モンスターハンター~我が往くは終わり無き滅びとの闘争なりて 作:踊り虫
俺は、
彼は毎日日記をつけるという習慣はなかったようで、日付が飛んでいたけど、それでも印象的なできごとがあった日だけはしっかりつけていたようだった。
例えば初めてここに配属された日のこと。
若き日の老人からしてもここはかなり辺鄙な場所であったようで、文句の数々がツラツラと書かれていた。特にオロクさんのことは美人だが余りにも毒が強い女だと悪口が書いてあった。
例えば
それに腹が立って、後日、彼を止める村人達の制止を振り払って挑み、見事返り討ちにあって、また挑んで、を繰り返していたらしい。
――いつか倒してやるからなぁ覚えとけ!
だが、それがある日を境に一変する。
ある日のこと、採集の依頼で樹海に入ったが高所から落下して足を折ってしまった。死を覚悟したが、なんとそれを助けたのは
――信じられるか? 野生の大型モンスターが、人を助けたんだ。村の人達は守り神だなんていってたけど、まさか、なぁ……
そして始まったのは
――アイツ、他の大型モンスターを追い払ってやがる! どおりでこの村の付近で大型モンスターの目撃情報が少ない訳だぜ。この辺り一帯は全部アイツの縄張りって訳か。しかも人に害を加えないなら守り神って呼ばれるのも納得だぜ。
そして転機。
――スゲェよ! スゲェことしちまったよ! あの
――今日は運悪く入り込んでた
――今日はあの
アイテムボックスの中に黒狼鳥の鱗があったのを思い出す。アレ以外にも大型モンスターの素材が入っていたけど、共闘した後で落し物を記念品として拾っていたのかもしれない。
日記にはその後も様々な形で共闘することになった話が書いてあった。
その日々の中でいつからか『
10年、20年、30年と日々は過ぎてゆく、彼は若人から、老人へと変わって行く。
若い頃は細かく付けていた日記も老いと共に筆が進まないのか日が開くことが増えたが、出会いと別れが繰り返されながら、彼と相棒はこの村を守り続けていた。
そして、運命の日が来た。
――クルラがなんか悪い夢を見たらしい。相棒が苦しんでるって言うんだ。それで見に行ったら様子がおかしい。俺のことがわかっちゃいねぇみてェだ。煙幕張ってどうにか逃げられたが、ありゃ尋常じゃねぇ。なんかの病気かもしれねぇ。
――アイツに薬を作って試そうにも、ああも暴れられちゃあ何も出来ねェ。となると捕獲するしかないんだが……俺に、出来るのか?アイツが居なきゃ戦えねェ俺が捕まえる? そもそもアイツに剣を向けることが出来るのか?
無理だ、どっかの腕の良い奴に捕獲依頼を頼もう。もしかしたら麻酔が切れたらけろっといつものアイツに戻ってるかもしれねェ。
――まずい、村に来ていた行商人がやられちまった! 外界との連絡手段は他に無いんだぞ! どうすりゃあいいんだ!
――オロクの奴! 何が「これは
そして最後のページには、後を継ぐことになるハンターに向けたメッセージがあった。書いたのは
そして、この試みはほぼ失敗してしまうだろうということ、その時は自分に代わり
――この村こそが俺たちの宝だ、その宝を相棒自身の手で壊させたくない。だから頼む。どうかあの
――そして叶うことなら、俺たちの代わりに、この村を守ってくれ。
そこで、手記は終わっていた。
日記を作業台の上に置き、
「クルラちゃん、君にとって狩人のおじいさんは、どんな人だったんだ?」
◇◇◇
一番の思い出は、おじいちゃんに頼んで村の人や両親に内緒で守り神さまの背中に乗せてもらったこと。初めて触った守り神様の毛はごわごわしててちょっとピリッとしてびっくりしたけど、守り神様は「どうだすごいだろ?」とこっちを見てくるから思わず笑ってしまった。
でも、もうその光景は戻ってこない。
――おじいちゃん! 守り神さまが! 守り神さまが苦しんでるの! 助けてあげて!
私の頼みを聞いて、おじいちゃんが
おじいちゃんが帰ってこなくなってそれでみんな元気が無くなっちゃったの。
私が、悪いのかな……
◇◇◇
彼女の話を聞き、そして小屋の中の書物や走り書きを見て、思う。多分そのおじいさんは俺のように討伐しようなんて微塵も考えてなかったんだ。捕獲して、
そうでなきゃ、色んな薬剤の本と試行錯誤したと思しき調合レシピの内容に説明がつかない。学者でもないのに、それでも隣人のために頑張ったんだ。
でも捕獲には相手が捕獲できるほど弱ったのかを見極める観察眼が必要になる。
観察眼は経験で養われる物だけど、手記を見る限り、大型モンスターの捕獲や狩猟は慣れていなかったはずだ。
多分、大多数のハンターが、話を聞いただけなら馬鹿な奴だと嘲笑うか呆れるかするだろう、俺も、俺の同期たちだって顔を顰めるはずだ。
でも、この村の実状を知ってしまった俺は笑えないし呆れられない。むしろ哀れみと尊敬の念を覚える。
人に慣れている
裏を返せば、
それがわかっていたからこそ、このハンターは無謀を通そうと努力して、死力を尽くして滅びに抗ったのだ。だから、
「君は何も悪くない……何も悪くないんだ」
涙を目にいっぱい溜めているクルラを抱きしめて、あやすように頭を撫でる。
「おじいちゃんはな、この村が大好きだったんだ。村のみんなが大好きだから、頑張ったんだ」
「でも、おじいちゃん、かえって、こない」
「ああ、でも、それは、君の所為じゃないんだよ。ハンターはいつだって命懸け。おじいちゃんは命を懸けてみんなを守りたかったんだ。笑っていて欲しかったんだ。だからクルラちゃん、約束しよう」
涙を堪えようとして、それでも耐え切れずに頬を流れていくのを見たけど、これは言わなきゃいけない。
「俺が、
「う、あ、あぁ――」
クルラは泣いた。ずっと我慢していたからかその声はすごく大きくて、でも、それだけ怖かったのだとわかった、辛かったのだとわかった。
ふと気付けばすでに外は黄昏時になっていた。泣き疲れて眠るクルラを背負い、小屋を後にする。
「ごめん……」
ぽつり、と謝罪の言葉が出た。
後を継ぐハンターじゃなくてごめんなさい。
もっと早く来ることができなくてごめんなさい。
この村を守って上げられなくてごめんなさい。
あなたの相棒《ジンオウガ》を救えなくて――
「――本当に、ごめんなさい」
クルラは背中ですやすやと眠っていたから、俺の謝罪は宙に溶けて消えていった。
だけど、それ以上に、負けられない理由が出来てしまった。
◇◇◇
「破ァァァァァッ!」
「■■■ゥァァッ!」
戦いは明朝から始まり、今や中天に月が見える時間にまで続いていた。
何回、武器を振るったか、武器を変形させたか、武器を研いだか、ビンを交換したか。
何回、攻撃を受けたか、いなしたか。
何回、回復薬を飲んだか、怪力の種やウチケシの実を食べたか、携帯食料を食べたか。
何回、スリンガーに弾を装填したか、落石を起こしたか、ぶっとばしを行ったか、閃光玉を使ったか。
そんなことは些事だ。思い出すだけの余裕は無い。
ただ、やることだけは決まっている――この
「オラァァァ!」
いなして攻撃を回避し、そのまま抜刀、斧強化状態で斧を頭に叩き付けると、
クラッチクローで顔面に張り付き、スリンガーに石ころが装填されてるのを確認して顔面に叩き込み、木へとぶっとばす。
「■■ゥッ……■■ゥッ」
「っまだ……まだだァァッ!」
今にも崩れ落ちそうになる足腰に鞭打ってデスピアダトⅠを剣形態に。飛天連撃――薬液の活性化は十分。
そのまま
「オォォォォォォッ!」
ビンの薬剤は、剣で攻撃すればするほどに活性化し、最終的に高出力状態へと移行する。この状態で属性解放突きを撃つ時の反動と威力は非活性時の属性解放突きを容易く凌駕する。
だからこそ、反動で照準がぶれないようにモンスターに張り付いて突き刺し、密着した状態で属性解放突きを行う手段が確立された。
属性解放突きの更にもう一段階上の奥の手。その名も、零距離解放突き。
反動と超帯電状態で纏わり着く雷の影響で獲物を持つ手と、しがみついている手足が離れそうになるのを根性で堪える。
コイツで終わらせる!コイツで終わらせるんだ!
「喰らっ、えェッ!」
トドメの大爆発。体が宙に投げ出され、受身をとり、どうにか立ち上がる。
かなりの感触だった。アイテムは今呑んでる回復薬とポーチの強走薬で最後。これで終わりじゃなければ死――
――私が悪いのかな……
弱気になるな! 俺まであの子にあんな顔をさせて良い訳が無いだろうが! これでも立とうがお前を倒すまで俺は倒れない! それぐらいの気を持て!
爆発の煙が開けた先には――起き上がった
「……」
正眼に獲物を構え、油断なく見る。さっきの零距離解放突きで超帯電状態は解除されている。先ほどまで口から吐いていたどす黒い靄は消えたが、
まだ、戦えるぞ、掛かってこい。そんな虚勢を張りつつ息を整え、
「……は?」
ゆっくり、ゆっくりと、森の奥へと向かっていく――なんだ。何が起こっている。
困惑する俺だが、途中でピタリ、と止まると俺を見て、また歩きだす。
「……ついて来い、ということか?」
武器を納刀し、強走薬を口にする。急速に気力が回復していく感覚を覚えながら、
◇◇◇
樹海の最奥にあった巨木の洞。そこは、おそらくこの
そして洞の中央には、仰向けに倒れた人の姿があった。
――それはハンター一式を装備した老人の遺体だった。
右腕は無残に食いちぎられたのか失われ、その首には碧色のバンダナが巻かれている――俺はこの色を村に来る前に見たような気がした。
なんでもクルラが俺を見つけたのはこのハンターの声に導かれたからだと言ってたが……あの時、俺を助けてくれたのは、この人、だったのか。
「全く、こんな苦労させといてなんて死に顔だ――」
その顔は、まるで全てやり遂げたとばかりに満足げな微笑みを浮かべていた。
「――でも、そうか、後悔は微塵も無かったんだな」
後ろからのそりのそり、と近づいてきた
俺には、この
死んだ
――その光が消えるまで、穏やかに眠る一人と一頭の
「――どうか、導きの
討伐の証として爪を剥ぎ取り、老人を腕で抱えて村に戻った時には、もう朝になっていた。
村に戻ってきた俺を出迎えた村人たちは、俺の腕の中で穏やかな顔で眠りに就いている老人を見るなり駆け寄ってきて、そしてみんな泣いた。泣いて、俺が横たわらせた彼に、皆、声を掛けた。
――おかえりなさい。
男も女も、老いも若いも、オロクさんやクルラちゃん、トグラさんやナズハさんも、皆が皆、この村の守り手の死を悼み、そして帰還を喜んでいた。
良かった、連れて帰ってこれて、本当に良かった。
そして俺の意識は、闇に落ちた。
――真っ黒兄ちゃん!?
最後に見たのは慌てて駆け寄ってくるクルラちゃんの姿だった。
Tips
・フオル村のハンター
フオル村で専属ハンターを務めていた白髪赤眼の老人。
使用武器は闘志の剣。防具はハンター一式。首に巻いていた碧色のバンダナがトレードマーク。
普段は採集クエストや小型モンスターの狩猟をしていたが、守り神である
しかし彼自身は弱く下位止まり。
狂ってしまった
何故彼が
・クルラ
フオル村で守り神であった
前述のフオル村のハンターを通じて
しかし一月前に
そのため「おじいちゃんが帰ってこないのは自分の所為だ」と自分を責めていた。
今後も開花することは無いが、実はライダーとしての素質があり、絆石抜きでモンスターと心を通わせることが出来る稀有な能力の持ち主だったりする。
※ストーリーズはアニメ未視聴ゲーム未プレイのにわかです。
・フオル村の
上述のハンターが着任する以前からフオル村近辺を縄張りにしていたため、他のモンスターが近寄らなかったが、彼が倒れてしまった今、別の大型モンスターが縄張りとして狙うことになるのは十分に考えられる。
この
最期の最期にフオル村のハンターの亡骸に寄り添ったのは、彼を捕食しようとしたのか、それとも最期は友の隣で終わろうとしたのかは定かでは無い。
・導きの
モンスターハンターワールドの台詞『導きの青い星が輝かんことを』のオマージュ。
古龍調査団の中で使われる言葉。「成功を祈る」とか「健闘を祈る」とか、そういう意味合い。それを