モンスターハンター~我が往くは終わり無き滅びとの闘争なりて 作:踊り虫
また、上記作品の特別編「追憶の百竜夜行」より平均以下のクソザコ野郎氏考案のキャラクター、イスミさんが登場します。
――六年後。フオル村。
出会いは偶然だった。
ユベルブ公国の姫君、クサンテ・ユベルブの死んだと思われていた婚約者、アダルバート・ルークルセイダーが生きていることを知ったクサンテの「婚約者を探す旅」に巻き込まれたアダイトは、自身の正体を言い出せないまま彼女に連れ回されていた。
なんでオレも着いて行ってるんだろう? と当初は胸中で漏らしていたものの、旅の中で存外にクサンテが世間知らずで無防備なのだと理解してしまい、放って置くことも出来ずに供を続けていたのだ。
尚、クサンテ姫に付き従う騎士デンホルムも当然、同伴。たまに小言を言われたりしながらもクサンテを人知れず守りつつ、ここまで来たのである。
そうして訪れたのはユベルブ公国と隣国、グラナ王国が隣接する国境の山脈地帯。そこの、ここ数年で発展が目覚しい山中の村、フオル村であった。
その村には何でも六年前に守り神と崇められていたモンスターを狩り、それ以降、村を守護している謎のハンターがいるのだという。
ユベルブ公国に非常に近い場所。それもここ数年まで無名だった村。もしかしたらアダルバートがそのハンターなのではないか、と期待したクサンテに引っ張られ、飛行船で赴いた。
一応フオル村自体はグラナ王国の国領ではあったが、すぐ傍にユベルブ公国の国境があるので、アダイトにとっては奇しくも
とりあえず腹を括り、集会所で例のハンターがいるかを赤髪碧眼の若い受付嬢に尋ねてみたが、どうやらそのハンターは今、カムラの里へと遣いに出ているようで、明日の朝には戻るらしい。
疎らにハンターのいる集会所の中で分かり易く落胆したクサンテではあったが、そのハンターの帰還を待つ序でに、ここの依頼をこなして路銀を稼ごうと三人で掲示板の前で依頼書(何故か上位個体ばかりで唖然としたが)を見つつ相談していた最中に、話しかけてきた人物が居たのだ。
「もしかしてアンタ、アダイト・クロスターかい?」
それは
「……アダイト、そちらの方はどなたなのでしょうか?」
「いや、おいらもちょっと……え、待って姫さん、なんでそんなに冷ややかな目でおいらを見てんの?」
「私はただあなたを見ているだけです。冷ややか、と思うのであれば、それはあなたに
「え、えぇー……」
尚も冷たい視線を向けてくるクサンテにアダイトは困ったように片目を瞑る。アダイトはスキュラSを纏う上位の女性ハンターの知り合いに心当たりがなかったのだ。
そこに助け舟を出したのは意外なことにデンホルムであった。
「失礼、私はそこのアダイトと行動を共にしているデンホルムという者だが、どうもアダイト殿はあなたに心当たりが無いようだ。人違いでは?」
「いや、確かに長い間顔も見てないし口調も変わっちゃいるけど人違いじゃないと……ああ、そうか、アンタと最後に会った時あたしが着てたのスカルダだったっけか」
「……スカルダ?」
はて、とアダイトはそのスカルダ装備を思い浮かべる。
「もしかして、イスミか?」
そう、アダイトが尋ねると、
「ああ、なんだ、やっぱりアダイトだったか。全く、本気で人違いだったらどうしようかと思ったよ。しっかし本当に久しぶりだねアダイト。壮健で何よりだ」
「そういうアンタは変わったな。女装備を着けてるとは……相変わらずの全身装甲だけど」
「ナンカイッタカイ?」
「全身鎧カッコイイな~と」
しれっと誤魔化すアダイトと、それを見てやれやれとイスミは呆れたように溜め息を漏らすが気を取り直したかのように一呼吸入れる。
「まぁ良いさ、あんたに会ったって聞けばあいつも――」
「――申し訳ありませんが……」
しかし、置いてけぼりにされていたクサンテが、腕を掴んで抱え込みながらアダイトへと絶対零度の視線を向けつつ捲し立てた。
「アダイト、この方とどのような関係なのかをご紹介してくださるのが筋、という物では無いでしょうか?」
「いや、だからなんで怒って――いででで!わかったわかった紹介しますって!」
クサンテからイスミに見えないように脇腹を抓られアダイトは即座に白旗を上げた。
「彼女はおいらの訓練所の同期の一人でイスミさん。見た通りの大剣使いで、昔は男性用防具の全身鎧を着てた変わり者ですね」
「変わり者は余計よ。そもそもあたし以上に変わった奴らも多かったじゃないか」
「いやぁ……男装備で顔を一切見せようとしない女ハンターって十二分に変り種――ぐぇッ!?」
脳天に手刀を叩き込まれアダイトは悶絶した。全身鎧――つまり頑丈な篭手での一撃は鈍器の殴打にも通ずる物である。アダイトが涙目で抗議すると「あいつと同じ感覚でやってたわ」などと悪びれた様子もなくのたまうもので「言い訳になってないから」と抗議した。
とはいえ、彼女が蛮行を行いあいつなどと呼ぶ該当者は一名。この時点でアダイトは会いに来たハンターが誰なのか予想がついたわけだが。
「ところでお嬢さん、あなたは?」
「私は――」
「クサンテ様お待ちくだされ――どうだろうかイスミ殿、アダイト殿と積もる話もあるだろうし、どこかゆっくりできるところを知りませんかな?」
デンホルムはそう言って、目で周りを確認するように示した。
――彼らが話していたのは掲示板の前。集会所の酒場にいる人々からは好奇の視線が向けられていた。
「――それもそうだね。ついてきなよ、丁度良い場所がある」
イスミは鎧越しのくぐもった声でデンホルムの言葉に快く応じたのだった。
◇◇◇
イスミは村人たちからも慕われている様で、あちこちから声を掛けられたり、子供達から遊んで欲しいとせがまれたりしていた。あだ名は「鎧の姉ちゃん」とド直球であったが、彼女自身慣れた物のようで、軽くあしらいながら迷いなく進んで行き、アダイトたちもその後ろをついていく。
それにしてもこの村は
そうして連れて来られたのはなんとマイハウス。外に何やら闘士の剣が埋め込まれた碑石と思しき物が置かれた二階建ての木造家屋で、家具や調度品は基本的に質素だが数人の人間が使える程度に揃えられていた。おそらくこうして人を招くことも少なくないのだろう。
またアイテムボックス傍の作業台と立て掛けられた剣斧。そしてその隣に置かれたアイルー大の木彫りの
部屋の中央にある丸テーブルへと案内されたアダイトたちは席に座り、クサンテの素性とその目的を話すと、イスミは一つ問いを投げた。
「アダルバート殿下の外見は?」
「え、えっと……」
クサンテはちらりとアダイトを見た。
「……黒髪黒眼で肌の色は……騎士となるために鍛えていたから少し日に焼けてたかしら?歳は今年で二十歳になられるはずよ」
「ふーん……黒髪、黒目、少し日焼けした肌を持ち、今年で二十歳ぐらい、ね」
イスミもまた、アダイトの方に顔を向けた。
「なんでこっちを見るんだ」
「参考になりそうな全く同じ特徴の男が居るんだ、見るに決まってるじゃないか」
「黒髪黒眼で少し日焼けした肌の男なんて幾らでもいると思うんだが。それとイスミ鎧姿だと威圧感がすごいぞ、頭装備ぐらい外せよな」
不満げにもらしたアダイトの注文をイスミは無視する。
「特徴はわかったけど、それだけで探し出すなんて無理じゃないの? けどまぁ、あんたらの会いに来たハンターは全くの別人だって断言してあげる」
「……と、申されますと?」
「外見的特徴が違えば年齢も違う。それにあのガーグァ男は貴族様独特の育ちの良さとは無縁でね」
「ガーグァ」
「男?」
イスミの言うガーグァ男、という聞き覚えの無い言葉にクサンテとデンホルムは首を傾げた。
ガーグァと言えば陸上を二本の足で歩く鳥型の大人しい小型モンスターだったはず。確かフオル村では家畜として飼っていて、その卵やガーグァの肉、それにフオルの野菜を使った鍋や丼モノが有名だったはずだが。
頭を悩ます二人だが、アダイトはその単語と、その単語で評された男を知っていた。正に予想通りである
「やっぱり謎のハンターってあの人のことか」
「知っているのですかアダイト」
クサンテの問いかけにアダイトは肩を竦め、
「知ってるも何も、その人もおいらの同期の一人、どういう訳か色んな事件に巻き込まれながら
などとのたまった。
「「……は?」」
当然、五ヶ月ほど前にようやく上位に至ったクサンテとデンホルムからすれば間抜けな声を出してしまうのは当然のこと。下位から上位への壁は高いというのにそれを僅か一年でとなると、よほどの事である。
「まぁ、おいらも詳しくは聞いてないんでなんとも言えないけど。粒揃いだった同期の中でも単独での戦闘能力だけで言えば五本の指に入る人だったし、上位に上がるのはすぐだと思ってたけどね」
「なんなのだその謎の信頼は……しかし一年で上位に上がるとは……本当に同じ人間か?」
デンホルフは信じられないと口にした。
実際問題、僅か一年で上位に上り詰めるなど正気の沙汰ではない。一日の間に移動時間も含めて休み無しで依頼をこなして貢献しても、そんな短期間で上位に上がれるかどうかすらわからない。
クサンテは素直に疑問を口にし、そしてイスミがその問いかけに応じた。
「一体その方は何をしたのでしょう……?」
「そりゃもう色々さ。例えばあんたたちが噂で聞いたって言うここの守り神の討伐、とかね」
そう言うと、イスミは席を立ち、本棚の中から一冊の古びた本を取り出した。
「色々とアイツや村人たちの話が混じってるし、あたし自身が信じ切れてない部分もあるけど聞いて見る?」
クサンテとデンホルムが頷き、アダイトは片目を瞑り、話の続きを促す。
そしてイスミは、ディードと村人たちから聞いたという、彼とフオル村の縁が生まれた時の話を語るのだった。
◇◇◇
「――で、そのあと目を覚ましたら葬儀が終わっちゃってて、報酬の話になったんだけど、受け取ったらすぐに1000zだけ取り出して残りを全部村に寄付って言って返しちゃったらしいのよ。『どうか彼らの宝物だったこの村を、守ってください』ってかっこつけちゃってさ」
イスミから噂の『守り神退治』の話を聞いたアダイトたちは三者三様の反応を示した。
「いやいや、そもそも法外な額を受け取ったらそれはそれで問題だから、ギルドからお縄に着けって言われちゃう奴だから……確か下位の
一人は語り手の女性の物言いに、現実的な面から物を言いつつ、その上で報酬額が少なすぎることに「やはりあの人狂人かな?」と遠い目をし。
「すごく素敵なお話でしたわ……あとで外のお墓の前で手を合わせてこなきゃいけませんわね。あとお土産に
世にも珍しい人とモンスターの絆と、その最期の美しさに感じ入り、忘れないようにと土産物の算段をし始め。
「先人の遺志を汲み、見返りを求めず村の隣人を止めるために立ち上がるその姿は正に勇者よッ……このデンホルム! 敬服の至りッ!」
そして話の中心にいた若き狩人に感じ入り、感激の涙を流す者までいた。
イスミはその姿に兜の内側から微笑ましく思う――アダイトの感想は抜け目の無い彼らしい考え方なのでそこはスルーするとして――やっぱりアイツの行為は称賛されてしかるべきなのだと思うのだ。
まぁ、その上でこのあとのオチにつなげるのは少々気乗りしなかったが、アダイトのことだからそこはきちんと聞いてくるので素直に答えやすいのだけども。
「――で? なんであの人専属ハンターなんてらしくないことをしてるんだ?」
ほらきた。
その問いの真意がわからず、感動に水を挿されたクサンテとデンホルムが「何言ってんだてめー」と言いたげな視線を向けているが、同期一同からすれば当然の問いだ。
あいつの義理の姉いわく、ハンター成り立ての一年間、あいつは助けが必要な場所を探して彷徨っていたそうだ。
その結果騙されることになろうと構わない。助けになるための見返りは必要最低限で良い。アイツにとっては自身の尽力によってその人々を救うことができたという実感さえ与えられれば良くて、それ以上を欲していなかったから。
だから、この村での一件は――
かぶりを振って雑念を払う、今はアダイトの問いに答えるだけだ。
「その
「あ~、あの人らしい」
呆れたようにアダイトが言った。
そもそもおかしな話だったのだ。百竜夜行で戦った
上位であったとしても数時間あれば事足りたはず。故に一昼夜となればそこへ更に要素が与えられていて然るべきだと、アダイトは考えていたのだ。
そして同時に
――クサンテとデンホルムの驚き声で現実に立ち戻った。
「駆け出しのハンターが
「……なるほど、アダイトがその人物を問題児と称した理由もわかります。つまり彼は、必要であればギルドの規則を破ることにためらいが無い、ということですね?」
「その件に関しては後になって知ったらしいけどね」
そう言いつつもイスミはその意見を否定しなかった。
そもそも下位、上位、G級といったクラス分けはハンターが犬死しないようにするためでもあり、同時に下位のハンターが上位のハンターに寄生行為を行い、上位ハンターへの負担が増えることや、労力以上の報酬を得てしまうことを防ぎ、転じてハンターが得るべき利益を守ることも目的としている。
そのため、本来ならモンスターの調査をし、クラス分けを行った上で依頼を各クラスに振り分ける。例外は緊急クエストという即急に対応しなければならない依頼ぐらいだ。
級位詐称とはハンター全体の利益を損ないかねない行為、ということだ。
他にも困窮している村に「格安キャンペーン」と称してギルドに通さず格安でモンスターの討伐依頼を請け負っていたことも話すと、流石にクサンテとデンホルムも、彼を手放しでは褒められないと気付いたようだった。
「……それだけのことをして、その人がライセンスを没収されないということは、下位の装備で狂竜症に感染した
「いえ、それだけではありませんな……おそらくその御仁、先ほどの話に出てきたとおり良くも悪くも善良――それこそ相手の善悪や己の損得、規則といったしがらみに頓着せず後先考えずに手を差し伸べてしまう人物なのでしょう。悪人であれば迷い無く没収されていたかと思われます」
二人の総評に間違いは無い。無いがそれが全てではない。
――かといってそれを伝える義理も無い訳だが。
外を見るとすでに日は傾いてきた。そろそろ夕餉の時間だろう
「話し込んでたらもうこんな時間か。序でだ、今日はここに泊まって行きな。そこの同期の
◇◇◇
夕餉を食べ終え、水浴びを済ませたクサンテは、二階にあるイスミの寝室前にまで来ていた。
最初は断ろうと思い、イスミの案内で来た彼女の言う良い飯屋で夕ご飯(懐に優しいくせにとっても美味しいガーグァ鍋に三人とも言葉も忘れて結構な量を食べてしまったのだけれど……太らないわよね?)を頂いた後で宿を取ろうと思っていたのだが、宿代も馬鹿にならない、人が多い方が安心するからあたしを助けると思って、などと言われたら頷かざるを得なかった。
ちなみにアダイトとデンホルムは空いている別室にハンモックを掛けて寝ることになっている。
という訳で、寝室にいるイスミさんと二人きり、ということになるのだが、
(今なら、聞ける)
クサンテにとっては非常に嬉しい誤算でもあった。
イスミはハンター訓練生時代のアダイト――目下、アダルバートととても似通った人物と同期だという。
つまり、かつてのアダイトの様子を聞けば何かわかるかもしれない。例えば、アダイトがアダルバートである証拠、とか。
――実を言えばここまでの旅を通してクサンテ自身、すでにアダイトという男に惹かれてしまっているという自覚はあった。アダイトがあのアダルバート様だったら良いのに、とまで夢想し、ふと、そう考えてしまう自分が恨めしくなるほどに。
そして、怖くもあった。
アダルバート様が生きていたとして、なぜ自分に会いに来てくれなかったのか。
記憶を失ったのか、別に好きな人が出来てしまったのか――それとも死んでしまったものと思っていた自分たちを恨んでいるのか。
前者であればまだ良い……別に好きな人が出来ていたとしたら――言い方はすごく酷いけど、アダルバート様への思いを断ち切り、安心してアダイトに自身の思いを告げられる。
だけど、最後のだけは違っていて欲しい。自分は間違いなく立ち直れなくなる、クサンテがアダイトを直接追及出来なかったのはこの恐怖ゆえだった。
だが、過去の彼を知る人物から情報を集めて、それでアダイトがアダルバートでないとわかったのなら――自分はまた一歩、先に進めるはず。
意を決して、クサンテはイスミの待つ寝室へと踏み込む。
中にいた女性は
鎧を常日頃から着ているからか、体は白く、それゆえに艶やかな黒髪との対比が美しく、鋭くも蒼い眼は人によっては宝石に例えるだろうか。
そして何より、女から見ても美しいと感じる身体。
クサンテのそれが(真に、ま こ と に遺憾だが)男好きすると評される物であれば、彼女のは鍛錬の果てに行き着いた機能美。無駄は無く、しかし女としての美しさを併せ持つ体つきはハンターとして見習いたくなるほどに綺麗だ。
クサンテはぽーっと見蕩れていたのだが、羞恥に襲われ自分の身体を隠すように身体を抱きしめる。
しかし彼女はそんな姿を見てどういう訳か細い目で睨んできた。
「……あいつもああいうのが好みなのかねェ……」
しかも何やら恨めしいとばかりの暗い感情が籠った目だった。
「え、あ、あの、イスミ、さん?」
「――ん、ああ、いや、何でもないんだ。先に寝てていいよ。あたしはもう少し鎧を綺麗にしてから寝るから」
何でもなくは無かったと思うのだが――あの恨めしいという目線が消えたが、クサンテは少し警戒しつつ、彼女の鎧を磨くのに使っている作業台に対面するように、一人で寝るには大きいベットへと近づき、座る。
イスミの視線はすでにクサンテから離れ、鎧を布で磨く作業に没頭してしまっているようだった。
「ごめんなさい、実はまだ眠くないんです」
「あ、そうなのかい? じゃあ、お酒でも――」
「――それよりも、聞きたいことがあるんです」
ピタリ、とイスミの手が止まり、彼女の怜悧な――全てを見透かしてしまいそうな蒼い瞳がクサンテを射抜いた。
「アダイトのことだろう?」
「……!」
見抜かれていた。驚きで目を見開くクサンテに、イスミは噴き出して笑った。
「ばればれだよ。仲よさげにしたもんだから嫉妬してあいつの腕を抱え込んだりとか、アダルバートの話でアダイトを見た時の眼とかさ。あー、この子、あいつに惚れてんだなーって」
そんでもって、とイスミは一息入れ、磨いていた兜を作業台に置いた。
「アダルバートというあんたの許婚へのかつての恋慕が負い目になって、そのことが告げられないこともね」
「……はい」
クサンテは降参した。まさかたったあれだけのやりとりでそこまで見抜くとは、この人も只者ではない、ということか。
「……そんな尊敬するような眼で見ないでよ。ただあんたみたいな目を知ってるだけなんだから」
「え、それはどういう……」
イスミは咳払いをした。これ以上聞くな、というジェスチャーだ。興味はあったが、おとなしく口をつぐむ。
「それは置いといて、とりあえず結論から言うけど、アダイトがそのアダルバートかどうかはあたしも知らないし、わからない」
「……やはりそうした話は無かった、と」
「ああ、なんせあいつ、社交性は高かったけど自分のことを深く語るような人種じゃなくてね。それでもよければ参考程度に教えるけど」
「それでも構いません。教えて下さい!」
わかった、とイスミは応じた。
彼女曰く、昔の彼はもっと覇気のあるまっすぐな光を目に灯す少年だったのだという。誠実で社交的。強い熱意を持っていて同期の中では良い意味でやる気のある中心的な人物だったこと。
そして彼はロノム村という僻地にある村のギルドマスターに拾われたこと。
その他にも訓練生時代の彼のエピソードが色々と出てきた。
ロノム村。
その名を忘れる訳がない。忌々しい賊共に罠に嵌められるも、アダイトによって救い出され、上位種のドスファンゴを討伐した彼との出会いの地だ。
しかもドスファンゴの狩猟後、彼女はギルドマスターからアダルバート生存の一報を受けている。これは、偶然だろうか?
「あ、あの、一人称や口調の方はどう変わったのでしょうか?」
「今のあいつ、自分のことを「おいら」なんて言うでしょ? でも昔は「オレ」って言ってた。それにあんなとぼけた態度はしてなかったのよ」
それには心当たりがあった。彼はギルドナイツの使い走り――要するに密偵である。
そのためにハンターから侮られ易いように田舎モノを思わせるような口調をしていたり、とぼけた態度で油断を誘い、付け入る隙を作る。そのための演技であり、ハンターS装備も、一見であれば
だが、これだけの情報で彼をアダルバートか判断できそうに無い。
「ほ、他に何か、ありませんか。何でも良いんです! お願いします」
クサンテはイスミに頭を下げる。今は彼女だけが頼りなのだ。
「……そうだね……確かあんた、ユベルブ公国の姫様だろ? なら
「え、えぇ、
「ディードとアダイトもその騒動に首を突っ込んだらしくてね。その時アダイトがディードにこう言ってたらしいんだ」
――この国に、守りたい人がいる。
クサンテは目を見開いた。
「そ、その時の話を聞かせてください!」
「いや、詳しくはあたしも聞いて無くてね」
「あ、その、すみません……」
しゅん、と項垂れるクサンテ。しかしイスミはこのように提案した。
「――どうせ明日になったら当事者が二人揃うんだ。一緒に話を聞くのも良いんじゃないか?」
「ッ!! そうですね! そうしましょう! 」
天啓を得た、とばかりにクサンテはベットの上に上がり横になると「おやすみなさい!」と言って布を被った。
早く寝て、話を聞いた時眠くならないように、ということなのだろう。忙しない子だなぁ、とイスミは思ったが構わず鎧を磨く作業に戻ったのだった。
結局後編(次章への繋ぎ回)で一万近いとか、これ読むのきついだろ、と思いつつも投稿。
ディード、不在。
という訳で霹靂奔る弔い合戦はこれにて終了。
実を言えば葬式風景も書こうかと思ったのですが、村人達に向けた良い言葉が思い浮かばず断念。
本来は本章のエピローグであり、次章への導入として書く予定だった物をここにぶち込むことになりました。
次回、煉瓦の街防衛戦、序章。お楽しみに
Tips
・フオル村のハンター、その2
朦朧とした意識の中ディードが最後に見た碧色の布が彼のバンダナだったのか、ディードを村へと導いたのが死ぬ間際の彼だったのか、別人だったのか、彼の霊だったのかは判然としない。
しかも死後半月経っていたにしては死体の状態もそこまで悪くなかったこともあり、もしかしたら片腕になってなお、帰ることは出来ずとも数日前まで生きていたのでは無いかと思われる。
――真相はどうあれ、ディードは彼に導かれたのだと信じて疑っておらず、その生死に関しては問題ですらないと考えているようだ。
ディードによって村に持ち帰られた彼の亡骸は丁重に埋葬されると同時に、彼の使っていたバンダナは後にディードに引き継がれ、闘志の剣は村のシンボルとして掲げられることになった。
享年67歳。
・フオル村、その2
ディードの言葉と上述のハンターの遺した日記の言葉により村人たちの精神は立ち直り、モンスターのいない今のうちにギルドを通して復興と外界との交流のために様々な準備をオロク主導で進めていた。
百竜夜行、そして
それから六年経った現在は上述の「級位詐称」の罰としてフオル村へと派遣されたディードが専属ハンターとなり、村の発展に貢献。
豊富かつ質の良いフオル産の木材を求めて来る客や、名物のガーグァ鍋や焼き鳥に釣られて来る人が増え、今では飛行船の発着場や簡単な集会所をこさえるまでとなった。
・アダイト、クサンテ、デンホルム
本作の原典である「モンスターハンター 〜故郷なきクルセイダー〜」の本編に登場した主人公とヒロイン、そしてヒロインの従者を務める男性のトリオ。
本作では本編終了後のアダルバート・ルークルセイダーを探す旅の途中でフオルに立ち寄りイスミと再会、ディードとフオル村の話を聞かされるという形での登場となりました。
三人の活躍は原作の「モンスターハンター~故郷なきクルセイダー~」をお読み下さいませ。
実は装備を変えるか、単純に上位互換にするかですっごい悩んだ(特にアダイトは後者の場合そのままなので)けど戦闘まで行かないし、この時間軸でそこまで書くタイミング(次の次の章)まで丸投げしました。頼んだぞ未来のオレ(マテ)
・イスミ
「モンスターハンター~故郷なきクルセイダー~」の特別編「追憶の百竜夜行」に登場した平均以下のクソザコ野郎氏考案の男性装備を纏う女性ハンター。
平均以下のクソザコ野郎氏著「モンスターハンター~全身鎧の女狩人~」にて主人公を務めています。
今回はここまでの話(霹靂奔る弔い合戦)の顛末をアダイト達に伝える語り部を担っていただきました。
六年後の今は何やら精神的な余裕も出来たのか女性装備(なお相変わらずの全身鎧)になり、フオル村のディードの元に――ってことにしたけど良いですか?(震え声)。
武器はスキュラ大剣のブロードブレイド(XX仕様)としました(クロームデスレイザーとジークリンデで悩みましたがどうせなら防具のシリーズと揃えたいな、と)
※大事なことなので書きますが貧乳では無い、いわゆるバランスが非常に整ったモデル体型という奴です。