ゆめのまちanother『くるみのゆめアール大作戦』   作:TAMZET

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さて、そろそろラストバトルに突入します。
※ちょっと加筆しました。


第十二話『ブンビーさんの助力』

 夕闇が東京の空を覆い尽くす。

 紫色の空をゆめアールによって生み出された生き物達が飛び交う景色の中、一体の巨鳥が我修院邸に向けて飛翔する。

 巨鳥……シロップ。その背には、寝巻き姿のくるみが乗っている。

 数分の航空の後、2人は博士の家に到着した。

 丁度床に水の張った、和風の庭園の辺りである。

 

「ここが博士の家ロプ?」

「ここでいいわ。シロップはパルミエ王国に言って、みんなにこの事を伝えて。多分、私一人だとピンチになるから」

「了解ロプ!」

 

 シロップは元気に返事をすると、地を蹴り飛び立った。

 乾いた秋の風を肌に受け、くるみの肌が悲鳴をあげようとする。押し殺したていた孤独に心が押しつぶされそうになる。

 

「何弱気になってるのよ。のぞみを助けるんでしょ!」

 

 弱い心に負けるかとばかりに、くるみはきゅっと拳を握った。

 そんな彼女の背後から、忍びよる影があった。

 

「おーっとっと? 侵入者一名発見かなぁ!?」

 

 低い男の声に、くるみは屋敷の門の方を振り返った。

 そこにいたのは、カーキ色の作業着に身を包んだ男だった。

 彼は彼女のよく知る人物であった。

 

「あなたは……ブンビー!」

「さんをつけなさいよデコ娘!」

 

 元プリキュアのリーダー・ブンビーは、ビシッとくるみを指差しそう叫んだ。くるみは彼の言動に首を傾げつつも、その動向を見守った。

 彼の纏う空気は、昨晩のおちゃらけた空気とは違っていたのだ。

 獲物を狙う肉食獣のような目つきに、くるみは背をピンと張り身体を硬らせる。

 

「エターナル……じゃ、なかったんだった。もう辞めたんだったわよね」

「そうそう。それに言うなら、この仮面を見て、『ナイトメア!』って言って欲しかったなぁ」

 

 ブンビーは後ろ手に回していた手をくるみの方へと見せた。

 そこには、白いにやけ面の仮面が握られていた。くるみはその仮面に見覚えがあった。かつてプリキュア5を苦しめた、コワイナーを作り出す仮面である。

 くるみは片手にミルキィパレットを構え、警戒の色を露わにした。

 

「私を邪魔しに来たって事?」

「いや、そうじゃないけど、それもいいかも」

 

 くるみの問いに、ブンビーはにやりと頬を歪めた。

 久しぶりに見せた悪役の表情である。

 

「だって、今の君なら勝てそうだし」

「へぇ? なら、ここでやってみる?」

 

 くるみはミルキィパレットを開き、盤を操作した。

 もちろんここで戦闘をすればマネマネに勝利できる確率はさらに薄くなる。だが、ここで背を見せればのぞみは助けられない。

 彼女にとって選ぶべき選択肢は一つであった。

 

「スカイローズ……」

 

 くるみはミルキィパレットを天高く掲げた。

 

「なーんちゃって! 冗談だよ冗談!」

 

 瞬間、ブンビーさんは慌てて仮面を背に隠すと、彼女の前で片手をひらひらと振ってみせた。そのふざけた仕草にくるみも手を止める。

 

「今日の私の仕事に、プリキュアの邪魔は含まれてないからね」

 

 くるみは油断なくブンビーを観察する。

 先程まで彼の周りを覆っていた闘気は、今やすっかり消えていた。どうやら本当に冗談だったようだ。

 くるみは彼を睨んだまま、ミルキィパレットをポケットに戻した。

 

「こんな所で油売ってないで、早く仕事しなさいよ。こっちはアンタの冗談に付き合ってる暇無いのよ」

「そっか忙しいのかそれは残念。君を手伝ってあげちゃおっかなーなんて、思ってたりしたんだけどなぁ〜」

 

 彼の言動にくるみは大きなため息をついた。

 ほんの少し前まで敵対する組織にいた男が自分を助けたいなど、あまりにも虫が良すぎる話だからだ。

 この男が話しかけてきたのには何か裏がある。

 孤軍奮闘な上に敵は強大、その上にこの男も相手にしなければならない。自分は1人なのに相手は大群。

 くるみは心がきゅっと締め付けられる思いだった。

 

「そんなの、信じると思う?」

「手始めに、我修院邸の隠し扉の場所なんて教えてあげちゃおっかなーなんて。あと、マネマネがいそうな場所まで案内してあげちゃおっかなー、なんて」

 

 ブンビーさんはまた表情をにやりと歪め、悪役の顔に戻った。

 どうやら、彼は今回の事件の内情を知っているようだ。

 

「何なら、マネマネを倒すのも手伝っちゃっおっかなー、なーんて」

 

 彼の言葉に、くるみは目を丸くした。

 きゅうっとしっぱなしだった心の締め付けが少し緩んだのを、彼女は感じていた。

 


 

 くるみはブンビーの後ろを、ついてゆく。

 付かず離れずの距離を維持しつつ……まるで雛鴨が親鴨の後を追うように。

 屋敷は、外観からは想像できないほどの広さであった。ブンビーは時折り道を間違えながらも、ヨタヨタと進んでゆく。

 やがて二人は、とある一室にたどり着いた。

 一見すると何も無い和室だが、よく見ると床のあちこちに蔦のようなものが這い回っている。蔦は床の中央部へと伸びていた。

 ブンビーは部屋の中央部分の床に手を翳し、何やら弄っている。

 

「ほら、ここの仕掛けをこうすると……」

 

 彼の手が床の一部を押した。

 その部分だけが不自然に、4センチほど奥へと凹む。

 数秒の後、重厚な音と共に2人の立つ床全体が移動し始めた。

 まるでエレベーターのように、動く床はゆっくりと2人の身体を地下に運んでゆく。

 

「こんな所にも仕掛けがあるの!?」

「そうなの。博士からの依頼で私が治したんだよ」

「へぇ、すごいじゃない……あっ!」

 

 くるみは慌てて口を押さえた。

 ブンビーに心を許しかけている自分に気がついたのだ。

 キッと鋭い目を向ける彼女に、ブンビーは胸を抑え苦しがってみせた。

 白々しい演技である。

 くるみはやれやれとため息をついた。

 

「ちょっとは褒めてくれてもいいんだからね。今は味方なわけだし」

「誰がアンタなんか褒めるもんですか! 昔、散々邪魔されたの、忘れてないんだから!」

「それは言わない約束でしょーよー、ね」

 

 ブンビーに懇願され、くるみの視線が僅かに揺れた。

 彼女自身思っているのだ、自分が意固地になっていると。

 のぞみ達は既にブンビーさんの事を許している。

 だったら、自分も許すべきなのに、と。

 

「……ちょっとでも怪しい事したら、タダじゃ置かないからね」

「分かってますよぉ〜」

 

 ブンビーさんは手をひらひら振っておどけてみせた。

 その仕草が可笑しくて、くるみは慌てて顔を伏せる。

 すこし吹き出してしまいそうなったのだ。

 ガタン! 

 大きな音と共に床の移動が止まった。

 2人の眼前にはこれまでの和風の建築では無い、近代的な研究室が広がっていた。薄暗い電灯が細道を照らしている。

 

「でも、アイツに挑むのが私一人じゃなくて……かった。私だけだったら多分……」

「何か言ったかい?」

「何も!」

 

 くるみ、足早に歩き出す。

 いつもは疲弊した心を仲間が癒してくれた。

 その感覚が心の中に生まれたことを悟られたくなかったのだ。

 ブンビーは彼女の後をついて行く。

 これまたつかず離れずの距離で、だ。

 

「てか、何であんたが協力してくれんの?」

「あのね、君達は私の命の恩人なんだよ。エターナルの時にもなんだかんだ手を組んだし、クライアス社のドクター・トラウムの件もある。君たちのおかげで、私は今ここにいるんだ」

 

 くるみはブンビーさんをじーっと見つめる。

 流石に嘘くさい。

 

「……」

「え、何その疑いの眼差し。怖っ……」

「じーっ……」

「いやもう口で言っちゃってるし」

「……」

「……分かったよ、本当の事言います言います」

 

 

 ブンビーさんは両手を大きく挙げ、降参のポーズを取った。

 くるみがジロリと睨む中で、彼はため息と共に口を開く。

 

「マネマネの中にいるのは、ウチの新人なんだ」

「ほらやっぱり! そんな事だろうと思った!」

「ターンマタンマ! エイを英語で言うとマンタ!」

 

 ブンビーさんは挙げた両手を大きく振ってくるみを押し留めた。

 エイのポーズだとでも言うのだろうか。

 呆れて先に進もうとするくるみの先に回り、ブンビーは彼女を押し留める。

 くるみは膨れっ面だ。

 

「新人は誘拐されて、無理やり怪物の中に入れられたんじゃないかと見ている。そして、暴走した。プライドの高い奴だからね。そのまま操られるのも嫌だったんだろう」

「迷惑この上ないわね」

「その通りだ。だが、部下の責任は上司の責任! 私は怪物を倒して、新人を助けてやらねばならない」

「ブンビー……」

 

 ブンビーはにっこりと笑うと、両腕を胸の前でクロスさせた。

 形作るマークは「W」、ウィンウィンのポーズだ。

 

「君はプリキュアを助けたい。私は新人を助けたい。これ、利害の一致って奴じゃない?」

 

 くるみは少し考え、ため息と共にやれやれと頷いた。

 

「今日だけはアンタの言葉を信じてあげる。けど、もし裏切ったら、幽霊になって化けて出てやるんだから」

「そうこなくっちゃあ!」

 

 暗く続いた道の先に、光が見えてくる。

 仲間達が捕らえられている研究室が。

 そこはまた、宿敵の本拠地でもある。

 

「それじゃ、いっちょ張り切って!」

「共同戦線と行きましょう!」

 

 くるみは光に向けて走り出す。

 その足取りは軽い。

 その背を見つめ、ブンビーは僅かに足を止めた。

 

「たとえ生意気な新人でも……部下を失うのはね、もう嫌なんだよ」

 

 彼がくるみの後ろ姿に何をみたのかは分からない。

 ギリンマか、アラクネアか、ガマオか、それとも……

 その表情は、いつになく真剣で、いつになく優しいものであった。

 


 

 我修院サレナの研究室。

 薄暗い伝統が部屋をオレンジに照らすその場所には、プリキュア5の面々が、試験管の中に捕らえられていた。

 その身体の中に夢の蕾は無い。

 つまり、ただの標本ということである。

 巨大な狐の怪物……マネマネは彼女達の身体をまじまじと見つめ、醜く頬を歪めた。その横では、エゴエゴと博士が床に倒れ伏している。

 その状況は、この研究室が完全にマネマネの手に落ちた事を物語っていた。

 

「あの5人の力に加え、東京中の人々の夢の力を使えば、確実にあの巨大な蕾は花開く。その力を使えば、またナイトメアは蘇ります! ふふふ……」

 

 マネマネは笑いながら、その姿を闇へと溶け込ませた。

 無人となった研究室に、二つの影が踊り出る。

 隠れていたくるみとブンビーだ。

 

「あの人、今、とんでもない事言ってたねぇ」

「マネマネを、止めないと!」

 

 闇の中へ駆け出そうとするくるみの首根っこを、ブンビーが引っ捕まえた。

 くるみは両足を振り回し、ジタバタと暴れる。

 痛がりながらも、ブンビーは彼女を抑え続けた。

 

「待ーった待った! 一回落ち着こう! 二人で正面から行っても勝ち目ないから! 深呼吸深呼吸!」

「落ち着いてなんかいられるわけないでしょ!? ドリームもやられたのよ! 無事って言ってたのに……それに、東京の人たちみんなの夢が奪われるなんて、そんなの……放って置けるわけないじゃない!」

「別にそれはどうでもいいんじゃ……」

 

 くるみはキッとブンビーを睨みつけた。

 その目つきの鋭さに、彼は慌てて両手を挙げた。

 

「どうでも良くない! その通りだ! 東京の人大事! 夢大事! だが、アイツらを止めるためには、戦力が必要だ。あそこに囚われたプリキュアを助け、万全の体勢で敵に挑もうじゃないか」

「……」

「なに、そのリアクション。怖……」

「アンタ、頭、冴え……悪くないじゃない」

 

 2人は姿勢を低く、忍び足で端末の前へとたどり着いた。

 ブンビーが指示する通りにくるみは端末を操作する。

 試験管の中に満たされていた液体が、少しずつ量を減らしてゆく。

 満足げに微笑む2人……だが、その瞬間、くるみの背後でブンビーの悲鳴が上がった。

 振り返ると、そこにはサファイアアローを構えたキュアアクアの姿があった。

 ブンビーは無数の水流の矢により、壁に打ち付けられている。

 

「ふふふ、その必要は無いわ、くるみ?」

「かれん……?」

「白馬に乗ってこられなかったのが残念だけれど、間に合って良かったわ。その男はマネマネの手下よ。私と一緒にナイトメアを倒しましょう」

「ぁ……」

 

 大切な友達の出現に、くるみの視界が一瞬曇った。

 曇ってしまった。

 だが、彼女はすぐに涙を拭うと、ブンビーに向けて飛びかかった。

 身体を捻り、回し蹴りを繰り出す。

 彼女の脚は弧を描き、ブンビーを壁に固定していた水流の矢を払った。

 

「あ、ありがとう! 助かったよ……」

「いいって事! それにあれはアクアじゃない……マネマネね! 本当、嫌らしい奴!」

「もう引っかかりませんか。馬鹿じゃあるまいし、舐めすぎていたかもしれませんねぇ」

 

 くるみの眼前でアクアはその姿をぐにゃりと歪め、マネマネに戻った。

 敵は2人の元へと、ゆっくりと歩を進める。

 周囲の景色が、歪み、徐々に荒廃した様子へと変わってゆく。

 その景色は、かつてプリキュア5がデスパライアと戦った、あの闘技場に酷似していた。

 

「しかし、あなたに私の計画を止める事はできません。なぜなら、プリキュア5はこれから夢を奪われ、目覚める事はなくなるのだから!」

 

 マネマネが近づいてくる。

 その全身に強大な圧力を伴いながら。

 無数の虫が背中で這いまわっているような、邪悪な圧力。

 くるみはきゅっと拳を握り、必死に耐えた。

 

「そして、君達は私に倒される。残党のプリキュアもどきと、無能な裏切り者!」

 

 マネマネが両腕を大きく広げると、その背後から、5体のマネマネズが現れた。プリキュア5の各色に色分けされた、二足歩行の狐の姿をした、マネマネの分身達だ。

 

「さぁ行きなさい! キュアマネマネズ!」

「「「「「マネマネー!!」」」」」

 

 構える2人に向けて、マネマネズが突進を開始した。

 ブンビーは「くうっ」と声を漏らしたかと思うと、にやりと笑った。

 まるでいたずらを思いついた悪ガキのような表情だ。

 その手には、コワイナーの仮面が握られている。

 

「予想とは違う展開になったが、仕方ない! 行けっ、コワイナー!」

 

 ブンビーは手に持った何かを空中に放ると、それに仮面を被せた。

 仮面は流動する濃紫の何かを生み出し、細長いガラス板のような身体を持つコワイナーを誕生させる。

 コワイナーは空中を浮遊し、巨大なガラスの体をチカチカ瞬かせた。

 眼前で起きている事が理解できず、くるみはブンビーを睨む。

 

「アンタ、何する気!?」

「私のおニューのスマホをコワイナーに変えた! マネマネとプリキュア達の相手は奴にさせる。その間に、私達は一体ずつヤツらの数を減らすぞ!」

 

 ブンビーさんの的確な指示に、くるみは目を丸くした。

 その表情から、少しだけ緊張の色が消える。

 

「分かった! ありが……しっかりしなさいよ! ブンビー!」

「言われなくてもだ! さて、まずは変身だ!」

「あなたも変身して戦うのっ!!」

 

 ミルキィパレットを手に、くるみはマネマネ達の元へ突進した。

 かつていがみ合った2人が今、肩を並べて同じ方向を見ていた。

 マネマネを巡る最後の戦いが、始まろうとしていた。




次からラストバトル開始です。
マネマネ&キュアマネマネズvsブンビー&ミルク&スマホコワイナー
果たして勝利はどちらの手に。
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