「全艦戦闘配置! 砲雷撃戦用意! 目標、前方ガミラス艦隊!」
沖田=デスラーと藤堂=タランが拘束されたとの情報を、土方も聞いていた。しかし、亜空間ゲートの先に待ち受けていたシュルツ艦隊を目にした土方は、大急ぎで全艦隊――と、言ってもたったの三隻のガミラス駆逐艦だが――に戦闘配置につくように命じた。
「土方提督、一番艦、戦闘配置完了しました!」
「三番艦も、戦闘配置完了しました」
土方の乗艦の戦術科の士官も、土方を振り返った。
「我が二番艦も、既に完了しています」
土方は、鋭い目つきで前方を睨んだ。十隻以上の敵艦隊が展開しており勝ち目はない。それでも、何もしなければ、全滅は免れない。
こんな時に、沖田がいないとは……!
沖田がガミラス人に入れ替わっていたという話は、にわかには信じられない話だったが、むしろ彼にはホッとした面もあった。急に沖田に対して自分でも不可解な感情に揺さぶられていたのも、その人格入れ代わりの問題と関係があるからだと、自身を納得させようとしていた。
その頃、古代守や雪。ユリーシャらは、デスラーたちの拘束を終え、拘禁室へと連行しようとしていた。
「待て! 諸君、こんなことをしている場合では無い」
デスラーは、拘束している保安部の兵士たちに歯向かい、厳しい表情で守に訴えた。このままでは、バラン星からやって来たガミラス艦隊に攻撃され、撃沈されるのは目に見えている。
「困ったな。そう思うなら、大人しくしてくれ。俺は艦橋に行かなければ……えーと、いったい、あんたたちのことは、何て呼べば良いんだ?」
タランは、諦めた表情でポツリと言った。
「こちらのお方は、総統、とお呼びなさい」
守は、雪と顔を見合わせた。
「……総統?」
タランの話を遮ろうと、デスラーが抗議しようとしていたが、彼はそれを無視して続けた。
「このお方は、大ガミラス帝星の指導者、デスラー総統だ。そして私は、国防相のタラン。捕虜の扱いとして、もう少し丁重に扱って頂けると嬉しいのだが」
ガミラスの指導者と聞いて、そこにいた一同は、青ざめた表情で、沖田と藤堂に憑依した何者かの姿を凝視した。
「な……何でそんな人が……」
守は、混乱した頭を抱えて後退りした。
「我々にも、この現象の原因は分かっていません。我々自身も、当惑しているのです。とにかく、本国に帰ろうと策を弄した結果、あなた方に協力して、本国へ向かうことになった……ということです」
ユリーシャは、フフッと笑うとタランに顔を近づけた。
「ふうん。何となく、そうかも知れないと思っていたけど。それで、どうやって、バラン星を突破するつもりだったの?」
「テロン攻略作戦の指揮は、二等ガミラス人であるザルツ星の兵士に任せてきました。我々はこれを利用してバラン星を通過しようと考えていました。今すぐに、この策を実行に移さなければ、攻撃を受けてしまうでしょう」
おもむろに、デスラーが口を開いた。
「分かったのなら、直ちに私を艦橋に連れて行きたまえ。それから、木星基地で拘束したザルツ人の指揮官がいるはずだ。彼も一緒に艦橋に連れてくるのだ!」
シュルツは、ガンツからの報告を受けていた。
「前方のガミラス艦三隻、こちらの呼び掛けに応じません。いかがいたしましょうか?」
やはりテロン人が鹵獲した船なのか……。
シュルツは、噛み締めた口の端から息を吐き出した。
「全砲門開け! 我々は、あれを敵艦隊と認識する。合図したら、砲撃を開始するのだ!」
「待ってください! 敵艦隊より入電! シュルツ大佐との会見を要求しています!」
「む……わしに?」
全艦隊に攻撃命令を発しようとしていたシュルツは、そこで思い留まった。
「先方の名は?」
「木星浮遊大陸基地のラーレタ少佐と名乗っています」
「むぅ……!?」
ガンツは、シュルツと目を合わせると首を振った。
「大佐。テロン人の罠の可能性も……」
シュルツは、ガンツの言葉で少し迷いが生じた。しかし、部下の生存が確かであれば、確かめる必要がある。
「分かっておる。構わん、通信回線を開け! 映像通信で本人か確認すれば分かることだ」
シュルツ艦の艦橋に、立体映像が浮かび上がった。それは、間違いなくシュルツらのよく知るラーレタの姿だった。いつものように彼の猫型ペット、クラルをその腕に抱いている。彼の背後には、顔が映っていないが、二人のザルツ兵の制服を着た兵士が立っていた。
「大佐……。私よ、あなたの忠実な部下のラーレタよ。攻撃しようとするなんて、酷いじゃない?」
その時、ラーレタは、背後に並んだデスラーとタランに小突かれ、回答を促されていた。
ちょっと、痛いじゃない……。
ラーレタは、そんな言葉を飲み込んだ。通信映像に映らない位置に、周囲を守を始めとした地球人に銃を向けられて囲まれていたからだ。
デスラーとタランも必死だった。この策が失敗して攻撃を受ければ、確実に船を沈められてしまうだろう。
しかし、比較的あっさりと、デスラーたちの懸念は稀有に終わった。シュルツは、ほっとして彼の無事を素直に喜んだからである。
ガンツとシュルツは、顔を見合わせて、ほっと息を吐き出した。
「戦闘配置を解こう。済まない、ラーレタ少佐。テロン人の罠かもしれんと疑ってしまったのだ」
「あら、大佐ったら失礼しちゃうわ」
ラーレタは、何故かシュルツにウインクしている。シュルツは、彼に色目を使うラーレタに少し引いている。
背後からタランは低い声で彼に囁いた。
「くだらん事をしている場合ではない。さっさと打ち合わせ通りに続きを話したまえ」
ラーレタにしてみれば、背後の二人がデスラーとタランだとは知る由もなく、テロン人に脅されていると怯えながら、可能な限り疑われぬように話した。
「あの後、総統から、追加の直接命令を受けたの。私たちは、本星に向かうように指示されたのよ。だから、ここを通してくれないかしら?」
シュルツは、がっかりしたような表情で彼に言った。
「なるほど、そうだったか。ラーレタ。総統は、このバラン星を訪れている。しかし、ジレルの魔女に攫われ、現在行方不明になっている。複数の捜索部隊が総統の所在を探しているところだ。捜索部隊には、ゲール少将だけで無く、たまたまここを訪れていたドメル将軍も参加している」
デスラーとタランは、首をひねって声をひそめた。
「総統のお身体がこの近くに……?」
「……もしかしたら、我々と同じように、本物のオキタも、テロンへ向かおうとしていたのではないか?」
シュルツの話はまだ続いていた。
「我々は、しばらくバラン星鎮守府で、捜索部隊が帰還するのを待つつもりだ。君も、総統がお戻りになるのを待った方がいいだろう」
デスラーは、考えを急いで巡らせた。
「私の身体を拉致したのはジレルの魔女……。セレステラとリンケか。なるほど、この入れ替わりは、彼女たちが関わっているのに違いない」
デスラーは、脇にずれると、小さな声で守に話しかけた。
「コダイ。本物のオキタは、このバラン星付近にいる。我々が元へ戻るチャンスだ。彼の提案に乗ってみてはどうかね?」
「……敵の基地に変装したまま降りるなんて、とてもじゃないが俺は賛成できない」
「心配するな。君たちは、ザルツ人と見分けがつかない。急いで、艦内のザルツ兵の制服をかき集めたまえ。それを着ていれば簡単にはバレないだろう。君も、本物のオキタを取り戻したいんだろう?」
守は、振り返って通信端末に小さく映る土方に小声で言った。
「土方提督。どうします?」
土方は、一瞬渋い表情になったが、本物の沖田を取り戻したいのはやまやまだった。
「古代、その提案を受けよう」
これで、沖田にもう一度会える、と。
ザルツ兵の制服を着てバラン星基地に降り立った地球人の代表者一行。シュルツとガンツの後に従って、デスラーたちは宇宙港の中を歩いていた。土方と守は、ラーレタやデスラーらの背後から荷物に隠した銃で小突きながら、通路を歩いていた。その他にも、無理矢理同行を志願したユリーシャが、素知らぬ顔でザルツ兵の制服姿で着いて来ていた。
「ゼーリック元帥が逮捕されているんですか?」
藤堂=タランは、通路を進みながらシュルツに確認した。
シュルツは、はて? こんな初老の兵が部下に居ただろうか? と、疑問を感じていた。しかし、テロン侵攻作戦の兵士は千名以上もいたことから、いちいち一人ひとりの顔を把握していた訳でもない。ラーレタが素直に引き連れている兵士なのだからと、そんな疑問を頭の片隅に追いやった。
「うむ。バラン星に来る途中に、総統の艦隊を襲撃したとかで、反逆罪で逮捕されたらしい。それだけでも大事だが、拘禁室で自分はセレステラだと騒ぎ立てているらしい。わしには、何が何だかさっぱりだがね」
タランは、デスラーと目配せした。デスラーの了承を目で確認したタランは、ラーレタに囁いて喋らせた。
「……シュルツ大佐。ゼーリック元帥の様子を我々も見てみませんこと? 総統の行方不明の件と、何か関係があるかもしれないわよ?」
シュルツは、ガンツとラーレタの顔色をうかがった。
「ふむ。それもそうだな。我々も、何か総統捜索のお役に立てるかもしれん」
そうして、一行は基地内部の捕虜拘禁室のある区画へと向かった。
その途中、土方はデスラーの小脇を突いた。
「どうかしたのかね? ヒジカタ」
「お前、本当に沖田ではないというのか?」
土方の顔色は、信じられないという思いを物語っていた。
「そうだったね。君は、この男……オキタと親友だと言っていたね。確かに、私はオキタでは無い。騙してすまなかった。さぞや、本物のオキタのことを心配しているのだろうね」
土方は、顔を赤らめて目をそらした。
「ま、まあ……。そうなったのは……その、いつからなんだ?」
デスラーは、挙動不審な土方の様子を訝しんだ。また、しつこく絡まれては堪らないと、彼は少し距離をとった。
「そ……そうだな。確か、記憶を失ったからと、君に病院に連れて行かれた時があっただろう。あの時からだ」
土方は、それを聞いて満足そうに頷いた。沖田におかしな感情を抱き始めたのは、この入れ替わり後だったのである。ならば、沖田とは別人だったのだから、本人に感じた感情ではないと、何度も自分に言い聞かせた。
ゼーリックを入れた拘禁室前――。
一行は、入口の覗き窓から、中の様子を確かめた。ゼーリックは、床に座り込んでメソメソと泣いているようだった。
シュルツは、警備兵に尋ねた。
「随分と大人しいみたいだな?」
「さっきまで、自分はセレステラだと騒いでいたが、そのような詭弁が通る訳もないと諦めたのではないかと」
デスラーも、皆と同じように、中のゼーリックの様子を確かめた。
これが、セレステラ?
流石にデスラーも、バカバカしいと感じていた。体格の良いゼーリックが、身体を震わせて嗚咽している。
すると、突然泣いていたゼーリックが、ハッとした表情で、扉の方を見た為、覗いていたデスラーと目が合った。
総統……!!
その場にいた全員に、空間が振動するようなゼーリック=セレステラの感情の爆発が伝わった。
「う、うわあ!」
「な、何だこれは!」
「心の中に、何か入って来る!」
セレステラは、跳ねるように立ち上がると、拘禁室の扉に飛びついた。
「その白い髭のおじいさんは、総統……! 総統ですよね!? 来てくれたんですね!? 私です、セレステラです!」
デスラーは、恐ろしいものでも見るように、ゼーリックのゴツイ顔が覗き窓に押し付けられるのを見た。
続く…
注)
・宇宙戦艦ヤマト2199を元にした二次創作小説です。一部、若干のキャラ崩壊がみられますが、予めご承知おき下さい。
・以前、私がPixivに投稿した「君の本当の名は」を元にし、これに大幅に加筆しています。
・pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開、または公開を予定しています。