スーホの世界がウマ娘の世界だったら

※三日で書き上げたのでクオリティはお察し

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この作品に登場するウマは全て筆者オリジナルの架空のウマ娘です。筆者はウマ娘をプレイしていません。予めご了承ください。


スーホと白いウマ娘

 羊やウマ娘たちと生活を共にし、豊かな草原を転々と移り暮らす平原の民、モンゴル人。その集落の一つで、スーホは祖母と共に暮らしていた。

 スーホは今年で十二歳になる少年で、その純粋さと美しい歌声は他の住民からも一目置かれていた。

 

 ある日の夕方。スーホは日課の羊の世話を終え、散歩に出かけていた。集落から少し離れたところに岩場があり、スーホはそこで一等大きな岩に腰掛けて夕日を眺めながら唄うのを密かな楽しみとしていたのだ。

いつものように岩場に着いたスーホは、微かに声がすることに気がついた。

 

「なんだろう……?」

 

 不審に感じたスーホは辺りを探し、程なくして岩の影に隠れるようなところに倒れている一人のウマ娘を発見した。傷だらけのその娘はまだ幼く、スーホがよく知るウマ娘たちの黒や茶色のそれとは全く異なる、雪のように白い髪と翠色の瞳を持っていた。

 

「この娘は……いや、とにかく連れて帰ろう。このままでは死んでしまう」

 

 スーホはそのウマ娘を連れて帰り、夜を徹して必死に看病した。その甲斐あって、幼いウマ娘は日が昇って間もなく目を覚ました。

 

「ん……ここは……?」

「よかった……。目を覚ましたんだね。ボロボロになって近くの岩場に倒れてたのを僕が連れてきたんだよ。ここは僕とおばあちゃんのゲルさ!」

「げる……」

「うんうん。ところで、名前を訊いてもいいかな?」

「な、まえ……?うっ……」

 

 スーホが名前を訊ねると、少女は頭を抑えて苦しみだした。

 

「ちょっ、無理しないで!」

「うぅ……なまえ……わたしの……わたしはだれ…………?」

 

 スーホはガクガクと震える少女を抱きしめ、安心させようと優しく語りかけた。

 

「わたしは……わたし……」

「ほら、落ち着いて、落ち着いて。怖くないからね……」

「うぅ……」

 

 優しく背中を擦ると、少女は次第に恐慌から立ち直りだした。少女の呼吸が落ち着くのを見計らってスーホは身体を離すと、少女と目を合わせた。

 

「わからないなら、僕が名前をつけてあげる!君は……ハルハ!今日から君はハルハだ!」

「……ハルハ」

「そう、ハルハ!僕たちと家族になろうよ!」

 

 そう言うと、スーホは朗らかに笑いかけた。

 

「僕の名前はスーホ!よろしくね!」

「スーホ……」

 

 ハルハは噛み締めるようにスーホの名前を口にすると、ぎゅっ、とスーホの身体に腕を回した。

スーホと祖母だけの暮らしに、新たな家族が加わった瞬間だった。

 

 

 

    ◇   ◇   ◇   ◇

 

 

 

 ハルハはみるみる回復し、一ヶ月も経つ頃には他のウマ娘たちと同じように草原を走り回れるようになった。

ハルハの真っ白な髪や翠玉のような瞳は気味悪がられ、集落の人々や他のウマ娘はハルハを避けたが、ハルハは全く淋しさを感じなかった。ハルハの側にはずっとスーホがいてくれたから。ハルハはスーホによく懐き、スーホもハルハを可愛がった。仲睦まじい二人の様子に人々は次第に心を開き、ハルハは集落の人気者となった。

ハルハが来て二年ほど経ってスーホの祖母が亡くなり、二人きりとなったスーホとハルハは絆を深め合いながら幸せな日々を過ごした。

 

 

 

    ◇   ◇   ◇   ◇

 

 

 

 そうして、六年の歳月が過ぎた。あどけない少年だったスーホに凛々しく逞しい青年となり、ハルハもまた美しく成長した。白銀に輝く髪を風にたなびかせながら大地を駆けるハルハの姿は人々を魅了する。疾駆するハルハに追い付けるウマ娘は集落には誰もいなかった。

 そんなある日、集落を王からの使者が訪れ、王のお触れを伝えていった。

 

『モンゴル中のウマ娘とその主に次ぐ。この度、ジオウ・ハンの主催でウマ娘の足の早さを競う大会を開催する。よい結果を出したウマ娘とその主には褒美を下す故、皆奮って参加するように』

 

 その時スーホとハルハは外出していて、この事を知ったのは夕方に帰ってきてからだった。集落の人やウマ娘は口々にこの大会に出場するよう勧めた。

この集落一のウマ娘のお前とスーホなら、褒美も夢ではないと。

 

「行きましょうスーホ。私たちの絆がモンゴル一だということを見せつけてあげましょう!」

 

 ハルハもスーホも褒美に興味はなかったが、別の理由で闘志を燃やすハルハに押し切られる形でスーホは会場へと出発した。

 

 

 

    ◇   ◇   ◇   ◇

 

 

 

 大会の会場には五日ほどで着いた。既に大勢のウマ娘と主がいて、皆着飾っていた。特にジオウ・ハンのウマ娘ドーリュータイネンは煌びやかで美しく、それでいて走りを阻害しない見事なドレスを身に纏っていた。

しかし、これほど多くのウマ娘がいても白い髪や翠の瞳を持ったウマ娘はおらず、普段通りで別段着飾ってもいないのも相まって二人は周りからの注目を浴びていた。スーホは居心地が悪かったが、ハルハがなんでもなさそうな顔で堂々としているのでなんとか取り繕っていた。

 暫くそうしていると、周りの人たちが続々と移動を始めた。ウマ娘と別れて移動していることから、大会に出るウマ娘とはここで一旦お別れのようだ。ハルハはスーホをきつく抱き締めるとパッと笑い、ウマ娘たちが入っていく巨大な天幕の方へと向かっていった。スーホも周りの人たちと合わせて移動した。道すがら話を聞くと、どうやら予想を遥かに上回る数のウマ娘が集まったため何グループかに分けて予選を行い、各一位になったウマ娘だけで決勝を行うことになったようだ。

 無事観客席に着いたスーホは、ハルハの番が来るまでレースを楽しんだ。特にドーリュータイネンの走りは圧巻で、他のウマ娘が一度もドーリュータイネンの前を走ることができないほどだった。

 予選の最終組、遂にハルハの番がやって来た。スーホは声を張り上げて応援し、その甲斐あってかハルハは接戦の末見事一位となった。

しかしスーホは首を傾げた。ハルハの走りは確かに速かったが、いつも自分が見ているそれと比べて明らかに遅かったからだ。

 

「足の調子が悪いのかな……?」

 

 スーホは気が気でなかったが、ハルハの元に行ってやることも出来ない。心配は募る一方だった。

 暫く休憩を挟み、遂に決勝の時が来た。決勝はジオウ・ハンも観戦しており、予選とは盛り上がりの規模が全く違った。スーホは不安で胸が潰れそうだった。

 

 

 

    ◇   ◇   ◇   ◇

 

 

 

 ウマ娘たちが入場してくる。予選を抜けただけのことはあり、どのウマ娘も強そうだった。スーホがハルハの姿を探すと、直ぐに翠緑の瞳と目が合った。ハルハは最初からスーホだけを見ていたのだ。自信に満ちたその眼差しに、スーホは己の不安が払拭されていくのを感じた。

 ウマ娘たちが一列に並んだ。審判が号令をかける。

 

『三、二、一……』

 

「ハルハーっ、頑張れーっっ!」

 

『……ぷぇ~~~~!!』

 

 開戦の笛が鳴り響いた、その瞬間。銀色の閃光が駆け抜けた。一瞬で最高速に達したハルハは、タイネンドーリューさえも遠く置き去りにし、正に圧倒的な走りで終点まで走り抜けた。なんのことはない、ハルハは予選で手を抜いていたのだ。

 

 スーホは呆気に取られていた。普段草原を駆け回っているときだって、ここまで速く走っていたことは一度もなかった。

 

「あれが……ハルハの本気……!」

 

 誰よりも速くゴールに到達したハルハが満面の笑みでこちらに手を振っている。スーホは、実感と共に誇らしさが込み上げて来るのを自覚した。

 

『一等のウマ娘の主よ、ハンが御呼びだ!』

 

 スーホは未だ信じられないという顔の兵士に連れられ、ハンの天幕へと向かった。

 

 

 

    ◇   ◇   ◇   ◇

 

 

 

「あっ、スーホ!私、やったよ!」

 

 スーホが天幕に入ると、心から嬉しそうに笑うハルハに抱き付かれた。思わずいつものように抱き締め返してから、ハッと気付いてハンの方を見ると、微笑してはいたものの口の端が引き攣っている。慌ててハルハを引き剥がし、不満そうな彼女を宥めて跪いた。咳払いを一つし、ハンが口を開いた。

 

「まずはよくやったと言わせて貰おう。見事な走りであった。これは褒美である」

 

 ハンが指を鳴らすと、控えていた兵士が兎ほどの大きさの麻袋を持ってきた。袋の口からは金色が除いている。生まれてから何度かしか見たことのない輝きにスーホは仰天した。ハンはスーホの反応を愉快そうに見やると、再び口を開いた。

 

「驚いたか?我がドーリュータイネンさえも軽々と上回ったからな、その分を上乗せしてある。

…………さて。ここからが本題である。そこなハルハなる者についてだ」

 

 ハンの眼光が俄に鋭くなり、ハルハを見据える。スーホは思わず前に出てハルハを背後に庇った。だが、続く言葉はスーホにとって予想もしていないものだった。

 

「そやつは、我の考えが正しければ、()()()()()()()()()()()だ」

「……は?」

「汝は疑問に思わなかったのか?なぜそやつだけが白いのかと。他のウマ娘は我がドーリュータイネンも含め例外なく黒や茶色であるのに」

「それは……平原は広い、どこかに白いウマ娘もいるのだろうと……」

「いないとは言わん。だが、それは東の海を越えた遠き異国の話だ。それとて伝聞に過ぎん。では、汝はどうやってそやつに出会った?」

 

 言葉に詰まるスーホに、ハンは唇を歪めて嗤った。

 

「当ててやろうか?

……『どこか人目につきにくい場所で、傷だらけのそやつを拾った』、そうだろう?」

「な……なぜそれを!」

 

 スーホは思わず立ち上がって叫んだ。脳裏には、岩陰に瀕死の状態で倒れていた幼いハルハの姿が浮かんでいた。

 

「ククッ、クハハハハハハ!やはりそうか。彼奴め、我を謀っておったという訳だ」

「どうして……どうして貴方がそれを知っているんだ!」

「どうして?決まっておろうが。

……そやつを殺すよう命令したのは我であるからな。我が将コンノが愚かにも絆されて取り逃がしたようであるがな……」

「殺すだって!?」

 

 とうとうスーホは悲鳴を上げた。敬語も忘れてハンに食ってかかる。

 

「なんでハルハがそんな目に合わなくちゃいけないんだ!」

「ほう、知りたいか。ならば教えてやろう。それはな……そやつが妖獣『索冥』であるからだ」

「索、冥……?それは……ハルハ!?」

「あ、あぁ……」

 

 その名を聞いた瞬間、それまでスーホにしがみついて震えていたハルハが急に手を離した。ぺたんと尻餅をつき、絶望に染まった虚ろな目が虚空をさ迷っている。

 酷薄に嗤うハンは尚も語り続ける。

 

「索冥が司るは繁栄……そして斜陽。持ち主は索冥が生きている間は幸せを得るが、索冥が命尽きると共に索冥が今まで溜め込んできた幸福が何倍にもなって反転し、呪詛として降り注ぐ。かつて幾つもの国を滅ぼした、恐るべき悪魔よ。故に、未だ幼く幸福を溜め込まぬうちに始末する必要があった。今となってはそこそこの幸福を喰らっているようだが、まだ間に合うだろう。どうやらそやつは記憶を失っていたようだが……いやはや、僥倖と言う他ないな。そうでもなければ、のこのこと我の元に来るはずがなかったからな。

ーーーー引っ捕らえい!」

 

 ハンが叫ぶと天幕が跳ねあげられ、兵士が殺到してきた。多勢に無勢、たちまちのうちにハルハは気絶させられ、スーホも捕らえられてしまった。

 

「この男は殺すな。

……これでも申し訳なく思っているのだよ。一生どころか生まれ変わっても遊んで暮らせるだけの金はくれてやる。索冥の呪いも汝には向かわぬよう取り計らおう。達者で暮らせよ。……タカチカ将軍。彼を元の集落に帰してやれ」

「はっ!」

「やめろ、嫌だ……ハルハ!ハルハぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 抵抗虚しく、スーホは無理矢理集落に帰されてしまった。

 

 

 

    ◇   ◇   ◇   ◇

 

 

 

 集落に帰ってから、スーホは餞別にと兵士が置いていった食べ物や財宝に手もつけず、日々を泣いて過ごしていた。逞しい青年だったスーホは、みるみるやつれていった。

 スーホが帰ってから一週間が経った日の夜。泣き疲れて寝てしまっていたスーホは、ふと目を覚ました。外でなにか物音がする。何もかもに無気力になっていたスーホだったが、なぜが出てみようという気になった。あるいは、不思議な予感があったのかもしれない。

 

「なんだろう……っ!ハルハ!」

 

 そこには、血塗れのハルハが倒れていた。慌てて抱き起こそうと近寄り……息を飲んだ。背中に二本の矢が刺さり、今も出血している。傷口は毒々しい紫に染まっていた。毒矢だ。顔は土気色で生気を失っていたが、ハルハは笑っていた。

 

「スーホ……ただいま」

「喋っちゃダメだよ!あぁ、血が……」

 

 服を引き裂いて即席の包帯とし、血を止めようとするスーホをハルハは制した。

 

「もういいよ、スーホ。私はどの道助からない。

……ねぇ、私が怖くないの?私は、化け物だったんだよ?」

「怖くなんてあるもんか!ハルハはハルハだ!僕の大切な……大切な家族だ!」

「そっか。ありがと、スーホ。

……最期にお願い。私が死んだら、私の髪と尻尾で楽器を作って」

「そんな……そんなこと言わないでよ!」

「お願いよ、スーホ」

 

 悟りきったような顔で笑うハルハに、スーホは遂に頷いた。

 

「……あぁもう、わかったよ!」

「……ありがとう。

 

ねぇ、スーホ。私、今、()()()()()()。だって、大好きなあなたの腕の中で死ねるんだもの。愛しているわ、スーホ。あなたと出会えて、一緒に走って、同じ時を過ごせて……それだけで、本当に、うれしーーー」

 

 

「ハルハ……?」

 

 

「ねぇ、ハルハ。ハルハったら。返事をしてよ、ねぇ。ハルハってば……!」

 

 

「うう、うわぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」

 

 

 

    ◇   ◇   ◇   ◇

 

 

 

 ハルハが死んで、スーホはとても悲しんだ。ハルハの身体を抱いて泣き叫ぶスーホに、誰も声をかけられなかった。

 やがて泣き止んだスーホは、ハルハとの約束通り、ハルハの白銀の髪の毛を使って楽器を作った。スーホは完成したそれを『遥玻琴(ハルハキン)』と名付け、それだけを持ってどこかへと去った。

 

 

 

 

 

    ◇   ◇   ◇   ◇

 

 

 

 

 それから暫くたって、旅人たちの間にある噂が流れた。夜に、モンゴルに広がる()()()()()()()のどこかにある()()を通ると、透き通るように美しい声で悲恋を唄う声が聞こえる。

その歌を聞いたものは皆その声の虜になり、その場に留まり続けて岩山の一部になってしまう、というもので、実際に何人もの旅人が行方不明になっていた。

旅人たちはこの噂を酷く恐れ、次第に誰もモンゴルの荒野には近付かなくなった。

 

 

 

 草木の一本も見当たらない不毛の荒野。今宵もまた、呪いの歌声が響くーーーーーーー

 

 

 

 


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