ゆめのまちanother『くるみのゆめアール大作戦』   作:TAMZET

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今回は、外伝的立ち位置のお話です。
この後の決戦に関わるお話です。


第十一話『あの日の思い出』

 これは、かつてまだエターナルが存在していた頃の話。

 丁度クレープ王女が見つかったばかりの頃の思い出。

 私は、夕暮れの学校で机に伏せていた。放課後……他の生徒達は部活や課外活動で出払っている。ひとりぼっちの教室に、私はいた。

 そんな私に声をかけてくれてのは、くるみだった。

 

「……くるみ?」

「らしくないじゃない。元気だけが取り柄ののぞみが、萎れてるなんて」

 

 くるみは私の隣に座った。

 広い教室が、少しだけ狭くなったのを覚えている。

 

「何かあったの?」

「うん……」

 

 くるみは優しく話しかけてくれた。いつもの彼女からは考えられないくらい、優しい言葉だった。

 私が落ち込んでいるのに気がついて、気を遣ってくれているんだ。

 そう思うと、なんだか心がキュッとなって。

 私は、結局何も答えられなかった。

 

「悩んでるのは、ココ様とクレープ王女の事?」

 

 私はバッと顔を上げ、くるみの方を見た。

 彼女の回答は、ドンピシャで私の悩みだったからだ。

 

「ど、どうして分かったの!? もしかして、超能力」

 

 くるみは得意げに、ふふんを笑ってみせる。

 まるで、あなたの事なんて全て分かっているわよとでも言いたげだ。

 驚いてはいる。けれど、なんだか少し悔しい。

 

「簡単よ。元気だけが取り柄のアンタが落ち込むなんて、食べ物の事かココ様の事くらいしかないでしょ?」

 

 そうか、くるみには私の事がそう見えているのか。

 確かに言われてみればその通りなのだが、少しショックだ。

 

「……話してみなさいよ」

 

 くるみは口端をやわりと緩め、笑った。

 いつもは、一番こういう事を相談できなさそうな相手なのに。今日は不思議と、彼女の事が頼もしく見えた。

 気がつくと、私は口を開いていた。

 

「ココの、結婚の事……」

「あぁ……クレープ王女と結婚する約束があるって話ね」

「うん……」

 

 一度話し始めると、もう止められなかった。

 ココとクリスマスに想いを伝え合った事。ココにいいなずけ? ……結婚を約束していた相手がいて、それがショックだった事。その話を聞いてからずっとココの事が頭から離れないということ。

 くるみは私の話を、相槌を打ちながら、静かに聞いてくれた。

 いつも何かにつけて私の事を茶化してくるのに、今日だけは、彼女の事がとても大人びて見えた。頼りになる、大きな子に見えた。

 

「いつも一緒にいてくれるから忘れちゃうけど、時々思い出すんだ。ココ、王様なんだって」

「そうよ? ココ様はいつでもパルミエ王国の王様なんだから。忘れないで頂戴ね」

「だったら、王様のお嫁さんは、やっぱり女王様なんだよね」

「当たり前じゃない。鶏の子供がひよこだってくらい、当たり前よ」

「……そう、だよね」

 

 どんな絵本に出てくる王子様だって、結婚するのはお姫様とだ。私はプリキュアだけれど、それ以外は普通の中学生だ。

 偉くも何ともない。ましてや、お姫様だなんてとんでもない。

 お姫様になるのは、もっと特別な子じゃなきゃダメなんだ。

 

「やっぱり、私じゃココのお嫁さんにはなれないのかなぁ」

「どうして?」

 

 私の質問に、くるみは首を傾げた。

 彼女がそんな仕草をする理由は分からなかった。

 私はなんとか言葉を続ける。

 

「だって、クレープは王女様だもん。王様と結婚できるのは、同じ王様みたいな人じゃなきゃダメでしょ?」

「……どうして?」

「えっ?」

「別にいいんじゃない? こっちにだって、そこら辺の平民が、王子様の目に止まってタマノコシ? みたいな話だってあるじゃない。例えばほら、シンデレラとか」

「でも、私と一緒じゃ、ココが……」

 

 くるみが、明らかにそれと分かるため息を漏らした。

 額に皺がやっている。目がいつもよりも鋭くつり上がっている。怒っているのだと思った。くるみの気持ちは分からない。何で怒っているのかも。

 私が、あんまりにもダメだから? それとも別の理由? 分からない。

 そんな事を考えている内に、くるみはすぐに、元の表情に戻った。

 彼女の心の中で何が起きていたのか、私には分からない。

 ミルクの時から……ずっと……分かるようで、分からない。

 

「妬けちゃうわね……まったく」

 

 小さな声でそう呟き、くるみはまっすぐ私の方を見た。怒っているような目ではない。けれど、鋭い視線に私は射すくめられた。

 返答いかんでは、ただでは済まさないといった目つきだ。

 

「あなたはどう思ってるのよ?」

「え?」

「ココ様と結婚して、パルミエ王国の女王様になる覚悟、あるの?」

 

 彼女の言葉が、私の全身を稲妻の如く駆け抜けた。

 私は今まで、王女様が王国の女王様になるものだと思っていた。けれど、本当はそうじゃないんだ。ココが選んだ人が、パルミエ王国の女王になるんだ。

 ココが私を選んでくれた時……特別じゃなくても、女王になれるんだ。

 

「それは……」

「あなたがそんなんじゃ、ココ様はクレープ王女が攫っていくかもね。まっ、パルミエクレープ連合王国なんて、私は絶対に認めないけど」

 

 私は、くるみのまっすぐな視線に耐えられなかった。

 女王様になる覚悟が今の自分にあるのか、それを考えるのが怖かった。

 でも、ココがクレープ王女と結婚して、私達の前からいなくなるのは……もっと嫌だった。

 心の中にあったモヤモヤした気持ちは、いつしか不安の種へと変わり。その種はムクムクと芽を出し始めた。

 教室を染める夕陽のオレンジすら、不気味に感じる。

 心が痛い……ざわざわする。

 でも……………………

 次のくるみが発した一言が、その変な気持ちの全てを吹き飛ばした。

 

「……私は、クレープ王女よりも、あなたに……ココ様のお嫁さんになって欲しい」

「……え?」

 

 ペタッと机に顎をつけた。

 彼女の表情は窺えない。だが、声色は、明るかった。

 彼女がなんでそんな事を言ったのか、分からない。

 知りたいけど、知りたくない気もする。

 私が質問するより早く、くるみは話し出した。

 

「そりゃあなたみたいなバカでドジで、何も無いところで転ぶような人にココ様を任せるのは心配よ。でもね、あなた以上に人のために頑張れる人を、私知らないのよ」

「くるみ……」

「のぞみには、のぞみなりに良いところがある。もちろん、私にもクレープ王女にも。だったら、その良いところを思いっきりぶつけてやりなさい! ココ様は、それを受け止める器のある方よ」

 

 くるみはすっくと立ち上がった。

 すらりと伸びた、きれいな背格好だった。

 振り返った時……彼女は満面の笑みを浮かべていた。

 

「大丈夫! ココ様は優柔不断だけど、人の恩は誰よりも忘れない方よ。あなたが築き上げたココ様との絆は、どこぞの王女の、覚えてもないような約束には負けないわ」

「……ありがとう!」

 

 心の中に立ち込めていた霧が晴れるのを、私は感じた。

 一番大事なのは、一緒に過ごした時間。そこで作り上げた絆なんだ。

 ココとクレープ王女の間に昔何があったのか、私には分からない。でも、ココと過ごした時間は、負けない自信がある。

 

「くるみのおかげで、私……なんだか自信出てきた! そうだよね。ココと私は、ずっと一緒にやってきたんだもん。その絆を私が信じなきゃ……だよね!」

「気がつくのが遅いのよ。本当、世話が焼けるわね」

「えへへ! ありがとね、くるみ!」

「な、何よ! か、勘違いしないでよね! あなたのためじゃないんだから!」

 

 くるみは、半ば叫ぶようにそう答えた。

 彼女のほっぺは真っ赤に染まっていた。

 照れているんだと、すぐに分かった。なんだか、いつものくるみより、ひと回りもふた回りも可愛く見えた。

 

「あなたが元気ないと、ナッツハウスの花が枯れちゃうのよ。そうしたら、かれんが悲しむもの」

「素直じゃないんだから! もう!」

「やめなさいよ!」

 

 くるみは慌てて私に背を向けると、鞄を手に、早足で教室の出口へと歩き出した。私は走って彼女を追いかける。

 私が足を早めると、くるみも同じだけ早く歩く。

 そんな追いかけっこを続けながら、私達は教室を後にした。

 

「そうだ、くるみ……」

「なぁに?」

「ゆーじゅーふだんって、なに?」

「……ほんっと、世話が焼けるわね」

 

 これは、大事な思い出。

 私とくるみの、大事な大事な思い出。

 


 

 まどろみの中で、マネマネがドリームの夢の蕾を掴み取る。

 側にはボロボロになったエゴエゴが倒れている。我修院博士とドリームの最後の攻撃は、失敗に終わったという事だ。

 薄れゆく意識の中で、ドリームは思う。

 

「ミルク……私、信じてるよ……」

 

 ドリームはゆっくりと目を閉じた。

 その口元には、薄い笑みが浮かんでいた。

 




これはpixivにも同じものを投稿します。
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