とある魔術の時空裂断   作:G.

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◯ロモンよ、私は帰って来た!
はい、無事に帰って来れました

今回は若干長めにお送り致します。
ではどうぞ


Driftaway

 

 

───第七学区、とあるビル屋上

 

 

流れる雲、そよぐ風。街の喧騒の中、微かに聞こえる蝉の声が本格的な夏を告げる。

数時間前まで眩いばかりに降り注いでいた光りは段々と景色をオレンジに染めつつある今、フェンスに囲まれた屋上から街を見下ろしていたケイ達の背後に背丈の違う二筋の影が伸びる。

 

 

「わざわざこんな所まで来てもらって悪いね~。はじめまして、魔術師さん?」

 

 

振り返ったケイ達の前に一組の男女がいた。

1人は白人の男。顔つきからはまだ少年とも言えなくもないが、二メートルを超す大男に少年は如何なものか悩むところだ。黒い神父服を着ているが赤い髪、無数のピアス、目の下のタトゥー、指には無数のリングをし、強烈に甘い香水を撒き散らすこの男を神父とは誰も呼ばないだろう。

そしてもう一人の男より頭一つ小さい東洋人の女。腰まで届く黒髪をポニーテールにまとめ、首から上だけみれば『日本美人』と言えなくもないが、着ているTシャツを脇腹で縛り、ジーンズは左脚だけ腿の根元からばっさり斬られ、ウエスタンブーツを履いているその姿は異様である。そして何より腰からぶら下げている女の身長以上の長さの日本刀がその異質さを際立たせている

 

 

「保護してくれたのは感謝するよ。だが、馴れ合うつもりはないんだ。簡潔に行こう。彼女は?」

「ステイル……」

 

 

女は赤髪の男を諌める視線を送るがそれ以上は何も言わない。任務の達成を急いている様子でもなさそうだというのにこの緊迫した空気はなんなのだろうか。彼らの間には何か複雑な感情が渦巻いているように見えるが……

 

 

「つっちー、この子絶対友達少ないでしょ」

「正解だぜい。天才魔術師(笑)様だからにゃー」

「土御門!?」

 

 

殺伐とした空気なんてお構い無しなこの二人。格好な鴨が現れたと茶化し始める。

 

 

「大体、人に物を頼む態度じゃないよね~。やり直し」

「風上に立ってて煙草と香水が臭すぎだぜい。やり直し」

「ピアスも、リングもタトゥーも厨二病すぎな。やり直し」

「その見た目で一四歳とか全世界のショタに謝れにゃー。や り 直 し」

「あ、あの、その辺で止めてあげて頂けないでしょうか。ステイルが……」

 

 

ステイルと呼ばれた男を弄るのに夢中になっていた二人は、女の制止により初めて男が膝を抱えてイジけているのに気付く。

初めて会った人間と同じ組織の人間にここまで言われては仕方ないが、二メートルを超す大男が膝を抱えてる姿は何とも滑稽で仕方がない。

 

 

「奴も立ち直り早いから大丈夫だろ。話進めようぜい」

「そうだね。改めて、来てくれて有難う。俺は黒裏 継だよ」

「いえ、彼女を保護して頂いて有難う御座います。私はイギリス清教『必要悪の教会(ネセサリウス)』の神崎火織、と申します。そして彼が……」

「ふん……ステイル=マグヌス。魔 術 師だ」

 

 

拗ねたように自己紹介をするステイルに一同は苦笑いを浮かべるが、最早絡むのも面倒なので放置して話を進める。

 

 

「さて、話を進めると。現状、俺は二人にインデックスちゃんを渡すつもりはないんだわ」

「「な!?」」

 

 

継の発言に話が違うと驚く二人とは対象に、土御門だけが冷静に先を促した。

 

 

「二人を呼んでどうするつもりだったんだにゃー? 場合に由っては……俺も敵に回しかねないぞ?」

「今はまだ、って話ね? 二人を呼んだのは話を聞きたかったからだよ。インデックスちゃんとつっちーの話だけじゃ疑問ばかりなんだよね~。何故、魔術サイドの重要人物がここにいる? 何故、同じ組織の人間に追われている? そして何故……いやこれはいいや。とにかく、大体の疑問が解決されるまでは渡せないね」

 

 

当然の疑問だろう。この科学の街のセキュリティは並大抵のものではないのだ。イギリス清教の後ろ盾がある二人ならばわかるが追われている立場のインデックスまで易々と侵入出来る程ザルではない筈だ。

しかもインデックスは同じ組織の人間に追われているというのに、その理由がわからないと言っている。そして……そして何より現状を黙認している父、自分にインデックスを預けてきた上条。

ここまで来て疑うなと言う方がおかしな話だ。

飄々としたケイの瞳に確固とした意思を見た神崎は諦めた様に話始める。

 

 

「完全記憶能力、という言葉はご存知ですか?」

「ああ、何でもかんでも覚えてしまうやつでしょ?それが一◯万三◯◯◯◯冊の魔導書を脳内に保管しているタネなのかな?」

「ええ、その通りです」

 

 

魔術的な何かで保管しているものだと思っていたのだが、まさか単なる記憶術だったとは。人体の不思議に感心していると沈黙を続けていたステイルが重々しく口を開き始める。

 

 

「彼女の脳はその八五%を禁書目録の一◯万三◯◯◯◯冊によって埋め尽くされている。そのせいで、残りの一五%でわずか一年分の思い出しか溜めておく事しか出来ないのが現状だ。それ以上無理に『記憶』し続ければ彼女の脳は……パンクしてしまう」

「だから私たちは彼女の一年間を……『思い出』を消しに来たんです。彼女を助ける為に」

 

 

二人はまるで自分自身に語りかけるように、自身を納得させるかの様に言葉を紡いでいった。

それは一人の少女が背負うには余にも重過ぎる運命であり、またこの二人もその残酷な運命によって十字架を背負わされてしまった。

 

 

「去年も二人が?」

「はい……今まで何人ものパートナーが彼女との思い出を作り自ら壊してきました。或る者は耐えきれず彼女の元を離れ、或る者は自責の念に苛まれ続け……私たちも努力はしました。しましたとも。……ですが何をしても、何を残そうとも無に帰してしまう。どれだけ語り聞かせても、どれだけ写真を見せようと、彼女はただ謝り続けるんです……私たちには、もう、それが耐えきれないのです」

「だから二人は『親友』を捨て『敵』になった……か」

「そうだ。だから僕たちは何としてでも彼女の記憶を消さなければならないんだ。これ以上彼女の不幸(じごく)を繰り返さないためにも。改めて問おう。彼女はどこだい?」

 

 

これでインデックスが追われている理由はわかった。だが───

 

 

「まあ、待ってよ。少し確認したいことがあるからもうちょっと待ってて」

 

 

片手でステイルを制止しながらケイは電話を掛けはじめた。

受話器の向こうからは少女の声が微かに聞こえる。会話をしている継の表情からかなり親しい仲なのだろうが、今の今でこうも平然と会話をされると心中は穏やかでいられる訳がない。

ステイルは屋上に着いてから三本目の煙草に火を付けて気を紛らわせる事にした。

 

「───サンキュー。このお礼はそのうち」

「随分楽しそうだったね。君は僕をストレスで殺すつもりかい?」

「悪いね~、けど、これで全ての謎は解けたよ。ジッちゃn「ケイ」ハイハイ……辛気臭いのは嫌いなんですけどね~」

 

 

土御門の制止に肩を竦めるケイ。お巫山戯が過ぎたのは重々承知だが、このお通夜の様な空気ではこちらが参ってしまう。

 

 

「それで、何がわかったんですか?」

「ああ、その前に確認したいことがあるんだけど。インデックスちゃんは一◯万三◯◯◯◯冊の魔導書を覚えたが為に一五%しか自身で使えず、その一五%も一年でパンクするから教会は何らかの術式で毎年彼女の思い出を消してる。これでいいのかな?」

「さっきからそうだと言ってるだろう? 君h「ダウト」は?」

「だから『』だって言ってるんだよ」

 

 

この少年は何を言ってるのだ?『間違い(ダウト)』?何が間違っていたというのだ?少女にしてきた行為に?自分達が選んだ選択に?この少年は何が間違っていると言ったのだ?

 

 

「ケイ、どういうことだ?」

「つっちー。数ヶ月だけどこの街にいて、能力開発のカリキュラムまで受けててまだ気がつかない? 彼らは悲劇の道化人形だったんだよ」

「チッ!そういうことか……あの女狐め」

 

 

何かを察した土御門はこれ以上ない程顔を歪ませ、呪詛を呟いた。

状況が理解できない神裂は困惑の困惑の色を隠せず説明を求める。

 

 

「あ、あの、私達にも分かる様に説明して頂けないでしょうか」

「ああ、ゴメンね。話は簡単。インデックスちゃんは記憶を消さなくても死なない(・・・・)、いや死ななかった(・・・・・・)が正しいか」

「なッ!?それは一体どういうことだい!?」

 

 

慌てふためくステイル達に溜め息を一つ付き言葉を紡いでゆく。それはステイル達にとって晴天の霹靂にも似た衝撃だった。

 

 

「簡潔に言うと頭の中に一◯万三◯◯◯冊の魔導書が入ってようが、完全記憶能力を持っていようが脳がパンクして死ぬ事なんてあり得ないんだよ。大体、そんなんで死人出てるならとっくに対処法見付かってるっーの」

「でも! でも、実際彼女は一定の周期で苦しんでいるんですよ!?」

 

 

ケイの言葉を信じたくない。いや、今まで自分達がしてきたことが無駄なことだったとは思いたくないそんな思いから出た言葉なのだろう。

 

 

「そりゃそうだよ。君らの上司がそう仕掛けしたんだから。だからさっき聞いたよね?必要悪の教会が彼女に何かしてないか、って」

「そんな、それでは……」

「そう、インデックスちゃんは脳の容量が足りなくなって苦しんでいるのではなく、魔術的な何かによって苦しんでいる。その犯人は・・・君ら必要悪の教会(ネセサリウス)だよ」

 

 

静まり返る屋上。

真相を知らされて居なかったとはいえ、今まで助けようとしてきた少女を苦しめていたものが自分達の所属する組織だと知り、怒りや哀しみや様々な感情を織り混ぜ絶句するステイル達に、どう声をかけて良いのかわからずケイと土御門は視線を反らした。

フェンスの向こうでは既に夕陽が赤色を濃くしながら沈もうとしている。陽の光がビルの硝子に反射し、まるでミラーボールの様に輝き、この学園都市という大きな舞台に生きる全ての人間を照らしているかのように。

 

 

「なぁ……。二人はインデックスちゃんのこと助けたい?」

「当たり前だ! でなければ……でなければこんな悪夢のようなことを好き好んで繰り返すものか……!!」

 

 

絶望。

今の二人を表現するに相応しい言葉だ。だが───

 

 

「じゃあ、囚われのお姫様を助けに行きますか♪」

 

 

───絶望するにはまだ、早すぎる。

微笑みながら土御門に視線を移すと、全てを理解したのか肩を窄めながら微笑み返す。ステイル達は未だは思考が追いついていないようであり、ケイの言葉を頭で反芻しながら目を白黒させている。

 

「え? な、何か手があるというのですか!?」

「まあね~♪まずは当の彼女に会いに行こうか」

 

 

戸惑う二人を後目に、ケイは両の手を後頭部に廻し、鼻歌交じりに歩き出す。

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