ゆめのまちanother『くるみのゆめアール大作戦』 作:TAMZET
この後の決戦に関わるお話です。
これは、かつてまだエターナルが存在していた頃の話。
丁度クレープ王女が見つかったばかりの頃の思い出。
私は、夕暮れの学校で机に伏せていた。放課後……他の生徒達は部活や課外活動で出払っている。ひとりぼっちの教室に、私はいた。
そんな私に声をかけてくれてのは、くるみだった。
「……くるみ?」
「らしくないじゃない。元気だけが取り柄ののぞみが、萎れてるなんて」
くるみは私の隣に座った。
広い教室が、少しだけ狭くなったのを覚えている。
「何かあったの?」
「うん……」
くるみは優しく話しかけてくれた。いつもの彼女からは考えられないくらい、優しい言葉だった。
私が落ち込んでいるのに気がついて、気を遣ってくれているんだ。
そう思うと、なんだか心がキュッとなって。
私は、結局何も答えられなかった。
「悩んでるのは、ココ様とクレープ王女の事?」
私はバッと顔を上げ、くるみの方を見た。
彼女の回答は、ドンピシャで私の悩みだったからだ。
「ど、どうして分かったの!? もしかして、超能力」
くるみは得意げに、ふふんを笑ってみせる。
まるで、あなたの事なんて全て分かっているわよとでも言いたげだ。
驚いてはいる。けれど、なんだか少し悔しい。
「簡単よ。元気だけが取り柄のアンタが落ち込むなんて、食べ物の事かココ様の事くらいしかないでしょ?」
そうか、くるみには私の事がそう見えているのか。
確かに言われてみればその通りなのだが、少しショックだ。
「……話してみなさいよ」
くるみは口端をやわりと緩め、笑った。
いつもは、一番こういう事を相談できなさそうな相手なのに。今日は不思議と、彼女の事が頼もしく見えた。
気がつくと、私は口を開いていた。
「ココの、結婚の事……」
「あぁ……クレープ王女と結婚する約束があるって話ね」
「うん……」
一度話し始めると、もう止められなかった。
ココとクリスマスに想いを伝え合った事。ココにいいなずけ? ……結婚を約束していた相手がいて、それがショックだった事。その話を聞いてからずっとココの事が頭から離れないということ。
くるみは私の話を、相槌を打ちながら、静かに聞いてくれた。
いつも何かにつけて私の事を茶化してくるのに、今日だけは、彼女の事がとても大人びて見えた。頼りになる、大きな子に見えた。
「いつも一緒にいてくれるから忘れちゃうけど、時々思い出すんだ。ココ、王様なんだって」
「そうよ? ココ様はいつでもパルミエ王国の王様なんだから。忘れないで頂戴ね」
「だったら、王様のお嫁さんは、やっぱり女王様なんだよね」
「当たり前じゃない。鶏の子供がひよこだってくらい、当たり前よ」
「……そう、だよね」
どんな絵本に出てくる王子様だって、結婚するのはお姫様とだ。私はプリキュアだけれど、それ以外は普通の中学生だ。
偉くも何ともない。ましてや、お姫様だなんてとんでもない。
お姫様になるのは、もっと特別な子じゃなきゃダメなんだ。
「やっぱり、私じゃココのお嫁さんにはなれないのかなぁ」
「どうして?」
私の質問に、くるみは首を傾げた。
彼女がそんな仕草をする理由は分からなかった。
私はなんとか言葉を続ける。
「だって、クレープは王女様だもん。王様と結婚できるのは、同じ王様みたいな人じゃなきゃダメでしょ?」
「……どうして?」
「えっ?」
「別にいいんじゃない? こっちにだって、そこら辺の平民が、王子様の目に止まってタマノコシ? みたいな話だってあるじゃない。例えばほら、シンデレラとか」
「でも、私と一緒じゃ、ココが……」
くるみが、明らかにそれと分かるため息を漏らした。
額に皺がやっている。目がいつもよりも鋭くつり上がっている。怒っているのだと思った。くるみの気持ちは分からない。何で怒っているのかも。
私が、あんまりにもダメだから? それとも別の理由? 分からない。
そんな事を考えている内に、くるみはすぐに、元の表情に戻った。
彼女の心の中で何が起きていたのか、私には分からない。
ミルクの時から……ずっと……分かるようで、分からない。
「妬けちゃうわね……まったく」
小さな声でそう呟き、くるみはまっすぐ私の方を見た。怒っているような目ではない。けれど、鋭い視線に私は射すくめられた。
返答いかんでは、ただでは済まさないといった目つきだ。
「あなたはどう思ってるのよ?」
「え?」
「ココ様と結婚して、パルミエ王国の女王様になる覚悟、あるの?」
彼女の言葉が、私の全身を稲妻の如く駆け抜けた。
私は今まで、王女様が王国の女王様になるものだと思っていた。けれど、本当はそうじゃないんだ。ココが選んだ人が、パルミエ王国の女王になるんだ。
ココが私を選んでくれた時……特別じゃなくても、女王になれるんだ。
「それは……」
「あなたがそんなんじゃ、ココ様はクレープ王女が攫っていくかもね。まっ、パルミエクレープ連合王国なんて、私は絶対に認めないけど」
私は、くるみのまっすぐな視線に耐えられなかった。
女王様になる覚悟が今の自分にあるのか、それを考えるのが怖かった。
でも、ココがクレープ王女と結婚して、私達の前からいなくなるのは……もっと嫌だった。
心の中にあったモヤモヤした気持ちは、いつしか不安の種へと変わり。その種はムクムクと芽を出し始めた。
教室を染める夕陽のオレンジすら、不気味に感じる。
心が痛い……ざわざわする。
でも……………………
次のくるみが発した一言が、その変な気持ちの全てを吹き飛ばした。
「……私は、クレープ王女よりも、あなたに……ココ様のお嫁さんになって欲しい」
「……え?」
ペタッと机に顎をつけた。
彼女の表情は窺えない。だが、声色は、明るかった。
彼女がなんでそんな事を言ったのか、分からない。
知りたいけど、知りたくない気もする。
私が質問するより早く、くるみは話し出した。
「そりゃあなたみたいなバカでドジで、何も無いところで転ぶような人にココ様を任せるのは心配よ。でもね、あなた以上に人のために頑張れる人を、私知らないのよ」
「くるみ……」
「のぞみには、のぞみなりに良いところがある。もちろん、私にもクレープ王女にも。だったら、その良いところを思いっきりぶつけてやりなさい! ココ様は、それを受け止める器のある方よ」
くるみはすっくと立ち上がった。
すらりと伸びた、きれいな背格好だった。
振り返った時……彼女は満面の笑みを浮かべていた。
「大丈夫! ココ様は優柔不断だけど、人の恩は誰よりも忘れない方よ。あなたが築き上げたココ様との絆は、どこぞの王女の、覚えてもないような約束には負けないわ」
「……ありがとう!」
心の中に立ち込めていた霧が晴れるのを、私は感じた。
一番大事なのは、一緒に過ごした時間。そこで作り上げた絆なんだ。
ココとクレープ王女の間に昔何があったのか、私には分からない。でも、ココと過ごした時間は、負けない自信がある。
「くるみのおかげで、私……なんだか自信出てきた! そうだよね。ココと私は、ずっと一緒にやってきたんだもん。その絆を私が信じなきゃ……だよね!」
「気がつくのが遅いのよ。本当、世話が焼けるわね」
「えへへ! ありがとね、くるみ!」
「な、何よ! か、勘違いしないでよね! あなたのためじゃないんだから!」
くるみは、半ば叫ぶようにそう答えた。
彼女のほっぺは真っ赤に染まっていた。
照れているんだと、すぐに分かった。なんだか、いつものくるみより、ひと回りもふた回りも可愛く見えた。
「あなたが元気ないと、ナッツハウスの花が枯れちゃうのよ。そうしたら、かれんが悲しむもの」
「素直じゃないんだから! もう!」
「やめなさいよ!」
くるみは慌てて私に背を向けると、鞄を手に、早足で教室の出口へと歩き出した。私は走って彼女を追いかける。
私が足を早めると、くるみも同じだけ早く歩く。
そんな追いかけっこを続けながら、私達は教室を後にした。
「そうだ、くるみ……」
「なぁに?」
「ゆーじゅーふだんって、なに?」
「……ほんっと、世話が焼けるわね」
これは、大事な思い出。
私とくるみの、大事な大事な思い出。
まどろみの中で、マネマネがドリームの夢の蕾を掴み取る。
側にはボロボロになったエゴエゴが倒れている。我修院博士とドリームの最後の攻撃は、失敗に終わったという事だ。
薄れゆく意識の中で、ドリームは思う。
「ミルク……私、信じてるよ……」
ドリームはゆっくりと目を閉じた。
その口元には、薄い笑みが浮かんでいた。
これはpixivにも同じものを投稿します。