モンスターハンター~我が往くは終わり無き滅びとの闘争なりて 作:踊り虫
※2021/06/20 修正 ヤツマ君のお兄ちゃんをこちらの勘違いで勝手に殺していました。本当にすみません……
自然界を闊歩する巨大な怪物――モンスターたちが数多に存在するこの世界。
地を駆けるモノ。土の下に潜むモノ。空を翔けるモノ。炎を撒き散らすモノ。雷を纏うモノ、洞窟に潜むモノ、水中に潜むモノ。
多種多様な生態を持つ彼らに対抗するため、人類は知恵を働かせ、観察し、対抗するために武器を作り出し、肉体を鍛え上げ、モンスターたちと戦った。全てはこの大自然と共に生きていくために。
それこそがハンターの始まりだと、師は言った。
師はかつて「古龍調査団の二期団」のハンターとして活躍し、今は故郷であるベルデ村――故郷を失った俺を保護したギルドのある村――に隠居して趣味でカラクリを作って弄くってたり、鍛冶屋で色々と手を貸したりしている人物だった。
――人は自然と共にある。そしてモンスターと人の間にあるのは絶対の敵対では無い。我ら人は自然を生き抜く彼の強者たちへの尊敬を胸に彼らを討っていた。
――おぬしのような眼を知っておる。モンスターに恨みを抱く者の眼だ。怨讐のままにモンスターを滅ぼさんと欲する者の眼だ。
――ハンターになっては、ならぬ者の眼だ。
師の言葉に、俺は喚き散らしたのを覚えている。。
家族や友人知人、その全てが飢えた中であの二頭の飛竜が近隣を縄張りにした所為で助けも呼べず、故郷の村は俺だけを残して滅びた。これでなぜ、モンスターを恨むな、などと言うのか。仇を討つな、などと言うのか。なぜ、モンスターを滅ぼすな、などと言うのか。
なぜ、ハンターになってはならない、などと言うのか。
――怨みつらみの赴く儘にハンターになった者は不幸を呼ぶからじゃ。人と自然が共にあり、モンスターと自然も共にある。モンスターを滅ぼすということは自然を滅ぼし、人を滅ぼすことに繋がる。
師は、怒り心頭になって掴みかかろうとする俺を抑えながら語り聞かせた。
俺の故郷、クリント村を滅ぼしたのはモンスターであり、自然であり、人だったことを。
近隣地域でハンターが街を守るために奔走した結果、生態系が崩れ、村の近くにかの夫婦竜……
そこに作物が一切実らないという近年稀に見る異常が重なったことは正に不運。ギルドも無い村落は抗うことも難しい。
だが、そもそもの話、ギルド支部を村に置くことを拒否したのは村落のある地方の領主であり、その理由も表向きにはその村の周辺でモンスターの被害が一度も無かったことを挙げていたが、実際にはその村を経由して密輸を行っていたことが後に発覚。現在は法の下裁きを受けているらしい。
ギルドナイトがその関係者を検挙するために村へと向かったことで番の飛竜の存在と村の壊滅が発覚し、虫の息だった俺は助けられたのだと。
――人を、自然を、モンスターを恨むな。己の弱さと無知を悔やめ。そして物を知り、強くなれ。そのための手助けなら、しよう。
それが俺――クリント村唯一の生き残りであるディード・クリントが歩み出したハンターへの第一歩となった。
◇◇◇
あれから10年。20歳になった俺は今――
「ディード! なんだいあの金額は!
――ベルデ村ギルド支部のキッツイ顔をした美人な受付け嬢の姐御から説教をされていた。
いや、ハンターにはなれたんだ。師匠の教えもあって通って仲良くなった訓練所の同期生たちの中でも早い段階で合格して訓練所を卒業してしまったのだが、みんな、どうしてるだろうか。
うん、少なくともこんな風に説教されてはいないよね。間違いない。
その後の配属は第二の故郷となったベルデ村。
とはいえベルデ村自体は他にもハンターが居る村としては規模の大きい場所だ。俺が守らずとも先輩ハンターたちだけでやっていける。
そう判断した俺は、ベルデ村に籍を置きながら一所に留まらずあちこち流浪し、あちこちの街や村で討伐依頼を中心に受けながら活動していたのだが、その中で「報酬を用意できない」と嘆いていた人々のためにギルドを通さず「格安キャンペーン」と称して依頼を何回か受けていたらこの様である。
ちなみにこの受付嬢さんは師匠のお孫さんであり、ベルデ村の若いハンターたちにとって姉貴分と言える人だ。既婚者なのでラブロマンスに関しては期待しないで欲しい。「
閑話休題。
こちらに非があるのはわかっているので愛想笑いをしながらも普段とは違う出来るだけ丁寧な言葉遣いで応じる。
「子供のおつかい、ということでしたら正にその通りです。依頼主はまだ子供でしたので、相場で金を取る訳にも行かず。そこで
「そういう問題じゃない! 命を安売りするなと言ってるんだ! ハンターを何だと思ってるんだお前!」
「いや、それはわかってはいるんですけど、皆困ってたから、ついつい」
ハンターが命懸けの商売であることは俺もわかってる。そして命懸けである以上、その見返りも相応の物でなければならないし、ハンター自身武器の整備や強化、新調の他、道具を買い揃えたりと出費も激しく、見返りとされる報酬も結構あっさり消えていく物なのだ。
だけど、金が払えないから見捨てる、というのは薄情だろうと思ってしまうのは間違いなんだろうか。
「……オネ村でのドスランポス、ドスゲネボス、ドスフロギィの三頭同時狩猟。ティオ村近辺に現れていた
「申し開きもありません!」
「開き直るな馬鹿者!」
ゴチン、と師匠譲りの拳骨を落とされ悶絶する俺を尻目に溜め息をこぼした上で、姐御は続けた。
「とはいえ、フオル村での
「……俺がもっと早く着いてれば彼も死ななかったかもしれない。あの村の人たちが泣きながら有り金全部まとめて俺に差し出して弔い合戦をして欲しいって言われて無視なんてできませんでした。人の味を覚えた
「あれは上位種だったそうだ。今度『級位詐称』の容疑で当時の状況の調書を取ることになるから覚悟するように」
そんな、と俺は顔を青褪めさせた。
ハンターは下位、上位、そしてマスター(もしくはG級)という区分に分けられており、これによって依頼内容も分けられているが、これに違反するとハンター資格の剥奪も考えられる。
今の俺は下位だが、俺が戦ったジンオウガは上位の個体。俺が戦うことは禁じられている相手だった、ということだ。
「とはいえ、状況が状況だ。フオル村の民全員分の嘆願書もあることを考えればギルドの方が折れてくれるだろうから悪いようにはならんさね」
「という訳で辛気臭い話は終わり。次だ次」と姐御は言った。切り替え早すぎませんか姐御。
「今回の『煉瓦の街フィブル』での
「元々は討伐までするつもりは無かったんですよ」
「……つまり調査だけで済ますつもりだったのか?」
本当ならそうしたかった。あの子が嘘を吐いていないことを立証して、その上であの子に「今後は嘘を吐いちゃダメだよ」って言ってお金も返すつもりだったのだ。
だけど、痕跡を辿って行ったらあの子が自分で見つけてやると勇み足を踏んで
人を呼ぶための信号弾も、モンスターが嫌がるこやし玉も準備してなかったから近くの石ころを拾ってクラッチクローでしがみついて進路を変えてから至近距離で顔に石ころを叩き込んで近くの木にぶつけて、彼を逃がしつつ戦うしかなかったのだ。
とはいえ街に戻ったその子がハンターたちにそのことを訴えかけたらしいけど「いつもの嘘」と思われて誰も取り合わなかったのとかで、フィブル支部が事態を把握したのは
そうして
「そういう訳で、調査だけで終わらなくなっちゃったんですよね」
「……お前が勝手に出立してしまった理由は?」
「調査だけだったらまだ良かったんですけど、単独で討伐までしてしまったから、それであの街のハンター達のメンツに泥を塗ったようなもんですからみんな怖い目をするんですよ……それで早々にお暇させてもらったんです」
「……なるほどな。どおりで……」
……あれ、姐御がなんか怖い目してるんですが。普段からきつめな顔の美人さんが怖い顔するとマジで怖いんですが。
「ど、どうした姐御」
「……いや、実はこの件で『お前が正当な報酬を受け取ってねー』って騒がれてんだよ。勝手に出て行ってんじゃねーゾこのボンクラ」
「ボンクラ!? いや確かに勝手に出て行ったのは悪かったがよそこまで言うか!?」
でも俺が居座って諍いの元になるよりは絶対良いと思ったんだがなぁ……やっぱりまずかったか。姐御がすごく怖い顔で見てくるし、今度から気をつけよう。
「今度から事を大きくしたくなければちゃんとした報酬を大人しく受け取っておけ、良いな?」
「……はい、わかりました。迷惑掛けてすみません」
よろしい、と姐御は言って息を一つ漏らし肩から力を抜いた。この話は一段落付いたらしい。
となれば俺も肩の力を抜けるというものだ。物の序でに気になってたことも聞いてみる。
「ところであの
「……ウチとフィブル、そんでもってフィブルの近隣にあるギルド支部が合同でお前が報告した痕跡を元に調査してるけど、現時点でめぼしい情報は無いってさ……何が起きているのやら」
「不気味だな……」
俺も、姐御も顔を顰めた。
「ああ、古龍でも出てきたんじゃないかとピリピリしてるさね」
古龍――この世界に生きるあらゆる生物の中でも無比の存在。特異な生態を持つモンスターたちをして
だが、その生きた災害と戦い、勝利した事実もまた存在する。
俺の同期の一人、臆病な青年、ヤツマが身に付けていたのは、彼の兄から譲り受けた物であり、その兄が屠ったという古龍『
いつか俺も出会うことになるのだろうか、その時、果たして俺は生きた災害に打ち勝てるだろうか?
「おっと、調査はコッチに任せな。なんせアンタにはこの後、大仕事があるんだ」
「大仕事?」
そうさね、と姐御はそのまま手紙を取り出して俺に手渡す。
「アンタに依頼だよ。送り主はカムラの里のウツシ」
「ウツシから? なんだって急に依頼なんて」
ウツシ――俺の同期の一人で、カムラの里出身。豪快でしっかり物であり、そして面倒見の良い少年だ。そして何よりあらゆる武器種を使いこなす手先の器用さと身軽さ、そして要領の良さを併せ持つ天才だ。
俺なんか自分でスラッシュアックスを分解出来るようになるまで一年掛かったのに、彼は訓練所に俺が居た僅か3ヶ月の間に俺のやっている様子を見て覚えてしまった。俺が
そんな少年からの依頼だ。依頼内容はすでに姐御も知っているだろうが、こうして手渡すということは俺に読め、ということなのだろう。
手紙に書かれていたのはカムラの里に襲い掛かるモンスターの異常行動。その名も『百竜夜行』。
数多のモンスターが里へ向けて進軍し、里を蹂躙せんとする悪夢の行軍。
未完成の砦に代わり、ウツシは同期の皆を集め、これに対抗しようと言うのだ。
「姐御、行って来るぜ」
「ああ、いってらっしゃい。手加減なしで蹴散らしてきな」
依頼は受託した。カムラの里には空のキャラバンを乗り継いで二日というところ。一日あれば
そうして俺は
◇◇◇
ディードを見送って一息吐く。
このあとすぐにアイツの証言を全て調書にまとめなければならないけれど、アイツにアタシがブチ切れてることを悟らせないように頑張ったんだ、少しは気を抜きたいさね。
――ディード・クリントに
これを言い出したのはフィブルギルド支部である。最初はなんの冗談かと思ったが、実際問題なんの痕跡も発見されないのはおかしい、とはウチを含めた調査に参加していた他のギルドでも疑問視されていたのだ。
しかもディードはまだ一年目の駆け出しハンター。それが単独で
その結果アイツの情報を全て参加ギルド全てに開示する羽目になったがフィブル支部はそこでさらにディードが悪事に加担したのではないか、情報に誤りは無いのかと追及する動きを見せている。
なぜそうも敵視するのかわからなかったが、今日ディードの話を聞いて確信した。
奴らはディードの言ったとおり、メンツを潰された仕返しをするつもりなのだ。
そうなるとフィブル支部の奴等は信用できない。ウチの旦那をフィブルに向かわせて正解だった。G級の旦那の近くで下手なことはしないでしょう。
そして百竜夜行の件と、ウチのディードに掛けられた嫌疑に関してはすでに旦那の知り合いを通じてギルドナイトに通達済み。余程のことが無きゃ嫌疑は晴れるでしょうし、百竜夜行で活躍が報告されればこれまでの依頼達成内容も『駆け出し』という色眼鏡もなくなって問題なく評価されるようになるはずだ。
昔はじいさんの元で一緒に勉強した。自然の在り方を学んで、モンスターの在り方を学んで、人の在り方を学んで、そうしてモンスターへの憎しみよりも、自然が、モンスターが、人がもたらす滅びに最後まで抗おうという精神性を手に入れた。
その姿を義理の姉として見守って来たのだ。そして受付け嬢として働いているからこそわかる。
「がんばってこい。じいさんの最初で最後の弟子。今回の頑張りこそがアンタの未来を切り開く」
「あの、なんで儂、草葉の陰で見守ってるみたいな感じなの?スリンガーの調節してたのにどうして?」
「細かいこと気にすんな、じいさん」
Tips
・ベルデ村
オリーブドラブ氏著「モンスターハンター~故郷なきクルセイダー~」の特別編にてディードがカムラの里に向かう前に居たとされる村。
今回はそこに以下の設定を付与しました。
1:『ディードの第二の故郷』
2:『ハンターが充実していてディードが心配する必要が無い程頼りになる』
3:『G級ハンターが在籍』
・ベルデ村支部の受付け嬢
ディードの師匠である老人の孫に当たる人物。年齢は26。怜悧な顔つきをした黒髪黒目の色白な美人さん(髪は背中までのロング)で既婚者。旦那は前述したG級ハンター。実はディードの初恋の人物。15の時にきっちり告白して振られました。
外見や性格の設定はディードとカップリングすることになったイスミさんのものを意識しました。
・師匠
かつて『古龍調査隊の第二期団』に在籍し、活躍していたハンター。
ディードにただモンスターを憎むだけではいけないことを伝え、今の彼を形作る礎となった。なお今も元気にカラクリを作って披露したり、ベルデ村の武器職人の手伝いをしたりと精力的に活動しているお爺様です。
彼を元二期団としてねじ込んだ理由は以下の点があったため。
1:二期団は六割が技術者であったことから残りの四割の中にならねじ込んでも問題無い
2:二期団の中には武器職人の頭領さんが在籍。スリンガーは老いて動けなくなりつつある彼がその場で動かずに物をとったりといった『第三の腕』として作ろうとした物が元に発明されたらしく、スリンガーを無理なくこの師に与えることが出来る上に彼との伝を通じてディードにもスリンガーを与えられそうだった。
3:上述した二期団=技術者集団だから複雑な機構であるスラアクのオーバーホールの技術を知っていてもおかしくなく、流浪しているディードが自力でこれを行えることの裏打ちになる。
・受付け嬢の旦那さん
流石に色々やり過ぎた感はいなめないG級のハンター。獲物は大剣。
・ウツシ
モンハンライズにて登場する教官。モンハンライズの二次創作であるオリーブドラブ氏著「モンスターハンター~故郷なきクルセイダー~」の特別編では過去の百竜夜行に対抗するため同期のハンターたちに救援を要請していた。
本作にて触れた彼の才覚に関しては「ウツシ教官はプレイヤーに全ての武器種の扱いを教えられる=扱う技能を持つ」という点から解釈したモノ。
【登場した村と街について】
全てオリジナルのつもり。正確な位置はさっぱり決まっていない。
・オネ村&ティオ村
同じ領内に存在する村。悪徳領主が困窮状態にあると偽ることで不正に国からの補助金をせしめていた。ギルドの支部は無い。
しかしモンスターからの被害で困っていたのは事実で、ギルドに依頼することを考えたものの領主からの報復を受けることを恐れていたため村人達は泣き寝入りを余儀なくされており、ディードの存在は救いの神と同じだったらしい。
今では悪徳領主も捕まり、引き継いだ領主が善政を敷いているらしい。その上でディードのことを村人たちは恩人であると考えているそうな。
名前の元ネタは英数字のoneとtwoを読み変えた物。
・スレイ村
違法作物(イメージ的には麻薬みたいなもの)を作っていたけど、そんな中訪れてしまったディードを危険視し、海路の邪魔になっていたラギアクルスを倒してもらうついでに殺してしまおうと画策していた。
結果的にラギアクルスはディードの手により討伐。その上で騙して毒で殺そうとしたが……ハンターとして鍛えられた体と知識を侮った結果返り討ちに遭い、ギルドナイトに通報されて村人共々お縄に着いた。
名前の元ネタは英数字のthreeの読みから近い語感の物にしたつもり。
・フオル村
ギルドから派遣されていた老いたハンターが守護していた辺鄙なところにある村。
しかしそのハンターは上位に指定されるジンオウガの討伐に赴いて返り討ちに遭い殉職してしまっていた。
ディードはジンオウガに追われながらもどうにか逃げ延び、この村に辿り着いた。その際に慕われていた老ハンターの敵討ちを頼まれることになる。
なおこの時点でジンオウガが上位であることを誰も知らず、ディードはこの村の存亡を賭けた戦いに臨むことになった。
ディードは「百竜夜行は助けてくれる仲間がいたから大丈夫だったが、コイツ相手には本当に死に掛けた」と言わしめさせた。
『百竜夜行』後に本作中に掛けられていた嫌疑が晴れた後、ディードは位級詐称の罰としてこの村の復興に尽力するために配属されることとなり、将来、第三の故郷と呼ぶ地となる――という妄想を現時点でしているけど、そこはオリーブドラブ氏の匙加減で変わりそう。
名前の元ネタはお察しかと思いますが英数字のfourの読みから語感の近い物にした結果。
・煉瓦の街フィブル
レンガ造りの建造物が並ぶ発展した都市。
ギルドの支部も存在し、ハンターも数だけで言えば中々の物。様々な職人が集る街でもある。
しかし、この街にいわゆるオオカミ少年がいたため彼が騒いで全て嘘だった、を繰り返してしまったことで少年の言葉が信じられず、
そんな中訪れたディードの目の前で
結果的に
なお実は少年は少女でしたというオチも考えていたけど、そこで文章使うのアレなんで没にしてます。
名前の元ネタはお察しの通り英数字のfiveから語感の近い言葉を考えただけ。