ゆめのまちanother『くるみのゆめアール大作戦』   作:TAMZET

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頑張りまぁす。
ここから佳境です。


第十話『ミルクの夢とドリームの手紙』

時は過ぎ、夕方。

子供を失い、オレンジの夕焼けに照らされる公園には、昼間のような夢の動物達はいない。ただ、静かな風が吹くのみである。

公園のベンチの上には、くるみとシロップが並んで座っている。

くるみは空っぽになった缶ジュースを啜った。オレンジ味の空気が、喉を渇かせる。薄手の毛布にくるまった彼女は、腫れた目を擦り、東京湾に映る夕陽へと目をやった。

 

「ねぇシロップ?どうして、来てくれたの?」

「メルポが教えてくれたんだよ。お前達がピンチだから、助けに行ってやれって」

 

シロップは少し照れ臭そうに鼻の下をこすり、答えた。

くるみはフルフルと首を横に振った。

 

「そうじゃなくて、何で東京に?キュアローズガーデンのお留守番が必要だって言ってたじゃない」

 

シロップは「あー」と声を漏らし、少し考える素振りを見せた。その仕草は、理由を説明しようというよりは、そんな事も言ったっけと言った具合の仕草だった。

相変わらずの適当さ具合だ。

くるみは心の中で笑みを漏らした。

 

「まぁ、キュアローズガーデンにじっとしすぎてるのも暇だからな。パルミエ王国のみんなに見張りも変わってもらってるし、一瞬くらいなら、抜け出しても大丈夫だろうって」

「そんな事に王国のみんなを駆り出さないでよ。てか、それじゃ東京に来てた理由の答えになってないじゃない」

「理由なんて簡単だろ。ここが、俺の今の仕事場だからだよ」

 

シロップは自信満々げに、そう暴露した。

シロップの横では、メルポが同じように胸を張る仕草をしている。

 

「シロップ……アンタ、まだ運び屋やってるの?」

 

くるみは若干呆れ気味に、シロップを仰ぎ見た。

 

「もちの論!ゆめアールの期間中に、ガッポリ稼いでやるのさ」

「いや、そんな事する必要ないじゃない。キュアローズガーデンにいれば、仕事しなくても暮らしていけるでしょ?」

「いや、最初はそう思ったんだけどな。一度身についちまった習慣は変えられないっつーか、運び屋も案外悪くないっつーか」

 

勤勉なのか、怠け者なのか。

シロップのよく分からない答えに、くるみは肩をすくめた。

 

「スカしてても、根は勤勉だったって事ね」

「お前にだけは言われたくねぇよ」

 

シロップの軽口に、くるみはクスリと笑った。

シロップも前に進んでいる。プリキュア5の仲間達も同じだ。これまで止まっていた自分とは違う。

そんな彼女の思いを察してか、シロップは「ほら」とくるみの足元に何かを置いた。

それは、薄い綿でできた、簡易的なスリッパだった。

 

「忘れてた。100均のヤツ。サイズ合うかわかんないけどよ。裸足だと、色々と困るだろ」

「うん……ありがと」

 

くるみはそこで、自分がシロップに何も話していなかった事を思い出した。自分が落ち着くまで、彼が隣にいてくれた事にも、やっと気がついた。

くるみは拳を堅く握り、話し始めた。

(ゆめアールに来たこと。迷子になったこと。のぞみと喧嘩したこと、ナッツに怒られたこと、みんながマネマネにやられた事。

その全てを聞いて、シロップは一言……こう言った。

 

「大変だったな」

 

それ以外言葉が選べなかったのだろう。

だが、彼の言葉は、くるみの心をチクリと刺した。自分が感じた苦しみを、大変だったの一言で片付けられたくなかった。

くるみは怒鳴るようにして、シロップへと詰め寄った。

 

「大変なんてモンじゃないわよ!迷子になるわ、ナッツ様には怒られるわ、みんなはやられちゃうわ!」

「そんなの、俺に言われてもしょうがないだろ!」

「そんなの分かってるわよ!私だって……分かってるのよ……」

 

くるみの目に、次第に涙が溜まってゆく。

 

「のぞみにも、ナッツ様にも、謝れてない……それなのに、2人とも私の前からいなくなって……」

 

シロップは、口を閉ざしてしまった。

どうしていいか分からないのだ。

くるみは涙を滲ませた瞳でシロップを見た。

 

「ねぇ、シロップの夢って、何?」

「ゆ、夢!?」

「マネマネに言われたの……お前の夢の蕾は小さい、役に立たないって。それって多分……私が自分の夢を持ってないから。私……自分の夢がわかんない…………」

 

シロップにこんな事を言っても仕方ないと、分かっていた。それでも、くるみは、心の奥から飛び出してくる言葉を止められなかった。

ゆめペンダントを使えなかった事、アクアと話した事。マネマネにバカにされた事、不満と悔しさ、それら全てを吐き出した。

くるみが話し終わっても、シロップは黙っていた。

沈黙が、2人の間に流れた。

どれだけの時間が経っただろう。

沈黙を先に破ったのは、シロップだった。

 

「そんなの、普通だと思うけどな」

 

夢が無いのが、普通。

くるみは分からないと言った顔でシロップを見返した。

 

「たとえば、今の俺に、夢は……無い!」

「?」

「キュアローズガーデンに行ってフローラに会う事が、俺の夢だったからな。けど、それは叶った。だから、今の俺はやることが無い!」

「そんなのは分かってるけど……それでいいの?」

「良くは無い!」

 

シロップは胸を張ってそう言い放った。

何故胸を張れるのか、くるみには分からない。

 

「俺は今夢探しの途中だ。それが見つかるまでは、運び屋を頑張る。それでいいと思ってる」

「そんなのでいいの?」

「いいだろ。俺の事だしな。くるみの夢もくるみのもんだろ?なら、自分のペースで頑張ればいいだろ」

「……見つかるまでは、自分のペースで頑張る、か」

 

シロップの言葉は、思うよりすんなりと理解する事ができた。

準お世話役から、お世話役になる。かれんは立派な夢だと褒めてくれた。マネマネには、夢は小さいとバカにされた。

けど、それでも自分の夢は自分の夢なのだ。誰に何と言われようと、自分のペースで叶え続けようとすれば良いのだ。

聞けばすぐに分かるほど、簡単な答え。だが、くるみは自分の中で、何かが変わったのを感じていた。

胸のつっかえが取れたような、そんな感覚だ。

そんな時、突然ベンチの裏側から何やらけたたましい音が鳴り響いた。

 

「メー!メー!」

 

音の正体はすぐに分かった。メルポだ。

メルポは2人の目の前まで歩いてくると、一通の手紙を吐き出した。

出てきたのは、虹の蝶が刻印された手紙。プリキュアからの手紙ということだ。宛先を見たシロップは、目をまん丸にした。

 

「これ……ドリームからだ。お前宛みたいだ」

 

シロップは無造作に手紙の封を切ると、声に出して読み始めた。

 

「なになに?『ミルクへ 昨日はごめんなさい。これを読んでいると言う事は……」

「乙女への手紙を覗き見るなんて!何考えてるのよ!」

 

手紙をひったくり、くるみはシロップに背を向けた。シロップは少し怯えながらも、手紙の内容を盗み見ようと、首を伸ばした。

 

『ミルクへ

昨日はごめんなさい。これを読んでいるという事は、私のお手紙、届いてるって事だよね。心配しないで。私は無事です』

 

手紙は、さらに続いている。

 

『くるみがいなくなった後、いろんな事があったんだよ。エゴエゴが頑張って、私の夢の蕾だけ取り返してくれたり、博士と一緒にみんなを起こそうとしたり。けど、ダメだった。私はこれから、エゴエゴと博士の二人と力を合わせて、マネマネと戦います。本当だったら、ヒーリングっど♥︎プリキュアのみんなが力を貸してくれたら嬉しいなって思うけど、ここからじゃ声も届かないし、私が頑張らないと。私が言いたいのは、その後のこと。落ち着いた時に、読んでください』

 

くるみはみじろぎ一つせず、手紙を読んでいる。

シロップは手紙の続きに目を這わせる。

 

『私はカグヤちゃんに夢の蕾をあげようと思います。夢の蕾がなくなったら、私達はたくさん眠ってしまうみたいです。私は寝坊助だからちゃんと起きれるか、心配です。』

 

「……こ、これって」

 

シロップは慌てて口を押さえた。

くるみは手紙を読むのに集中していて気が付かないようだ。

 

『くるみには、いーっぱい!それこそ数え切れないくらい、助けてもらいました。次会えるのはいつになるか分からないから、今のうちにお礼を言っておきます。今までありがとう……』

 

くるみはそこで、手紙を閉じた。

彼女の目からは、涙があふれていた。

当然の事である。行かなければドリームは眠ってしまう。何より、マネマネに勝っているかも分からない。けれど、行けばくるみは……

 

「しっかりしろよ」

 

シロップは厳しく言い放った。

 

「……」

 

くるみ答えない。

シロップは続ける。

 

「ドリームがピンチなんだろ?一人で、敵に挑もうってなってんだろ?敵がどんなに強いのか、そのマネマネって奴がどんだけ怖いのか、俺には全然分かんねぇ」

「……」

 

くるみはすっくと立ち上がった。

身体は震えていた。

息は荒く、拳は固く握られている。

表情は窺えずとも、その心中は推し量られるものだ。

 

「……でもよ!」

 

シロップは、声を低くした。

彼なりの、決意の表れであった。

 

「お前が助けに行かないで、誰がアイツを助けるんだよ。昔のお前なら……」

「うおおおおおおおおっ!!!」

 

くるみが発した突然の雄叫びに、シロップは身を震わせた。

公園の周りを歩いていた人々も、振り向く程の叫びだった。

やがて、くるみは振り返った。

その目にはもう、涙は無かった。

 

「ドリームの真似してみたの。やられそうな時、苦しい時、ドリームはいつもこうしてた」

「お、おう」

「マネマネを倒しに行けって?当たり前よ!私だって、プリキュアよ。プリキュアじゃないかもしれないけど、プリキュアなのよ!」

「滅茶苦茶言ってんなオイ」

「ふふっ!ありがと」

 

くるみは白い歯をいっぱいに見せて笑った。

その表情はのぞみによく似ていた。

 

「いい顔になったじゃん」

「……うん!ありがとうシロップ!私、吹っ切れた!」

 

くるみは視線の先には、夕闇の紫に染まる海があった。

否、海では無い。その向こうに聳える、我修院邸があった。

 

「ありがとついでにお願い!」

「うん?」

「私を、我修院博士の家まで連れて行って!」

 

シロップは鼻の下を擦り、わんぱくに笑う。

辺りに人がいない事を確認し、シロップは鳥形態に変身した。

 

「へへ……お安い御用ロプ!」

 

くるみを背中に乗せ、シロップは両翼を羽ばたかせる。

風を切り……2人は我修院邸へと飛び立った。

 




ここで大体、お話全体の2/3くらいになります。
そろそろ起承転結の転に入る頃合いですね。
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