地球――。
あれから半月。
沖田=デスラーは、極東管区行政局の藤堂=タランの執務室で、彼の席に陣取り、ビデオ鑑賞をしていた。暇に任せて、宇宙艦隊のデータベースのライブラリにあった、様々な映画やドラマを眺めていた。
デスラーは、菓子を食べながら、真剣な表情をしたり、笑ったり、涙したりしながら、気になったコンテンツを、片っ端から見ていた。
「タラン。この、アイスという食べ物だが、我が国にも似た食べ物はあるが、こっちのはバリエーションが素晴らしい。帰ったら、我がガミラスでも作らせようではないか。レシピを持ち帰るのを、忘れないでくれたまえ」
タランは、執務室のソファーで、携帯端末をいじっていた手を止めた。
「……そんなことより、総統。こんな所に入り浸っていてもいいんですか?」
デスラーは、食べ終わったアイスの棒を振り回した。
「別に構わないだろう? ユリーシャ姫も、あれから特に動きは無いし、地球人に我々のことをバラした様子もない。例のセリザワが言っていた、ほら、何と言ったかな……。確か、ヤマトとかヤマッテとかいう船が完成するまでは、我々は帰国したくても出来ない。何しろ、テロンには恒星間宇宙船が今は存在しないんだからね。我軍も、遊星爆弾攻撃ばかりで、テロンに侵攻する気配も無い。だから、軍人たるオキタの出番も今は無い。ヤマッテが完成するまでは、こうして、ここでの暮らしをそれなりに楽しむのが良いとは思わないかね?」
タランは、ため息をついて頭をかいた。
「そのことは、私も分かっています。それより、サド先生から何度も病院に来るようにと呼び出しが入っています。行かなくていいんですか?」
デスラーは、新しい菓子を開封しようとしていた。
「記憶喪失の件なら、行く必要は無いだろう」
「サド先生によれば、そのオキタの身体は、不治の病で余命幾ばくもないと、そう聞いているのですが」
デスラーは、菓子の袋をポロリと床に落とした。その中身が、執務室の床に散らばった。
「タラン、今、何と言ったかね?」
「……それ、片付けて頂けますか?」
佐渡の病院で診察が終わり、気落ちしたデスラーは、原田に見送られていた。
「記憶喪失で、病気のことも忘れてたんですね。そんなに気を落とさないで下さい。佐渡先生も、日夜治療法を探していますから」
「気休めはいい。きっと、この星の今の医学では、治療法が見つかるよりも、この身体の方が死を迎えるのが先だろう」
……ガミラスに帰国しない限り。
この病気の名は、遊星爆弾症候群。ガミラスに帰国すれば、治療することも不可能ではない。何しろ、ガミラスが放った敵性植物なのだから。
「こうなったら、のんびりもしていられないか。もっと早く、ガミラスに帰る方法を考えなければ」
原田は、頭にハテナマークがたくさん浮かんでいた。
「はい……?」
「あ、いや。何でもない。気にするな」
……ヤマッテの完成を待たずに、ガミラスへ帰国する方法は何かないだろうか? それには、ジャンプ可能な宇宙船と、今は敵であるガミラス軍を欺く作戦を考えなければならない。
そんな二人のところに、駆けつけて来る男がいた。
デスラーは、それが、あの日以来顔を会わせないようにしてきた土方なのに気がつくと、目線を反らした。
「沖田……! お前、病気のことも記憶がないと佐渡先生に聞いて慌てて来たんだ。大丈夫か?」
土方は、沖田の両肩を掴むと、顔を見ようと顔を近付けた。それに恐怖したデスラーの背中に、急激に悪寒が走った。
「や、止めてくれないか。私から、離れたまえ」
土方は、ショックを受けた顔をして、顔を強張らせた。そして、残念そうにその手を離した。
「す、すまん」
どうやら、土方は、沖田が心配でたまらないといった様子だ。
先日の一件から、土方の態度は怪しかった。さすがのデスラーも、何かことが起こってからでは遅いと、彼を近付けまいと、タランの執務室に入り浸っていたのだ。
しかし……。
デスラーは、拒絶されて落ち込んでいる土方を、まじまじと見た。
考えてみれば、この男は沖田と並んでテロンで最も優秀な軍人らしい。この男にも、テロンからの脱出を手伝わせなければ……。
デスラーは、ふと、そのアイデアが浮かんでいた。
ジャンプ可能な宇宙船……。よく考えたら、たくさんあるじゃないか。
「いや、こちらこそすまない、ヒジカタ。折り入って、相談があるんだが」
土方は、現金にも、再び元気を取り戻した。
「な、何だ? 何でも言ってくれ」
デスラーは、ニヤリと笑った。
「ガミラスを……軽くひねりに行くのを、手伝ってくれないかね?」
それから、更に半月後――。
デスラーが座乗する宇宙戦艦キリシマを旗艦とする地球艦隊約二〇隻は、木星宙域に展開していた。
キリシマの艦橋で、デスラーはタランと並んで、磁力ブーツを履いて立っていた。
「重力制御も無い宇宙船だとはね。まったくもってテロン人は劣等種族だね」
「そんなことより、総統。私の立場は行政局の長官で、軍事作戦の前線に出る人間ではないのですが」
「気にするな。この作戦には、君の助けが必要だ」
二人は、耳を寄せてひそひそと話していた。
「しかし……。艦長のヤマナミが、さっきから怪しんでこちらを見てます」
キリシマの艦橋の艦長席には、山南が座り艦の指揮をとっていた。その彼は、二人の様子を不思議そうにチラチラと見ていた。
「あのう……。沖田提督。本当に、木星の衛星とかではなく、木星そのものなんかに、ガミラスの基地があるんですか?」
デスラーは、話を止めてタランから離れると、出来るだけ落ち着いた声で応えた。
「ある。まずは、センサーで木星をくまなく調査したまえ。発見次第、作戦を開始する」
デスラーは、通信機のマイクを掴むと、同型の金剛型戦艦に乗る土方に連絡をとった。
「これより、木星ガミラス軍基地の位置を発見次第、キリシマ単艦で、攻略作戦を開始する。君には、ガミラス艦隊が現れた場合に、これを引き付け、陽動作戦を展開してもらいたい。これは、戦闘が目的ではない。損害を出さないように、上手くやってくれたまえ」
土方がそれに応えた。
「分かった。こちらは任せてくれ。だが、お前も決して無理はするなよ?」
「心配ない。これまでの調査によれば、この秘匿されたガミラスの木星基地には、大した戦力は無いという分析結果がある。私に任せてくれたまえ」
その時、土方の艦の電探に反応があった。
「ガミラス艦隊、接近。艦影多数、約三〇隻を探知!」
土方は、大きな声で指示をした。
「始めるぞ! 奴らの艦隊と相対させて、戦闘を始めるように見せかけるんだ! 敵の武器使用の兆候を探知したら、直ぐに後退させる!」
土方率いる地球艦隊は、キリシマから離れ、艦隊をガミラス艦隊へと向けた。
キリシマは、木星の重力圏ギリギリの上空まで降下して、周回しながら探索を続けた。
タランは、再びひそひそとデスラーと会話した。
「総統。ここに基地があるとの情報ですが、単に私がテロン攻略作戦の概況をたまたま知っていたに過ぎません。こんなこと、いつかバレますよ」
デスラーは、不敵に笑って応えた。
「だが、君と私の立場を利用すれば、どうにでもなるさ」
その時、いよいよセンサーで、木星の上空に漂う大きな物体を捉えたとの報告が上がった。山南は、驚きの声を上げた。
「提督! 本当にあったみたいです!」
デスラーは、当然だというふうに、自信たっぷりに頷いた。
タランは、デスラーと目配せすると、指示を出した。
「航海長、その物体上空に移動してくれ。センサーで、よく調べる」
タランは、センサーの分析結果を確認していた。そして、デスラーの近くに戻ると、小声でひそひそと報告した。
「これは、浮遊大陸で間違いありません。熱源センサーによれば、やはり大した基地ではないようです。このサイズなら、駆逐艦クラス三から四隻の艦船格納庫と、迎撃ミサイルシステムや、惑星間弾道弾のミサイルサイロがいくつかあるだけです。司令部も小さな建物ぐらいのサイズですね。すべて、想定どおりです」
デスラーは、満足そうに頷いた。
「やっぱり、君に来てもらってよかったよ」
デスラーは、冷静に山南に指示をした。
「空間騎兵隊に連絡。作戦開始を命じてくれたまえ!」
キリシマのシャトル格納庫に集まった空間騎兵隊の隊長桐生は、大声で隊員たちに指示した。
「お前ら出番だぞ! 木星基地攻略作戦の成功は、我々の戦いにかかっている! 存分に暴れてやれ!」
総勢、二十名の空間騎兵隊の隊員たちは、大声でこれに応えた。
「やってやろうぜ!」
「ガミラスの奴らに、目にもの見せてやる!」
斉藤や永倉などの隊員たちは、生き生きと開口したシャトル格納庫から、次々と飛び出していった。
キリシマの艦橋では、状況報告が刻々と入って来ていた。
「空間騎兵隊、木星ガミラス基地への降下開始!」
「約、五分で浮遊大陸への展開を完了します!」
デスラーは、腕組みして、報告を嬉しそうに聞いていた。しかし、ふと、不安を覚えて念の為タランに確認した。
「タラン、たった二十名の兵士だけで、上手く行くと思うかね?」
「恐らく、白兵戦で攻撃を受けるなど、まったく備えも想定もしていないでしょう。心配はいりません」
その後も、報告は続いた。
「大陸への降下成功!」
「空間騎兵隊は、ガミラス基地司令部へ侵入し、戦闘が始まっています!」
報告を受けた山南は、感心した様子で、デスラーに話しかけた。
「提督、流石です! これは、ひょっとすると、ひょっとしますよ!」
デスラーは、顎に生えた髭を弄って、満足そうに応えた。
「成功を疑っていたのかね? なあに、当然の結果だよ」
デスラーは、不敵な笑い声を上げた。
「ふっ、ふっ、ふっふ……ふははははっ!」
「て、提督……?」
山南は、まるで悪人のような沖田の表情を、不思議そうに見つめていた。
タランは、肘でデスラーの脇をつついた。
「そういうの、控えて下さい」
「ん、ああ、そうか。つい、興奮してしまってね」
それから、十分後――。
「木星ガミラス基地、占領に成功しました!」
キリシマの艦内に歓声が上がった。
「や、やったぞ!」
「これは、この戦争が始まって以来の大金星だな!」
デスラーは、さも当然だと思っていた。
「基地の司令官を拘束したところ、ガミラス兵は次々と投降しているそうです」
その報告を聞いたデスラーは、大きく腕を前に突き出した。
「よし! ヒジカタと戦っているガミラス艦隊に向け、基地から迎撃ミサイルを撃て! 奴らをここから追い払うのだ!」
山南は、慌てて急ぎ木星基地の隊員と連絡をとった。
「……提督。ガミラス基地の操作盤の文字が読めず、無理だと桐生隊長から報告が上がっています」
タランは、助け舟を出した。
「ガミラスぐらいの進んだ文明の異星人なら、翻訳機を持っている筈だ。捕虜の身体を調べてみたまえ。身体のどこかに、翻訳機を装着しているかも知れない」
「は、はあ、桐生隊長に話してみます」
山南は、半信半疑で基地と連絡をとった。
一方、基地を占領した空間騎兵隊の桐生隊長は、斉藤と永倉に命じて、捕虜となった司令官らしき男の身体を調べさせた。永倉が銃を向けると、彼が抱いていた小さな動物が逃げ出した。
「あれっ? ……ネコちゃんみたいな動物がいるじゃない?」
永倉は、シッポが二つも生えたそれを、追いかけて行った。
「何やってんだよ、永倉のやつ……」
斉藤は、不満そうに、一人で司令官の身体を調べ始めた。すると、首筋に、小さな装置が、装着されているのに気付いた。
「何だこりゃ?」
斉藤は、それを摘んで無理やり引き剥がした。そして、しげしげとそれを眺めていた。
「こいつが、翻訳機かもしれねえな。これを、首筋に、つけりゃいいんだな?」
ネコらしき動物を捕まえて戻って来た永倉は、斉藤の様子を見て言った。
「あっ……。いきなりそんなものつけちゃ危ないじゃないか!」
しかし、その警告は遅く、既に装着した後だった。
「おい、ガミ公! 俺の言葉がわかるか!?」
司令官の男は、斉藤の剣幕に怯えていた。
「なんだよ、それじゃあ、わかんねえじゃねえか。お前の名は!? 言え!」
司令官は、襟首を斉藤に掴まれ、苦しそうにしていた。
「わ、私の名は、ラーレタ。階級は少佐よ。その……私の大事なペットを、返してくれない?」
斉藤は、その男の話し方に驚き、思わず手を離してしまっていた。
「……な、何だコイツ? ま、まぁいい。桐生隊長! 翻訳機、発見しました! 捕虜の首筋についているのが、それです!」
山南は、タランに報告した。
「空間騎兵隊がやってくれました! 翻訳機を発見し、基地の防衛システムで、迎撃ミサイルの発射が可能になりました!」
デスラーは、ふっと笑った。
「なら、さっさとやってくれ」
「は、はい!」
そうして、木星基地から迎撃ミサイルが発射されるとガミラス艦隊は、あっという間に撤退して行った。
「よし……。これで、基地にあるガミラス艦を接収すれば、ジャンプ可能な宇宙船が手に入ったということだ」
デスラーは、また、不敵にも笑い声を上げそうになっていた。
「それ、本当に止めた方が良いですね」
タランの小さな声での警告で、デスラーはしぶしぶ、笑い出すのを止めた。
「私は、戦争をしているのだよ?」
「だから、何なんです?」
続く…
注)
・宇宙戦艦ヤマト2199を元にした二次創作小説です。一部、若干のキャラ崩壊がみられますが、予めご承知おき下さい。
・以前、私がPixivに投稿した「君の本当の名は」を元にし、これに大幅に加筆しています。
・pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開、または公開を予定しています。