本当の君の名は2198   作:とも2199

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宇宙戦艦ヤマト2199を元にした二次創作小説です。


(6)短気は、損気

 駆逐艦ユキカゼは、艦隊から離れて単独で航行していた。高速に飛ぶその艦体は、赤と白と黄色に鮮やかに彩られている。

 艦橋で立ち尽くしていた艦長の古代守は、その先に小さく見えて来た準惑星の姿を確認し、部下に抑えた声で言った。

「静かだ……」

「凪いだ海ですね」

 副長の石津も、その準惑星の姿を認めていた。

 

 冥王星――。

 

 かつて、太陽系の第九惑星とされていたその星は、今ではガミラスの太陽系前線基地となっており、百隻以上の宇宙艦隊が配備され、難攻不落の要塞と化していた。

 そこに、敵が堂々と居を構えているにも拘らず、これまで地球艦隊は手も足も出ない状態だったのである。

 しかし――。

 その日は、違った。

 藤堂の命により、遂に冥王星の奪還作戦、メ号作戦が発動されたからである。

 

「先行した駆逐艦ユキカゼから入電。敵艦隊、出撃は認められず」

 金剛型戦艦ミョウコウに座乗する提督土方は、鋭い眼光で、レーダーチャートを見つめていた。

「全艦、警戒態勢に移行。隊列を変更し、二手に分かれて冥王星周辺で待機する。艦載機をいつでも出せるように発艦準備をしておけ!」

 木星ガミラス基地から鹵獲したガミラスの駆逐艦四隻が、艦隊に帯同していたが、たったの四隻では、彼らに立ち向かうには、まるで不十分な数だった。しかも、操艦もままならず、あまり役に立つとは思えなかった。

 土方は、通信士に声を掛けた。

「沖田からの連絡は、まだか?」

「まだです」

 土方は、ため息をついて、再びレーダーチャートに集中した。 

 本当に大丈夫なのか……? 沖田……。

 沖田は、木星基地の惑星間弾道弾を使うことを示唆し、ガミラス人に冥王星基地から撤退するように訴えると約束していた。それが上手く行けば、戦わずして、基地を占領出来ることになるのだが、交渉が上手く行くかは未知数だった。交渉が失敗した場合、惑星間弾道弾の着弾を成功させる為に、土方たちは陽動作戦を展開しなければならない。そうなれば、多くの被害が、出ることが予想された。

 

 その頃、木星浮遊大陸基地――。

 

 戦艦キリシマは、一週間前に占領した木星浮遊大陸基地上空に留まり、空間騎兵隊の兵士たちも、引き続き基地の周辺で警備を行っていた。

 基地司令部の司令室の扉の前に陣取って警備をしていた斉藤は、永倉と軽口を交わしていた。

「何だかなぁ。急にエライことになっちまったな」

「まさか、冥王星基地の攻略作戦がこんな急に発動されるなんて、誰も考えちゃいなかったよ」

 斉藤は、ひそひそと永倉に言った。

「でもよ、行政長官の藤堂さんが、何だってまた、こんな前線に来てるんだ? 芹沢長官ならまだしもよ。いや、それだっておかしいと思うがな」

「あたしも、変だとは思ってるよ。ちょっと前から人が変わっちまったみたいだよね」

 そこに、空間騎兵隊の隊長、桐生が現れた。

「おい、お前たち無駄口をたたくな」

 二人は、直立不動の姿勢になって敬礼した。

「はっ! 申し訳ありません!」

 桐生は、そう言いつつも、司令室の扉をジロリと眺めると小さな声で言った。

「……ところであの二人、どうも様子がおかしいと思わないか?」

 斉藤と永倉は、眉をへの字に曲げて隊長を見つめた。

 

 司令室の内部には、藤堂=タランと沖田=デスラーの姿があった。二人は、兵士たちを室内から人払いし、そこで作業に取り掛かっていた。

 タランは、通信士の座席で、懸命にキーボードを叩いている。

「お待ち下さい。あともう少しです」

 タランは、基地内のデータベースに残る過去の通信ログを検索していた。

「……たぶん、こんなところで、いけると思います」

 デスラーは、彼の作業の結果を眺めた。

「ふむ。こんなもので、冥王星基地の司令官を騙せると思うのかね?」

「冥王星基地の司令官、シュルツ大佐は、二等ガミラス人としては、かなり優秀な人材だと聞いています。それゆえ、総統への忠誠心も相応に高いと推測されます。その忠誠心が、彼の疑念を払拭してくれるでしょう」

「そんなものかねぇ?」

 タランは、冷静にデスラーを見上げた。

「もしかしたら、ご存知ないのですか? 総統は、皆に恐れられています。総統に逆らうなど、命懸けの行為だと、そう思っている者も多いかと」

 デスラーは、残念そうな表情をして、近くにあった座席に腰を掛けた。

「知っているよ。そうなるように振る舞って来たのは事実だ。しかし……」

 タランは、寂しそうに座席の端末を弄るデスラーの後ろ姿をそっと見つめた。ガミラスから離れて数ヶ月。デスラーの心境にも、変化があったらしい。

 

 冥王星ガミラス軍基地――。

 

 基地司令官でザルツ人のシュルツ大佐は、自室の端末を使って、過去の映像通信記録を再生して、にこやかにそれを眺めていた。そこには、彼の娘、ヒルデの小さな立体映像が浮び上っていた。歳をとってからようやく出来た娘は、シュルツにとって、目に入れても痛くない存在だった。

「……お父さん、今日はね、お母さんと一緒にお出かけして来たの。どこに行ったと思う?」

 何気ない日常の報告や、学校での出来事、そして、父を心配する言葉が、紡がれて行く。それこそ、同じ映像を何度も何度も見返しており、ヒルデの表情の変化や、動き、言葉の一つ一つを暗記する程だったが、いつ見ても、彼は目を細めてそれを温かく眺めてしまうのだった。

「……だから、仕事を早く終わらせて無事に帰って来てね。お母さんも、ずっと心配して待ってるから」

「ああ、必ず帰るから、いい子にしてもう少し待っていてくれ」

 シュルツは、応答することはないその映像の娘に優しく語り掛けた。それは、仕事に向かう前に、いつも行っている儀式のようなものだった。

 しかし、突然の部下からの割り込みによる音声連絡で、彼はやむを得ずその映像を消した。

「シュルツ大佐、ガンツです。至急、司令室に来て下さい」

 シュルツは、不機嫌な顔をしてそれに応答した。

「どうかしたのかね?」

「デスラー総統からの通信です。総統は、シュルツ大佐をお呼びです」

 血相を変えたシュルツは、急に立ち上がって椅子をひっくり返した。

「すぐ行く!」

 

 軍服の上着の袖に腕を通しながら、慌てて司令室に駆け込んで来たシュルツは、ガンツの姿を探した。

「大佐、お待ちしていました。繋ぎます」

「ま、待て」

 シュルツは、急いで軍服の乱れを直すと、側頭部にだけ残った頭髪を撫で付けた。

「よ、よし。繋げ」

「はっ」

 すると、司令室の中央の3Dモニターに、立体映像ですぐにデスラーの姿が浮び上った。

 シュルツを始めとしたそこにいた一同は、直ちに直立不動で右腕を曲げて上げ、敬礼の姿勢をとった。

「総統、冥王星基地司令、シュルツ大佐であります!」

 デスラーの映像は乱れており、動きがカクカクとしてぎこちなかったものの、遠い本国からの映像通信だと思っていた一同に、疑問を持つ者はいなかった。

「……楽にしたまえ。君たちに、新たな命令を伝えようと思ってね」

「はっ!」

 シュルツたち一同は、敬礼して上げた腕を下ろすと、直立不動のまま、デスラーの次の言葉を待った。

「現時点を以て、テロン攻略作戦の中止を命じる。直ちに、基地を捨て、撤退したまえ」

「……は?」

「すべての人員を船に乗せ、一時間以内に撤退を始めたまえ。基地設備や余剰艦はそのままの状態で、冥王星基地に残して構わない。必要最低限の艦で、直ちにバラン星基地へ帰投したまえ。そこで、新たな指示をする」

 シュルツは、冷や汗をかいて、デスラーの酷く冷静な目を見つめた。

「ど……どういうことでしよう? もしや、我々の作戦が失敗だとお考えなのでしょうか?」

 デスラーの映像は、再び乱れて、カクカクと動いている。

「私の命令が聞けないと言うのかね?」

 シュルツたち一同は、真っ青になって再び敬礼の姿勢をとった。

「は、はっ! 失礼しました! 直ちに撤退を開始します!」

 映像通信が終わったあと、ガンツは震えながら、シュルツに尋ねた。

「ま……まさか、我々はテロン攻略作戦の遅れの責任を取らされて、粛清されるのでしょうか……?」

 シュルツは、部下たちに振り返ると腕を振り上げた。

「う……狼狽えるなっ……! 総統は、そのようなことは言っていない。とにかく、直ちに撤退する! 各自、最低限の荷物をまとめたら船を出せ! 急ぐんだ!」

「ほ、本当に基地の設備や余剰艦を置いて行っていいのでしょうか? テロン人に悪用されるかも知れませんよ?」

 シュルツは、目を吊り上げてガンツに顔を近付けた。

「それでいいと総統ご本人がそう仰って言いたのを、お前は聞いていなかったのか? そんなことより、バラン星に急ぐのだ!」

 

 木星浮遊大陸基地――。

 

 タランは、通信を切断すると、冷や汗を拭って、座席に寄り掛かった。

「ふう。上手く行ったようです。過去の総統の通信記録を繋ぎ合わせた映像を使って、彼らに撤退を同意させました。一部は、無理やり音声を繋いで言葉を作った箇所もありますが、気付かれなかった模様です」

 デスラーは、先程の座席に座ったまま、タランの方へと、椅子を回した。右腕は、拳を握り締めて端末の上に置かれていた。不機嫌な顔をしたデスラーの拳は、僅かに震えている。

「これで、冥王星基地に配備されている百余隻の艦隊のうち、半分ぐらいの数が基地に残される筈です。これを鹵獲すれば、本国に我々が帰還する道中の安全を確保出来るでしょう。この星系を脱出出来るようになるまで、あともう少しです」

 タランは、そこでようやくデスラーが不機嫌な顔をして睨んでいるのに気がついた。

「……総統?」

 デスラーは、口調も荒く、タランに話し掛けた。

「私は、あんな風に、部下の意見も聞かず、無理やり従わせていると、君も思っているから、あのような映像を作ったのだろう?」

 タランは、困ったような顔をして、デスラーに反論しようとした。

「確かに、少々強引ではありましたが、短い映像で彼らを納得させるには、仕方がなかったと思いますが。それに、ほとんどが、実際に総統が過去に発言された映像を使っています」

 デスラーは、拳を振り上げて、端末の上に叩きつけた。大きな音がして、流石のタランもビクりと身体を硬直させた。

「私はね、二等ガミラス人にはそれ相応の敬意を払ってきたつもりだ。そうでなければ、拡張した戦線を維持することは出来ない。もう少し、やり方があったのではないかね?」

 その時、基地のどこからとも無く、低い爆音と地震のような揺れが襲って来ていた。怒っていたデスラーも、それには、急に不安げな表情になった。

「な、何だ。何が起こっている?」

 タランは、デスラーが拳を振り下ろした座席の端末が、赤く点滅しているのに気がつくと、慌てて駆け寄った。

「ああっ……!」

 タランは、その表示を確認して青くなっていた。

「せ、説明したまえ!」

 タランは、デスラーを退かすと、端末を懸命に操作した。

「惑星間弾道弾が発射されてしまいました。命令の撤回が出来ません。テロン人は、冥王星基地を標的として、この基地の惑星間弾道弾の発射準備をしていました。総統は、誤ってその発射ボタンを押してしまったようです」

 デスラーは、ポカンとタランの顔を眺めた。そして、端末の上に表示されたボタンを見つめた。今は、警告のアラートで赤く点滅している。

「もしかして……。この、ボタンかね?」

「はい」

 デスラーは頭を抱えた。

「……」

 タランは、冷静に言った。

「ま、まあ、幸いにも、撤退命令を出した後ですので、惑星間弾道弾が着弾するまでには撤退は完了していることでしょう」

 デスラーは、顔を上げて言った。

「今からでも、基地司令官に言って、迎撃させたらどうかね……?」

 タランは、頭を振った。

「それは簡単ですが、そうするとシュルツ大佐たちは、地球人の攻撃を警戒して、撤退を躊躇するでしょう。そもそも、惑星間弾道弾など、脅しにもならないことがわかっていましたから、戦闘になるのを回避する為に、総統の映像を使った撤退命令を出すことにしたのですから」

「では……」

 タランは、残念そうに頷いた。

「冥王星基地の艦隊は……。残念ですが諦めましょう。このまま放っておけば、予定通りシュルツ大佐たちは撤退し、我々の動きを邪魔する障害は取り除かれます。木星基地のガミラス艦四隻だけでは、少々心もとないですが、やってやれないことはありません」

 

 桐生と斉藤、そして永倉も、基地が激しく揺れるのに動揺していた。

「どうなってやがるんだ!?」

 斉藤は、足を踏ん張って、その揺れに耐えていた。

「これは……。交渉が上手く行かなかったのだろう。お前たち、あれを見ろ」

 桐生隊長が指す先の窓の外に、巨大なミサイルが打ち上がり、大量の炎と煙を吐き出して飛び立って行く様子が認められた。

「な、何だよあれ! すげえ、でかいミサイルだな!」

「凄いねぇ! あれなら、冥王星のガミラスの基地もお終いだね」

「違いねえ!」

 三人は、大きな声で笑っていた。

 そこに、司令室の扉が開いて中から、藤堂=タランと、沖田=デスラーが現れた。二人とも、表情は暗い。

「奴ら、脅しだと思っていたようですね。これで、奴らも後悔するでしょう!」

 色めき立つ彼らを横目に、憮然としたタランとデスラーは、無言で通り過ぎて行った。

 

 数時間後、地球――。

 

 森直之外務次官と共に、地下都市の国連地球軍、極東管区司令本部を訪れていたユリーシャと雪は、冥王星基地が消滅したことの報告を受けていた。

 ユリーシャは、不思議そうに雪の顔を見つめた。

「はてな?」

「どうしたの? ユリーシャ」

 ユリーシャは、自分の長い髪をくるくると指で巻きながら、うーんと考え込んでいた。

 そして、ニコリと笑うとひそひそと雪に話し掛けた。

「あのね。これは、二人だけの秘密だよ?」

 キョトンとした雪は、ユリーシャに顔を近付けて、耳を寄せた。

「トウドウとオキタは、記憶喪失なんかじゃない。あの二人には、別人の意識が入っている」

「へ……?」

 ユリーシャは、更に小さな声で言った。

「それが誰かまでは分からないけど、ガミラス人の高官の意識に乗っ取られている。そうじゃなきゃ、こんなに上手く行く筈がない」

 雪は、血相を変えてユリーシャに返した。

「も、もしそれが本当なら、大変なことなんだけど……」

 ユリーシャは、小さく頷いた。

「私の予想では、これからあの二人は、木星で鹵獲したガミラスの船を使って、ガミラスに帰ろうとする筈。どうするのか見物。私たちも、ついて行こっか」

「ついて行くって……?」

 ユリーシャは、ニコリと笑った。

「長旅になるけれど、ガミラスに。面白そうでしょう? 一緒に行こう、雪」

 雪は、呆気に取られて彼女の笑顔を見つめた。

 

続く…




注)
・宇宙戦艦ヤマト2199を元にした二次創作小説です。一部、若干のキャラ崩壊がみられますが、予めご承知おき下さい。
・以前、私がPixivに投稿した「君の本当の名は」を元にし、これに大幅に加筆しています。
・pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開、または公開を予定しています。
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