本当の君の名は2198   作:とも2199

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宇宙戦艦ヤマト2199を元にした二次創作小説です。


(5)酒は飲んでも、飲まれるな

 大マゼラン銀河――。

 

 ゼーリックの座乗するゼルグートⅡ世は、自身の護衛艦隊三〇隻を引き連れ、タランチュラ星雲に差し掛かっていた。

 艦長のバンデベル准将は、艦橋で航路図を示して、国家元帥であるゼーリックに伝えた。

「ゼーリック元帥。バラン星に向かうには、七色星団を迂回して、このコースで進みます。その為、バラン星到着は、およそ三週間後になります」

 ゼーリックは、憮然とした表情で、バンデベルを睨んだ。

「遅い。遅すぎる。先に出航した総統の護衛艦隊は、つい先程、七色星団を抜けるコースをとっている。吾輩は、奴の船を追え、と言っているのだが?」

「しかし……。ご存知の通り、七色星団は、宇宙の難所。レーダーもほとんど役に立たず、異常な宇宙気象が渦巻く宙域です。このゼルグートⅡ世といえども、遭難する可能性があります。こんな危険なコースをとる訳には……」

 ゼーリックは、バンデベルに顔がくっつきそうになるほど近付いた。そして、彼だけに聞こえるように、小さな声で話した。

「バンデベル。お前は、この作戦の重要な意味、本当に分かっているのか? この宇宙の平穏と安定の為には、今こそ、吾輩が立つ必要がある。それには、邪魔者には、速やかに退場してもらう方が望ましい。これこそは、大ガミラスが定めた運命。七色星団とて、吾輩の為に道を開けてくれよう」

 バンデベルは、不安そうな表情で、辺りを見回した。幸い、艦橋にいる兵士たちは、二人の会話には気づいていない。

「本気で、総統のデウスーラⅡ世を沈めるおつもりで?」

 ゼーリックは、必要以上に大袈裟に驚いたような顔をしていた。

「ひーと聞きの悪いことを言う。我々は、軍を脱走した不埒な者どもを懲らしめる為に出航したのだ。ただし、あそこなら、偶然、不慮の事故で船が沈むことだってある。そうではないかね?」

 バンデベルは、しぶしぶ従うことにした。

「……部下たちには、そういう名目でしたね。はぁ……。分かりました。しかし、そんな不慮の事故に、我々も見舞われる可能性があることを、忘れないで下さいよ」

「分かってくれたようで、何よりだ」

 バンデベルは、大きな声で、指示を発した。

「航海士、コースが決まった。コース七二八、目標、七色星団!」

 艦橋の中は、騒然としていた。それは、本当に七色星団を超えるのか、という驚きだった。それほど、このコースは難所だったのだ。

「この偉大なるゼルグートⅡ世に、七色星団を超えられぬ訳がない。全艦、発進!」

 ゼーリック艦隊は、コースを変更し、七色星団を縦断するルートへと方向転換した。

 

 一方その頃、沖田の乗る新造艦デウスーラⅡ世は、正に七色星団の只中にいた。

 稲光が光り、悪天候が続く宇宙空間を、デウスーラは進み、その護衛を務める親衛隊の艦船一二隻が、それを囲んで付き従っていた。

 デウスーラの艦橋では、総統用の椅子に座った沖田に、総統専属の護衛兼侍女の二人の女から、酒が振る舞われていた。黙って受け取った彼は、グラスをしげしげと見つめた。

「これは……。ガミラスの指導者は、船で酒まで飲めるのか」

 彼のすぐ脇に立っていた藤堂は、渋い表情で沖田を眺めていた。

「私には、座席すら無いというのにね。沖田くん、異星の酒など口にして、悪酔いしても知らないからな」

 沖田は、既にグラスに口を付けており、頬をほんのり赤くして、いかにも機嫌が良いという風情で応えた。

「いや、これは美味いですぞ。長官も、一杯やりますか?」

「……私は結構だ。もう、酔ってるんじゃないのかね?」

「異星の酒とは言え、この身体はガミラス人のものですからな。それに、普段からこうしているのが普通なら、飲まなければ、却って怪しまれますぞ」

 そう言いつつグラスを空にした沖田は、続けて次のグラスを要求した。そうして、ハラハラして見守る藤堂を尻目に、沖田は杯を重ねて行った。

 艦橋の窓の外では、稲光の閃光が走り、眩しく艦内を照らした。沖田は、グラスを傾けながら、ご機嫌でそれを眺めていた。

「やっぱり、船は海の上だな。まるで、悪天候の中を行く、洋上艦のようだ」

 セレステラは、総統の椅子に手を置いて呟いた。

「この、七色星団は危険なルート。通常は、迂回して行くの。でも、私たちは、テロンへ急がなければならない。だから無理にでも、このルートを選択した」

 その時、セレステラと、ミレーネルは、急に背中に悪寒が走り、二人は顔を見合わせた。

「何かしら?」

「この、嫌な感覚は……」

 セレステラは、通信士に尋ねた。

「偵察機から、何か報告はない?」

 通信士は、驚いたように振り向いて答えた。

「は、はい。たった今、後方から我軍の艦隊三〇隻余りが接近中との報告があったところです」

「……いったい、どこの部隊?」

「お待ち下さい……。これは、ゼーリック元帥の護衛艦隊のようです。ゼルグートⅡ世の艦影が確認されています」

 セレステラは、ミレーネルと顔を見合わせて青ざめていた。

「ゼーリックめ……! 何故、こんな所まで、わざわざ総統を追ってくるの!?」

「ミーゼラ……。あの男のことだから、総統の命を狙って来たと考えてもおかしくない。さっきの悪寒も、きっとそのせいよ」

「まさか……!」

「そのまさかよ、たぶん」

 藤堂は、総統の命が狙われていると聞いて、目を丸くした。

「どういうことなんだね? 今の話しだが……」

 藤堂の問い掛けに、渋い顔でミレーネルは返答した。

「聞いた通りよ。総統には、その地位を狙う多くの政敵がいるの」

 焦る藤堂とは対照的に、沖田は話を聞いているのか、いないのか、特に気にする様子もなく、更に新たなグラスを受け取っている。

 そんな時、艦橋にサーシャが上がって来た。

「セレステラ。何か問題が起きていない? さっきから、嫌な予感がしているのだけど」

 セレステラたちジレル人には劣るものの、イスカンダル人にも、軽い精神感能の能力があった。

 心の中で舌打ちしたセレステラは、サーシャを睨みつけた。

「さあね。総統を亡き者にしようと考えている奴が現れたってところ」

 なるほど、という風に頷いたサーシャは、沖田のそばに近寄った。

「……問題発生みたいね、デスラー総統。あなたは、お姉さまに軍を退くと言っていたけど、軍人たちにまだ何の説明もしていない。ガミラスの中にいる敵に、どう対処するの? 下手をすれば、あなたは暗殺されるか、拘束されるかも。そうしたら、軍を退くどころではなくなってしまうでしょう。早速、あなたは試されている。本当に、お姉さまとの約束を守れるの?」

 セレステラは、ハラハラしながら、沖田が何と答えるか見ていた。ミレーネルは、憮然とした表情で、様子を見守っている。藤堂もまた、不安そうに沖田のことをじっと見つめていた。

 沖田は、ご機嫌なまま、グラスの中身を飲み干した。そして、鋭い眼光でサーシャを睨んだ。

「ならば、そこで見ていてもらいましょう。私が、君の姉上との約束を守れる男かどうか」

 スターシャと呼ばず、君の姉上という言い方をしていることに、サーシャは少しだけ引っかかっていたが、今はそんなことを気にしている場合でもなかった。

「いいでしょう、ここで拝見させてもらいます」

 沖田は、兵士に命じて、スクリーンにこの宙域の星図を映させた。そして、沖田は偵察機が捉えたゼーリックの艦隊の配置図や、宇宙気象図を確認しようと立ち上がった。

 しかし、かなり酔っていた沖田は、足元がふらついていた。すかさず、藤堂は沖田に走り寄ると、倒れそうな彼の身体を支えた。そして、サーシャに聞こえないように、ひそひそと話した。

「沖田くん、大丈夫か? 飲み過ぎたんじゃないのかね?」

 沖田は、笑顔で首を振った。

「はっはっは。この程度では、全然酔っていませんよ」

 沖田は、そう言いつつ、倒れそうになって、もう一度藤堂の身体に掴まった。

「少々、床が滑るようですな」

 そう言った沖田は、がははは、と破顔して笑っている。

「お、おい、完全に酔っているじゃないか。そんな状態で、指揮をとる気かね……?」

 藤堂は、青くなって心配を募らせていたが、沖田は大丈夫、大丈夫と言って、あくまで陽気だった。

 沖田は、藤堂に連れられて操舵手の椅子の背もたれに掴まると、彼に指示を出した。

「よ〜し、逃げるぞ! 操舵手、おも〜か〜じ!」

 デウスーラの航海士は、沖田を怪訝な顔で振り返った。

「オモカジ……?」

 藤堂は、突然日本語を口走る沖田の言葉に気がつくと、慌てて訂正した。

「右に転舵だ」

 デウスーラは、急激に右方向に転舵した。総統護衛艦隊は、何の指示もなく転舵したデウスーラに合わせて、慌てて同じ方向へ移動した。

「今度は、と〜りか〜じ!」

 沖田の命令に、航海士が再び振り返りそうだったので、藤堂はすぐに訂正した。

「左に転舵だ!」

 デウスーラは、その後も、フラフラと右に左に舵を切り、それに付き従う総統護衛艦隊は右往左往することになった。

 セレステラは、冷や汗をかいて頭を抱えた。

「なっ……なんなのあいつ」

 このまま、あいつに任せていたら、全滅してしまう……。

 彼女は、憤慨して、命令に口を出そうと沖田の方へ近寄った。

 

 ゼルグートⅡ世に乗るゼーリックは、今まさに、前方に別のガミラス艦隊発見の報を聞いていた。それこそが、デスラーの乗艦する艦隊に違いないと、ゼーリックは確信していた。

「前方にいる我軍の艦隊は、命令を無視して軍を逃げ出そうとしている不埒な輩である。まことに残念なことだが、最悪、撃沈もやむを得まい。これより、あれを敵と認定し、全艦、戦闘配置で後方につけろ!」

 しかし、そう言ったのも束の間、偵察機から新たな報告が入って来た。

「偵察機からの報告によれば、前方の敵艦隊は、フラフラして、不可解な動きをしているそうです。それから、見たこともない巨大な艦影を捉えたとの報告もあります」

 巨大な艦影と聞き、新造艦のデウスーラⅡ世のことを言っているとゼーリックは直ぐに理解した。しかし、この新造艦を開発していることは秘匿されており、ほとんどの一般の兵士はその存在すら知らなかった。

「……恐らくは、異星の協力者がいるのかも知れぬ。警戒を怠るなよ」

 ゼーリックは、攻撃命令を思い留まり、不思議そうに首をひねった。そして、艦長のバンデベルだけに聞こえるように、ひそひそと話した。

「フラフラしているらし〜い。いったいど〜したというのだ?」

 バンデベルもまた、考え込んでいた。

「もしかしたら、この宙域の異常な環境で発生した磁気嵐に飲み込まれてしまったのではないでしょうか?」

 ゼーリックは、暗い笑みを浮かべた。

「ほう。ならば、好都合というもの。吾輩が手を汚さずとも、自滅してくれるというのならば、それでもいい。これぞ、天からの恵み。吾輩が行く道こそ王道。吾輩は、既に勝利を約束されているのであ〜る!」

 ゼーリックは、気を良くして艦内に命じた。

「全艦、攻撃態勢を維持したまま、全速前進! 直接、敵艦隊の様子を見るのだ!」

 奴の最期を見届ける……!

 

「後方のゼーリック艦隊が急速接近中!」

 その時、閃光が走り、デウスーラの艦内は激しく揺れた。沖田に近寄ろうとしていたセレステラは、その揺れで床に倒れていた。ミレーネルやサーシャたちも、床に投げ出され、その痛みに動けずにいた。

「艦隊前方に磁気嵐! 本艦は、急速に接近しています! 進入してしまうと、艦の制御が困難になります!」

 しっかり操舵手の椅子に掴まっていた沖田は、陽気に答えた。

「なら、避ければいいではないか。磁気嵐の上に艦を向けろ。よ〜そろ〜!」

 相変わらずご機嫌の沖田の足元で、床に倒れていた藤堂は、操舵手に直ぐに訂正した。

「艦首を少し上げて前進だ!」

「はっ、はい!」

 

「偵察機からの報告! 前方の艦隊は、今度は艦首を上に向けて前進中! 相変わらず、フラフラしています!」

 ゼーリックは、気を良くして腕を前に突き出した。

「よ〜し! 艦隊はこのまま前進! 奴らの最期を確かめるのだ!」

 しかし、ゼーリック艦隊の進む先には、先程沖田が回避した磁気嵐が吹き荒れる宙域があった。レーダーがほとんど役に立たず、そこが安全な宙域だと勘違いしたまま、まっしぐらに飛び込んで行った。

 激しい揺れが艦内を襲い、ゼーリックは椅子から転げ落ちない様に、必死に肘掛けに掴まった。

「な、なんだ!? ど〜したのだ!?」

「げ、元帥! 本艦は、強力な磁気嵐に捕まりました! 全艦隊が進入してしまいました!」

 ゼーリックは、目を見開いて口をポカンと開けた。

「な……何だと!?」

 デスラーに謀られたというのか……!?

「計器が、次々に故障しています! 艦の制御……不能!」

「生命維持装置に障害発生!」

「ゲシュタム機関が暴走しています! 船を停められません!」

 あっという間の出来事に、ゼーリックの表情は、みるみる青ざめて行った。

「お、お前たち。な、何とかせんか。この、ゼルグートⅡ世が、この程度で沈むなどあり得ない!」

 艦長のバンデベルは、酷く憔悴した顔で、ゼーリックのそばに寄った。

「ゼーリック元帥。もう、艦隊を救うのは不可能です。艦を捨て、円盤部を離脱させましょう。離脱時の勢いで、今なら脱出出来ると思います。直ちにご決断を……!」

 ゼーリックは、フラフラと立ち上がり、スクリーンに映る、既に視認していたデスラーの艦隊の映像を見つめた。そして、血走った目でそれを睨むと呪いの声を上げた。

「くそ……。くそ……! くそう! な〜ぜだ! 何故、吾輩がこんな目に合わねばならんのだ……!」

 バンデベルは、錯乱する彼の姿を見て、もはや決断を待つ時間は無いと判断した。

「円盤部の離脱シーケンス開始。離脱時の連結部の爆破の衝撃を利用して、一気に磁気嵐から抜け出す。始めてくれ!」

 急に我に返ったゼーリックは、バンデベルに掴み掛かった。

「貴様、何を馬鹿なことを! こっ、このゼルグートⅡ世を捨てるなどありえぬ!」

 バンデベルは、流石に頭にきて言った。

「元帥は、ここで死ぬのがお望みですか? 私は、御免です!」

 ゼーリックは怒りのあまり、顔色を真っ赤にしていたが、彼もこんなところで死ぬのは本望でなかった。バンデベルの襟首から手を離すと、苦虫を噛み潰したような顔をして言った。

「……直ぐに脱出しろ」

 バンデベルは、掴まれて乱れた襟を直すと指示した。

「円盤部離脱用意急げ!」

 

 その頃、沖田らの艦隊は、態勢を立て直して再び元の航路へと戻っていた。

「ゼーリック艦隊、磁気嵐に突入し、大きな被害を受けているようです! ゼルグートⅡ世も、沈んでしまったようです。たった今、円盤部の離脱を確認」

 サーシャは、沖田に近寄って言った。

「戦わずして、相手を無力化するとは驚いたわ。あれは、どうするのかしら?」

 沖田は、サーシャに一瞥すると、明らかに酔っ払った表情でニコニコして答えた。

「だいぶ、難儀しているようですな。救助してやりましょう」

 セレステラは、慌てて沖田の元に走り寄った。

「駄目よ! ゼーリックは、総統の命を狙って来たのよ。あんな奴、放っておくか、むしろ、撃ち落とすべきだわ」

 沖田は、急に真顔になると、慈愛に満ちた表情でニコリと笑ってセレステラの目を見つめた。

「セレステラ。彼は、我々の敵ではなく、ガミラスの国民の一人だ。そうではないかね?」

 セレステラは、見たこともない、優しげなデスラー=沖田の顔に見とれてしまい、頬を染めた。しかし、自分自身の反応に困惑した彼女は、顔を大きく反らせて、彼と目が合わないようにした。

「しっ……、知らないっ。この後、あいつを救ったことを後悔しても、知らないから」

 サーシャは、満足げに沖田のやり方を見つめていた。

「……自国民と戦わずして、戦いを止めるつもりね。反乱分子も救おうとするとは、私も驚いたわ。今後も、あなたのやり方、見守らせてもらうわ」

 沖田は、それに嬉しそうに答えた。

「どうぞ、どうぞ。それよりも、一杯、お付き合い頂けますかな?」

 目を丸くしたサーシャを尻目に、沖田は豪快に笑っていた。

 

 その後、一行はゼーリックらを救助して、七色星団を更に進み、無事にタランチュラ星雲を踏破した。

 一人、ミレーネルだけは、不快な表情で、じっと沖田のことを見つめていた。

 彼女は、その中身が総統とは別人の筈なのに、セレステラの心を奪おうとする彼のことが許せなかったのである。

 

続く…

 




注)
・宇宙戦艦ヤマト2199を元にした二次創作小説です。一部、若干のキャラ崩壊がみられますが、予めご承知おき下さい。
・以前、私がPixivに投稿した「君の本当の名は」を元にし、これに大幅に加筆しています。
・pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開、または公開を予定しています。
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