一方、デウスーラでは――。
タラン=藤堂は、デスラーに通信機を使っているのがバレていないか、ビクビクしていた。そんなところへ、逆に新たな通信を受領していた。
「これは……」
通信は、他のガミラス艦からのものだった。
ちらとデスラーの様子を見ると、彼は前方に集中していて、通信には気が付いていないようだった。
恐る恐る通信を受諾してヘッドセットで会話を試みると、相手は副総統と名乗る人物だった。デスラーを止める為に説得をしたいとのことであった。
藤堂はやむを得ず、こわごわデスラーに声を掛けた。
「デスラー総統。あなたの国の副総統から通信が入っているぞ」
「……ヒスくんが? 無視してくれたまえ」
「そうはいかん。あなたは聞くべきだ」
デスラーは不機嫌な顔を見せるも、藤堂が勝手に繋いだ通信の立体映像が浮かび上がった為、そちらの方を向いた。そしてそこには、ドメルの姿があった。
「デスラー」
デスラーは、ふうと息を吐き出した。
「エルク……。君は、本当にヒスくんなのかね?」
そのドメルは、怒りに震えていた。
「そうだ私だ。ヒスだ」
デスラーは小さくため息を吐くと微笑んだ。
「本当に君か。あなたが、ドメルに入っているとはねぇ」
「いったいなんのマネだ、デスラー。こんなことをして、お前になんの得がある」
デスラーは、暗い笑みを浮かべた。
「私の崇高な目的を果たすのを邪魔する者たちを排除した……。それだけだ」
ヒスは、一瞬言葉を失った。
しかし、デスラーが本気でそう思っていることは、ヒスの目にも明らかだった。
「崇高な目的とはなんだ。大ガミラスの完全な支配か? それとも、大小マゼラン銀河の支配か? ……いや、お前のことだ。イスカンダルとの大統合を果たすと言っていたな。こんなことをして、スターシャ女王がお許しになるはずが無い」
デスラーは頭を振った。
「大ガミラスの統治を盤石にすることで、大小マゼラン銀河の統一も容易に果たせるだろう。銀河の平穏をこの手にすれば、必ずやスターシャは大統合にも同意するに違いない。その為に、必要な処置だったのだ」
「……それで? 本当にスターシャ女王が、これをお喜びになると?」
「私は……彼女に約束したのだよ」
ヒスは、目を血走らせて、デスラーを睨みつけた。
「ガミラス臣民を犠牲にしてもか! 貴様、それでも指導者か!?」
「ゼーリックくんは、私を暗殺しようとして捕まった。私の邪魔をする同じような輩が多数いることは、君も知っているだろう。私のこの懸念は、あなたも理解出来ると思うのだがね。それに、そのような批判があるであろうことは覚悟の上だ。甘んじて受け入れると決めたのだよ」
ヒスは、拳を握り締めて怒りに震えた。そして、もはや何を言っても彼には響かないと悟った。
その時、デウスーラの艦橋に、警告音と共に、コンピュータによる合成音声が響いた。
「警告。前方の味方識別艦が武器システムオンライン。本艦を照準に捉えています」
デスラーは、すぐにそちらに注意を向けた。
「回避行動!」
「了解、回避行動パターンαにより、照準から外れます」
デウスーラは、自動制御で後進と下降をかけ、前方に飛び出してきたシュルツの船、戦艦シュバリエルの照準から逃れた。
「あの船には、オキタたちが乗っているようだね。彼らは、まだ諦めていないらしい。君とこれ以上話している暇はない。通信終了」
デスラーが命じると、コンピュータが自動的に通信を切断して、立体映像のヒスがかき消えた。
「コンピュータ、直ちに艦の防衛を実行したまえ」
「現在、デスラー砲へのエネルギー充填中です。主砲等、大口径の武器システムをオンラインにすることは出来ません。デスラー砲の発射準備を中止しますか?」
コンピュータの応答に、デスラーは舌打ちをした。
「……いや、デスラー砲の用意は最優先だ。あと何分で発射可能になるのかね?」
「発射準備完了まで、残りおよそ七分です」
先程の回避行動で移動したデウスーラの艦首は、浮遊惑星から大きくずれていた。デスラーは、デスラー砲の銃座を掴み、銃口を再び前方の浮遊惑星へと向けた。しかし、その正面に再び戦艦シユバリエルが移動してきた。
「コンピュータ、デスラー砲の準備をしたままで現在使用可能な武器は?」
「艦首魚雷であれば、発射可能です」
デスラーはにやりと笑った。
「ならば、艦首魚雷の用意をしたまえ。あの船を、デスラー砲の準備が完了するまでの間、追い払えるだけでいい」
「了解、魚雷の目標を前方の戦艦シュバリエルに設定して、攻撃を開始します」
少しして、魚雷を発射した際の衝撃が、艦内に響いた。その時、タラン=藤堂は、デスラーと目が合った。
「君たちテロン人は、あの浮遊惑星を破壊した後で滅ぼすことに決めたよ」
「待ち給え、デスラー総統! あの惑星を破壊したら、私だけで無く、多くの君たちの銀河の人々が元に戻れなくなるのだぞ。本当にそれでいいのかね?」
コンピュータの音声が無慈悲に艦内に響く。
「……魚雷四本航走中、約一〇秒で目標に到達。続いて、次弾装填」
守は、戦艦シュバリエルの艦長席で叫んだ。
「回避行動をしつつ、対空戦闘開始! デウスーラが放った魚雷を迎撃するんだ!」
船は、激しく蛇行して、艦橋付近に設けられた機関砲が火を吹き、弾幕を張った。
土方は、激しい揺れで倒れそうになりながら、ラボに移動した真田に艦内通信で連絡をとった。
「真田、解析はまだ終わらないのか!? あと五分程度で、波動砲が発射されてしまうぞ!」
しばしの沈黙の後、真田の代わりに雪が応答した。
「大丈夫です。真田さんは既に解析を完了し、今は、 セレステラさんを元に戻せるか試そうとしています」
そのラボでは、激しい揺れで何度も倒れそうになりながら、雪がベッドに寝かせたセレステラの身体に電極を着けていた。そして真田の扱うコンピュータからケーブルを伸ばしてその電極に繋げた。
「真田さん、準備出来ました!」
「森くん、ありがとう」
真田は、端末に向かい、キーボードに素早く命令を打ち込んでいた。雪は、不安そうに真田の端末の表示と、ベッドに寝かせているセレステラの身体とを交互に見た。ラボに一緒に降りていたユリーシャは、雪のそばにやって来ると、彼女の手をとった。
「ユリーシャ?」
「大丈夫、きっと上手く行く」
ユリーシャと雪は、何故か見つめ合っていた。
真田は、振り返って沖田に言った。
「沖田提督、セレステラさんを元へ戻す準備が整いました」
沖田は素早く返答した。
「構わん、直ちに、実行!」
真田は無言で頷くと、キーボードのエンターキーを叩いた。その瞬間、戦艦シュバリエルの通信装置は、眼下の浮遊惑星へとコマンド列の電波を送信した。
その時、艦内が更に激しく揺れた。
「きゃあ!」
雪とユリーシャの叫び声がしたかと思うと、二人は折り重なって、床に倒れた。ベッドに寝ていたセレステラの身体から、ケーブルが外れると、彼女の身体も床に落ちそうになる。沖田は、慌ててその下へ滑り込み、彼女の身体はその上に伸し掛かっていた。
「うむむ……!」
セレステラの身体を無理な体制で支えた沖田は、苦悶の表情で床に這いつくばったまま、セレステラの身体を抱き寄せた。どうやら、怪我をさせずに済んだらしい。その彼女は、ゆっくりと目を瞬かせると、沖田の顔を凝視した。
「私はいったい……? ……総統?」
沖田は、身体を起こして強く彼女を抱き寄せた。
「君の名前は?」
セレステラは、そこで初めて自分の身体を触って確認した。
「これは……私の身体? 元に戻ったの?? 私は、セレステラよ!」
沖田は、真田に言った。
「真田くん、成功だ!」
真田は、ほっとして頷いた。真田と目配せした雪は、艦橋にいる土方に艦内通信で連絡をとった。
「土方さん、成功です! 真田さんがやってくれました」
土方は、守に大声で伝えた。
「真田がやったぞ、古代!」
その守はと言えば、躁艦の指示で忙しかった。
「こちらも艦首魚雷発射用意! 弾幕を張り続けろ!」
艦外で閃光が走り、またも艦が激しく揺れた。
「機関室に火災発生! 推力低下!」
報告を聞いた守は、早口で土方に言った。
「土方さん、もう長く保ちません! この後はどうするんですか!?」
「わかっている。おい、沖田、もうあまり時間が無いぞ!」
艦内通信に応えた沖田は、どうすべきか少し考え込んだ。そんな時、セレステラが言った。
「あなたは、オキタ……? 総統……? どっちなの?」
セレステラは、沖田がまだデスラーのままだと思いこんでおり、混乱しているらしい。その瞬間、沖田はふとこの事態を解決する策を閃いた。
「……そうか、君のおかげで手が見つかった。感謝するぞ、セレステラ」
沖田は、落ち着いて真田に指示を出した。
「デスラー砲、発射準備完了しました」
コンピュータの報告を受けたデスラーは、ふうと大きく息を吐き出した。
「やっとか」
デスラーは、艦首を浮遊惑星へ向けた。その正面には、戦闘シュバリエルの姿がはっきりと捉えられている。
「デスラー砲、発射五秒前からカウントダウンを開始」
「了解、カウントダウン開始します」
タラン=藤堂は、デスラーに飛び掛かろうとするも、気付いたデスラーに銃を向けられて立ち止まった。
「デスラー総統……!」
「もう終わりだ。そこで、少し待っていたまえ」
艦内にカウントダウンの音声が響く。
「五、四……」
デスラーは、正面に浮遊惑星を捉え続けた。シュバリエルが放った魚雷が、艦の前方や側面に何本か命中して、船が揺れた。
「退かないと言うのなら、あの船は一緒に消滅してもらうまでだ」
「三、二、一……」
デスラーは、引き金に掛けた指に力を込めた。
その瞬間――。
「はっ……!」
デスラーは、その腕にいつの間にか女を抱いていることに気が付いた。彼の腕の中にいたのは、セレステラだった。
「まさか……! やられた……!」
再び沖田と入れ替わったデスラーは、そこに待機していた地球人兵士にとり囲まれ、あっという間に拘束された。
一方、デウスーラの艦橋では、冷や汗を一筋流したデスラーが、震える手をもう片方の手で抑えながら、デスラー砲の発射装置から手を離した。
「デスラー総統……?」
タラン=藤堂は、デスラーの様子が先程までとは明らかに変わったことに気付いた。
デスラーは、その藤堂ににやりと笑い返した。
「長官。もう、大丈夫です」
藤堂は、目を白黒させて、ふらふらと床に腰を落とした。
「そうか……。き、君は沖田くんなんだな……?」
「はい。申し訳ありません。ご心配をお掛けしました」
続く…
注)
・宇宙戦艦ヤマト2199を元にした二次創作小説です。一部、若干のキャラ崩壊がみられますが、予めご承知おき下さい。
・以前、私がPixivに投稿した「君の本当の名は」を元にし、これに大幅に加筆しています。
・pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開、または公開を予定しています。