俺ガイナイ物語   作:ベリーベリーハード

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二十四話

「どうも初めまして月火さん。私は戦場ヶ原ひたぎ。あなたのお兄さんとお付き合いをさせてもらっている者です」

 

「…………」

 

 帰宅早々、なんだかよくわからない空気がリビングに蔓延していた。

 ソファには呆然とした小町と阿良々木(妹)が。入り口側には今にも頭を抱えそうな阿良々木と苦笑する羽川が、そしてその間で俺は戦場ヶ原の真横に立ち、見合いの真似事をさせられている。

 先手を打ったのは戦場ヶ原。

 後手に回った阿良々木の妹は前述の通り、呆然と目をパチパチとさせてから

 

「ど、」

 

「……ど?」

 

「どういうことだこのお兄ちゃん野郎ッ!!」

 

「ぶっ!?」

 

 さながらロケットのように打ち出されたグーパンチが俺の左頬にクリティカルヒットした。

 ドゴーンとかいう擬音がつきそうなそのパンチはおまけとばかりに体当たりもセットで追加され、俺は自然と押し倒される形になる。

 もちろん俺は抗議を向けた。

 

「っ、いきなりなにしやがる!?」

 

「それはこっちの台詞だァ!なに?なんなの?お兄ちゃん彼女居たの?そんな素振り今まで一度も見せたこと無かったじゃん!」

 

 知るか。というか本気で知るか。

 そんなこと俺に言われても。

 

「まあまあ、落ち着いてくださいな月火さん。そこのゴミーーいえ、お兄さんとは先々月の中頃からの交際になるので、おそらく阿良々木くんも落ち着いた頃合いを待って話を切り出そうとしていたのではないのかしら?」

 

「はっ!ご、ごめんなさい!ついカッとなって自己紹介が遅れてしまいました。私は阿良々木月火です、いつも愚兄がお世話になっています!」

 

 阿良々木月火は俺の上からどくなりサラリーマンよろしく頭をぺこぺこと下げている。

 どうでもいいけどこれ、完全に損な役回りを押し付けられただけだよな、俺。

 

「む。お兄ちゃんなにしてんの?戦場ヶ原さんが見てる前なのにいつまでも座り込んでないでよ恥ずかしいでしょ!」

 

「誰のせいだよ……。というかもう何度目になるかもわからんけど、お前まだ居たのかよ。もう本当いい加減帰れっての」

 

「べーだ。そんなことお兄ちゃんに言われなくたって明日には帰るもん。今日はちょっと小町ちゃんと色々見て回ってたから遅くなっちゃっただけだもん」

 

 ねー、とでも言いたげに顔を見合わせるダブルシスターズ。

 君達ほんとうに仲良くなっちゃったのね。お兄ちゃん、すっごく心配。具体的に言えば小町ちゃんが大人の階段登る前に変な前衛的な階段登りそうですっごく心配。

 

「たはは、すみません月火ちゃんのお兄さん。私が色々と連れ回しちゃったせいで月火ちゃんにもお兄さんにもご迷惑かけちゃって」

 

「それは違うよ小町ちゃん!私が無理言って観光案内してもらってたの!」

 

「……観光案内ねぇ」

 

「でも、おかげで昨日今日だけで千葉の良い所たくさん教えてもらっちゃった。私もいまや立派な千葉っ子だよ!」

 

「ほぅ」

 

 それは聞き捨てならないな。

 どれ、ちょっとテストをしてやろう。

 

「なら、問題。千葉を代表する飲料水といえば?」

 

「マックスコーヒー!」

 

「では第二問。千葉で有名なマスコットキャラの名前は?」

 

「チーバくん!」

 

「ほお、どうやら基本は押さえているようだな。では最後だ。千葉県民が誰もが一度は耳にしたことのある有名な県民体操の名前は?」

 

「え?体操?」

 

 きょとんと首を傾げる自称千葉っ子。

 やれやれ、仕方がないな。特別に教えてやろうじゃないか。

 

「ふっ、正解は『なのはな体操』だ。そんなことも知らずに千葉っ子を名乗るとは片腹痛い。せめて千葉の特産品を全て丸暗記してから出直しなおしてくるんだな」

 

「……なんでお兄ちゃんがそんなに千葉に詳しいの?なんか普通にキモいんだけど」

 

「うわぁ、なんだかうちのお兄ちゃんみたい……」

 

 気付けばダブルシスターズからダブルで引かれていた。

 なぜだ。解せぬ。

 

「ふんだっ。でも私だって一つぐらいお兄ちゃんが驚く知識を仕入れてきたんだから。流石のお兄ちゃんもこれを聞いたら、ビックリすること間違いなしだよ!」

 

「無駄なことだとは思うけどな。言っておくが千葉に関して俺が知らない事なぞ、ほとんど無きに等しいといっても過言ではない。それでも無謀にも挑むというのならかかってくるがいい!」

 

「いや、だからなんでお兄ちゃんそんなに千葉に詳しいのよ……」

 

 再びのドン引きである。しかし阿良々木月火は気を取り直すように目に活力を込め、とっておきの知識とやらを自慢気に披露する。

 

「ふふん、絶対にお兄ちゃん驚くと思うよ。なんとねーー千葉県にも『星神神社』があったんだよ!」

 

 じゃああああん、と。背景に効果音が鳴りそうな勢いで阿良々木月火は発表した。

 だが、

 

「……星神神社?」

 

「……え?なにその『初めて聞きました』みたいな反応。え?嘘でしょ?」

 

 愕然とした表情だった。

 もしかして、こいつらの地元ではそんなに有名な神社なのだろうか?

 ちらりと横目に視線を向ける。

 するとその意図に気付いてくれたのか。同じように話を聞いていた戦場ヶ原が説明口調で答えてくれた。

 

「星神神社……確か、町の外れにある神社ね。なんでも天津ミカボシを祭神として祀っているとか。何故か近所では縁結びとか必勝祈願とかで有名なのだけれどね」

 

「ほお、そうなのか」

 

「そうなのかーーじゃないよ!なんで知らないフリしてるわけ!?お兄ちゃん、高校受験の時に何度も通ってたじゃん!忘れたなんて言わせないんだからね!」

 

 猛る阿良々木月火。俺は再び視線を動かし、阿良々木を見る。

 阿良々木は苦笑混じりに小さく頷いていた。

 

「みたい……だな。いや、そうだ思い出した。たしかに行った覚えがある」

 

「当たり前だ!私と火憐ちゃんだって一緒に合格祈願してあげたんだから!これで忘れてたなんて言ったら例えお兄ちゃんでも正義の鉄槌を食らわす所だったよ!」

 

 正義の鉄槌と聞いて思い出す。

 寝起き。ベッド。金属バット。……そうか、この話はもう終わらせるべきなのかもしれない。

 と、内心でガクブルな俺の背後から、それまで会話に参加していなかった羽川が唐突に言葉を向けた。

 

「月火ちゃん。星神神社と同じものがこの辺りにもあったって、ホント?名前だけが一緒なだけ、とかじゃなくて?」

 

「へ?……あ、はい。全く同じものだと思いますけど。外観とか、入り口の赤い鳥居とか、瓜二つでしたし」

 

「……そう。そうだったんだ」

 

 羽川は何事かを察したように深く頷いていた。そして顔を上げると、

 

「ありがとうね。月火ちゃん」

 

「へ?」

 

「あ、ううん。こっちの話。……と、そうだ。比企谷くん、サークル活動の事でちょっと話がしたいんだけどいいかな?出来れば戦場ヶ原さん達も一緒に」

 

「……ん、解った。戦場ヶ原とヒ……阿良々木もいいよな?」

 

 頷く。

 戦場ヶ原も同様に同意を示した。

 

「じゃあ月火ちゃんと小町ちゃん。私達、ちょっと上の方で話があるから、何かあったら呼んでくれるかな?」

 

「はい、了解です。あ、それと今日の夕食は中華ですから。また腕によりをかけて作らせてもらいますねっ」

 

「うん、ありがとう。私も話が終わったら手伝いに行くから」

 

 笑みを一つ。そして俺達は二階に上がる。

 部屋に入った途端、羽川は開口一番に、

 

「ーー孤毒蜘蛛の正体がわかったわ」

 

 信じられないような言葉を発した。

 

「わかったって……本当なのか、羽川?」

 

「うん。その正体も、たぶん、この現状の解決策も。まだ推測の段階だから断言は出来ないけどね」

 

「……べつに推測だろうが憶測だろうがなんだっていい。それよりも教えてくれ、羽川。どうすれば俺達は元に戻る?」

 

 俺ははやる気持ちを抑えながら羽川をまっすぐ見る。

 羽川は、けれど申し訳なさそうに眉尻を下げ、

 

「……ごめん、比企谷くん。言うのはもう少しだけ頭の中を整理させてもらってからでいいかな?わかったとは言ったけどまだ後一つだけ、確認したいことがあるの」

 

「確認って……んな悠長なこと言ってる場合じゃ」

 

「落ち着きなさい、比企谷くん」

 

 戦場ヶ原が俺を見る。落ち着いているのか単に無表情なのか判断に困る表情で戦場ヶ原は向けた視線を羽川に移して、

 

「……羽川さん。つまりその確認したい事さえ確認出来れば、私達にも話してもらえるのね?」

 

「約束します。だから、今は私を信じて少しだけ時間をもらえないかな?」

 

 嘆願のような声。見上げられる瞳。

 そうして真摯な眼差しを向けてくる羽川から俺は視線を逸らし、一言。

 

「……ああ、わかった」

 

 どうやら柄にもなく熱くなってしまったらしい。くそ、またしても俺の黒歴史に消したい一ページが追加されてしまったようだった。

 と、内心で悶え苦しむ俺の横で、素知らぬツラをした阿良々木が仕切り直すように、

 

「まあ僕も言わずもがな羽川には全幅の信頼を持って待たせてもらうわけだけれど。でもさ、その確認したいっていう事柄だけでも教えてはもらえないのか?」

 

「あ、ううん。もちろんそれは教えるよ。というか、私と阿良々木くんは明日も奉仕部の活動で時間が取れないからね。だから、それについては比企谷くんと戦場ヶ原さんに任せようかなって思っていたの」

 

「俺達に?」

 

 自然と眉根が寄る。

 それはそんなに簡単に確認できるモノなのかと疑問を視線に乗せて向ける俺に、羽川はニコリと笑って、

 

「大丈夫。難しいことではないから。あのね、比企谷くん達にはーー」

 

 夜は更けていく。

 それは、俺達が共に過ごす最後の夜だった。

 

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