神々の世界にファーさんがいるのは間違っているだろうか?   作:セフィム

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改訂版8話 逆鱗と大罪

「―――――不快な音を出す騒がしい雑音共が、そんなに死に急ぎたいのか?」

 

 静かな、だが酷く冷たい声が響き賑わっていた酒場を一瞬にして静寂へと包み込む。

 

「あ゛なんだ、テメェ?」

 

 フードを深く被っているルシファーは席を立つとロキ・ファミリアでレベル5の第一級冒険者、獣人の青年ベート・ローガを見つめる。

 

「おいおい大丈夫かよアイツ……」

「相手は都市最大派閥のロキ・ファミリアだぞ」

「謝ったほうが身のためだぞ」

「いけ~凶狼(ヴァナルガンド)! やっちまぇ~!」

「ちょ、お兄さん。今すぐ謝って!」

「いいやないか~。ベートの好きなようにさせや~! 身の程を弁えろ~!」

「ロキ! 貴様!」

 

 酒場に活気が戻ってくる。

 一部はフードの青年の身を案じ謝るように言い。残りの大半、ベートの主神ロキさえもが止めるどころか煽り立ててる。

 酒の入った人物(神物)が多いこの場において、フードを被った青年(ルシファー)を擁護する存在は酒を飲んでいないエルフぐらいしかいないが、酔っ払い共の声によって擁護の声は搔き消えていた。

 

 なによりフードを被り素顔がわからないとはいえ、ベートは自分より弱いと思っているルシファーの態度が、フードの奥から覗くすべてを見透かす瞳が気に食わなかった。

 それに加え酒によって理性が狂っていたベートは罵倒と共に目の前のルシファーに向かって容赦なく拳を放った。

 

「雑魚のくせに生意気な口を聞くんじゃねぇ!!」

「ベート!!」

 

 酒を飲まずロキ・ファミリア内で常識があり、理性のあったリヴェリアが制止を呼び止めるもベートは止まらなかった。

 誰もがフードの青年が吹き飛ぶと疑わず、回復魔法を使える冒険者は殴られて吹き飛ぶであろう青年にすぐ駆け寄れるように急いで席を立った。

 

 

「あ?」

 

 

 しかし、酒場に居た全員の予想に反して放たれた拳をルシファーは難なく掴み取った。

 

 瞬間、再び酒場は静寂に包まれた。ベートを含め活気づいていた酒場にいた全員が驚愕のあまり固まってしまう。

 酒を飲んで酔っていたとはいえ、本気ではないレベル5(ベート)の拳を止めたからではない。

 

 拳を放った時の風圧でルシファーのフードがめくられ素顔が露になったからだ。

 

 オラリオに住む冒険者、非冒険者を含めて既にルシファーを知らぬ者はいない。

 つい一週間前まで迷宮都市最強だと謳われていたフレイア・ファミリア最強のレベル7【猛者】オッタルを超える【黒翼】の二つ名を持つパンドラ・ファミリア団長で史上最強のレベル9。

 まさかの人物に驚きで誰も声をあげることができない。

 

「気に食わなければ、暴力か? 主神()ロキ()なら眷属()野蛮()ということか」

「何だとッ!?」

「キャンキャンほえるな」

 

 煩わしそうに顔をしかめたルシファーはベートの腕掴んでいる手に力を入れた。

 するとペキッ! とまるで小枝でも折るかのようにベートの腕をいとも簡単にへし折った。

 

 酒場に響く骨が折れる不吉な音、その次に響いたのはベートの痛みによる声にならない叫び声だった。

 

 あまりの激痛にベートはへし折られた腕を抑えながらその場に蹲ってしまう。それをルシファーは冷ややかな目で見下ろすと、ベートの頭をヒールのついた靴で踏みつける。

 

「実に無様で滑稽な姿だ。レベル5などこの程度か……」

「ガァッ!!」

 

 じりじりと足に力を入れていくルシファーに何とか立ち上がろうとするベートだがレベルが四つも離れているルシファーの前では全くもって無意味だった。

 

 その光景を見てロキ・ファミリアの団員たちは黙って見ていなかった。

 ルシファーの登場に一瞬驚くもすぐに動き出す。いや彼らだけでなくルシファーの隣にいる輝夜や豊穣の女主人で働いているレベル4はある元冒険者たちも動き出す。

 前者はベートを救うため、後者は迷宮都市最大派閥(ロキ・ファミリア)に喧嘩を売る迷宮都市最強派閥(パンドラ・ファミリア)の団長を止めるためにだが、彼らの動きはルシファーのたった一言で強制的に止められてしまう。

 

福音(ゴスペル)

 

 超短文詠唱による音の攻撃。加減をしたとはいえレベル9の攻撃に酒場にいた全員、誰一人例外無く平衡感覚を破壊されその場に倒れ伏す。

 また、アルフィアのことを知るロキ・ファミリアのフィンやリヴェリア、ガレスはルシファーが彼女と同じ魔法を使うことに驚愕し、アルフィアとの関係性が気になった。

 

「あまり、面倒なことをさせるな。次行動を起こせばこいつの頭を踏み潰す」

「ッ! ……何故、何故こんなことをする! ルシファー!」

 

 フィンは近くの机に捕まり、生まれたての小鹿の様な体を震わせながらも何とか立ち上がると、ルシファーを睨みつける。

 

「何故だと? 貴様はことの重大さと自分が犯した罪を理解しているのか?」

「何?」

「先ほどこいつが話していたが、お前たちロキ・ファミリアは昨日ミノタウロスの大群を上層まで向かわせてしまった。事実だな?」

「あ、あぁ、その通りだ……僕たちは遠征の帰りに十七層でミノタウロスの大群と遭遇した。討伐しようとしたけどミノタウロスたちは何故かどんどん上の階層へと上がってしまった……それがどうしたんだい?」

「それがどうした、だと?」

『『『ッ!!?』』』

 

 瞬間、空気が死んだ。

 酒場はルシファーが放つ濃密な殺意により支配されレベル6であるフィンやリヴェリア、ガレスたちはもちろんのことアイズやベート、アマゾネス姉妹のティオネとティオナ。第一級冒険者すらも冷や汗が止まらない。

 それほどまでに濃密な殺気だ。

 

 ルシファーはため息を漏らしすと、フィンとロキを黄昏のように暗く何の感情も宿さぬ冷たい瞳で見据える。

 

「俺はどうやらお前たちを買い被っていたようだ。いや、それは報告書を提出したニオも同じか」

 

 その言葉には落胆、絶望、失望、悲嘆、悲観、失意、憂いの色は無い。ただ淡々と、事務処理をするかのように述べたルシファーはロキ・ファミリアについての報告書を提出したニオにも問題があるかと漏らす。

 ニオという言葉にフィンはさらに酷く動揺するもルシファーは気にすることなく言葉を続ける。

 

「……貴様らが上層に上がっていくミノタウロスをどれだけ阻止したかは知らないが、三層で俺が殲滅したミノタウロスの数は二十はくだらなかった」

「ッ! それがなんだって言うんだよ! テメェが倒したなら他に何の問題ねぇだろ!」

「騒がしい、黙って聴いていろ」

「ガァッ!!」

「ベート!?」

 

 生殺与奪の件を握られているというのにベートはルシファーに向かって勇敢に吼えるも、折れた腕を踏み捩じられ黙らせられる。

 その光景に誰もがやりすぎだと。話の意図が見えてこず困惑して、ロキ・ファミリアが最強だと信じて止まない団員達はルシファーを睨みつける。

 

「上層、三層にはレベル1の冒険者が多い。そんな奴らが貴様らの追いやったミノタウロスに勝てると思うか?」

 

 その言葉を聞いて、酒場に居た全員が事の重大さをようやく理解した。

 ミノタウロスはとても強力なモンスターだ。レベル9のルシファーが殲滅してくれたとはいえ、もしもその場にルシファーがおらず他の駆け出しの冒険者がミノタウロスに出会っていたら?

 

 答えなど決まっている、殺されている。断言したっていいだろう駆け出しやレベル1の冒険者が勝つことは絶対にありえない。

 

「ダンジョンで何が起こるかはわからん。そんなこと俺とて理解している、貴様らの話を聞く限りミノタウロスが上層へと上がって行くという異常事態(イレギュラー)に目を瞑ったとしてもその後の行動はどうだ?」

「……管理機関(ギルド)への報告はした」

「そんなこと当たり前だ」

 

 ルシファーの問いにリヴェリアはフィンと同じように近くのテーブルを使って何とか立ち上がり答えるも一蹴されてしまう。

 

管理機関(ギルド)へ報告をすれば全て終わりか? 他に何かしたのか?」

「……」

「フン……所詮は人数だけが多いファミリアか。いいか? ダンジョン内で自分たちの不手際によって他のファミリアに迷惑がかかる時。負傷者や被害者が出てしまったかどうかの確認ができるまで拠点(ホーム)で待機、その後被害者にあったファミリアへの謝罪と贖罪を果たした後に帰還の宴だ」

 

 ロキ・ファミリアや酒場に居た人間の誰も反論しない。いや、反論できない。ルシファーの言葉に間違いなどない、全て正論だ。

 ルシファーの言っている行動こそがロキ・ファミリアが本来取らなければならない行動だ。

 

「それを貴様らは、そろいも揃って自分たちの過失をまるで武勇伝のように語り嗤いあう。そんなに面白かったか、駆け出しがミノタウロスに襲われるのが?」

 

 否定したかった。そんことを誇り高きロキ・ファミリアがする筈がないと……

 しかし、それを否定する権利をロキ・ファミリアは持ち合わせてはいない。その権利を自分たちは自らの手で投げ捨てたのだから。

 

「下らん。宴の様子を見る限り、今のところ負傷者が出たという情報はいないように見えたが俺は貴様らのせいで被害を被った」

「ひ、被害?」

「貴様らのせいで弟の魔法使用の実験は頓挫、危うく弟は死にかけた。さらには先ほどトマト野郎などと笑い者にされて飛び出した」

「ッ!」

 

 死にかけた、という言葉にロキ・ファミリアの団員たちの顔はさらに青くなるもベートが言っていたトマト野郎というのがルシファーの弟だと知ってさらに顔は青を通り越して真っ白になった。

 そして、何故ルシファーがここまで激怒しているのかも理解した。

 

 自分たちのミスで死んでいたかもしれない家族を嘲笑して酒の肴にし、挙句の果てには皆で大笑いしたのだ。そんなことをされて怒らない家族などいない。

 

「貴様らは戦争がそんなにしたいのか? あの女(パンドラ)の報告通り、道化(ロキ)は娯楽のために戦争を仕掛ける節があるのは本当だったか」

「……違う」

「……?」

 

 ルシファーの言葉を否定したのは、ロキ・ファミリアの主神ロキだ。

 確かにルシファーの言っていることは全て正論だが、先ほどの言葉は違っていた。

 

「確かにウチは天界に居た頃は戦争を吹っ掛けてきた……けど下界に降りて変わったんや!」

「変わった、だと?」

「そうや! ウチは子供(眷属)たちのために――――」

「黙れ」

「ッ!?」

 

 再び殺気が場を支配する。

 しかも殺意の濃度がさっきまでの比ではない。

 

「数多の陰謀や騒動、殺傷事件の裏で暗躍して好き放題やらかして名を馳せた貴様()が変わっただと? 笑わせるな、不変である貴様ら(神々)が変わることなどありえない。貴様は善神ではなく悪神だ」

「違う!」

「何がだ? この男が俺を殴ろうとした時、貴様は主神として止めるのではなく煽り立てていただろう」

「ッ! そ、それは……」

 

 嘘や出鱈目な事を言っているのであればいくらでも反撃できた。

 だがルシファーは正論と事実使って容赦なく殴ってくるため反撃ができない。

 

 ルシファーはロキたちから視線を外して自身が踏みつけているベートへと移す。

 視線に気づいたベートは絶望に染まった表情でルシファーを見つめる。

 

「『身の程を弁えろ』、『雑魚がのくせに生意気な口を聞くな』……その言葉は貴様たちが吐く言葉ではない。吐かれるものだ」

「ッ!」

 

 何も言えないベートを見下ろしながらどうするか思案する。

 ベートを殺してもいいが、その場合はルシファーへのメリットはほとんど無い。己の計画が遠くなり、デメリットの方が大きいように感じられる。

 

 このままこの酒場に居ても何の利益もないと踏んだルシファーは、足をベートから退けると懐からハイポーションを取り出してベートの腕にかける。

 腕が治ったことを確認すると今度は大量の百万ヴァリスのお金が入った袋を取り出して机に置いて、未だ地面にひれ伏す輝夜を横抱きにする。

 

「な、何をする!?」

「ダンジョンに行き、ベルを迎えに行く。この場にとどまっていても、もう何の意味もないからな」

 

 そう言ってルシファーが店の外に出ようと一歩踏み出した時、フィンは急いでルシファーを呼び止める。

 

「待ってくれ!」

「…………」

「しゃ、謝罪をさせてくれ! そしてお礼を!?」

「いらん。それに謝罪する相手が違うだろう」

「ッ! それでも君には僕たちの愚かさを教えてくれたこと、ミノタウロスの大群を殲滅してくれたことにお礼を言わせてくれ!」

 

 ルシファーはフィンの言葉に耳を貸すことなく店を出ていく。

 それを見送ったフィンはこれ以上店に迷惑をかける訳には行かないと平衡感覚が戻って来た団員たちと共にホームへと帰って主神のロキと幹部たちとこれからどうするべきなのか話あった。

 

 

◆◇◆

 

 

「もう大丈夫だから、下ろせ」

 

 輝夜の言葉を聞いてルシファーは直ぐに地面に下すと再びダンジョンに向かって歩き出す。その隣に輝夜は並ぶと、ゆっくりと口を開いた。

 

「やりすぎだとこのバカもの」

「……」

「また、無視か? まあいい、そのまま黙って聞け。確かにあちらが完全に悪いが限度というものがあるだろう。貴様らファミリアからしてみればロキ・ファミリアなど簡単に潰せるだろうが、飛び火を受ける私たちの身にもなってみろ!」

「……相手が誰であろうと関係ない」

 

 ずっと無言を貫いていたルシファーの口が開かれる。思わず輝夜がルシファーの顔を伺うとその目は何処までも真っ直ぐに、何かを見つめていた。

 

「神も命も、何もかもがくだらん」

 

 そう吐き捨てると、それ以上は何も言わずダンジョンの中へと入っていた。

 

 そしてボロボロになったベルを背負うランスロットとユエルたちと合流したルシファーと輝夜はそれぞれのそれぞれのホームに向かって歩き出した。

四大天司の使徒登場はあり無し?

  • あり
  • なし
  • それより他キャラを出してくれ!
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