亜空間ゲート内――。
三隻のガミラス艦から成る地球艦隊は、一路マゼラン銀河を目指して亜空間ゲート内を航行していた。ゲートを抜けた先には、ガミラス銀河方面軍基地であるバラン星鎮守府が存在している。
沖田=デスラーと藤堂=タランはこの先に、ガミラス軍が待ち受けていることを地球人には話さなかった。このままバラン星に到着した後、自らをザルツ人と偽り、地球人たちを捕虜としてガミラス軍に引き渡す算段をしていたのである。その為、艦長室には、いつでも自分とタランだけが着替えられるよう、ザルツ人の軍服を二着用意していた。
ガミラス艦の狭い艦内の艦長室では、別の艦の艦長を務める古代守からの通信をデスラーが受けていた。デスラーは、立体映像で浮かび上がった守がぼやくのを、頬杖をついてぼんやりと眺めていた。デスラーの後ろには、タランが立って一緒に見つめている。
「沖田提督。現在私の船にいるイスカンダルのユリーシャさんに、イスカンダル星の座標について、森くんから探りを入れてもらいました。しかし、相変わらず煙に巻かれています。『場所を教えたら、あなた方はイスカンダルに来たかな?』なんてとぼけているようです。どうにか口割らせられないか、いろいろなアプローチを試みていますが、どうやら彼女はこの状況を楽しんでいるようにも見えますね」
守は、本当に困ったと、やれやれといった様子で話を続けている。デスラーは、タランと少し顔を見合わせ、守に聞こえないように小声で言った。
「ユリーシャ姫は、明らかに面白がっているね」
「総統。恐らく、彼女はこれを試練だと言うのでしょう。同じ立場に置かれたら、たまったものではありませんね」
「違いない」
デスラーは、こほんと一つ咳払いをすると、守に言った。
「引き続き、探りを入れたまえ。イスカンダル人とてボロが出るかも知れない」
「わかりました」
通信を終わりにしようとしたデスラーに、守は笑顔で語りかけた。
「ところで沖田提督。イスカンダルですが、高潔な民族が住む、さぞや美しい星なのでしょうね。私は、もう今からワクワクしていますよ」
デスラーは、一瞬イスカンダルの風景を思い出し、そしてスターシャに思いを馳せた。
「……そうだろうね」
守は、思い出に浸る沖田=デスラーの姿を見て、このタイミングだと閃いた。
「イスカンダル星にも、地球のような月はあると思いますか? 私は、無事に到着したら、スターシャさんや皆と一緒に、お月見でもしながら、一杯やりたいと考えています。きっと、美しい眺めでしょうね」
デスラーは、イスカンダルの空に浮かぶ、ガミラス星の姿を思い出した。かつて、まだ若かった頃、イスカンダルの宮殿からスターシャと二人で眺めた母星。スターシャの伸ばした手にとまる青い鳥。瞳を閉じたデスラーの胸に、懐かしい思い出が蘇っていた。
「……思えば遠く来たもんだ。
十二の冬のあの夕べ……」
デスラーも、守が何かの詩を詠んでいると理解した。
「今のは、何だね?」
「ご存知ありませんか? 中原中也の詩ですよ」
デスラーは頷いた。
「残念ながら、私にはわからない。だが、昔を懐かしんでいるということはわかる。我々も、遥か彼方まで来ものだね」
守は、更に詩を続けた。
「……雲の間に月はいて
それな汽笛を耳にすると
竦然として身をすくめ
月はその時 空にいた……」
そこで詠むのを止めた守は、沖田=デスラーに尋ねた。
「イスカンダルの月は、どんな色で輝いているんでしょうかね」
デスラーは、ガミラス星の美しい輝きを思い浮かべた。
「……そう。やはり緑の輝きが最も映えることだろう」
デスラーが何の気は無く発したその言葉。守は聞き逃さなかった。
「……提督。イスカンダルの月が、どうして緑色をしていると思ったんですか? 地球人、いや、日本人ならば、そんな色で月を例えることは無いと思いますがね?」
デスラーは、ハッとして目を見開いた。立体映像の守は、目を細めてじっと見つめている。ちらりと横目で見たタランの表情は堅かった。デスラーは、自らの失敗を悟った。
その時、突然艦長室のドアが開き、数名の武装した兵士たちが部屋に雪崩込んで来た。そして、デスラーとタランを一気に拘束した。
「なっ、何をする。私と、藤堂長官に無礼ではないかね!?」
その後に部屋に入って来たのは、先程通信していた筈の守と真田、そして雪とユリーシャであった。デスラーは、さっきまで話していた相手が、どうしてここにいるのか不可解に思っていた。
「コダイ!? この船に乗っていたのか?」
守は、艦長用の帽子のつばを掴んで頭を下げた。
「すみません、赤道祭の時に、ユリーシャさんに聞き、ずっと正体を探ろうと機会を伺っていました。今がその時だと、こっそりこの船に移乗して、鎌を掛けさせてもらいました」
真田は、ユリーシャに訪ねた。
「イスカンダル星の月は、緑色をしているのですか?」
ユリーシャは、首をひねっている。
「はてな?」
ユリーシャは、拘束されている二人の前に歩み出た。
「……イスカンダルに、月は無い。でも、双子星の緑の惑星がある」
雪は、ユリーシャに訪ねた。
「双子星……って、どういうこと?」
ユリーシャは、雪の瞳を見つめた。そして、ゆっくりと、真田、守へと視線を向けた。みな、ユリーシャが何を言わんとしているかわからずにいた。
「……イスカンダルは、二重惑星。そして、もう一つの星の名は。……ガミラス」
そこに集まった地球人たちは、呆気に取られていた。
「ガミラス……だと?」
その時、艦内に警告音が鳴り響いた。そして、艦内放送が流れた。
「各員に告ぐ。間もなく、亜空間ゲートを抜け、通称空間に出る。当直の担当者は、直ちに各持ち場へ移動されたし。沖田提督は、直ちに艦橋へとお越し下さい」
デスラーは、慌てて言った。
「私を離せ! 亜空間ゲートの先は……!」
その頃――。
バラン星側の亜空間ゲートの出口に展開したシュルツ率いるガミラス艦隊は、今か今かと敵の来襲に備えていた。
そして――。
「亜空間ゲートに反応あり。出現する艦影三を確認!」
シュルツは、通信マイクを掴むと、全艦隊に発令した。
「全艦、戦闘配置! 私の指示で、一斉に敵艦隊に向け、陽電子砲を撃ち込むのだ」
亜空間ゲートの丸い表面が、水の波紋のような物が三つ広がり、そこから三隻の船が現れた。
シュルツは、攻撃命令を発しようとして、そこで思い留まった。
「あれは……!?」
「シュルツ大佐、現れた艦艇は友軍です! 我が方の駆逐艦三隻を確認!」
シュルツは、不思議そうな表情で、すぐ横に立っていたガンツに尋ねた。
「冥王星基地を撤退した艦艇は、全て行動を共にしていた筈では?」
ガンツも首をひねっていた。
「大佐。もしかしたら、木星基地に配備していた艦艇かも知れません。四隻配備されていた筈です」
「だが木星基地は、テロンに占領された。テロン軍が鹵獲して使っている可能性が高い」
「そうですね。確かめてみましょう。もしかしたら、脱出したラーレタ少佐が乗っているかもしれません」
ガンツは、通信機のある座席に移動すると、現れた駆逐艦艦隊に連絡した。
「こちら、元テロン攻略作戦副長官ガンツ少佐である。貴官らの所属と任務を述べよ」
応答が無いまま数分が経過し、ガンツはシュルツの方を向いて、頭を振った。シュルツが頷いたので、ガンツに次の指示をした。
「直ちに停船せよ! 停船しない場合、間もなく攻撃を開始する!」
更にその頃――。
「何? 牢に入れられたゼーリック元帥の様子がおかしいだと?」
「はい。自分はセレステラだと名乗り、騒ぎを起こしているようです」
行方不明となったデスラーの捜索に乗り出したドメルの元にも、その連絡が届いていた。彼は、ドメラーズ三世の艦橋で、サーシャと談笑中だった。
「大方、牢から抜け出す為の盲言だろう。私に、どうしろと?」
「そう言われましても……」
基地から連絡を受けた通信士自身も、困惑している様子だった。
しかし、それを聞いたサーシャに、考え込む様子が見られた。
「どうされましたか? サーシャ様」
「ああ、いえ。少し、気になったから」
ドメルは、イスカンダル人が気にするような事があるのだろうか、と興味を持った。
「何かご懸念があれば、どうぞお聞かせください」
サーシャは、ドメルと目を合わせると素直に話をした。
「セレステラ、と聞いて気になったことが。先日、彼女はデスラー総統と共にイスカンダルに。総統はお姉様と、ある重要な約束を交わしました」
「ほう?」
そこでサーシャは、ドメルになら話しても良いだろうと考えた。
「総統は、戦いを止め、星々の救済に乗り出すと。どう思います?」
ドメルは、その話をにわかには信じられなかった。
「今、我々が戦いを止めたら、マゼラン銀河の秩序は瞬く間に崩壊してしまうでしょう。例えば、私が命じられた小マゼラン銀河に出没した蛮族の討伐ですが、止めれば多くの星々が侵略されてしまうでしょう。そんなに単純なことではありません」
サーシャは頷いた。
「そう、だから私は、急に人が変わったようなデスラー総統の様子を信用ならないと思い、彼らに同行しているのです。お姉様は、簡単に信じてしまったようですが……。そもそも、その話をするデスラー総統を連れて来たのが、あのジレル人のお二人でした」
ドメルは、サーシャが何を気にしているかを理解した。
「仰っしゃりたいことが、私にも分かってきました」
ドメルは、即座に科学士官に命じた。
「最近、ジレル人が何か研究や実験、何らかの発見をしたという報告がないか、軍のデータベースを調べろ。大至急だ」
それからしばらくして、科学士官が報告した。
「バラン星付近で、新たなアケーリアス文明の遺跡を発見したとかで、何か実験を進めているという情報がありました」
ドメルは、サーシャと顔を見合わせた。
「その遺跡の座標は?」
「はい。記載があります。ここから、約五パーセク程の宙域です」
「それだ! 恐らく、総統はそこにいるに違いない! 直ちにワープで急行するぞ!」
その時、大きな声で、レーダー手が割り込んで来た。
「付近にワープで現れた艦隊があります! 囲まれました」
「友軍だな?」
「はい……。ゲール艦隊です」
ドメラーズ三世の艦橋のスクリーンに、ゲールの姿が映し出された。ゲールは、不敵な笑みを浮かべている。
「お前にばかり、先を越させる訳にはいかんな」
ドメルは、不快な表情になった。
「私の船に、盗聴器を仕掛けたな? 相変わらずだな、ゲール少将」
ゲールは、ドメルに向かって指を突き出して言った。
「わしに、手柄を譲れ」
「何を馬鹿な。今は、そんな事を言っている場合ではない」
「うるさい! なら、実力を行使しても良いんだぞ?」
「止めておきたまえ。私の艦隊に、勝てると思っているのかね?」
「ふん、足止め位は出来るわ! その間に、わしが総統をお助けするのだ!」
ドメルは、イライラとスクリーンのゲールを睨んだ。
続く…
注)
・宇宙戦艦ヤマト2199を元にした二次創作小説です。一部、若干のキャラ崩壊がみられますが、予めご承知おき下さい。
・以前、私がPixivに投稿した「君の本当の名は」を元にし、これに大幅に加筆しています。
・pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開、または公開を予定しています。