その後――。
まさに戦端を開かんとするドメル艦隊とゲール艦隊が対峙する空間に、シュルツ艦隊はワープアウトした。
「皆聞いて。戦闘を直ちに止めて」
シュルツに憑依するのを止め、自分の身体に戻ったユリーシャは、全艦隊に向けて通信で呼び掛けた。
「何? こんな時に誰の船だ!? こちらも通信を繋げ!」
ドメルは、通信士に即座に命じると、双方の通信が繋がった。立体映像で、ユリーシャの姿が映った。少し遅れて、ゲールも同様に立体映像で現れた。
「誰だ! わしの邪魔をするのは!」
ユリーシャは、ウィンクをしている。
「私の話を聞いてくれてありがとう、皆。大事なお話があるの」
「お前は……イスカンダル……だと!?」
ゲールだけではなく、ドメルも困惑を隠せなかった。
「あなたは……。イスカンダルの第三皇女、ユリーシャ様ですよね?」
ドメルの艦に同乗していたサーシャは、ドメルの脇から顔を出すと妹の姿に目を丸くした。
「あら、あなた、地球に行ったはずじゃ無い。どうして、こんな所にいるの?」
ユリーシャは、自信たっぷりに、大きく頷いた。
「そう。私は、地球に行っていた。でも、ある問題が起きて、ここへやって来た。今、何が起きているのか、みんなに説明しようと思う」
呆気にとられる一同を尻目に、ユリーシャはこれまで起こったことを、掻い摘んで伝え、更にはデスラーとタランの身に起きた事実を、丁寧に伝えた。
「……ってことなの。分かったかな、みんな?」
ユリーシャは、少し楽しそうに笑顔を振りまいている。
「テロン人と」
「総統が」
「「入れ替わってる!?」」
ドメルとゲールは、何故かハモってしまい、互いにバツの悪そうな顔をしている。
サーシャは、目を細めてユリーシャの方を睨んだ。
「かなり面倒なことになっているのに……。ユリーシャ、あなた随分楽しそうじゃない?」
ユリーシャは、一瞬黙ったが、何か思い出した様にケラケラと笑い出した。
「だって……お姉さま、本当に面白かったんだから。面白いから、ずうっと黙っていたらどうなるのか、見守っていたの」
サーシャは、表情を変えずにぼそっと言った。
「……悪趣味なんだから」
「お姉さま? 何か言った?」
「いいえ、何でもないわ」
ドメルは、咳払いをすると、発言した。
「で、ユリーシャ様。その入れ替わった本物の総統は、今どちらに?」
ユリーシャは、嬉しそうに立体映像の外に手招きした。そして、立体映像でもう一人の人物が現れた。白髪と髭が特徴的な、初老の男だった。
「じゃん! この人こそが、大ガミラス帝星総統、アベルト・デスラーさん!」
デスラーは、いつものように前髪を弄ろうとしたが、白髪になって少々ゴワゴワした髪に手が触れて、その仕草を諦めた。
「いかにも。私がデスラーだ。こんな姿になってしまっているがね」
ゲールは、途端に大きな声で怒鳴った。
「たっ、ただのジジイではないか! わしは騙されんぞ!」
ドメルは、暫し思考を巡らせ、デスラーと名乗る男に質問をした。
「ユリーシャ様が仰る事ですから、私も信じたいと思っています。ですから、大変恐縮ですが、いくつか質問をさせてください」
「構わないよ」
ドメルは、少し思案して、最初の質問をした。
「我々の艦隊全体の指揮官の名は?」
「ガル・ディッツくんだね」
「ガミラス星の周回軌道にある巨大な要塞。その名は?」
「第二バレラス、のことかな」
「最後に……。あなたにとって、イスカンダルの女王とは、どのような人物ですか?」
デスラーは、ドメルがそんな質問をするとは思わず、少し微笑んだ。
「……スターシャは、私にとって最も大切な……古い友人だよ」
ドメルは、デスラーと目を合わせて、暫し見つめ合った。そして、瞳を閉じると、ゆっくりした動作でガミラス式敬礼をした。
「総統。大変失礼な質問をしたこと、お詫び申し上げます」
ゲールは、今のやり取りを聞いて、確かに総統だと確信していたが、先程ただのジジイと呼んだ手前、どう取り繕うか慌てていた。
「で? ゲール少将。あなたはどうなんだ?」
ドメルに睨まれたゲールは、憤慨して言った。
「ばっ、馬鹿な。わしは、総統に忠誠を誓った身。最初から、そんなことは分かっていたわ!」
ドメルは、微笑んでデスラーと再び目を合わせた。
「総統。では、ご命令を」
デスラーは、満足そうに頷いた。
「まずは私の身体を取り戻す。現在、近傍の浮遊惑星上に、セレステラとミレーネルが連れて行ったものと推測している。直ちにその浮遊惑星へと向かう! 全艦発進」
シュルツとガンツは、顔を見合わせて困惑をしていた。
「で、では、本当だったのか?」
「じゃあ、奴らも、本当にテロン人ってことですね」
守と土方は、一時的とはいえ、共闘することになったガミラス側の面々を見回した。
「土方さん。彼らの身体が元に戻ってしまえば、途端に我々の身の安全は保証されなくなるでしょう」
「わかっている。デスラーと名乗るあの男と、交渉が必要だ」
ユリーシャは、話し合いが終わり、守のそばにやって来た。
「コダイ。大丈夫。私が何とかするから」
「ユリーシャ……」
「ユキがいる限り、私は地球の人たちの味方」
土方は、どうして雪にこの娘が執着しているのか、理由がよく分からなかった。確かに、偶然にも顔が瓜二つなのは間違いないが、そんな理由なのだろうか?
浮遊惑星に移動する途中、沖田=デスラーは、ユリーシャと土方と守、そしてゼーリック=セレステラと共に、ドメルとサーシャと通信で会話をした。
「私が居ない間に、何があったのかね? どうして、サーシャ様がこんな辺境に?」
サーシャは、これまでに起こったことを、一通り話した。
「なるほど。セレステラは、私を元に戻そうと動いてくれていたのだね」
セレステラは、優しく微笑むデスラー ――白髪の初老の男というのは、一時考えないようにしていた―― に目を潤ませた。だが、デスラーの方は、どうしてもゼーリックの姿の違和感が拭えず、話す度に嫌悪感が襲っていた。
サーシャは、大切なことを思い出していた。
「その時、イスカンダルの宮殿で、オキタは、デスラー総統としてスターシャ姉様と約束したの。戦いを止めると。手始めに、地球の救済に赴くと。そうしたら、お姉様は、たいそうお喜びでした。長い間、このことを、気に病んでいましたからね」
デスラーは、その話にはたと気がついた。
「スターシャが。私が、戦いを止めると言ったら、そんなに喜んでいたのかね?」
サーシャは頷いた。
「お姉様は、涙を流して嬉しそうにしてましたわ。ずっと、辛かったんだと思いますよ?」
デスラーは考え込んだ。今更、戦いを止めるなどありえない。やめれば、途端にマゼラン銀河の星々は反乱を起こし、ガミラスやイスカンダルへも牙を向けるかも知れない。もはや、戦いを止めることは自殺行為だ。
スターシャ……!
あともう少しで、マゼラン銀河は、ガミラスの支配が完了しそうな所まで来ている。今、止めるわけには行かない。私は、スターシャの為に、平和をもたらす為に、やっているのだから。
デスラーが黙り込んでしまったので、サーシャは、土方と守にも話し掛けた。
「地球の皆さん。デスラー総統となってしまったオキタと、タラン国防相と入れ替わったトウドウは、スターシャ女王にお願いをして、あなた方が今必要としている、コスモリバースシステムを手に入れて、このバラン星まで持ってきています。この問題が解決したら、それを地球まで持ち帰るといいでしょう」
土方と守は、目を丸くした。
「な、なんだって?」
「沖田が、そんなことを?」
ドメルは、感心したように話した。
「総統は勿論だが、あなた方テロンのオキタにしても、人格が入れ替わるという特殊な状況にもかかわらず、やるべきことをやって、ここへ辿り着いていたとはね。かなり優秀な人物だとお見受けするが」
土方は、デスラーの姿をちらと眺めてから回答した。
「ああ。今の地球の国連宇宙軍では、最も優秀な指揮官の一人だ」
ドメルは、微笑んだ。
「なるほど。テロンとは敵同士ではあるが、出来れば戦わずに済めば良いと思っている。私も、無意味な血は流したく無いのでね。しかし、総統の命令とあらば、全力で戦う事になるだろう」
土方は、驚きを持って、敵の将官の話に聞き入った。
沖田や、自身と同じように、彼もまたまごうこと無き武人だった。それも、話の通じない宇宙人ではなく、思考回路がほぼ同じ、彼らもまた、人類と何ら変わらなかったのだ。
土方は、その事実を知り、この戦争の意味に思いを巡らせた。
アケーリアス文明の遺跡――。
先程から、デスラーの姿をした沖田と、セレステラの姿をしたゼーリックは、抱き合ったまましばらく動かずにいた。
どうしたものかと考えていたミレーネルは、腰にぶら下げていた自身の端末が反応して、振動するのに気がついた。
「何?」
端末を確認すると、レーダーチャートに、この浮遊惑星上を囲むように、百隻近い艦隊が集結しているのを知った。艦隊の識別信号から察するに、ゲール艦隊、それにドメル艦隊がいるようである。
「どうした」
顔を上げたセレステラ=ゼーリックは、彼女の反応から、何か起きたことをさとっていた。
「艦隊が集結しているわ。ここにいることがバレたみたい。おそらく、総統を探して、すぐにここへ兵士たちが雪崩込んでくるわ」
ゼーリックは、抱きしめられていたデスラーの身体から無理やり離れた。
「くそう。万事休すか。総統の命を頂戴することも叶わず……」
ゼーリックは、はっと気がついた。
「ならば一時的に身を隠すべき〜か。な〜にしろ、元の身体に戻れば、拘束されたまま、死刑になるだろ〜うからな」
セレステラ=ゼーリックは、立ち上がると、ミレーネルに体当たりした。倒れるミレーネルを確認し、その洞窟のような部屋から大急ぎで走り去って行った。
後に残された沖田は、ミレーネルを助け起こそうと立ち上がった。
「君も、大人しくして、諦めた方がいい。デスラー総統という男は、君らにとって恩人なのだろう? ちゃんと相談してみるがいい。決して、悪いようにはしないと、わしは思うがね」
沖田の言葉に、ミレーネルは唸った。
彼女は、こんなに早く、所在がバレるとは考えていなかった。確かに、万事休すであり、彼の言うことはもっとだった。しかし、セレステラの身体をあの男に奪われたことは、彼女にとって大きな失敗だった。
「分かった。オキタ。でも、あいつを捕まえるのに協力して」
「勿論だ。セレステラは、わしらのことを助けてくれようとしたのは間違いないからな」
二人は、ゼーリックの後を追って、洞窟のような部屋から出て行った。
浮遊惑星の地上――。
セレステラ=ゼーリックは、宇宙服に身を包み、地下の空間から地上へ走り出た。目前に沖田を連れて来た小型のガミラス偵察艦が見えて来た。
「あれに乗って、マゼラン銀河の辺境に身を隠し、機会を伺うしかない。吾輩としたことが情けない。だが、死刑などになってたまるものか」
しかし、ゼーリックの願いも虚しく、衛星軌道から降りてきたと思われる複数の輸送機が、上空から迫って来ていた。
「も、もう降りてきただと?」
慌てたゼーリックは、今出てきた遺跡に戻ろうと背後を振り返ると、そこには、ミレーネルとデスラー=沖田が走って向かって来るところであった。
「止まりなさい!」
ミレーネルは、走りながら空に向けて発砲した。
そうしている間にも、偵察艦の周囲に輸送機が次々と着陸し、ガミラス兵がゼーリックを取り囲んだ。
そして、沖田のタックルを受けたゼーリックは、地面に転がって倒れた。
「くそう、くそう、くそう〜!」
その場に座り込んだゼーリックは、悔しそうに地面を両腕で叩いた。沖田は、彼が逃げ出さないように、ミレーネルと共に、彼のそばに立ち、逃げ出さないように見張った。
そんな彼らの前に、輸送機から降りてきた兵士たちに混じって、一人の男が、前に進み出た。宇宙服の宇宙帽から覗くその顔は、沖田がよく知る人物だった。
「お前のことは、よく知っておるぞ。沖田十三」
「やっと君に会えたね。アベルト・デスラー」
続く…
注)
・宇宙戦艦ヤマト2199を元にした二次創作小説です。一部、若干のキャラ崩壊がみられますが、予めご承知おき下さい。
・以前、私がPixivに投稿した「君の本当の名は」を元にし、これに大幅に加筆しています。
・pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開、または公開を予定しています。