モンスターハンター~我が往くは終わり無き滅びとの闘争なりて 作:踊り虫
なお、差別化点については独自解釈をぶっこんでます。それはちゃうやろ!となりましたらご一報下さいませ。
振り落とされるな、と言った物の、一人は小柄とはいえ三人を運ぶのは流石に重量オーバーだったようで、翼竜の高度を稼げなくなってしまったので、ひとまず丘陵地帯の入り口まで運んでもらった。
そうして丘陵の入り口に辿り着くと三人で降りて翼竜を街に返す――翼竜を使って一人だけ先行することも考えたが、ディードとユナに先に釘を打たれてしまったので諦めた。
平原地帯から丘陵地帯の入り口へ翼竜で運んでもらって30分――丘陵地帯の異常が街でも察知されていたとしたら街に駐留している
他のハンターもこの辺りを探索しているはず。先に着くとしたらそちらが先か。
そして、置いていってしまった二人はおそらく追いかけてくるだろうが、クリスティアーネは慎重にことを運ぶ。他のハンターと合流してくるだろう。ベレッタもクリスの指示であれば慎重に動いてくれるはずだ。
そのように当たりをつけて、ディードは先に駆ける二人に続く。
――まさか兄弟子が連れてきた翼竜がこの一体だけだと知らず、そして正にその時、彼ら駆け出し五人を除くハンターたちが街の対策本部で情報交換を行っていたことなど予想すらしていない。
――それと、これは結果的に良い方向に働いたことだが、クリスティアーネとベレッタがものすごい速度で猛追していることなど知りもしなかったのである。
丘陵を突き進む中で一人の兵と会った。
彼曰く、自分以外の兵たちは仲間の救援に赴いた。あなた方も救援に行ってほしい。この先だ
それだけ手短に告げた青年兵は街の方向へ駆けて行き、自分たちは更に奥へと向かう。
途中で
走る。
とにかく、走る。
三人の間に会話は無く、ただ
喋る時間が惜しい。兵たちはすれ違う際に「仲間がまだ」と言っていた。
まだ、兵たちは
そして三人が
その中でも一際傷付いていたのは兵たちの先陣に立つ大剣を手に
それが誰かを、アダイトは知っている。
――その姿を目にして真っ先に飛び出したのはアダイトだった。
「はぁぁぁぁぁっ!」
振るった盾はその御仁を叩き潰すために持ち上げられた
たたらを踏む
「――シッ!」
細かい呼吸と共に今出来た隙間を掻い潜って鬼人化したユナが
更に一回、二回、独楽のように回りながら切り付け、すぐさま横に飛びのく――
ディードにクラッチクローで顔に飛び掛られ、そのまま切りつけられたことで彼女の逃げた方向とは間逆に身体を向けてしまったからだ。
そしてそのまま――
「吹っ飛べ!」
「VAAAAAAAAAAAッ!」
装填していた石礫を顔面に浴びせて兵たちから引き剥がすように木へと叩き付ける。
木に頭を叩きつけられ、その衝撃で
そこにディードは剣形態の
苛烈な攻め。一振り一振り全てが会心の一撃と見紛うほど。
トドメとばかりにディードは属性解放斬りを、ユナは鬼神乱舞を叩き込んだ。
だが、死んでいない。
肉質は特段硬くは無く、二人の攻撃は弾かれることなく、しっかりと通っている。このまま攻め続ければ勝てるはずだというのに、これで終わらないだろうという嫌な確信を覚えながらアダイトはかの御仁――今しがた糸の切れた人形のように崩れ落ちながらも、尚も大剣を握り締めるデンホルムの元へと駆け寄り、抱き起こす。
――護、らねば
デンホルムは、何事か呟いていた。
――国、を、民を、兵を、護、らねば
彼の眼を見て、うわ言なのだと気付いた。
――坊ちゃん、の分も、護、らねば
目に光は無く、身体は傷だらけの血塗れ。おそらく骨もあちこち折れ、意識はもはや混濁している。だが、それでも剣を握り締めていた。
だから、思わず語りかけていた。
「デンホルム、ここからはオレが護る――だから安心して休んでくれ」
「――」
デンホルムからの返事は無く、しかし、うわ言は止まり、瞼は閉じられた。
息はある、急いで街に連れ帰れば命を繋げられるだろう。
「おっちゃん!」
「ファルガム様!」
そんな二人の許に駆け寄ってきたのは小柄な少女兵と長身の青年兵だ。
アダイトは二人にデンホルムを任せるように離れ、そして兵たちに呼びかけた。
「ここはオレ達が引き受けます! 皆さんは急ぎ撤退を!」
「感謝します狩人様! 御武運を!」
二人がデンホルムを支えて連れて行くのを見送って、アダイトは先に戦っていた二人と肩を並べる。
「ディード! ユナ! こやし玉はあるか!?」
――こやし玉。
モンスターの嫌う悪臭で以ってモンスターを追い払う投擲アイテム。
だが、荷物が嵩張ることを嫌って必要最低限の道具だけを持つ場合に省かれることのあるアイテムでもある。
そして、起き上がろうとする
「「無い」」
「……参ったな。誘導してから討伐か」
アダイトはその即答に対しこめかみの辺りに手を当てて見せた。もちろん、アダイトも持ってきていないので文句は言わない。
「兵たちは?」
「撤退を始めたよ」
「……よかったね」
「ああ……あとは今の調子で彼らから引き剥がしながら討伐を」
「それなんだけどさ、ちょっとまずいかもしれない」
ディードは黒衣の頭巾の奥から困ったように苦笑いしながら、剣斧のビンを交換し、その上でこのように続けた。
「斬ってみてよくわかったよ――俺たちの武器じゃ殺しきれそうにないや」
ふらふらと起き上がろうとする
凄まじい生命力だ。なるほど、殺しきれないというのは正にその言葉通り。少なくとも下位個体とは思えない。
アダイトは兜の奥で苦々しく顔を歪ませた。
「さっきの二人の攻撃で倒せてないから、火力不足だとは思ってたよ」
「どうせならここで討伐して終わらせたかったんだけどなぁ……ユナの毒はどうだい?」
「……」
ユナは首を横に振ってみせた。
利きが悪い、ということだろうか?
どうしたものか、と思案する。
こちらの攻撃はほとんど利いていない。こやし玉で追い払うことは出来ず、困惑する兵たちが逃げる様子はないので時間稼ぎは必要だが、奇襲だからこそユナとディードだけで抑えられていたのだ。この後は二人だけでは抑えられない。
ふと、ユナがぽつり、と呟いた
「……クリスとベレッタ、来たら、どうする?」
――クリスティアーネとベレッタ。
平原と丘陵地帯で距離があるとはいえ、街と比べれば間違いなく近い位置にいる二人。
この二人が辿り着けばどうにかなる……と楽観視できる相手ではない。
「あの二人なら状況に応じて動いてくれる。オレたちは
そうだ、それしかない。
――自身が護りたいと願った人達のために戦う。
ルークルセイダーの名を捨て、
彼らを護れなければ、それは
それは、ダメだ。
例え自分が本当に星になったとしても構わない。ああ、そうだ、自分は元より死人。こうして現世に居るのがこの日、この時のためだというのなら喜んで命を差し出――
「――とりあえず、生きるために頑張るか」
「――」
暗い思考の海に沈んでいたアダイトの耳に、さらりと飛び込んできたのは、ディードの軽い口調で紡がれた言葉だった。
どうして聞き取れたのかもわからないままに、アダイトは思わず
ディードはこちらを見ていない。剣斧を研ぎ、切れ味を確認している。そこから先に続く言葉は無い。
彼が納得したように頷いた時になって、ようやくその言葉が独り言だったのだと気付いた。
――ふと訓練生時代に訛りのある底抜けに明るい同期が口癖のように言っていた言葉を思い出す。
(『ハンターはいつだって命懸けやさかい。今日もキバっていこうか!』だったか)
今、自分は生きるために頑張ろう、と考えてはいなかった。むしろ、命を投げ打ってでも兵たちを逃がそう、と考えていた。
古龍の幼生体に、自分たちでは倒せないからと命を投げ出すつもりになっていた。
――全くもって自分らしくない思考だ。
久方ぶりの故郷、先ほどのデンホルムの姿を見て気が
心を落ち着かせる。
自分がこうして地に足を踏みしめている理由は己が名に定めた。
であれば自分は護り続けるのだ。
――VAAAAAAAAAAAAッ!!
起き上がった
狙いもメチャクチャで避ける必要は無かったが、逃げ去るのではないかと空を見上げた。
違った。奴はすぐに黒い鱗粉の漂う地へと舞い降りた。
まるで握り心地を確認するように巨大な翼爪を開閉させ――違う、あれは腕だ。翼と共に折りたたまれていた、翼腕。それを左右それぞれ、地へと降ろす。
どうやって生えて来たのかわからないが、その頭には先ほどまでは無かった禍々しい二本の角があった。
正に異形。これが、
景色を暗くするほどの黒い鱗粉を撒き散らしながら放たれた
ふと、ユナに声を掛けられた。
「……どうする?」
横目でユナを窺う。彼女の眼に怯えは無い。
「――撃退一択だ! もちろんオレ一人じゃ無理だから手伝ってくれ。みんな笑って生き残るために!」
ユナは顔を覆う薄布の奥から赤い円らな瞳を覗かせながら抑揚の無い声で、ディードは仮面の奥で笑いながら戦う前とは思えない朗らかな声で応えた。
「「もちろん」」
◇◇◇
先手は
炸裂する鱗粉は熱量を伴って空気を焼き、さらにその直線上にいるアダイトたちへと迫った。
「散れ!」
アダイトの号令と共に左右に飛び退き――アダイトの眼前に巨影が迫った。
「――ッ」
連鎖爆発する
咄嗟に盾を構え、盾で衝撃を受けると同時に更に横へと飛び退いていなし、突進の進路上から離脱する。
次が来たら直撃――されど、それを許さない男がいる。
「オォォォォッ!」
その動きは獣が如く。
それは攻撃を自身へと引き付けるための一撃であれど、その殺意は本物。
そこから更に二、三と斬撃を繋ぎ即座に離脱――反撃の横なぎ
「ハァッ!」
そしてアダイトは更に側面から跳躍しつつ剣を翼膜に叩き込み、更に一、二と繋いで即離脱。
アダイトが狙われればディードが、ディードが狙われればアダイトが攻撃を叩き込むのを繰り返す。
幾度となく繰り返されるヒット&アウェイはダメージは薄くとも、
そして
――ユナ、という少女は非常に小柄であり、モンスターの懐に潜り込みつつ離脱することを得手としているが、彼女の強さの本質は
彼女を含む同期の双剣使いはそれぞれの強みを持ち、それぞれが以下のように形容される。
『嵐』のドラコ。
『疾風』のカエデ。
『蛇』のユナ。
暴力性と野生的直感によって標的を塵殺するのがドラコなら、道具を使った支援のみならず同期で一番を争う俊足と立体的機動で相手を翻弄するのがカエデだ。
――ではユナの『蛇』が何を指すのか。
彼女の武器は上述した二人の物とは別物である。
そもそも小柄ということは膂力、スタミナ、手足の短さは狩人――特に片手剣使いと双剣使い――にとって不利に働くのは想像に容易い。
だが同期のうちユナを含む数名は小柄な少女であり、それだけの不利を背負って尚狩人として認められている。
それはつまり『小柄』である、という不利を覆す――否、小柄であることすら武器にしている証左に他ならない。
相手の意識外へと潜り込むことを可能とする勘の良さと俊敏性。そして怪物の懐に潜り込むのに都合の良いしなやかさと小柄さ、そして
常に標的の意識外に身を置き、蛇の如く這いよっては急所を的確に断つ――ユナが『蛇』と形容され、
本来であれば
だが、奴はユナを捉えられない――否、ユナのことを意識外に置かざるを得ない。
「うぉぉぉぉっ!」
「はぁぁぁぁっ!」
より強い気迫と殺意で迫ってくる
そしてその虫の正体が毒虫であったとしても、気付けなければ話になるまい。
「――ッ」
呼気は短く、
アダイトとディードが引き付け、ユナが切り刻む。即席の
――VAAAAAAAAAAッ!
しかし足りない。
確かに毒は徐々に
しかし、それでも崩せない生命力の高さと
上体を持ち上げ翼腕を振り上げた
ディードは斧を振り下ろそうとしたタイミングと重なりもはや止められず、アダイトもまた剣を引き戻すのと同時のこと。アダイトは辛うじて衝撃に備えることが出来たのは僥倖――そして巨体と共に翼腕が振り下ろされた。
「ガッ――」
気が付けば強い衝撃と共に、アダイトは倒れていた。自分は何をしていたのかを一瞬忘れ、即座に黒い怪物の姿を想起する。
(――ッマズイマズイマズイ!)
アイルーの救出が遅れて倒れたまま抵抗できずに捕食されたハンターの話など珍しくも無い。
体勢を整えようと慌てて立ち上がり――
(あ、れ?)
――足腰が笑ってふらついてしまった。
(オレに、何が……いや、何をされ――)
翼腕を振り上げていた
盾で受け止めきれない死角からの衝撃、そうだ、足元。
奴の振り下ろした衝撃と共に地面が隆起して宙に――
「――アダイト避けろ!」
その声で自分に突撃してくる
(――)
間に合わない、と身を固めたその時――何かががしり、と右腕を掴み、そして凄まじい力で引っ張られた。
足腰のきかないアダイトにそれに耐える術は無く
「おわっ!?」
無様に転び、そのままの勢いで引き摺られて、その横を巨躯が駆けて行く。
危なかった、と安堵すると共に、右腕を掴んでいた何かが外れ、アダイトの横を声も無く黒衣が駆ける。
その姿を目にし、そして即座にポーチに手を伸ばす。
取り出すのは小さな袋。そこから粉を取り出し振り撒いた。
双剣使いの同期たちで差別化をしましたが……漏れは無いよね?(ガクブルガクブル)
以下、差別化は独自解釈の面が強いです。
・ドラコ
剛の者。しなやかさよりも力でねじ伏せるスタイルを想起。当人の気質に加え、翻弄するのではなく制圧するといった意味合いで『嵐』と形容しました。
回避よりも攻撃優先。被弾上等でステゴロの如く殴りあう感じ。スタミナもあるでしょう。
「テメェが倒れるのが先か、オレが倒れるのが先か」みたいな台詞を言わせたい。
まぁ、ラージャンと彼我の戦力差を理解できるようなので解釈違いと言われたらそこまでですが……
後々チャアクも扱うようなので、将来的には落ち着いてゴシャハギ系統の武器一式を使い分けていく器用さも見せていくことになるのかな?とか思ってたり。
・カエデ
柔の者。ライズでより顕著になった双剣による空中戦の使い手としてイメージ。腹ペコキャラが目立ちますが、支援もこなせる遊撃手。
同期で1位2位を争う俊敏性やバランス感覚などが優れ、同期の中ではアテンスと双璧を為す立体機動の使い手。しなやかに相手を翻弄する様は正に『疾風』
「……私の動き、ついてこれる?」みたいな台詞を言わせたい。
※実はこのあとがきに着手するまで彼女がバルファルクに挑んでいたと錯覚しており、投稿前に読み返したら全く違ったことに気付いて白目を剥きながら書いてます。
・ユナ
柔の者。実は上述のカエデとはどのように差別化するかで悩みに悩んでいました。
『小柄だから相手の懐に潜り込みやすい』だけでは不十分なので説得力を与えつつ小柄であることの不利とそれを覆す武器を複数搭載させました。
参考にしたのは
・『落第騎士の英雄譚』における縮地の原理。(速度ではなく、意識の隙間に入り込むことで接近する)
・『紅kure-nai』に登場するキャラの一人、切島切彦の持つ「刃物を扱うのがとてつもなく上手いだけの完全な素人」という才能。
そこに小柄さを踏まえて色々と弄くって今の『蛇』と形容する物になりました。
なお他に形容するなら『暗殺』なんですが、嵐、疾風ときて暗殺と形容するのは違うよな?ということでこっちに。なお空中戦はしない模様。
自分、なんらかの欠点を持ちつつも、それを覆す強さを持つってキャラ大好きなんですよね(ただし無双しないレベル限定)