とある魔術の時空裂断 作:G.
───第※学区、とある屋敷
翌日、とある学区にある一軒の屋敷。
一般家庭の住まいにしては大きいが、過度の装飾品などはなく、至ってシンプルな内装にこの屋敷に住む人間性が垣間見られる。
その中の一室。この部屋では既に朝の支度を終えた一組の男女が書類を片手に今日の仕事のスケジュールの確認をしている。
「・・・以上になります。」
「問題ないわ。では、宜しくお願いします。」
短い会話だがお互いの信頼関係があっての事だろう。
「畏まりました。では時間になりましたらお声掛けs「よっこいしょ」ッ!?」
不意に聞こえてきた声に二人は固まり、すぐさま声の方向へ振り向く。
するとどういうことだろう。銀髪の若い男が満面の笑みで此方を見ているではないか。
「誰だ!! きs「あら、ケイ君じゃない」親船さん!?」
「おはよ~、最中おばちゃん!」
「うふふ、おはようございます、ケイ君。急に現れるからビックリしたわ。」
「親船さん!? 彼は知り合いですか!? というか、一体どこから入ってきたんだ君は!?」
にこやかに朝の挨拶を交わす親船最中とケイ。
その二人を交互に見ながら全く状況が把握しきれていない混乱中の男。
「あはは、驚かせてゴメンね? 面倒だったから直接繋げちゃったんだ~。そちらの方ははじめましてですよね? ケイ=クロウリーと言います。以後お見知り置きを。」
「こ、これは丁寧に。私は親船さんの秘書を・・・ってクロウリー!?」
「そう、彼は理事長の息子ですよ。でもケイ君、出てきたって言ってたけど良く彼が許したわね。」
「あ~、全力で引き留められそうだったから一方的に伝えて逃げるように出てきちゃったんだよね~」
苦笑いするケイと、容易に想像できると目を細め微笑む親船最中。
ケイの名前を聞き慌てた男だったが、仲睦まじく会話する二人を邪魔するわけにもいかず、聞きたいことは山程あるものの今は黙っていることにした。
「それで、どうして私の所に?」
「いや~、出てきたのはいいんだけど、俺IDがなくてさ~。家も借りられないし、昨日は
「あらまあ。昨日というと第七学区の銀行強盗のことかしら?」
「もう新聞に載ってたんだ? 早いね~。それで……悪いんだけどIDと
「君!! 急に来て不躾ではないのかね!?」
そう、ケイはこの親船最中にIDの発行と
昨日の夜の事。ケイと土御門は今後のことを話し合っていた。その中で今ケイがするべきことのなかで最重要なのがこの二つだという結論に至ったのだ。
前回はケイの暴走と土御門のおかげで何とか無事に済んだが、次は保証できない。家を借りるのに必要な以前にこの学園都市でIDなしで外を出歩くのは気が気でならないという話になったのだ。
だが、一般の学生ならばともかく、虚偽の内容での発行・登録が出来る者など限られてくる。それこそアレイスターとまでは言わないがそれなりにこの街で力の有する人間でなければならないだろう。
土御門の伝では難しく、ケイ自身もさんざん悩み統括理事会の一人である親船最中に頼るという考えに至ったのだ。
「失礼なのは重々承知なのですが頼れる人が他にいないのです。……絶対に迷惑は掛けないから……ダメかな、最中おばちゃん」
ケイ自身窓のないビルの外で不用意に関わるのは迷惑を掛けるとわかっている。
だが自分だけではこればかりはどうしようもなく、こんなことを頼めるのは昔から息子の様に可愛がってくれた親船最中以外いないのだ。
「……二つ条件があります。まだ住むところは決まっていないはずよね? ケイ君、頼みを聞く代わりに住居は私が決めてもいいかしら?」
「親船さん…」
「最中おばちゃん……それは狡いよ……これ以上迷惑は掛けられない。それに俺テナントも探してるんだ。仕組みはわからないけど、何かあった時最中おばちゃんに辿り着いてしまう」
「あら、何かお店でも開くの? でもそれなら尚更都合がいいわ。大丈夫、それぐらいの手間は問題ないわ。」
親船最中の出した条件はケイが喉から手が出るほどの好条件であったが、しかしそれは必要以上にケイとの繋がりを他者に示しかねない内容だった。
親船最中としては息子の同然のケイの力になりたいのだろう。それをわかってか、秘書の男も諭すような視線を向けるばかりで何も言おうとはしなかった。
ケイは迷っていた。実の両親を亡くし学園都市に来てから、アレイスターが父親なら親船最中は母親同然に慕ってきたのだ。
そんな彼女を自分の我儘で危険に晒していいのかと。答えは簡単な筈なのに、何処かで自分のエゴが邪魔をする。
そんなケイの葛藤を解ってか、親船最中は話を続ける。
「ケイ君はテナントを借りて何をするつもりなのかしら?」
「え?あぁ…喫茶店でもやろうかと思ってさ~」
「あら、飲食も楽じゃないわよ?」
「だよね~。いや、恥ずかしいから誰にも───特に親父には言わないで欲しいんだけど。ほら、あのビルで炊事は全部俺がやってたじゃん?で、それから珈琲や紅茶に賓って、親父や皆の喜ぶ顔を見てるうちにこれを仕事に出来たらいいな~、って。軽い動機だけど一番長続きしそうだからさ~」
「じゃあ、公演などで外出してる際にデリバリーをお願いしましょう。これが2つ目の条件ではダメかしら?」
「ッ!?……ったく、敵わないな~……わかったよ。いつでも、なにがあっても届けるよ! 俺の力なら電話しながらでも届けられるしね~♪」
「ふふふ、楽しみがだわ。有難う、ケイ君」
(この二人を見ていると親子のように、深く信じあっているのだと感じる。何より親船さんのこんな笑顔を見たのはいつ以来だろうか。
ケイ=クロウリーか……この少年は信用に値する人間なのかもしれないな……)
「有難うはこっちのセリフだよ。でも俺からも一つ条件、というかお願いしてもいいかな?」
「あら?何かしら?」
「些細なことでも、何かあったら直ぐに連絡して欲しいんだ。……そちらの方には申し訳ないけど、毎度毎度薄い警備であのビル来るの勘弁してよ~。本当に心臓に悪いんだよね~」
「私も何度も進言しているんだが、中々首を縦に降ってくれなくてね。君からも時々言ってくれないか?」
「あらあら、貴方達いつの間に仲良くなったの? これは不利な状況ね……南の国にでも高飛びしようかしら」
「いいねぇ~♪ セブ何てどう? 今なら交通費とボディーガード代がタダだよ~?」
「そのときは書類持参で同行させて頂きますのでので、悪しからず」
「「え~!?」」
風刺的な冗談の応酬はケイと親船のハーモニーで笑いに変わる。
つい先程出会ったばかりの人間まで談笑に加えてしまえるのも偏にケイの持つ魅力なのだろう。
親船最中の追加条件は定期的に顔を見せること。
そして、ケイの条件は親船に降り掛かる危険を自分に排除させること。
この二つの条件は互いの絆を確固たるものとしてくれた。だが、それ以上に周囲の者達にとっても喜ばしいものとなってしまったはずだ。
様々な思惑が渦巻くこの街で、この絆は吉となるのか……それとも……