モンスターハンター~我が往くは終わり無き滅びとの闘争なりて   作:踊り虫

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 話の構成を考えるのにすごく悩みました……
 特に同期から誰を登場させるかマジで悩んだ……

 なお同期たちの登場許可が無事にいただけたので公開!まぁ、明確な活躍は次回以降で、今回は名前だけになります。



煉瓦の街防衛戦
煉瓦の街防衛戦~その1


 (クサンテ)が目を覚ますと、下の階から何やら人の動く物音がした。外の明かりを見るに日の出前だ。

 こんな時間に誰だろうか……まさか泥棒でも入り込んだのか?

 横で眠るイスミさんの身体を揺すると、彼女は程なく顔を顰めて目を覚ました。

 

「……なんだいこんな朝っぱらに」

「下から物音が、賊かもしれません」

 

 その言葉にイスミさんは跳ね起きて、すぐに鎧を着け始める。すごく手早い。私も大慌てで着替えるが、追いつかず手伝ってもらい、二人で護身用の剣を手に寝室を出た。

 音を極力殺し、階段手前の廊下の欄干から開けた階下を覗く。

 下手人は日の出前の薄明かりの中でアイテムボックスを漁っては作業台の上に何かを並べている。値打ちのあるものを探しているのだろうか? 鼻歌まで歌う余裕さえ見せている。まさか空き家だとでも思っているのだろうか。

 そのような悪行を、この私が見逃す訳がない。

 

――この時私は隣のイスミさんが力を抜いたことに気付いていなかった。

 

「取り押さえます。続いてください」

「え、ちょっとま――」

 

 イスミさんの言葉も届かず、私は欄干に手を掛け飛び降り、そのまま下手人に向かって剣を突きつけ声を張り上げた。

 

「動くな!」

「っ!?」

 

 侵入者が振り向いた瞬間、黒いフードの下から覗くドクロの面と目が合って

 

「……え?」

 

 ――気がついたらうつ伏せで倒れ、抑えつけられていた。

 一瞬の早業。自分と侵入者との間には距離があったはずなのに強い衝撃を受けて剣を持つ腕が跳ね上げられたと思ったら、この有様だ。

 

「このっ――」

「黙っていろ……イスミ! イスミは無事か!」

「……え?」

 

 この人、イスミさんのことを呼んだ? この人、侵入者じゃ――待って、そういえばどうしてイスミさんは助けに来てくれないの? それにこの方の慌てようは演技では無いようです……ま、まさか。

 

 私はようやく自身の失敗を悟った。

 

「姫様! 何事ですか!」

「姫さん! 大丈夫か!?」

 

 まずい、上からデンホルムとアダイトの声が聞こえた。このままだと私を取り押さえている彼と問題を起こしかねない――

 

「ディード、その子は客だ!」

「……客?」

 

 イスミさんの鶴の一声が私たちを救ったのだった。

 

◇◇◇

 

 引き倒した女性が客人であり、隣国の姫様と知った(ディード)は、即座に土下座を敢行。

 まさか一国の姫君を引き倒すとか何やってんだ俺ェと顔を青くしつつ、「罰はなにとぞこの私めだけにぃ」と必死に嘆願したら本気で引かれた上に「それ以上の狼藉は許さぬぞ!」と彼女の従騎士だという男性と、なぜか一緒にいたアダイトに引き剥がされて、それでも縋りつこうとしてとどめにイスミからの冷たい視線を感じて震え上がった。

 おかげで一周回って冷静になれたけど。

 

「あ、あのすみませんでした」

「……いえ、こちらこそすみませんでした」

 

 互いに謝罪した上で、俺は彼女に「なぜこのような僻地に来たのか?」と問いを投げた。

 グラナ王国に入るのであれば両国を結ぶセイス橋の方が遥かに便利なはずだ。だというのに彼らはここへきた。

 そうして、俺は彼女達の目的を知った。

 

「――行方知れずの婚約者を探しに、ですか」

「はい。六年前からこの村を守る守護者。それがアダルバート様ではないか、と」

 

 どうも俺の存在は大袈裟に外に伝わっているらしい。俺は守護者、だなんて大仰な存在じゃない。ただのフオル村専属ハンターってだけだ。

 そのことに辟易としつつ、まさか()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんて思いつつも「自分はアダルバート殿下ではない」と断言する。

 年齢もそうだが、10年前と言えばベルデ村で師匠に弟子入りして色々と教わっていた頃の話だ。

 

 そしてクサンテ様もまた、そのことを理解しているようで「そのようです」と、少し悲しげにしながらも口になされた。

 わざわざこんな僻地にまで足を運ばれたのに、何も無かったというのは心苦しい。

 

「何か私に出来ることはありますか?」

 

 そんないたたまれない気持ちになった俺の言葉(自己満足)

 しかし彼女は少し考える素振りを見せ、

 

「――六年前、ユベルブ公国第三都市フィブルで起きた古龍の事件について、お話していただけませんか?」

 

 そのまま俺にとって予想外のお願いをしてきた。

 なぜ、今その話が出てくるのか、まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 待て、落ち着け、動揺を表に出すな。俺は彼女に問い返そうとして――

 

「六年前の、フィブルでの話、ですと?」

 

 彼女の従騎士だというデンホルムという男性の方が声を震わせて先に問い返していた。

 

「デンホルム、そんな顔をしてどうしたの?」

 

 少女にとっても予想外の反応だったのだろう、そのように問いかけるがデンホルムの反応はぎこちなく、どういう訳か俺と、そしてアダイトの顔を見てから、何も言わずに顔を伏せた。

 

 彼もあの事件に関わって――ああ、思い出した。

 

 脳裏に過ぎるは倒れ伏す兵士たちの中、一人だけ大剣を手にして尚も挑もうとする騎士の姿。

 そして、涙ながらに俺たちに頭を下げる男性。

 

 彼だ。

 

 アダイトに目配せするが、彼もそのことに思い至ったのか表情が硬い。

 

 顎に手を当て、少し考えを纏め、そして口を開く。ひとまず()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「失礼ですがクサンテ様――」

「クサンテで構いません」

「――ではクサンテ、確か君は、生存が確認された婚約者のことを探しにわざわざこの村に来たとか。それが何故六年前のフィブルの話に?」

「当時の私は訓練所にいたので、詳しい話を聞く機会が無かったのですが、イスミさんが言うにはあなたが当時フィブルに居たと窺いまして、是非とも当時の状況を教えていただけたら、と思ったのですが……ダメ、でしょうか?」

「当時の私は一介の駆け出しハンターです。私の話に価値があるとは――」

 

 しかし、クサンテは微笑んだ。

 

「ご謙遜を、ハンターになってから僅か一年で上位に認められた方の話に価値がない、などと。イスミさんからあなたがどのような偉業を為してきたか、すでに私共(わたくしども)は聞き及んでいます。フオル村での雷狼竜(ジンオウガ)と先代ハンターのことも――実に素晴らしいお話でしたわ!」

 

 このお姫様、目をキラキラさせてるんだけどどういうこと?

 

「イスミ、話盛ってない?」

「あたしは村の人から聞いた話とあんたの話を纏めて一つの話にしただけさ」

「特にあの雷狼竜(ジンオウガ)の最期が印象的でしたわ……私も彼らが星になって見守ってくれていたら、と思いますもの」

「やっぱり話盛ってるじゃねぇか!?」

「そこはあんたが感慨深げに言ってたことをそのまま言っただけさ。気付いてないなら言っとくけどあんたって存外にロマンチストだよ? それにあんたの問題行動に関してもきちんと伝えたうえで尊敬してくれてんだ。少しは喜んだらどうだい?」

 

 

 ……でもあれは尊敬されるような話なんかじゃない。間に合わなかった男の情けない話――

 

「――納得していただけたところで「異議あ」あなたが六年前の古龍騒ぎの時にあの街にいたというのであれば、相手が古龍であろうとも間違いなく立ち向かったに違いない、と私は確信しております」

 

 こ、この子、無視した!?

 アダイトに目配せすると彼は首を横に振った。

 

「姫さんはもう話を聞くまでてこでも動かないだろうね」

 

 ついでにそんな経験者のありがたい(諦めの入った)お言葉も頂けたのだった。

 さて、どうしたもんか。と頭を悩ませていると、クサンテがアダイトに向かって問いかけた。

 

「なぜあなたも他人事のように言うの?」

「なぜって……そりゃ他人事――」

「――フィブルの事件にあなたも首を突っ込んだ、とイスミさんから聞いているのだけど」

「……は?」

 

 愕然とするアダイトを見てはっと思い出した。そういえばイスミにはそのことも話してたのだった。

 怖い顔で睨んでくるアダイト(六つ下の同期)から顔を背ける。

 

「ディード」

「あ、えっと……長い間連絡が取れなかったからそれで、つい……イスミにぽろっとね」

 

 あははは、と力なく笑う。笑って、そして項垂れて一言。

 

「ごめん」

「……はぁ、連絡しなかったおいらが悪かったよ。こっちもこっちで事情があったんだ」

 

 アダイトは重く溜め息混じりにそう答えた。

 まぁ、うん、仕方ないだろうけどね。

 

「事情って俺たちにも話せないことなのか?」

「出来れば遠慮願いたいね」

「秘密主義が板についてるね。まるでギルドナイツだ」

 

 俺の言葉に、アダイトは神妙な顔をしたかと思うと、真剣な顔で、

 

「ギルドナイツ所属、アダイト・クロスターだ。ディード・クリント、貴様に級位詐称の容疑で連行する」

 

 なんてことを言い出した。級位詐称に関してもイスミから聞いたんだろうけど、なんだかなぁ……

 

「……なんてな。どうだい、おいらの演技。それっぽいか?」

「似合わないね……すごく似合わない。そういえば一人称どうしたんだ? キャラ変え?」

「ほっとけ」

 

 そんな風に軽口を言い合い。顔を見合わせて

 

「「あっはっはっはっは」」

 

 アダイトと二人で笑いあった。

 昔なら「何言ってんの」みたいな顔してただろうに、成長したようでお兄さん嬉しいよ。

 なお「とっとと本題を話せ」という女性陣からの目が怖いので話を戻すためにも咳払いを一つ。

 

「やはり、その件について話すのはちょっと……あまり良い話じゃないので」

「せめて、せめて話せる範囲だけで良いのです! 国の一大事にあのお方が、アダルバート様が駆けつけないはずが――」

 

 彼女は必死だ。必死に訴えてくる。だけど、それでは話せない。

 俺の恥を晒すことは正直どうでも良い。だけど()()()と、()()()()は知られてはならない。

 

「クサンテ様、残念ながら俺はアダルバート様を知りません。つまりあの事件の中で例えアダルバート様に出会っていたとしても俺にはわからなかったということです。それでも――」

「ディード殿、構いません。どうか姫様にあなたから見たあの事件を話してください……あなたから語れない話は私からいたします」

 

 だから予想外だった。まさか彼から許可が出るとは思っていなかった。

 

「いいのですか?」

「いいのです。いずれは懺悔せねばと思っておりました……あなた方はその聞き手に相応しい」

 

 デンホルムはの目には確かな苦悩の色があった。

 懺悔、彼はあの事件を罪と思っていたのか……

 

「デンホルム、あなた、まさかフィブルに? でも、懺悔だなんて……一体何があったというの?」

 

 クサンテは彼の苦悩を帯びた神妙な面持ちに困惑していた。

 つまりこの日まで彼は一度としてこの苦悩を悟らせなかったのか――主を煩わせないようにしてきたのか。

 

「姫様は六年前はまだ訓練所におられたので知らなくても仕方ありませんが、フィブルの騒動に関して、どのように聞き及んでおられますかな?」

「……アーサー様率いる騎士団と街にいたハンターたちの協力によって古龍は討伐された、と聞いていますが……どういう訳かその様子を吟遊詩人が語ることすらしないので詳しいことはまったく――まさか」

 

 クサンテが何かに気付いたように息を呑んだが、そこに先回りして、アダイトが口を挟んだ。

 

「姫さん、()()()()()()()。古龍――いや、正確には古龍ですらないらしいけど、奴を討伐したのは騎士団とフィブルの街にいたハンターの精鋭を集めた四人のパーティーだった。()()()()()()()()()()

「……では何が問題なのですか?」

 

 クサンテが首を捻る。そうだ。奴を倒したのは騎士団とフィブルの街にいた精鋭のハンターたち。

 ここに偽りはなく、であればなんの問題も無い――普通で、あれば。

 

「それは、追々、時間軸を整理しながら話していきましょう。アダイトも良いね?」

「……まぁ、もうこうなったら話すしかないか。でもおいらの話せる範囲だけだからな」

「それでも助かるよ。俺の知らないこともあるだろうからね」

 

 アダイトの言葉を了承し、そのままイスミに一つ頼みごとをした。

 

「イスミ、長くなりそうだから何か飲み物を準備してくれるかな。俺には苦いコーヒーを頼むよ」

「お安い御用さ。元気ドリンコも混ぜとくよ」

 

 そう言って立ち上がったイスミを見送ると、俺は三人に話し始めた。

 

「まず、俺がフィブルに赴くことになった経緯から、話させてください」

 

◇◇◇

 

 ――六年前、ニケの里。

 百竜夜行の後に、イスミの依頼を受けて、ニケの里に滞在し始めてから二週間。ベルデ村からは特に連絡も無く、今日も今日とて剣斧を手に依頼に奔走――

 

 

「ベルデ村ハンターズギルド支部所属、ディード・クリント。貴君を連行する」

 

 

――と、いうわけにもいかないらしい。

 

 ニケの里の朝。集会所でイスミとアンネさんと共に朝食を食べている最中に集会所の外が騒がしくなったと思ったら、ギルド職員と思しき男と、()()()()()()()()()()()を纏う男。そして憲兵隊が数人、俺たちの座る席を囲んだ。

 

「……ディード、今度は何をやらかしたのさ?」

 

 イスミが眉間に皺を寄せて俺に聞いてきた。

 格安キャンペーン関係は調書も含めて色々と清算済み。フィブルでの件に関しては姐御曰く正式な報酬を受け取れという話だったのだけど、こんな大所帯で来られるほどのことではないはず。

 それに犯罪の片棒を担いだ記憶は……あ、

 

「級位詐称の調書取りがまだだった……」

 

「は?」

「んん?」

「何?」

「なんですと?」

 

 顔を青くした俺の言葉にイスミとアンネさん。そしてどういう訳かギルド職員の男と騎士鎧の男までもが驚いた。

 

「どういうことか説明してもらえるんだろうね?」

雷狼竜(ジンオウガ)が暴れてて村が滅びそう。依頼受けて雷狼竜(ジンオウガ)を討伐。後でその雷狼竜(ジンオウガ)が上位個体だってわかったけど百竜夜行があったから後回しにって話になってて……」

「そういう大事なことは早く言えこのバカッ! それならそうと説明してあたしの依頼を断れっ!」

「いや、必要があれば姐御からオトモを通じて連絡が来るから油断してたと言いますか……」

 

 流石にイスミからの依頼(頼み)だったから断れなかったとは言えない。

 

「普通はそういう面倒事を先に片付けとくもんでしょうが!」

「あいたぁっ!」

 

 拳骨を喰らって蹲る俺を尻目に、イスミはギルド職員の男に目を向けた。

 

「とりあえずこのバカをとっとと連れてって調書取るなりなんなりしな。ただこいつの話を聞く限りその件は情状酌量の余地があると思うとだけ言わせてもらいますが」

「あ、いえ、彼の言う件に関しては依頼者からの嘆願書も出ておりますので大事にはならないかと。今回はまた別件でして……」

 

 ギルド職員の男がそう言うと、白金の鎧の男が前に歩み出た。

 

「彼にはユベルブ公国第三都市フィブルに轟竜(ティガレックス)を誘導し、街を滅ぼそうとしたという嫌疑が掛けられています」

 

◇◇◇

 

「あの……なぜそのような嫌疑が?」

 

 私の問いかけにディードさんは苦笑いをしつつ答えた。

 

「実はそれ以前にも一度フィブルを訪れたのですが、その時に轟竜(ティガレックス)を討伐していまして、それが巡り巡ってこんな話に……」

轟竜(ティガレックス)、ですか?」

 

 確かフィブル近辺は比較的弱い部類の大型モンスターしか現れないはず……つまりこれも古龍襲来の予兆だったということなのかしら。

 

「フィブルのハンターたちも慌てたでしょうね」

「ええ、近域のギルド支部と、私の所属していたベルデ村のギルド支部で轟竜(ティガレックス)の痕跡を探す程度には大事になりました。しかし、どういう訳か痕跡が見つからず、私に嫌疑が掛かったとかで」

「……真相はどういう物、だったのでしょうか」

 

 その事件に興味を持った私は彼にそう問いかけたけど、ディードさんは肩を竦めて答えた。

 

「当事者ではありましたが、色々な方の助けで嫌疑が晴れるまで軟禁されていたので詳しいことは何も」

 

 私は顔を顰めた。

 妙な話だ。

 嫌疑を掛けられた当事者が、何も知らないというの? 冤罪の被害を受けたというなら、真相を知り、訴える権利があるというのに。

 

「興味は無いのですか?」

「興味ありません。知ってどうこうしようって言うならともかく、その気が無いなら知らなくても良いことです。私の嫌疑が晴れたなら……ハンターとして活動出来るならそれで十分でしたから」

 

 淡々と彼は答えた。

 ……その言葉には「これでこの件は終わり」と言わんばかりの突き放すような響きがあった。

 これはつまり、彼の口からは話したくない、ということ――まさかこれも古龍騒ぎの一端に繋がるのでしょうか?

 

「デンホルム。この件についてあなたは何か知っているかしら?」

「そのことに関しては初耳でございます。我ら騎士団がフィブルに入ったのは古龍の存在が発覚した後のことでございました」

 

 

 

「おいらがフィブルに来たのは多分その頃か、少し前だな。クリスティアーネとベレッタ、ユナに偶然会って、一緒に商隊の護衛依頼を受けて到着したとこだった。街の集会所に痕跡の調査依頼が妙に多いもんでどうしたんだろうって話をしながら受けて――姫さんなんで怖い眼でこっちを見てるの!?」

 

 私にとっての一大事なので、と胸中で溢す。クリスティアーネとベレッタ、そしてユナ――名前からして全員女性と見るべきか。

 今度アダイトの女性関係についてもイスミさんに聞いておくべきかもしれない。

 噂をすればなんとやら。飲み物の入った水差しとジョッキを手にしたイスミが現れた

 

「はい、ご注文の飲み物。流石に昼間ッからエールって訳にもいかないから村特産のフオルメロンジュースだけどね」

「ありがとうございます」

 

 ちょうど戻ってきたイスミさんが皆にジュースを配っていく。淡い橙の液体だ。一口だけ口に含むと爽やかで上品な甘味とすーっと身体を冷やす感覚が――これ、クーラードリンクと混ぜたのかしら?

 

「おいしいですイスミさん」

「そりゃよかった。そんでもってあんたにはこれ。嫌でも目が冴えるだろうね」

 

 ディードさんは杯に入れられた香ばしい匂い――の中に何故か爽やかなハーブの匂いを漂わせる黒々とした液体に口を付けると顔を歪ませながら飲み込んだ。

 ……本当に不味そうに飲まれています。

 

「甘酸っぱさを覆い尽くす苦さに喉を通り越した後にやってくる異様な清涼感……やっぱり味は酷いけど、嫌でも目が覚める。ありがとうイスミ」

「いいよ。それでどこまで話したのさ」

「俺の嫌疑が晴れたところ。ほら、ニケの里から連行されたことがあっただろ? あの話」

「……ああ、そういえばそんなこともあったね。てことはここからが本番かい?」

 

 そうなるね、とイスミに返し、冴えた目で皆を見て、語りだす。

 

「俺の嫌疑が晴れて、いざ自由の身、そんな時に会議場に飛び込んできた人物がいたんだ。彼は自身を龍歴院の使いだと名乗り、その上でこう言ったんだ」

 

――この街の近域で黒蝕龍(ゴア・マガラ)の痕跡が確認された。非常事態につきフィルブ支部の協力を求む。

 

黒蝕龍(ゴア・マガラ)ですって!?」

 

 今やその名を知らないハンターはいない。

 黒い不吉な風を纏う()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そして十年ほど前に猛威を振るったとされる狂竜症の元凶。

 

 フオル村の雷狼竜(ジンオウガ)も狂竜症と聞いていたので、まさかと思っていたけれど……フィブルに現れていたなんて。

 

「クサンテ、これから話すのは成功譚ではなく失敗談。俺とそこにいるアダイト、そして俺たちのわがままに着き合わせてしまった同期の失敗談なんだよ」

 

 




クサンテ(なんでアダイトの活躍を聞こうとしただけなのにこんな大事になってるのかしら)

Tips
・マイハウス
 参考はアイスボーンに登場した階段着きの広いものに更に複数の個室が据えられた物。とはいえガラス張りではない純粋な木造建築。正直二人のハンターが使うからと言って欲張った感は否めない。
 場所は先代ハンターの住んでいた小屋の傍。()()()()を挟むようにして建てられている。

・セイス橋
 ユベルブ公国とグラナ王国は国境をまたがる川が存在し、セイス橋とはその国境を跨る橋のこと。両岸には街があり、セイス街と呼ばれているとか。
 由来は6のオランダ語。

・フオルメロンのジュース
 フオル村の特産品のフオルメロンのジュース。フオルメロンは糖度が非常に高いため、飲み物にする時は水などで薄めて飲む。夏場にクーラードリンクで薄めて飲むとキンキンに冷えてすごく美味しいとか。
 ただし保存は利かないので間違ってもクーラードリンクのように常備しようとか考えたらダメ。



黒蝕龍(ゴア・マガラ)
 MH4の看板モンスターにして本作において六年前にフィブルへと近づいた脅威。
 正確には古龍ではなく、未だに正確な分類が為されていないという特殊なモンスター。
 分類されていないことに気付いたのはこの話を執筆してる途中という与太話があったり。

・デンホルムさんの六年前
 どうやらモンハン世界において「騎士はハンターでもある」という解釈も出来ることがモンハンライズの登場人物の一人によって示されていました。なお彼女が百竜夜行に共に立ち向かうと言ったら客人だからと断られていたようですが。

 そこでデンホルムさんも従騎士として下位のハンターライセンス自体は持ち合わせていた物と見做し、当時訓練所にいたクサンテとは別行動をしていたということにして、彼も六年前の当事者に加えました。



・今回の章に登場するイカした同期たちを紹介するぜ!(マテ)

クリスティアーネ・ゼークト(ゲオザーグ様考案キャラ)
 同期の一人。180cmという恵まれた身長とグラマラスな身体を持つ大剣使いのお嬢様。民を守るための「力」を求めてハンターとなった少女。
 事件当時14歳。現在20歳。

・ベレッタ(ピノンMk-2様考案キャラ)
 同期の一人。姉はハンターだったが依頼に失敗しモンスターに殺されてしまい、ハンターになった弓使いの少女。
 その胸中に抱えるは怨讐か、それとも尊い願いか……
 事件当時14歳。現在20歳。

・ユナ(クレーエ様考案キャラ)
 同期の一人。非常に小柄で、それゆえにモンスターの巨体の懐に潜り込むことに長けた双剣使い。小柄であることにコンプレックスを覚えている。

 事件当時15歳。現在21歳。
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