モンスターハンター~我が往くは終わり無き滅びとの闘争なりて 作:踊り虫
しかも次回までデンホルム視点が続くんじゃ()
そこに至るのであれば、ここからは私が話す番でありましょう。
当時の私は、ルークルセイダー卿――アーサー様の御付の騎士として控えておりました。
我らの許にその報せが届いた時、私はお恥ずかしいことに恐怖を隠せませなんだ。噂に聞けば、彼の黒蝕竜は然る古竜の幼生体。捨て置けば自然界への影響は甚大であり、何が何でも滅ぼさねば国が傾きかねん、と。
これほどの国難を前に返事を待ってはおれぬ、とアーサー殿は大公陛下に手紙を
姫様、これは決して陛下を軽んじたということではございませぬ。危惧を口にした私に対し、アーサー様はこのように仰られました。
『そもそも竜歴院の使者が陛下にもお伝えしないはずがない。陛下へと一々確認を取っていては、それこそ陛下のお怒りを買うであろう。故に我々は先んじて動かねばならない。動ける者達を全て叩き起こせ!』と。
そうして我らは出立の準備を行い、二日を掛けて、フィブルへと辿り着いたのでございます。
しかし、辿り着いたフィブルでは竜歴院の使者と、ギルドマスターの間で不和が起きておりました。
――使者殿。当ギルドでは
――ギルドマスター殿! 何故理解してくださらぬのですか!
ええ、姫様。確かにこのギルドマスターは愚かでもあったのでしょう。結果的に黒蝕竜は潜伏しておりました。
しかし、私にはかの男に同情する部分もございました。何故なら、我々も竜歴院からの報告に間違いがあったのではないか、と錯覚するほどに、街はおろか、近域は平和そのものだったのです。
ゆえに我ら騎士団も困惑しましたが、それ以上に困惑していたのは街の住民たちです。ギルドが黒蝕竜の潜伏を報せてすらいなかったことで我々の到着を何事かと見ておりました。アーサー様ご本人の姿があったこともそれに拍車を掛けたかと思います。
しかしアーサー様は慌てることなく二人の間に入ると、このように告げました。
――ギルドマスター殿、その疑念はもっともだ。行軍してきた我らですら平和その物と見紛う景色ばかりで、危機感を削がれてしまっている。しかし龍歴院が確証も無く我ら騎士団にかの竜の存在をひけらかすことは考え難いでしょう。で、あれば備えるだけ備えておいて損は無い。
――今回の件に関する責は全て私が負います。黒蝕竜対策本部の設置をお許しいただきたい。
そうしてアーサー様を最高責任者として黒蝕竜対策本部の設置と、黒蝕竜の潜伏している可能性がフィブルの街にいた人々へと周知されることになったのです。
その報せに多くの行商人が
――はい、確認しただけでも20名ほどしか残りませんでした。というのも、当時のフィブルは多くのハンターが訪れることから、専属のハンターの割り振りが少なくされており、非常時は滞在していたハンターたちが対応することになっていたのです。
しかし、その多くは古竜モドキを相手にしようとは思わず、より安全であろうと思われる行商人の護衛として街から離れることを選び、残ったのはフィブルを故郷とする者たちや、この街を離れられない専属ハンターに、
もちろん、このことは国からギルド支部を通して抗議され、現在では専属ハンターは増員されておりますのでご安心を下さいませ。
話を戻しましょう――
確かに我々は備えました。しかしながら人とは目に見えぬ危機に対し、常に気を張り続けられるように出来ておりませぬ。備えども、危機の訪れない日々は、日に日に騎士とハンターたちから緊張感を奪って行きました。
そのような中でも対策本部内で緊張感を保ち続けていたのはアーサー様と龍歴院の使者である学士殿と彼の護衛を務める龍歴院のハンター様。そして、隣国グラナ王国のベルデ村より来られていたG級ハンター様だけで、不敬にもその様を嘲り嗤う不届き者もいたほどでございました。
そして私は、アーサー様に倣い、気を張り続けていましたが、同時にこの状況を打開しなくては、という焦りもありました。そして私は、志願した17名の兵を率い、捜索に赴いたのでございます。
そうして向かった先は丘陵地帯でございました――
◇◇◇
――六年前、フィブル丘陵地帯。
「――三人一組で班を組み、この近辺をくまなく捜索せよ。見つけ次第信号弾を打ち上げるのだ! 散れ!」
「「「ハッ!」」」
騎士たちが散らばっていくのを見送ると、デンホルムもまた自身と共に捜索を行う二人の若き兵に声を掛けた。
「お前たち、行くぞ」
「ファルガム様、この辺りはすでにハンターたちが調べた区画と聞き及んでおりますが……ここを捜索するのですか?」
若き兵の一人が、そのようにデンホルムに問いかけた。
その者はカスクという名で、真面目で誠実、努力家でもあったが、気弱で自信の無いところが気になったデンホルムが何かと目に掛けている青年だ。
対してもう一人は、カスクに対して呆れたとばかりに溜め息を溢しながらも口を開いた。
「お前、そんなこともわからないのかよ。要するにおっちゃんは『ここまで見つかんねェのは、奴らの見落としがあったから』と疑ってんだ」
その者の名はフィラム、といった。
粗野な口調で話し、礼儀を弁えない素行不良な少女だが、女とは思えぬ暴力の才を持つ女傑であり、その暴力を人の為に役立てられないか、とデンホルムが目を掛けていた少女でもある。
本来は今回の出陣には連れて行かないはずだったのだが、勝手に来てしまったのでデンホルムの監督下であることを条件に同行することを許可されていたのだった。
なお、上官であるデンホルムにをおっちゃん呼びするのは彼女ぐらいのものである。
「疑念が無いといえば嘘になるが……それ以上にこのままでは不味い、ということはおぬしたちも理解しているだろう?」
「……気の緩み、というのはわかります。ですが敵が見えないのに気を張り続けるのは疲れますから」
「そういう弱いとこを見せたら食われるのがこの自然なんだけどな――なるほど、おっちゃんは焦ってる訳か」
――例の
そして同時に、
逃げたとはいえ、修羅場をくぐり、生き残った個体だ。傷が癒えればより強大な存在として立ち塞がるはず。抵抗は激しい物となるだろうが、討伐するなら手負いの今をおいて他に無い、ということらしい。その上での捜索に関わらず成果は無し。焦りもしよう。
「専門家が見つけられない以上、我らが見つけられるとは思えんが……」
「そういやぁ、おっちゃん、ごあ、まがら?とかいうモンスターの痕跡わかんの?」
フィラムの言葉にデンホルムはぴしり、と硬直し、
「――かといって、あれこれ考えを尽くすだけでは何も始まらんからな! 行くぞお前たち!」
そう言って、ズンズンと早歩きで二人を置いてけぼりにするのだった。
――
「……おっちゃんはそういうとこが抜けてんだよなぁ……焦るのもわかっけど、しっかりして欲しいぜ」
「文句を言っても仕方ないよ。それに深刻に悩むのはあの方らしくないだろう?とりあえず追いかけようか」
「まぁな。おっちゃんはああでなきゃ」
けらけらと笑うフィラムと仕方ないなと苦笑いをもらすカスクの間で、こんな会話が交わされていたことを、デンホルムは知らない――
◇◇◇
「丘陵地帯に到着した我々は捜索を始めました。とはいえ、如何せん騎士としての生活が長く、素人同然。半日を掛けて探しても見つからず、疲労ばかりが溜まって来た頃、部下の提案で号令を掛け一度兵を集め休憩することにしたのです。ですが部下のうち一組の姿が見えなくなっていたのです」
「どこかで迷ったんじゃないのかい? 騎士団って言っても地理には疎いんだろ?」
イスミの問いに、デンホルムは首を横に振って見せた。
彼が言うにはその行方知れずになっていた組の長を務めていた男は、フィブルの生まれであり、『丘陵地帯は庭のような物』とまで口にし、着いて来た。
そして丘陵地帯までの案内はその者が請け負っていたのだという。
つまり現地の案内役だった兵がいなくなってしまったのだ。
「じゃあ、そいつらはどこに……まさか」
「……」
何かに気付いたようなイスミの言葉に対して、デンホルムはすぐに答えなかった。
悔やむように、宙に目を向け、そのまま目を瞑ると、彼は、苦しげに言葉を続けた。
「彼らは
◇◇◇
――フロレンスの班はどこに行った?
そうデンホルムが口にするのと、上空に打ち上げられた信号弾に気付いたのはほぼ同時のことだった。
信号弾の色は赤。それは事前に取り決めた符丁において、撤退、を意味する物だった。
「あれは、フロレンスたちか!?」
「撤退!? なんで撤退なんだ!?」
「あいつら無事なのか!?」
「ファルガム様!」
突然のことに慌てる兵たち。しかし、これに一番困惑していたのはデンホルムだった。
(撤退、撤退だと!? 発見でも救援でもなく、撤退だというのか!?)
発見、であればそのまま観察を開始しつつ、街へと伝令を送る。
救援、であれば全隊集結して対応。
撤退は文字通り。丘陵地帯からの離脱を最優先。
デンホルムはこの取り決めの際に、撤退の信号弾が打ち上げられた場合のことを兵たちに告げていた。
――なりふり構わず逃げろ。何が何でも生き残り、街へと走るのだ!
相手は古龍に準ずる存在。危険な任務になるとわかっていたからこその取り決め。一人でも多く生き残らせるための有情の宣告。
そしてその時は、デンホルムは自身の身を呈して、
その時が、来てしまった。背に負う
この命、アダルバート様を守れなかったあの日に捨てたも同然。それを、我が国の後の守りとなりうる若者たちのために捧げられるならば本望だというのに、何を臆しているのか。
「おっちゃん!」
「――っ!」
フィラムの声で意識が現実に引き戻される。
「おっちゃん! どうすんだ!?」
「――救援信号を上げろ! 近くにいるハンターに報せるのだ!」
「「「はいっ」」」
兵たちが慌てて信号弾の発射台を組み上げていく。
――残念ながらこの国にスリンガーなどという便利な物はなく、組み立て式の嵩張る発射台しかないため信号弾を上げるにも準備が要る。あと数分は掛かるか。
「私はフロレンス班の救援に向かう! お前たちは信号弾を打ち上げた後に街へと戻りアーサー様にこのことを伝えよ!」
「ファルガム様!お供し――」
「――要らぬ! アーサー様に必ず伝えるのだ!」
そう言って、デンホルムは駆け出した。
――その後ろをフィラムとカスクが追走してくる。デンホルムは怒鳴った。
「フィラム!カスク!私の命が聞こえなかったのか!」
「ウチはおっちゃんの監視下にいなきゃいけないでしょうが!ドヤされたらどうすんの!」
「巨漢のファルガム様でも、同時に三人を抱えて逃げられる訳ないじゃありませんか! 戦おうなんて馬鹿なことは考えてませんし、フィラムが無茶しそうなら止めますからご安心ください!」
「……ッ!」
怒鳴り返そうとして、しかし、カスクの弁にも一理ある、と口を噤む。確かに己だけでフロレンス班の三人全員が負傷していた場合、全員を逃がすことはできない。
このまま一緒に行くか、追い返すか――逡巡は一瞬。
「命の保障はせんぞ!そこのじゃじゃ馬の手綱をしっかり握っておけカスク!」
「はい!」
「じゃじゃ馬って言うな! ウチが無茶すること前提で話すな! むしろ無茶しようとしてんのおっちゃんでしょうが!」
「……行くぞ!私の足について来れるか!」
「何が何でも着いて行きます!」
「無視すんなぁぁぁっ!」
がやがやとやかましく、しかしその足を動かすことを止めずに、三人は救援へと向かう。
――この時のデンホルムは、信号弾を上げるために残された兵たちがその背を見て何を思っていたのか、考えもしていなかった。
道中、背後で救援の信号弾が幾つも上がったのを確認しながらも、彼らは最初の信号弾が打ちあがっただろう地点に向かって駆けていた。その途中のこと。
――VAAAAAAAAAAAッ!
竜の咆哮が響き渡った。
「この先だ!」
「この咆哮は
「うむ、急ぐぞ!」
そうして辿り着いた傾斜面の見下ろした先は、足場の悪い岩場だった。学士ではないデンホルムにはどういう理由でそのような環境が出来たかは定かではなく、また興味も無い。ただただ薄闇の中で動く影を探し――見えた。
実物で見るとなんと不気味な姿か。顔らしき所に目は無く。黒衣がはためくかのような両翼と黒い鱗粉が尾を引く姿は死神を思わせるその容貌。
そして探していた兵たちの姿も見えた。彼らは剣と盾を構えながら勇敢に
「逃げ――」
デンホルムの言葉が三人の兵に届くことなく、彼らはその巨体によって、そのまま空へと放り上げられ、そして地へと叩きつけられた。
同時にデンホルムは傾斜を滑り降りる。
「きさまぁぁぁぁぁぁっ!」
――滑走距離は十分。狙い、良し。
滑り降りる力は自身という弾丸を射出するための発射台。デンホルムは地面を強く蹴り出して飛び上がった。
――高さ、良し。落下地点、
「――ハァァァァァ……!」
背に負う大剣。その柄に手を掛け、引き抜き、振りかぶって渾身の力を込める。
――
「でりゃあァァァッ!」
「VAAAAAAAAAAAッ!?」
デンホルムの振り下ろした大剣は、綺麗に
不意を突いた強襲は
「お前たち、何をしておるか! 負傷者を連れて撤退せよ! 急げ!」
「「は、はい!」」
慌てて滑り降りてくる二人を背に、デンホルムは怒りの形相のままに
古龍に匹敵するモンスター。
現状、この怪物の討伐は不可能。今回集めた兵を総動員してもこちらは壊滅するのは目に見えている。
それほどの相手に、兵たちの回収と離脱を行うカスクとフィラムが安全な場所に辿り着くまで抑えなくてはならない。
不可能、という三文字が脳裏に過ぎり、即座に斬り捨てた。
彼らは兵だ。国のために死ぬことを選んでこの場にいることは百も承知。しかし
彼らはまだ若く、先がある。この国の未来の守り手。それこそが彼らだ。
生き延びさせなければならない。この、命に代えてでも。
――私は騎士。国を、民を守る者。
死の恐怖を覆し、心を奮い立たせる。
起き上がった
「無貌の竜よ。この命尽きるまで、私に付き合ってもらおう――もちろん、ただで終わってやるつもりは微塵も無いがな」
――GRRRR……VAAAAAAAA!
怒り、吠え猛る竜。しかし、デンホルムも負けてはいない。その顔は怒りに歪み、歯軋りを鳴らす。
「私の教え子を傷つけた代償は払ってもらうぞッ!」
デンホルムは宣言と同時に一歩を踏み出す。
そうして、一人の騎士と怪物の戦いの火蓋は切って落とされたのだった。
・
実は公式の設定で、
というのもこの狂竜ウイルス、ただモンスターを変貌させるだけではなく、このウイルスこそが
それを野生的感覚で恐れているのか、大型モンスターは近寄らないのだとか。
しかしそれだけでは
※2021/09/23修正:全て死ぬ、は間違い。一定の段階以上に成長した
これが公式設定だと言うのだから、本当に他のモンスターとは一線を画す存在として作り出されたのがよくわかるというもの。
……コンシューマー版での再登場はいつになるんだろ?
なお、本作では痕跡が見つかった上で、これを根拠にして龍歴院の使者は説明しているが、フィブル支部側はフィブル近辺では元々大型モンスターが出没件数が少ないために鵜呑みに出来ないという形で対立していた。というお話。
・デンホルム
フルネームはデンホルム・ファルガム。本編にも出てるけど忘れ去られているかもしれないので念のため()
当時はクサンテが訓練所にいたので若い兵たちの教官役をしており、頑固者でもあるが、同時に裏表が無く一人一人に真摯に向き合うので教え子たちから慕われる良い教官であった。そのため、クサンテ付きの従騎士に戻る際は教えを受けられないことを惜しまれている。
今回の件で同行した兵は彼が面倒を見た教え子たちであるが、どちらかといえば「教官が何やら無茶をするのではないか」と心配して着いて来た者が大半だったりする。
※デンホルム本人の年齢がわからないので想像でしかありませんが、アダイト失踪時で30代後半、この事件時で40代前半、本編では40代後半かな? なんて考えて執筆しています。
・カスク&フィラム
オリキャラ。
デンホルムがクサンテ付きの従騎士として旅に同行する以前に世話をしていた若い兵士達。
茶髪碧眼の線の細い冴えない青年と黒髪赤眼に日焼けした肌の笑うと八重歯が覗く野性的なはねっかえり美少女という対照的なコンビ。
――実は幼い頃のフィラムとカスクが出会っており、彼女を助けたことがある。その恩を返すためにフィラムは彼を探していたのだが、カスクは覚えていない。
今回の出兵で心配になり着いて来た、というのが実態――というベッタベタな裏設定があったり。
年齢はそれぞれ事件当時は21と16。
実はこういう「青年×美少女」のボーイミーツガールな組み合わせが大好物だったり(誰も聞いてない)
・フロレンス
こちらもオリキャラ。上述の二名同様にデンホルムが教官として世話をしていた者の一人。元々はフィブルにも存在する貧民街――通称、裏通りの生まれ。不遇な立場から、不断の努力により兵となってみせた努力の人。
今回の出兵に際し『丘陵地帯は庭のような物』と豪語したが……?