ゆめのまちanother『くるみのゆめアール大作戦』   作:TAMZET

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 かつて、少年は夢見た。ヒーローになりたいと。
 かつて、少女は夢見た。魔法使いになりたいと。
 やがて時が経ち、夢見る少年も少女も、大人になった。
 ある者は夢を忘れ、あるいは捨て、()せた現実へと迎合した。
 それが正解とされてきた。
 今までは……

 だが、時代は変わった。
 夢を捨てる時代から、夢を見る時代へと!
 今や、新幹線に一乗りすれば、あっという間にそこは夢の国。
 どんな夢も叶えてくれる、魔法の大都市。
 少年少女、老若男女。人種も生まれも関係ない。
 世界中の誰もが憧れる、夢研究の最先端。
 ここは夢の街、大東京。
 ゆめアールシティ……赤い夢の中へ、ようこそ。



第一話『おいでませ、大東京へ』

 秋風漂う青空の東京駅から桃色の弾丸が飛び出した。

 マゼンタの髪を持つ、天真爛漫な女の子。

 彼女の名は夢原のぞみ

 元気が取り柄の、サンクルミエール学園の2年生だ。

 

「東京~~~ッ! 着いた──っ!」

 

 もう一回り小柄な少女もそれに続く。金髪のツインテールが特徴的だ。

 彼女は春日野うらら。売れっ子女優としての顔も持つ、サンクルミエール学園の1年生。

 大都会の煌びやかさに負けない、向日葵の如き朗らかさで、うららはのぞみの後を追う。

 

「わぁ~! なんだか、久しぶりですね! 夏のインタビュー以来です!」

「うんっ!! ねぇねぇ! 早く入場しようよ!」

 

 元気いっぱいの二人の後ろには、くたびれた足取りの少女が1人。

 茶色の髪をショートヘアに整えた少女。

 彼女は夏木りん。のぞみの同級生で、古くからの親友だ。

 彼女の目の下には小さなクマが出来ており、既に疲労困憊と言った様子だ。2人の漲る活力についていくのが必死だった事が想像される。

 

「はいはい、のぞみ! 走らない走らない。人にぶつかるからね」

「もうりんちゃん、心配しすぎだって! ちゃんと前見て走ってるか……」

 

 りんの心配も虚しく、意気揚々と先頭を走っていたのぞみはある種の期待に応えるように見事に躓いた。

 

「ぎゃふん!」

 

 勢いよく顔面から着地したのぞみは、ピクリとも動かなくなる。「やっぱりね」とばかりに、りんは片手で頭を押さえた。

 珍しい光景に見えるだろうが、彼女達にとってはこれが日常茶飯事なのだから恐ろしい。

 うららが「大丈夫ですか!?」と心配そうな声で駆け寄る。顔面をぶつけたのだ、見るからに痛そうである。

 りんは倒れたまま動かないのぞみへと手を差し伸べる。こんなやりとりも何回目だろうか。こんなのが日常になる身としては、たまったものじゃない。そんな心の声が聞こえてきそうだ。

 

「ほーら言わんこっちゃない。うららも、こうなる前に落ち着きなさいね」

「は、は~い」

 

 りんの差し出した手を取り、のぞみはふらっと起き上がる。だが、その顔から、いたずらっ子の笑みは消えていない。りんの目の下のクマが、心なしか深くなる。

 

「はしゃいじゃってまぁ。そんなに楽しみだったのかしら?」

 

 そんな彼女達のやりとりを温かな目線で見守る人物が一人。ウェーブのかかった紫の髪を持つ、ミステリアスな雰囲気の女の子だ。

 美々野くるみ。りんやのぞみと同じ、サンクルミエール学園の中学2年生だ。その正体は、パルミエ王国の準お世話役・ミルク……なのだが、学園のみんなには内緒である。

 

「あの子、どこに行っても変わらないのね」

 

 親友達の喧騒に、くるみは呆れを隠せない。

 だが、この平穏も決して悪いものではない。そう思いながら、くるみは微笑み混じりに視線を変える。視線の先には、お土産屋さんの前で食い入るように商品を見つめる少女達の姿があった。

 

「こまちとかれんも、お土産漁りに夢中だし……これが都会の魔力って奴なのかしら」

 

 嘆息混じりにそう呟き、くるみは長蛇の列へと視線を向ける。

 行列を処理する、検問の如き6つのゲート。その向こうに広がる光景に、彼女は頬を緩ませた。

 

「ま、今日くらいはいいか。だってここは……」

 

 ゆめアールで賑わう街・東京なのだから。

 

 ≒

 

 ここ日本の中心であり、数多の国々との連携を繋いでる大都会・東京。高層ビルがありとあらゆるものを包囲網が如く忙しなく囲み、聳え立っている。

 

 大都会の一角、ゆめアールゲートを潜った先で何やら演説をする人物がいた。サンクルミエール学園教師・小々田コージ先生である。なかなかのイケメンで、生徒からの人気が絶えない、ニクい先生だ。

 だが、今彼の前にいる6人の生徒達の顔に浮かんでいるのは、羨望というより倦怠であった。

 

 理由は一つ、話が長いのだ。りん、くるみの2人は、まだ説明を聞いている方だ。

 だが、のぞみとうららは不満げな表情を隠してすらいない。窮屈なスピーチから一刻も早く脱出したいという彼女達の心の声が、雄弁に表れている。

 そんなスピーチも5分を超えた頃、ようやく小々田先生の演説が終わった。

 「説明終了!」の言葉に2人の表情が、福笑いの恵比寿様の如く(ほど)ける。相変わらずの分かりやすさだ。それを横で見ていたくるみは少しだけ口元を緩ませた。

 既にこまちとかれんは、離れた場所でくつろいでいる。相変わらず、世渡りの上手な人たちである。くるみはこれまたくすりと笑う。

 

「じゃあここから自由行動とします。行動中はくれぐれも、羽目を外しすぎないように。あと、知らない人から声をかけられても、決してついていかないように。それと……」

「小々田せんせーい! なーがーいーでーすー!」

 

 冗長な説明に、ついにうららから抗議の声が上がった。そこに、のぞみが追撃をかける。

 

「そうだよココ! ここ学校じゃないんだから!」

「そうですよ! 仕事とプライベートはキッチリ分けないと、いい役者にはなれませんよ!」

「いやいや、ココは芸能人じゃないし」

 

 りんのツッコミも、怒れる2頭の獅子には届かない。なおもぎゃあぎゃあと文句を言う2人を、りんが何とか諫めようと奮戦する。

 

 そんな彼らを、ベンチから見つめる視線が二つ。カチューシャを付けた緑の髪の少女・秋元こまちと、金髪と色黒の男性・ナツだ。

 こまちは、サンクルミエール学園の3年生。のぞみやくるみにとっては、先輩にあたる。和やかな空気で皆を和ませてくれる、いい先輩だ。

 ナッツは、かつてプリキュア5を助けた、パルミエ王国という小国の王子。彼女達との親交は深く、エターナルやナイトメアとの戦いが終わった今も、今こうして引率役を引き受けている。

 周囲の目を引くほどに賑やかな友人達の喧騒に、こまちの頬が緩む。

 

「ふふ、ココさんもすっかり職業病ね」

「まったく、たまには国に帰ってきて欲しいけどな」

「ナッツさんも、すっかり国王が板についたわ」

「……皮肉なもんだ」

 

 強い風が吹いて、ナッツの体勢が少し崩れた。

 肩が触れ合う。

 こまちの方が、避けた。頬が僅かに赤らんでいる。

 ナッツはそれには気が付かない風で、体勢を戻す。

 

 そんな二人から少し離れたところで、少女達が桜並木を歩いている。

 くるみと、もう1人は青色に靡くストレートなロングヘアの少女・水無月かれん。くるみの一年先輩であり、こまちの親友でもある。

 

()()の演説、聞いていかなくて良かったの?」

「いいの。王子様としてのココ様はともかく、先生としてのお話は長くて退屈よ」

 

 サバサバしたくるみの言動に、かれんは微笑を浮かべる。

 大人びた外見に違わぬ、大人びた仕草。

 かれんのようになりたい。かれんの横で、並んで歩きたい。

 優雅さと気品を兼ね備えた彼女は、くるみの憧れでもあった。

 

「もうすぐ、春かぁ」

「そうね。長い一年だったけれど、こうしてみるとあっという間ね」

「本当に、長い一年だったわ。この一年頑張ってこられたのは、かれんと……」

 

 くるみの視線は、かれんとは違う一点に向けられている。りんに説教をされている小々田先生と、その隣で正座をしているのぞみとうららに。

 2人の様子を見たくるみの頬が綻ぶ。からかい混じりに、かれんはくるみに話しかけた。

 

「のぞみ達が羨ましい?」

「はぁ? 何でそんな事になるのよ」

 

 目を釣り上げて否定するくるみ。だが、それに反比例してかれんの口角は上がってゆく。

「あら、私の勘違いかしら。のぞみ達の仲間に入れて欲しいなぁって、そんな事を考えていると思ったのだけど」

「そんなこと……」

 

 そう言いかけて、くるみは口をつぐんだ。

 そんなこと、ないのだろうか。

 桜が咲く程に、流れた季節。のぞみもうららも、夢を見つけ、そこに向かって駆け出して行く。

 

(けど、私は……)

 

 くるみはフルフルと首を振り、夢混じりの空へと目を向けた。

 

「おあいにく様。私には……そんな事してる暇ないから」

「……くるみ?」

 

 かれんに背を向け、くるみは足早に歩き出す。

 この気持ちは、きっとかれんには分からない。いや、かれんだけじゃない。自分の夢が叶うと信じて疑わないあの子達には。

 そんな事を考えながら、くるみは、まだ肌寒い東京の街を征くのだった。

 


 

 少しして、全員が集まった。ナツが集合をかけたのである。

 小々田先生が抗議の表情を浮かべる反面、のぞみとうららはホッとした表情で、今時漫画でも見ないような胸の撫で下ろし方をしている。

 

「俺はココを捕まえておく。こまちも、のぞみ達と一緒にゆめアールを満喫してくるといい」

 

 引きずられる小々田先生。去りゆく2人に、くるみは慌てた様子で手を伸ばす。

 

「あ、私もココ様ナッツ様と……」

 

 ナツはくるみを視線で制す。

 トクン

 くるみの心臓が音を立てる。その感触は決して心地良いものではない。

 

「くるみは、のぞみ達の監督を頼む。かれんやこまち、りんはともかく……約2名、放っておくと何をしでかすか分からない奴がいるからな」

 

 ナツの言葉に、心当たりのある約2名が抗議の声を上げる。そんな2人を黙殺し、ナツはココを睨む。

 

「それでいいか、ココ」

「え、いや、僕も先生として……」

「……」

「……そうだな。ここはくるみに頼む事にするよ。今日は僕達の事は忘れて、羽を伸ばしてくれ」

 

 小々田先生の言葉に、約2名が喜びの跳躍を見せた。さながら、水族館で餌をもらえたイルカだ。

「それじゃ、約2名の監督、頼んだよ!」

「はーい!」

「なんでのぞみが答えるのよ!!あなたは監督される側でしょ!?」

 

 のぞみの頬を引っ張るくるみ。

 ゴムのように、頬が左右に自在に伸縮する。

 

「ふぇ!? ふふみふぃふぁいふぉ(くるみいたいよ)~!!」

 

 のぞみが両手を掲げ降参の意を示したときには、既に2人の姿は無かった。

 

 「ココ様……ナッツ様……」

 

 2人の面影を想像する中で、くるみの心の中にモヤモヤとした塊が渦巻き出す。その塊の正体を、この時の彼女はまだ、言葉にする事ができなかった。




 お疲れ様です。
 あらすじにもあります通り、こちらは【くくれ、】氏の作品を私が加筆・修正したものとなります。元々本作は氏との共同制作で進めており、既に台詞部分は全て完成しております。

 映画本編の裏側を描くストーリーとはなりますが、gogo本編ではあまり描かれなかった、『ミルクの夢』に関する考察を含むストーリーにもなります。
 ミルクの夢とは何なのか、そして本編の裏で巻き起こる壮大な物語の結末は……どうなってしまうんでしょうね。

 また、ゼロワンとルフランの続きをお待ちの皆様、ごめんなさい。どうしてもこれの続きが書きたかったんです。許して下さい。
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