とある魔術の時空裂断   作:G.

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Nobody Weird Like Me

10 years later……

 

―――日本、学園都市、窓のないビル

 

 

「親父~、コーヒーいる~?」

「ふむ、頂くとしようか」

 

 

食事の支度をしながら息子は父に尋ねる。

現在時刻は朝の9時。朝食としては少し遅いかもしれないが休日ならばこんなものだろう。

今日の朝食は洋食。手際良くスクランブルエッグとウィンナー、少量のサラダを一つのプレートにまとめると、今しがた焼き上がったトーストを食卓に並べる。あとはコーヒーを淹れて完成だ。

簡素かもしれないが男二人の朝食などこんなものだろう。まだカップ麺の類が出ないだけマシである。

普通の会話に普通の食事。どこにでもありふれた日常の一コマ。なのだが───

 

 

 

トポトポトポ……

 

 

 

───摂取方法が普通じゃない。

息子は「あいよ」と頷くとポットから巨大な水槽に淹れたばかりのコーヒーを直接注ぎこむ。

ツッコミ所は色々あるのだがこれが彼ら親子の、いや、父親のコーヒーの飲み方なのだから仕方がない。

それもそのはず。世紀の大魔術師にして科学の街学園都市の統括理事長である父親、アレイスター=クロウリーは、普段はその身を逆さまになりながら水槽の中の赤い弱アルカリ性水溶液に浸している。

コーヒーが注がれた水槽は赤と黒が混じり絶妙なコントラストを描き不気味な雰囲気を醸し出し、傍から見れば清々しい朝の光景にそぐわぬのだが───

 

 

「やはりケイの入れたコーヒーは美味いな」

「だろ?」

 

 

───注がれる方も満足気なら、注ぐ方もどや顔だ。なんだこの親子。

10年前、アレイスターはケイを保護し養子にしてから、当初の目的などとっくの昔に忘れ(?)親バカ街道まっしぐらで現在に到るのだ。

 片や息子のケイ=クロウリーはあれからすくすくと育ち、炊事、洗濯、掃除などの身の回りのことは全て出来、最近ではアレイスターの手伝いをするまでに成長していた。

綺麗なシルバーブロンドの髪は、今は耳にかかるくらいの長さをワックスで立たせ纏めている。

性別の判断が難し程に整った顔立ちと切れ長の二重に碧眼のせいもあり一見冷たい印象を受ける。そしてケイの放つ気だるそうな雰囲気が何ともミステリアスな雰囲気を作りだしている。

だがそれも寡黙な時だけであり、凄惨な過去にも心折れることなく素直に成長していったのはアレイスターの教育の賜物なのかもしれない。

 この10年を、二人はとても穏やかに過ごしてきた。

アレイスターは不器用ながらにケイに愛情を注ぎ、自身の知識と技術を与えた。

ケイはアレイスターに温もりを与え、自身の可能性を見せ続けた。

その光景はとても微笑ましく、この日常が永遠に続けばいいと誰もが思ってしまうほどに。

コーヒーを水槽に注ぎ終わるとケイは軽やかな足取りでテーブルに向かい冷めてしまう前にと朝食を取り始める。

 

 

「で、突然なんだけどさ~」

「ん?」

「俺一人暮らししようと思うんだよね~」

「……は?」

「……ん?」

「……私の聞き間違えだろうか。今ケイが一人暮らしするとk「そうだよ?」」

「「……」」

 

 

アレイスターの思考は今彼にとってミレニアム懸賞問題よりも遥かに難解な問題に差し迫っていた。

爽やかな朝、最愛の息子の淹れてくれたコーヒーに舌鼓を打ちながら今日も変わらぬ一日が始まると思っていた矢先、まさかの息子からの爆弾発言である。

その類稀なる頭脳を如何にフル稼働させようと答えが見つからないのだ。聞き間違いかと思ったがそうではないらしい。

とりあえずオーバーヒートしそうな頭を冷やす為、目の前で食事を終えにこやかにコーヒーを飲んでいる息子に聞いてみることにする。

 

 

「ふぅ、また急だな。理由を聞いてもいいかい?」

「ん~……色々あるけど出会いが欲しいからかな~」

「えー……」

「親父に拾ってもらって、何不自由なく育ててもらえてホント感謝してるよ?でも俺も15になるワケですよ! 思春期なワケですよ! ちょっとは青春を謳歌したいよね~」

 

 

軽いノリで笑うケイと対照的に真剣な表情で考え込むアレイスター。

出会いか・・・確かにケイはここに来てから一回も外に出たこともなく過ごしてきた。この窓のないビルと呼ばれる建物が彼の世界であり、ここに来る統括理事の中の数人が世界に彩りを添える者でしかなかったのだ。

そろそろ外に出て世界を広げるのもケイを思えばいいのかもしれない。

 しかしこの男、親バカである。

この10年最低限のプランの進行以外の殆どをケイに費やし、己の持つ全てを以て手塩にかけて愛でて、愛でて、愛でまくりながら育てた息子が自分と離れて暮らすなど、地獄の業火に焼かれながら尚も身を焦がさんとするほどに苦行でしかないのだ。

今アレイスターの頭の中はどこぞの天使と悪魔大戦争が起こっていた。

しかし、そんな想いなど露知らずにケイは───

 

 

「あ、心配しなくても学校には行かないからさ!能力開発なんか受けたらたらマズイしね。後は色々考えてるけど……今は内緒で♪」

 

 

などと食器を片付けながら表情をコロコロ変え、新生活に期待を脹らませていた。

 

 

「ちょt「よし、仕度は済んだな」いや、まっt「親父!お世話になりました。ちょくちょく顔出すから、ちゃんと仕事するんだぞ?じゃあね~」……oh……」

 

 

アレイスターの言葉を悉く遮り、ケイはあれよあれよと仕度を終わらせ消えてしまった。そう、消えてしまった。

 

 

「ふぅ……少し自由に育て過ぎただろうか。しかし、いつ見てもあれは見事なものだな。ケイ……やはり、君は私の切り札(ジョーカー)のようだ」

 

 

息子に最大の賞賛を贈りつつ、今日のコーヒーはしょっぱいな、と漏らす哀れな『人間』が一人取り残されていた。

 

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