浮遊惑星軌道上のシュルツ艦隊――。
「テロン人め! 我がガミラスの船で堂々と何をやっておるのだ! 誰か、こ奴らを拘束するのだ!」
シュルツの艦、ガイデロール級戦艦シュバリエルの艦橋では、土方や、真田らが集まって議論をしていた。また、浮遊惑星上にいた沖田も、その他のセレステラたちだった者らを連れて、今はシュルツの艦に戻っていた。
そんな中、ガンツの身体に入れ替わったゲール少将が激怒している。
「今は、そんな事を気にしている場合ではない。君たちの国家は存亡の危機なのだぞ」
「この程度の事で、我が大ガミラスが危機に陥ることなどあってたまるか!」
土方は、ゲールを大人しくさせようと話してみたが、彼はあまり事態を飲み込めていないようだった。
「ふぅん。でも、あなたの中身は、本当にゲール少将、なのかなぁ?」
そんな時、ユリーシャに顔を覗き込まれたガンツ=ゲールは、罰の悪そうな顔になり、途端に恐縮していた。
「は、はあ。わ、私は確かに本物ですよ。それでその……ユリーシャ様の方は、本物で?」
「ふふふ……。どうかなぁ。私が本物だと証明するのは、結構難しいかもね。それは、あなたも同じ。だからこそ、地球の人たちは、私たちを心配してくれているんじゃないかな?」
ユリーシャに諭されたゲールは、恐縮して大人しくなった。
同じくシュルツの身体に入れ替わったヒルデは、シュンとして艦橋の隅で座っていた。また、浮遊惑星から戻ったゲールの身体に入れ替わったガンツも、同じように困った様子でゲールの横に黙って立っていた。
「ゲール少将。まずは、ガンツ氏と身体を接触させて、元に戻れるのか試してみて頂けないだろうか?」
土方に話しかけられたゲールは、しぶしぶガンツの方を見た。困惑しているガンツを睨み、彼を手で招き寄せ、両者は握手を交わすものの、何も起こらない。
「やはり何も起こらないか……。装置が破壊されたので、元に戻る機能が働かなくなってしまったのだろう」
土方の意見に沖田も同意して、重々しく頷いた。だが、ゲールは不満を顕にして怒鳴った。
「きっ、貴様らのせいだぞ! いったい、どうしてくれるんだ!!」
「ゲール少将、落ち着かんか! 取り乱しても、元へは戻らんぞ!」
沖田にギロリと睨まれて一喝されたゲールは、その迫力に震え上がり、急に大人しくなった。
「……土方、何か策はあるか?」
土方は頷いた。
「既に、真田に検討をしてもらっていた。真田、先ほどの分析結果を皆に説明してもらえないか?」
呼ばれた真田は、携帯端末を手に沖田の前に進み出た。
「先ほど、沖田提督らが浮遊惑星上に降りた際に、本艦のセンサーをフル稼働させて何が起こっているのか監視していました。すると、デスラー総統が装置を動かした際、装置から惑星内部へ向けて電波が飛んでいるのをキャッチしました。どうやら、なんらかのコマンド列を惑星内部へ向けて電波を送ることで、人格交換システムが稼働しているようです。デスラー総統が装置を稼働させてくれたこと、そしてお二人が接触して元に戻ったこと、この二回のデータを採取出来たことが幸いしました。それによって、入れ替えたり元に戻したりする際のコマンド列が解析出来たのです。このインターフェース自体は至極単純なもので、応用すれば人格交換命令のコマンド列の生成も可能だと思います。それも、ランダムではなく、指定した人物同士の交換も可能です。そうすれば、他の方々も同様に元へ戻せると考えます」
沖田と土方は、おおと声を上げた。
「流石だな、真田くん。では、どうすれば良いかね?」
「はい。コマンド列は、『命令』と、人格交換の対象となる人物の『人格パターンデータ』で構成されています。つまり、『人格交換』命令、プラス『沖田提督』のようなコマンド列を生成するのです。人格交換命令は既に判明しておりますので、人格パターンのデータ化が実現出来れば、この問題を解決出来るようになるでしょう。まずは、沖田提督を表す人格パターンデータをどのように生成したかを逆解析します。それがわかれば、誰でも元へ戻せるでしょう。恐らく、解析はそれほど長くはかからないと思います」
沖田は、にこやかに頷いた。
「真田くん、ありがとう。では、すぐに解析を始めてくれないか」
「それでは、沖田提督は、私と一緒に艦内のラボへ来て頂けますか? 人格パターンデータの逆解析を直ぐに始めます」
「わかった。そうだな……わしと一緒にセレステラたちの身体もラボに連れて行こう」
沖田は、セレステラやミレーネルだった者たちを見つめた。二人は、それぞれガミラスに住む一般市民、そしてガミラスとも異なる異星の住民と入れ替わっていた。突然の人格交換に怯え切った二人は、今度は何をされるのかとビクビクしている。
「そんなに怯えんで欲しいのだがな」
それまで自信満々だった二人の態度の豹変に苦笑したあと、沖田は再び真田と土方に向き直った。
「データの作り方が判明次第、まずはセレステラを元へ戻せるか試したい。その間の艦隊の指揮は、土方、お前に任せるぞ」
土方は頷いた。
「問題ない。古代、お前はこの船の艦長の任に着け。真田も、頼んだぞ」
「お任せください」
「承知しました」
一方その頃、デウスーラでは――。
「タラン。そういえば、この艦には強力な試作兵器が搭載されていたはずだ。確か、もう使えるようになっていたのではないかね?」
デスラーのそばにいたのは、タランの身体に入っていた藤堂だった。彼は、まだ元に戻れずにいたのである。
「何度も言うが、私は、タランではなく地球人だ。その男は、私と入れ替わったままだ」
デスラーは、ふと笑みを浮かべた。
「ああ、すまない。そういえば、そうだったね。ならば、実際に撃ってみればわかることだね」
デスラーは、艦橋の戦闘指揮の座席に自らおもむき操作した。艦内のあらゆる兵員は、人格交換により混乱しており、持ち場を離れていた。
すると、艦橋中央に、ゆっくりと銃座がせり上がってきた。
「な、なんだね? それは」
デスラーは、銃座の背後に回ると、命令を発した。
「コンピュータ、これより、私の音声による命令を受け付けるよう、全システムを変更。直ちに波動砲の発射用意をしてくれたまえ」
デスラー本人の音声コマンドを受けた艦内コンピュータが応答した。
「只今の命令は、デスラー総統によるものと認識。これより、音声による命令で、コンピュータ制御での躁艦を承認します。只今より、試作兵器波動砲、通称デスラー砲の発射シーケンスを開始します。約一五分後に準備が完了する見込みです」
「よろしい。そのまま準備を進めたまえ」
デスラーは、不敵に笑うと、ゆっくりとタラン=藤堂を振り返った。
「念のため、もう二度と人格交換出来ないように、あの浮遊惑星ごと破壊してしまおうと思ってね。その為の用意を始めたところだ」
藤堂は、デスラーの言っている意味を考えて、真っ青になった。
「惑星を破壊する……? まさか。そのような兵器が……」
「君の身体……タランくんはとても有能でね。これは、ゲシュ=タム機関の技術を転用して彼が研究開発していた大量破壊兵器なんだ。まだ試作段階だが、一発だけ撃てるようになったと報告を受けたと記憶している」
藤堂は、それを聞いて青ざめた。
「まさか、そんな強力な武器が搭載されているというのか……?」
デスラーは、低い声で笑いだした。
「そのまさかだよ。あれを破壊出来れば、私の邪魔をする、くだらない反体制派や純血主義者の連中をまとめて一掃出来る。私は、この混乱をおさめて、マゼラン銀河を統一する。そして、銀河に平和が戻った暁には、イスカンダルとの大統合が実現出来るだろう。そうして、やっとあの時交わした約束を果たすことが出来る。……スターシャ」
やがてそれは高笑いに変わった。
デスラーが自身の野望に夢中になっているのを横目に、後ずさりした藤堂は、通信士の座席を探した。
あれを放っておいては、自分もこのまま元へ戻れないということだ。沖田くんや土方くんたちに伝えなければ……。
ドメルの乗艦、ドメラーズ三世――。
「サーシャ様、戦艦シュバリエルより入電。ユリーシャ様ご本人からの通信です」
ドメルと入れ替わって、その中の人となった副総統ヒスは、最初の混乱から冷静さを取り戻していた。
「ヒス副総統、ありがとう。三次元スクリーンに出してくださる?」
ドメル=ヒスは、通信士の座席に移動すると、通信をスクリーンに投影するように接続した。ドメルの艦でも、ヒス以外の乗組員が人格交換で別人に入れ替わっていたため、まともに作業が出来るのがヒスしかいなかった。ヒスが端末を苦労して操作し、通信が接続されると、すぐにドメラーズ三世の艦橋に、ユリーシャが立体映像として現れた。
「サーシャ姉様。困ったことになった。緊急で相談がある」
「どうしたの? ユリーシャ。人格交換の問題を解決出来るって、さっき連絡があったばかりじゃないの」
三次元の映像のユリーシャは、手を広げてため息をついた。
「デスラー総統は、下の浮遊惑星を破壊しようとしている。たった今、デウスーラにいるトウドウから連絡があった」
「惑星を破壊するですって?」
ユリーシャは、悲しそうな表情で言った。
「デスラー総統は、密かに波動砲を作っていた」
サーシャは、ぎょっとして目を大きく見開いた。
「波動砲……?」
「どうしよう、サーシャ姉様」
「デスラー総統は、二度と人格交換を出来ないようにしようとしているということね」
サーシャは、少しの間考え込んだ。そして、急いでドメル=ヒスを振り返った。
「聞いての通りよ、ヒスさん。この船で、デスラー総統が波動砲を撃つのを妨害できないかしら?」
ヒスは、もぬけの殻となった艦橋の様子を見まわした。
「……やりたいのはやまやまですが、今は動ける乗員がおりません。私は艦の運用訓練を受けたことがない文官です。残念ながら、私は運用の仕方がわかりません。ただ、全自動のコンピュータ制御で艦を動かすことが出来ると聞いたことがあります。動くまで時間はかかるかも知れませんが、これから試してみます」
これには、サーシャは再び考え込んだ。
「うーん。いいけどだいぶ時間がかかりそうね。ユリーシャ、そっちでなんとか出来ないかしら?」
ユリーシャは、自分の船の艦内にいる土方に相談した。
「ヒジカタ。今の話は聞いていたと思うけど、地球人で対処できる? デウスーラの艦首に見えるのが波動砲の発射口だと思う」
土方は、船の外部を映したスクリーンに捉えられたデウスーラの艦の様子を確認した。
「はい。地球人の乗組員は、人格交換されなかったので、こちらの艦の運用は可能です」
土方は、古代守に急ぎ声をかけた。
「古代。少々危険だが、艦を動かして、デウスーラの前方に出て波動砲の発射を妨害しよう。出来るか?」
「あのデカぶつを相手にですか? うーん、厳しいですが、やってみましょう」
シュルツ艦隊の旗艦である、ガイデロール級戦艦シュバリエルであっても、デウスーラには敵わない可能性が高い。それでも艦内は、守の指示で、にわかに慌ただしく乗組員が動きだした。
「緊急発進で、あのでかいのの前方に飛び出そう。エンジン全開、おもーかーじ!」
「勝手なことをするな! 総統の邪魔をするなど、もってのほかだぞ!」
ガンツ=ゲールは、不愉快そうに守の肩を掴んだ。守は、呆れたようにその手を振り払った。
「だったら、あんたは、そのまんまがいいって言うのかい?」
ゲールは、すぐそばに呆然と立っている自分の身体の方をまじまじと見た。
「いや、それは困る……。しかしだな、わしは総統に忠誠を誓った身で、このような行為は、反逆行為であってだな」
「ゲール少将……。勘弁して下さい。私は、こんな身体では嫌です!」
ゲールの身体に入ったガンツは、泣きそうな顔で訴えている。
「貴様、わしの身体がそんなに嫌か!」
二人が言い争っている間に、守は次の指示を出した。
「全砲門開け! 目標、右舷前方の大型戦艦デウスーラ!」
続く…
注)
・宇宙戦艦ヤマト2199を元にした二次創作小説です。一部、若干のキャラ崩壊がみられますが、予めご承知おき下さい。
・以前、私がPixivに投稿した「君の本当の名は」を元にし、これに大幅に加筆しています。
・pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開、または公開を予定しています。