バラン星基地から約五パーセク――。
銀河間空間に浮かぶその小さな惑星に降り立ったセレステラらの一行は、件のアケーリアス文明の古代遺物、人格交換システムの前にいた。
ミレーネルは、アケーリアス文明の遺跡の前で、装置からケーブルを伸ばして、自身の頭部に電極を貼り付けていた。沖田は、酔ってその場に大の字に寝転んでいびきを立てている。セレステラは、やむを得ず、デスラーの姿をした沖田に膝枕してそこに座り込んでいる。ミレーネルは、そんなセレステラに、冷たい視線を送っていた。
「どう? 総統の入れ替わりを、元に戻せそう?」
セレステラは、ミレーネルに尋ねた。
「どうかしらね。この装置は、意図して入れ替わりを制御出来る物じゃない。前にリモートで繋いだ時に、そのことは既にわかっていたわ。きっと、これから近い将来、テロン人とガミラスは深い関わりがあるんだと思う。そんな時空を超えた繋がりを元に、この装置はランダムに干渉するんだと思う。私に制御出来る代物じゃないわ」
「……それって……どういうこと? 総統を元に戻せるから、ここに連れて来たんじゃないの?」
ミレーネルは、手を止めてセレステラを静かに見つめた。
「これを使えば、帝国に混乱を引き起こせるわ」
セレステラは、目を丸くして彼女を見返した。
「あなたは……何を言っているの? どうして、そんなことを……?」
ミレーネルは、暗い笑みを浮かべた。
「私たちは、ガミラス人に酷い人種差別を受けた。そんな私たちを救ってくれたデスラー総統には、私だって感謝してるけど、帝国の純血主義者の根強い差別は今も無くなった訳じゃない。このまま帝国の籠の鳥でいて、いつか私たちが死んでしまえば、ジレルは滅んでしまうのかも知れない。私は、そんなの嫌よ。今でも何処かに、同胞が生きていると信じているの。同胞を探すには、私たちは帝国から自由の身になる必要がある」
ミレーネルは、装置の端末を撫でた。
「これを使えば、帝国はめちゃくちゃになる。そうなったら、私たちは、何処へでも自由に行くことが出来るの。あなたと、二人でね」
セレステラは、ミレーネルを止めようと立ち上がりかけた。しかし、突然ミレーネルが銃を構えたのを見て、青くなって固まった。
「ミレーネル……。あなた、何を……!」
「そこで大人しくしていて、ミーゼラ」
セレステラは、今のデスラーの側近としての立場に満足していた。最初こそ、感謝や尊敬の念を抱いていたデスラーに対しての想いは、いつしか愛情に変わっていた。だからこそ、ずっとこのままでいたいと思っていたのである。このまま、彼のそばにいれたら。彼の力になれたら、そう、彼女は思い続けてきた。ミレーネルは、それを知っていたはずだった。それなのに、何故、それを壊そうとするのか。
セレステラは、二人しか居ないジレル人のミレーネルのことは、そんな自分の一番の理解者だと思っていた。だが、それは大きな勘違いだったようだ。
セレステラは、ミレーネルの思考を読もうと集中した。ミレーネルはといえば、それまで心を読まれまいとひた隠しにしてきた本当の気持ちを、セレステラにさらけ出した。
「え……!?」
セレステラは、ミレーネルの抱く本当の感情を知った。
それは、自身に向けられた深い愛情だった。
「ミレーネル……、あなた……」
ミレーネルは、寂しそうに笑った。
「私の本当の気持ち、あなたには気持ち悪かったみたいね。そう思われるのだけは、嫌だった。嫌われたくなかったから、ずっと隠してきたのに」
ミレーネルは、片手で銃を構えながら、もう片方の手で装置の操作を始めた。
「どっ……どうする気!?」
ミレーネルは、ちらとセレステラに視線を向けると、無言で操作を続けた。
「準備が出来たわ。装置の対象をあなたに設定した。あなたの心が手に入らないのなら、あなたを別の人と入れ替える。あなたがあなたでなくなれば、きっと私の能力で思い通りに操れるだろうから。残念だわ、ミーゼラ。本当に、大好きだったの」
セレステラは、真っ青になって叫んだ。
「やっ……止めて!」
ミレーネルは、黙って装置の実行ボタンに触れた。
装置が唸りをあげ、セレステラは、あっという間に気を失った。
糸の切れた人形のように、セレステラの身体は、力なく崩れ落ちた。沖田と折り重なり、彼女の身体は動かなくなった。
沖田のいびきだけが、その場に響いている。
ミレーネルは、装置の椅子から立ち上がると、セレステラの背後に回り、彼女の身体を起こした。
「あなたは、これで私だけのもの……」
その時、突然セレステラの身体はビクリと跳ねた。驚いたミレーネルは、彼女を抱いたまま、後ろに倒れ込んだ。
「こっ……ここは?」
セレステラは、困惑した声音で、自らの手を見つめている。入れ替わりが成功したのだろう。
ミレーネルは、セレステラが誰に入れ替わったのか少し不安に思ったが、自身の精神感能力があれば、心を操り、どうにでも制御出来るだろうと踏んでいた。
「ここは、アケーリアス文明の遺跡よ」
セレステラは、自分の手や身体に触れて、激しく動揺していた。そして、デスラー総統を膝枕している自分に全身の毛が逆立つのを感じていた。
「な、何がどうなっているのだ〜!? 吾輩は、なあ〜ぜ、女の身体になっているのか!?」
ミレーネルは、その喋り方に聞き覚えがあった。頭の中で、まさか、とか、そんな、とかの言葉が駆け巡っていた。
セレステラは、起き上がってミレーネルの姿を認めると、たちまち掴みかかってきた。
「き……さまか!? ジレルの魔女め! いったい、吾輩にな〜にをしたのであるか〜!? ことと次第によっては、貴様を成敗せねばならん!」
嘘……。嘘よ……。よりにもよって……!
ミレーネルは、セレステラの中に入った何者かに首を締められ、気が遠くなるのを感じていた。
同じ頃、バラン星鎮守府の拘禁室――。
「はっ……!」
セレステラは、先程まで居たアケーリアス文明の遺跡から、全く別の場所で目覚めたのを知った。
「わっ、私……!」
セレステラは、そこが狭い拘禁室だということに、すぐに気がついた。明らかに、自身が大男の姿に変わっているのを知ったセレステラは、青ざめて顔に手を触れた。そこには、長いもみあげの不快な手触りがあった。そこには、ごつごつとした大きな顔があった。彼女は、そばにあった流しの鏡に、勢い良く飛びついた。そこに映っていたのは、信じられないことに、国家元帥ヘルム・ゼーリックその人だった。
拘禁室の外で警備にあたっていたガミラス兵は、室内から野太い叫び声が響くのを聞いた。
「いやあああああああ!!」
何事かと慌てて部屋のドアを開けた兵士は、そこで内股でべそをかくゼーリックの姿を認めた。
「げ……元帥……?」
めそめそと泣くゼーリック=セレステラは、しゃくりあげながら小さく独り言を言っていた。
「酷い……。こんなの、いくらなんでも、酷すぎる……」
その頃、冥王星からバラン星に到着したシュルツは、バラン星鎮守府の艦船格納庫で、兵士たちが慌ただしく動いているのをポカンとして眺めていた。
「いったいどうしたんだ? 君、ゲール少将は何処にいるのかね?」
シュルツの部下のガンツは、通り掛かった一人のガミラス人兵士の肩を掴んで呼び止めた。
「君でいい。少しだけ話を聞いてくれないか」
「あんたたちは……二等ガミラス人か。今はそれどころじゃない。離してくれ」
シュルツは、ガンツを制して、肩を掴んだ腕を離させた。
「私は、デスラー総統直々に命令を受け、テロンの冥王星基地を撤退してここへやって来た。我々は、ここで新たな命令を受けるように命じられている。もう一度言う。これは、総統の命令だ」
その兵士は、驚いたような顔をしていた。
「ほう。確かに、ここに総統が訪れている。だが、その総統が行方不明で、捜索部隊を出そうとこの騒ぎになっているのだ」
「総統が、行方不明……?」
兵士は頷いた。
「ジレルの魔女が、何処かへ連れ出したらしい。目的はわからん」
当惑したシュルツは、暫し考え込んだ。
「では、ゲール少将は?」
「一番乗りで、ゲルガメッシュで捜索に出発した。我々は、ゲール少将の後を追おうと準備しているのだ。もう、いいか?」
シュルツが、無言で頷くと、兵士は走り去って行った。
シュルツとガンツは、互いの顔を見合わせた。
「どうします? 大佐」
「慌てても仕方あるまい。闇雲に捜索に参加しても、総統が見つかる保証はない。我々は、ここで待機して総統が戻るのを待とう」
シュルツらは、その足で、バラン星鎮守府の中央作戦司令室を訪ねた。そこで、総統捜索の様子を探ろうと考えたのだ。
司令室の内部も、怒号が飛び交い、総統捜索で混乱しているのが見て取れた。
「ゲール少将の捜索部隊、α象限に到着しました」
「ドメル将軍の艦隊、β象限の捜索を始めました」
「おい、γ象限の亜空間センサーの反応が悪い。直ぐに確認させろ!」
シュルツは、司令室の中央スクリーンに映し出された各艦の配置図と動きを目を凝らして確認して行った。
「ドメル将軍まで来ているのか」
「やはり、何か変ですね」
シュルツは、とある事実に気が付いた。
「ガンツ。右のスクリーンの長距離センサーの表示を見てみろ」
ガンツは、目を凝らしてセンサーの分析チャートを見つめた。
「あれは、亜空間ゲートを表す光点ですね」
「反応が少し強い。ゲートの内部に入っている船がある証拠だ。つまり、銀河系方面から、バラン星に接近してくる船があるという事だ。我々以外に、だ」
ガンツは、慌てて司令室の科学士官の座席に向かうと、センサー表示を拡大させて確認した。
「間違いありません。こちらに向かってくる船がいるものと思われます」
シュルツは、ガンツのそばに近寄ると、同じようにセンサーの表示を確かめた。
「まさか……テロン軍でしょうか? 我々を追って来たのでは……?」
シュルツは、顔をしかめた。よもや、冥王星からの撤退が、テロン軍をバラン星に招き寄せる結果になるとは、思いもよらなかった。
「その可能性は高い。いくら総統の命令とはいえ、テロン軍をここまで近付けた責任は、我々にあると考えられてもおかしくは無い。ましてあの、ゲール少将なら、我々に責任を被せて来るだろう。そうなれば……」
二人の脳裏には、極刑の二文字が浮かんでいた。
「ガンツ、出るぞ。本当にテロン軍ならば、迎え撃とうではないか。ここはバラン星基地。多くの援軍がいるのだ。何も恐れることはない!」
ガンツは、ガミラス式敬礼を決めた。
「はっ。それでは、部下たちに、出撃命令を出します!」
「頼む。命令を出したら、我々も直ぐに船に向かおう」
続く…
注)
・宇宙戦艦ヤマト2199を元にした二次創作小説です。一部、若干のキャラ崩壊がみられますが、予めご承知おき下さい。
・以前、私がPixivに投稿した「君の本当の名は」を元にし、これに大幅に加筆しています。
・pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開、または公開を予定しています。
※ガルマン帝国……私のヤマト小説の公式にない設定。古代ガミラスの移民国家。この時はまだ、ガミラスではその歴史的事実が忘れ去られている。