと珈琲を口に含むとルシファーはゆっくりと口を開いた。

 

「新しい魔法の開発をしている。エルフであるお前の意見を――――」

「―――ブファッ!?」

 

 突如、アリシアが口に含んでいた珈琲を盛大に噴出した。およそ女性が出してはいけないような奇声と共に。

 空中を舞う水飛沫はどこか幻想的で、神秘的だった。温かな日差しを乱反射してキラキラと輝く数多の水滴は、あるいは霧となって、あるいは水滴のままで―――

 

 

 ―――向かいにいたルシファーに降り注いだ。

 

 

「な、何を言っているのですか貴方は!? 魔法の開発などできるはずがありま――――あ」

 

 魔法の開発。そんなこと敬愛するハイエルフのリヴェリアにもできないことだ。

 神時代の現在の常識として魔法が使えるようになるには色々とあるが、一般的に知恵を身につけ神の恩恵を通すことでようやく魔法を使うことができる。

 

 遥か昔、神が降臨する前の英雄の時代にも確かに魔法を使う者はいた。

 だが、魔法を使うことができたのは素質や種族が高いマジックユーザーであるエルフとごく一部のヒューマンだけである。

 

 それがもし、もしも己の手で作り出すことができるのなら世界は大きく変わるだろう。

 

 しかし、魔法を使うことに長けた種族(エルフ)であり、魔導士としてリヴェリアのレアスキルを最大限に利用する為にエルフだけで構成された『妖精部隊(フェアリー・フォース)』の一人であるアリシアにとっては信じがたいものだった。

 

 すぐさま魔法開発を否定したアリシアだが、ここであることに気がついてしまう。

 エルフとしてあるまじき行為、口に含んでいた珈琲(アリシアの唾液入り)を噴き出してしまったこと。そしてそれを対面に座る迷宮都市最強派閥(パンドラ・ファミリア)の団長に吹っ掛けてしまった。

 

 珈琲を拭きかけられたルシファーの表情は残念ながらアリシアの唾液混じりの珈琲によって濡れた前髪で伺うことはできない。

 

 もしもこの場にルシファーの祖父(ゼウス)やアリシアの主神(ロキ)、他紳士の人物(神物)が見ていたのであればご褒美として羨まれるだろうが生憎彼にとっては不幸な出来事だった。

 

「……貴様、俺に何か恨みでもあるのか?」

「も、もも、申し訳ございませんでした!!」

「おい、サンダルフォン」

 

 椅子を蹴っ飛ばして深く頭を下げるアリシアにルシファーは今日一大きなため息をつくと、店員であり部下でもあるサンダルフォンを呼び出して複数のおしぼりとタオルを持ってこさせる。

 サンダルフォンは、タオルを渡しつつ我が創造主に珈琲を吹っ掛けたアリシアに対して殺気を放つ。

 

「ルシファー様! こちらを! 貴様、よくもルシファー様を!」

「サンダルフォン、業務に戻れ」

「しかし!」

「こっちは何とかする、他にも客がいるだろ。そっちを相手しろ」

「……」

「俺に同じことを言わせるな」

「……はい」

 

 一礼して渋々業務に戻るサンダルフォンが去り、緊張が走るアリシアはびくびくとルシファーの言葉を待つ。

 

「付き合え」

「え?」

「魔法の実験に付き合え……それで珈琲のことは無かったことにしてやる」

 

 何か変な事を要求されるよりも断然マシな要求に思わず拍子抜けしてしまう。またアリシアとしては魔法開発については興味があった。

 だが、一つ懸念点があるとすれば……

 

「それは……今すぐですか?」

「当たり前だ。ダンジョンに行くぞ」

「うぅ……わかりました」

 

 残ったケーキを口に放り込んで珈琲を飲み干すと、会計を済ましてルシファーの後を追いながらダンジョンに向かって足を進める。

 そうして現在に繋がるのだ。




 怪物祭に行こうかと思いましたが今回は原作キャラでありファーさんのヒロインとなるアリシアさんの回です。



 アンケートの期限は三月二十日までです。

四大天司の使徒登場はあり無し?

  • あり
  • なし
  • それより他キャラを出してくれ!
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