ゆめのまちanother『くるみのゆめアール大作戦』 作:TAMZET
ミルクにとっては絶望的な戦い。
ナイトメアの闘技場にて、マネマネとミルク達の戦いは続いていた。
ミルキィローズは変身し、マネマネの分身・キュアマネマネズ達と戦闘している。戦闘形態に変身したブンビーさんも一緒だ。
マネマネ本体はコワイナーの対処にかかりきっている。
コワイナーがやられる前にマネマネズを全滅させようというのが、彼等の作戦であった。
まず二人が目をつけたのは、緑のマネマネだ。
両手にエメラルドソーサーを展開し、緑マネマネは油断なく二人を観察している。
その慎重さは、まるで本物のキュアミントのようだ。
「緑……キュアミントマネマネだな」
「どうするの? エメラルドソーサー、敵にすると厄介よ」
「私に考えがある。ミルキィローズ、君はそこで待っていたまえ!」
言うや否や、羽音を立てるブンビーが飛翔した。
緑マネマネ頭上を追い越し、すれ違いざまに右腕のニードルガンを連射する。
弾丸よりも速い速度で発射されたニードルガンだが、緑マネマネはエメラルドソーサーを構えそれを受け止めた。
キンキンキン!
針の弾ける鋭い音が闘技場に鳴り響く。
「マネマネ! マネマネ!」
緑マネマネは余裕の笑みを浮かべている。
こういう所は、本体のマネマネ譲りだ。
だが、笑っているのはブンビーも同じであった。
「キュアミントの盾は基本的に前にしか貼れん。そうだったな? ミルキィローズ!」
「……たしかに! ならっ!!」
ブンビーが何を考えているのか、ローズには大方理解できた。
彼女は姿勢を落とし、緑マネマネへと突進した。
ブンビーは針弾を撃ち続け、緑マネマネの注意を引いている。
「ミルキィローズ、今だッ!」
「はあっ!!」
ローズは緑マネマネの背後へと跳躍すると、頭頂部に強烈な回し蹴りをかました。
エメラルドソーサーの弱点は、一度に一方しか防御できない事。
故に針弾を防御していた緑マネマネに、その一撃を防ぐ術は無かった。
強烈な一撃に、緑マネマネは夢の蕾を残し、風船のように破裂した。
ローズは器用に跳躍すると、ブンビーの隣へと着地した。
「ありがと! ブンビー!」
「ハハハ! 良い上司というのは、良い指示を出すものだよ。ブンビーさんと呼んでくれても構わんよ!」
「ふふっ! 考えておいてあげる!」
ローズは息を整えつつ、周囲を見回す。
向かってくる個体は……2体。
赤マネマネと青マネマネだ。
ローズは軽く背後にステップすると、2体が一直線に並ぶよう陣取った。
こうする事で、攻撃してくる相手が一体減るのだ。
赤青の波状攻撃がローズを襲う。
続け様に飛んでくる攻撃を、ローズは見切って躱してゆく。
昼間に散々痛めつけられたばかりだ、使える体力はそんなに多くない。
一撃を貰うことは、即ち戦闘継続不可を意味する。
「はあっ……はあっ……」
身体に残る痛みが、彼女の精神をすり減らしてゆく。
額に浮かぶ汗を拭う間もない。
赤と青のマネマネを捌く中、彼女は視界の端に嫌な光景を捉えた。
黄色マネマネがプリズムチェーンを構えていたのだ。チェーンはイカかネバタコスの触手の如く、広範囲をうねうねとカバーする。
「マーネマネネマネ!!」
一対のチェーンがローズの元へと放たれた。
彼は空中で跳躍し、チェーンを躱し続ける。
捕らえられたが最後、赤マネマネの炎に焼かれ倒されてしまうのは必至だ。
一撃が即敗北に繋がる攻防の中で、ローズは逃げ続ける。
誰か助けて、もう動けない、みんなの攻撃にやられたくない。
そんな言葉が口をついて出そうになる度、ローズは心でそれを押し殺す。
そんな事を言ったが最後、身体を支えている糸が切れてしまいそうだったからだ。
ふと、黄マネマネの攻撃が止んだ。
ブンビーがチェーンの端を掴んでいたのである。
「お前は、キュアレモネードのマネマネ! お前の動きはよ──く知っている」
ブンビーは掴んだチェーンを力一杯引いた。
マネマネを引き寄せ攻撃を加えようとしたのだろう。
しかし、それをさせまいと、もう片方のチェーンがブンビーさんの片腕を捕らえた。
「ブンビー!?」
悲鳴にも近い声が漏れた。
その声が自分のものだと、ローズは信じられなかった。
だが、危機的状況にも関わらずブンビーの余裕は変わらない。
「心配するなミルキィローズ。これも作戦のうちだ。プリズムチェーンの操作中は、防御力と機動力が著しく低下する。なら、一度私を捕まえさせてしまえば!」
ブンビーはチェーンを掴んでいた片腕を離し、黄マネマネの体制を崩した。
間髪入れず、両腕の針弾が火を噴く。
針弾の直撃を受けたマネマネは、勢いよく破裂した。
「一丁上がり!」
ブンビーは嬉しそうにガッツポーズをした。
仲間の喪失に、赤と青のマネマネの注意が一瞬逸れた。
「たあっ!」
その隙をつき、ローズは赤のマネマネに蹴りを入れ、吹き飛ばす。
「やあっ!」
帰す刀で、青のマネマネの鳩尾へと肘をめり込ませる。
2体のマネマネは闘技場の端へと吹き飛び、壁にめり込んだ。
ローズは息を整えつつ、ブンビーの元へ跳躍した。
「アンタ、そんなに強かったんだ」
「強かないさ。部下を助けようと頑張ってるだけの、ただの零細社長だよ」
背中合わせに立つ二人の前に、新しいマネマネが現れた。
マネマネの中でも特に強力な個体、桃マネマネである。
特殊な技は使わない……使ってくるのは、純粋な格闘術のみ。
「ここも私に任せろ。君はマネマネとの戦いに備えて、体力を温存するんだ!」
「……分かった!」
「頼んだぞミルキィローズ!」
言うや否や、ブンビーは桃マネマネへ向けて跳躍した。
拳を大きく振り上げ、殴りかかる。
桃マネマネはどっしりと構え、手刀でそれを受け止めた。
「流石にやるね。キュアドリームのマネマネ!」
ブンビーは体勢を整え、拳の連打を繰り出した。
ぶつかり合う拳と拳。
スピードは桃が上、しかし、パワーはブンビーが上だ。
「来る日も来る日も血の報告書……いっその事、コピペしてやろうかと思ったくらいに書いた報告書……パソコンがない事を恨んだよ」
拳の応酬の隙をつき、ブンビーが桃のマネマネの懐に肘を入れる。
桃のマネマネが体制を崩した。
「でも、そのおかげでね! 私はね、君達の事を、君達より知っているんだよ! 喰らえ! キュアドリームッッ!!」
「マネマネ……ッッ!?」
ブンビーは桃マネマネへと突き出した拳を直前で止めた。
寸止め……否、そうではない。
ブンビーは針弾を構えるとしこたま連射したのだ。
近距離で針弾の連撃を受けた桃マネマネはついに耐えかね、破裂した。
マネマネの胸から、桃色の蕾がこぼれ落ちる。
ローズの顔に笑顔の花が咲いた。
「やったっ! ドリームの蕾……」
ローズはわき目もふらずその蕾へと駆けた。
もう少しで大切な親友の夢に手が届く……しかし、手が届く寸前、その側頭部をマネマネの尾撃が襲った。
黒い尻尾による攻撃……本体マネマネだ。
「あっ……うぅ……」
頭を抑え、ローズはマネマネを睨見つける。
黒マネマネ酷く邪悪な笑みを浮かべながら、ドリームの蕾を使い、また新しい桃マネマネを作り出した、
ローズの表情に一瞬、絶望の色が浮かぶ。
手にしかけた希望が奪われる、その瞬間の痛みが心を襲う。
だが、ローズはすぐさま拳を握り、マネマネを睨みつけた。
「マネマネ! ……っ! みんなの蕾をっ、返しなさい!」
ローズの息が上がっている。
息を整える暇もなく、桃マネマネが再生した。
赤と青マネマネもそばに並び立ち、ローズへと襲いかかる。
「ミルキィローズ!」
「おっとブンビーさん! 貴方の相手はこいつです!」
飛翔しようとするブンビーに、桃マネマネが突撃した。
腰を押さえられた彼は動く事ができない。
黒マネマネの背後では、巨大なコワイナーが倒れ伏していた。
コワイナーの画面にはヒビが入っており、戦闘不能である事は明らかであった。
「くっ!?」
ブンビーは桃マネマネの連撃を両腕で防ぐ。
元より実力が伯仲している相手だ、苦戦もやむを得ない。
方やローズも、窮地に陥っていた。
黒マネマネの尾撃により、ローズの身体が吹き飛ばされる。
彼女は衝撃の直前に後ろに跳ぶことで威力を軽減していた。
だが、それでも攻撃そのものは防ぎきれない。
体勢の崩れた彼女の元に、青マネマネが放ったサファイアアローが降り注ぐ。
「くうっ……!」
軋む脚を無理やり動かし、彼女は攻撃を回避した。
だが、避けた先には赤マネマネの放ったファイアーストライクが飛んでくる。火球の着撃に、ミルキィローズの両足が火に包まれた。
「熱っつぅ……っ!?」
震える両脚……それにトドメを刺すように、黒マネマネの尾撃がローズの脚を払った。
帰す刀で、敵の尻尾が彼女の身体を打ち付ける。
ローズの身体が地面に叩きつけられ、巨大なクレーターを作る。
「かひゅっ…………」
肺の中の空気が全て漏れる音を、ローズは自分の耳で聞いた。
新しい空気が吸えない。
一瞬視界がブラックアウトする。
身体を動かそうにも、筋肉が痙攣していて動かない。
「仲間達を救いたいなら、まず私を倒す事です! ですが、あなたにそれはできない。何故か? それは……力が足りないからです!」
黒マネマネの挑発が彼女の鼓膜を揺らす。
その声に、ローズは辛うじて立ち上がった。
とうに身体は限界を超えていた。
だが、敵の言いたいがままに言わせておくのは我慢ならなかった。
「まだ私は……立ってるわよ」
「そうですか。では……」
黒マネマネが片腕を大きく挙げる。
直後、赤、青のマネマネによる総攻撃が開始された。
天に広がる、無数のサファイアアローとファイアーストライク。
ローズはステップを駆使し、それらを避けようとし続ける。
うち幾つかは、彼女の腕を、脚を、全身の肌を傷つけた。
全身に傷が増えてゆく。
それでもローズは悲鳴を堪え、耐え続ける。
炎の熱さが、水の鋭さが、この技はルージュとアクアの物だと訴えかけてくる。
それでも耐えるのだ。
「う……うっ!」
「お仲間の技で傷つけられる気分はどうですか? まるで、仲間に見捨てられたような気分でしょう。辛いですなぁ。いつ絶望してもいいんですよぉ」
「ぜんっぜん……いたく……ない……わ!」
攻撃が一瞬途切れた。
一旦下がろうとするローズだが、身体が動かない。
疲労が限界まできているのだ。
脚を震わせ、立ち続けようとする彼女を、黒マネマネがせせら笑う。
「強がりを……痛いものは痛いと言えばいいのに」
「痛くないったら痛くない!」
ローズは絶叫していた。
涙混じりの叫びであった。
だが、その目には確かな光が浮かんでいた。
「私はみんなの攻撃で傷ついたりしないんだから。みんなが元に戻った時、私が傷だらけだったら、みんなきっと、自分を責めちゃう。だってプリキュア5はみんな、底なしに優しくて、いい人なんだから。そんな思いを仲間にさせないために……私は絶対、倒れたりしない!!」
「下らないですね。マネマネズ、もう終わらせなさい」
ローズの背後から、赤マネマネが飛びかかった。
見なくても気配で分かった、来るのは上段の蹴りだ。
来るのは分かっている。
動け体!
「たあっ!!」
ギリギリで攻撃を躱し、ローズは赤マネマネの頭に蹴りをぶちかました。
急所を突いた一撃に、赤マネマネはたまらず破裂する。
ローズは急いで蕾を手に取ると、服のうちに隠した。
「はあっ……はあっ……これで……あと、二体……」
ローズはあたりを見回す。
残っているマネマネは桃と青の2体だけ。
だが、それらは恐ろしく強い。
そして、身体の弾薬庫に残った残弾はもう無い。
変身を維持できているのが奇跡なのだ。
黒マネマネがさっと手を上げた。
青のマネマネはローズへと背を向け、ブンビーへと飛んでいった。
ローズの前には、黒マネマネが立ちはだかる。
「いいえ? 私を入れて3体でしょう。ですが、弱いものイジメは良くない。ここは、同じくらいの戦闘力で戦ってあげましょう」
黒マネマネの姿がぐにゃりと歪んだ。
本体の持つ、変身能力である。
その姿に、ローズは恐ろしく見覚えがあった。
「自分と戦うのは、初めての経験では?」
「…………っ!!」
ローズにとって絶望的な、苦痛の延長戦が始まった。
頑張れミルク
負けるなミルク
応援の声は届かず。