太陽系ヘリオポーズ付近――。
冥王星基地の陥落を受け、国連は、木星で鹵獲したガミラス駆逐艦四隻のうち、三隻を利用して、イスカンダルを目指して出発することを決定した。波動エンジンを搭載した船の完成を待たずに出発することに、イスカンダルのユリーシャも特に不満を言う事もなく、これらのことは急ピッチで進んだ。
ガミラス艦三隻に分乗するメンバーに選ばれたのは、沖田=デスラーを始めとして、藤堂=タランや、土方、古代守が選ばれた。これには、イスカンダルのユリーシャの希望により、森直之外務次官の娘、雪も同行することになっていた。
尚、地球に残った山南は、残存艦艇と、一隻だけ残したガミラス艦を率いて太陽系防衛の任に着くことになっている。
沖田=デスラーと藤堂=タランは、一路ガミラス星を目指していた。但し、ガミラスを目指すと言える訳もなく、その名目は、当然イスカンダルを目指すものとした。今は、赤道祭なるものを実施するとの土方の提案で、パーティーのようなものがそれぞれの艦内で行われていた。
「総統。ガミラスとイスカンダルが二重惑星だと言うことを、テロン人たちは知りません。イスカンダルに到着した時、彼らはどのような反応を示すでしょうか」
ひそひそと、タランはガミラス艦の艦橋にいるデスラーに話し掛けた。
「まったく……イスカンダルは、何故こんな試すようなことをするのかね。スターシャのことを悪く言う気は無いが、流石に悪趣味だと言わざるを得ない」
デスラーは、ふうと、ため息をついた。
「そんなことより、我々はまずはバラン星を目指す。そこで、銀河方面軍に合流して帰国するのがベストだ。あそこの司令官……その……なんと言ったかね……確か……」
「……ゲール少将です」
「そうそう、そのゲール君だ。どうやって、彼らを騙して、我々をガミラスに連れ帰らせるか。それが、目下の問題だ」
「しかし……それが上手く行ったとしても、この入れ替わりを元に戻す方法を探さねば、我々はテロン人として逮捕されるでしょう。もしも、親衛隊の手にかかった場合、下手をすれば、極刑ということもあり得るかと」
「だからこそ、だよ。何か戦略を練らねばならない」
ふむ、とタランは考え込んだ。
「でしたら、一番容易な手段としては、テロン人は、ザルツ人に似ていますから、これを利用しない手はありません。我々は、まずは二等ガミラス人として、ガミラスに帰国しましょう。その後どうするのか、が問題ですね」
デスラーは、ふと、セレステラとミレーネルの顔を思い出した。
「そうか……。ジレルの魔女のあの二人を訪ねてみるのはどうかな。彼女たちなら、既に私たちが別人と入れ替わっていることに気付いているだろう。彼女たちなら、何かわかるかもしれない」
そんな会話をしている二人の元に、艦橋に上がってきた雪とユリーシャが訪れた。二人は、会話を止め、口をつぐんだ。
「オキタ。赤道祭、参加するの? しないの? どうするの?」
ユリーシャは、不満そうに二人に話し掛けている。ユリーシャに付き添っていた雪は、苦笑いで横に佇んでいた。
「藤堂長官、それに沖田提督。よかったら、お二人も艦内食堂に来て頂けませんか? 土方提督をはじめ、みんな、お二人をお待ちしていますよ」
「もう少ししたら私たちも行くよ。少々、大事な話をしていたものでね」
「はてな?」
ユリーシャの目は座っていた。デスラーの心の内を探ろうと、瞳を真っ直ぐに覗き込んで来ていた。
「……ガミラスに、どうやって帰ろうかと考えていたのかな?」
図星を突かれたデスラーは、途端に不快な表情になった。そのユリーシャは、デスラーの表情の変化を楽しんでいるようだった。
「やめなよ、ユリーシャ」
「雪が、そう言うなら。じゃあね、二人とも。食堂で会いましょう」
そう言い残して、ユリーシャと雪は、艦橋から出て行った。
「総統……」
「あの調子では、あんまり、ユリーシャ姫を放っておかない方がいいだろう。何を言い出すかわからない。行こうか、タラン」
「はっ!」
思わずガミラス式敬礼をしたタランの姿に、艦橋の乗組員たちは、怪訝な表情をしていた。
「こほん……!」
デスラーの小さな咳払いに、タランはすごすごと手を下ろした。
ガミラス艦の狭い食堂スペースには、地球人たちが施した飾り付けがされ、軽食や飲み物が振る舞われていた。
「長官、沖田さん!」
目ざとくデスラーたちの入室を素早く見つけた古代守が、腕を振って手招いている。その横には、土方らの姿もあった。それぞれグラスを手に、歓談していたようである。
デスラーは、タランに小さな声で尋ねた。
「あれは……誰だったかね?」
「ガミラス艦の一つを任せたコダイ艦長です」
「ふむ。コダイ、ね」
「何でも、若手の士官の中で、トップクラスの優秀な人材だそうです。確か……ヤマッテが完成していれば、戦術長の任に着く予定だったかと」
「ふむ。この調子では、そんな人材がまだまだゴロゴロいるのだろうね。テロンも、なかなかしぶとい」
デスラーは、乗組員がひしめく食堂の座席の間を進む途中で平田からグラスを受け取ると、彼らのもとへと近付いた。そして、にこやかに彼らの歓待に応えた。
「諸君、楽しんでいるようで何よりだ」
彼らは、軽く挨拶を交わすと、当たり障りのない話を暫し続けた。デスラーは、そんな中、土方が黙っているのに気が付いたが、特に気にしないことにした。
「それにしても、藤堂長官は、どうしてこの旅に同行することにしたんです? この旅はお世辞にも安全とは言えない。我々軍人に任せて頂いても良かったと思いますが」
古代守の疑問ももっともだった。タランは、予め決めていた言い訳を口にした。
「地球に残っていても、行政長官など大してやる事はありません。それよりも、イスカンダルが提供するというコスモリバースシステムの受領にあたり、スターシャ女王との政治的な駆け引きが必要になる可能性が高い。その交渉には、私の力が必要だと判断して、決意しました。道中は、皆さんの邪魔にならないようにするつもりですよ」
古代は、納得したのか、感心した様子だった。
「そうだったんですね。じゃあ、イスカンダルに着くまで、俺たちが必ず、長官の安全を守ります。向こうに無事に着いたら、その時は頼みますね、長官」
古代は、一通りの挨拶を済ますと、一礼してその場を離れた。
そうして、デスラーとタランは、出来るだけ接触を避けてきた土方と、否が応でも面と向かって話す事になった。
「ヒジカタ。飲んでるかね?」
デスラーは、相変わらず目を逸らす土方に、軽く声を掛けた。その土方の前のテーブルは、既に空になったグラスが多数並んでいる。そこで、ようやくデスラーの方へと目を合わせた土方の頬は、だいぶ赤く染まっていた。
「少しな」
「そうは見えないな。かなり酔っているんじゃないかね?」
「酔ってない」
「そうかね? 程々にね」
デスラーは、タランに目配せして、その場を離れようとした。
「待て!」
デスラーの腕は、むんずと力強く土方に掴まれていた。
「な……っ。何かね?」
土方は、仏頂面をして言った。
「まぁ、そこへ座れ! 沖田。少し話そうじゃないか」
万力に挟まれたかのような力強さに、デスラーはしぶしぶ、土方とはテーブルを挟んだ反対側の座席に座った。土方は、座った目で、沖田に語り掛けた。
「お前に、言っておきたいことがある」
その途端、デスラーは嫌な予感がして身震いした。背後から、タランが耳打ちをした。
「総統、危険です。すぐにこの席から離れて下さい」
そのタランの腕を掴んだ土方は、それを力一杯引いた。タランは、バランスを崩して、仕方なくデスラーの隣の座席に腰を下ろした。
「この際だ。藤堂長官にも、聞いて頂きたい」
老齢の男たち三人は、向かい合って座り、土方が話すのを待った。
「沖田。お前に、俺の本当の気持ちを話しておきたい」
デスラーとタランは、背筋が凍るのを感じていた。
古代守は、雪とユリーシャを見つけると、にこやかに近付いた。
「やあ、お二人さん。相変わらず、まるで双子みたいだ」
三人は、笑顔でグラスを近付けた。そして、それぞれが中身を飲むと、古代は雑談を始めようとした。
「ユリーシャさんはともかく、森くんは、酒なんて飲んで良いのかい? 確か、未成年だったよな」
雪は、自分のグラスを驚いたように眺めた。
「あっ、違います。これ、ジュースなんです」
「ああ、なんだそうだったのか。ごめん、ごめん。でも、こんな宇宙の彼方で未成年がどうとか、俺も野暮なこと言ったな。別に、飲みたきゃ飲んでもいいんだぞ」
雪は、苦笑いで手を小さく振って応えた。
その時、黙って話を聞いていたユリーシャは、古代のことをまじまじと見つめていた。
「? 俺の顔に、何か付いてるかい?」
「どうしたの? ユリーシャ」
ユリーシャは、目を細めて微笑んだ。
「……何となく、あなたに、運命のようなものを感じた」
雪と古代は、互いに目を合わせて首をひねった。
「古代さん。ユリーシャって、こうやって、時々変なことを言うの。あんまり、気にしないで」
「そうなのか? なぁ、ユリーシャさん。それって、俺が運命の人……ってことかい?」
ユリーシャは、コクリと頷いた。
「そう。あなたは、運命の人……」
雪は、真っ赤になってユリーシャと古代を交互に眺めた。古代も、目を丸くして驚いているようだった。
「なっ、何? 突然の告白? こっ、古代さん、どうします??」
古代は、後ろ頭に手を置いて、笑い出した。
「まぁ、悪い気はしないぜ。でも、どうして俺なんだ? まともに話をするのも、初めてに近いと思うんだがなぁ」
ユリーシャは、微笑んだまま、それには答えなかった。
「それより、あなたになら、話しておきたいことがある」
ユリーシャは、沖田たちのいる場所に、視線を向けた。
「雪には、前に話したけど、あの二人。トウドウとオキタ。中身は、ガミラス人に入れ替わっている」
古代は、ポカンとして、沖田たちの方を眺めた。そこでは、沖田の手を掴んだまま、土方は泣きながら酒をあおっていた。凍り付いたように沖田と藤堂長官は、固まっている。
「思い当たることが、あなたにもある筈」
古代は、ユリーシャに言われて見ればと思い出した。
「少し性格が変わったような気はしていたのは確かだが。そういやぁ……沖田さんと藤堂長官は、記憶喪失になっているって噂が流れていたのは、俺も聞いたことがある」
ユリーシャは、頷いた。
「その噂は、半分本当。でも、記憶喪失なんかじゃない。気をつけて、コダイ。決して気を許しちゃ駄目」
ユリーシャは、微笑んで、古代のもとを離れて行った。残された雪は、困惑する古代に説明をした。
「私も、出発前に、同じ話を彼女に聞いたんです。それで、面白そうだから、一緒に行こうって誘われて、この旅に同行することが決まったんです。本当なのかどうかなんて、確かめる方法もないし。でも、本当だったら大変なことなんですけど……」
古代は、沖田たちの様子を確かめながら言った。
「イスカンダルのお姫様が嘘をつくとも考えにくい。俺の友達の科学士官にも相談してみるよ。他に、この事を知ってるのは?」
雪は首を振った。
「たぶん、私と古代さんだけです」
「わかった。今は、君も黙っていた方がいい」
古代は、ウィンクして、足早に食堂を出て行った。恐らく、その科学士官に相談しに行くのだろう。
その頃、デスラーは、腕を離さない土方に付き合わされて、困惑したまま酒をチビチビ飲んていた。
「お、俺はな、沖田。お前のことを、大切でかけがえのない存在だと思ってるんだ。こんな気持ちになったのは、おかしいと俺自身も思っているんだぞ。だがな、俺にも、理由がわからん。どうしようもないんだ」
ベロベロに酔った土方は、デスラーに絡んで酒を飲み続けていた。酒の入ったボトルを掴んで自分のグラスと、デスラーのグラスに注ぐも、勢い良くやり過ぎて、溢れた酒がテーブルに水溜りを作っている。
「お……おい、ヒジカタ。そのへんで止めておきたまえ」
土方は、勢い良く自分のグラスをテーブルに置いた。
「お……俺の酒、飲んでくれないのか!? そんな冷たいことを言わんでくれ!」
オイオイと土方は泣き始めた。
周囲の乗組員たちが、土方と沖田の様子に、ヒソヒソと何か話している。
タランは、冷や汗をかいて小さな声でデスラーに言った。
「恐らく、もう間もなく、飲み過ぎで彼は寝てしまうでしょう。もう少し我慢すれば、解放されるものと予想されます」
「さっきから、君はそう言うが、なかなか寝ないぞ」
「あと、もうちょっとです」
土方は、二人がボソボソ話す様子に怒り出した。
「何を話している! 俺の話も聞いてくれ!」
「わ……わかった! ほら、ヒジカタ、もっと飲め」
そうして、そこから小一時間程、デスラーたちは土方に付き合わされるのだった。
技術科――。
「別の人間の人格に入れ替わっている……か。興味深い話だ」
古代守の友人の科学士官である、真田は話を聞いて興味を惹かれていた。
古代は、呆れたように手を広げて応えた。
「本当だとしたら、一大事なんだぜ。真面目に考えてくれよ、真田」
真田は、デスクの上の端末のスクリーンに、脳の構造図を示しながら話した。
「人の脳は、様々な情報を蓄積可能な一種の記憶装置だ。そこに蓄えられた情報は、それぞれの経験によって異なり、その経験が所謂我々が人格と呼ぶ、人それぞれの個性となる。二重人格などの複数の異なる人格を保有する例もあることから、一概には言えないが、あくまでもそこに蓄積された情報を元に、人格は形作られる。全くの別人の人格が突然入り込んだとしても、全く別の人間になる事は、本来であれば考えにくい。そのようなことが起きるとしたら、我々が魂と呼ぶ存在について、考えなければならない事になる。これは、今までの我々の知る科学を根底から覆す事象かも知れないよ。だからこそ、興味深いんだ」
古代は、頭を抱えた。
「ま、まぁ、お前の言いたいことはわからんでもない。それよりも、これが事実だとすれば、この艦隊の指揮を沖田提督と藤堂長官に任せ続ければ、俺たちは、敵の手に落ちて全滅するかも知れないんだぜ? どうにかして、これを証明して、指揮権を奪わなければ、俺たち地球人はお終いだ」
真田は、少し困ったような顔をした。
「そんな話を、誰が信じると思う? 例えば、彼らが本当に本人かどうか、二人自身の事を質問して試すとしよう。だが、記憶喪失だから、と言われてしまったら、その時点で証明することは不可能だ」
古代は、ため息をついた。
「確かに……。だったら、言い出しっぺのユリーシャさんに言わせれば……。いや、駄目か。異星人の盲言だと、一蹴されるのが落ちか。我々も、まだイスカンダル人の事を完全に信用している訳じゃない」
真田は、イスカンダル人の話をされて、ふとアイデアが浮かんでいた。
「いや……そうか……。本人かどうか確認するのではなく、ガミラス人かどうかを証明すればいい。我々、地球人では知り得ない情報を二人が持っているかどうか……。それを確かめればいい」
古代は、膝を叩いた。
「それだ! 流石、真田。お前に相談して良かったよ」
真田は、困惑していた。
「あくまでも、アイデアだけだぞ、古代。どうやって、俺たちも知らない、ガミラスの情報を持っているか確かめるんだ?」
「そうだなぁ……。まぁ、何か考えてみるさ。ありがとうな、真田」
古代は、そう言って、笑顔で技術科の部屋を出て行った。
続く…
注)
・宇宙戦艦ヤマト2199を元にした二次創作小説です。一部、若干のキャラ崩壊がみられますが、予めご承知おき下さい。
・以前、私がPixivに投稿した「君の本当の名は」を元にし、これに大幅に加筆しています。
・pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開、または公開を予定しています。
※ガルマン帝国……私のヤマト小説の公式にない設定。古代ガミラスの移民国家。この時はまだ、ガミラスではその歴史的事実が忘れ去られている。