ゆめのまちanother『くるみのゆめアール大作戦』 作:TAMZET
希望の糸が見え始めてきたかも?
マネマネ達とブンビー、ローズが戦いを続ける傍、それぞれの行動を続けていた者達がいた。
パルミエ王国の王子達、ココとナッツである。
我修院サレナに囚われていた彼等だが、妖精化する事により、狭い鉄格子の幅を抜ける事ができたのだ。
状況が分かっていない彼等は、プリキュア5を助けるため、とにかく研究所内を走っていた。
「やっと出れたナツ! ココ、また太ったナツ! お菓子の食べすぎナツ!」
「ク、クォクォ……すまないココ……」
ナッツの言葉通り、二人の歩幅には差が現れ始めていた。
ココは汗だくになりながらも走る。
走る……走る…………
「ま、待つココ……足が……」
体力に限界が来たのか、ココは壁に手をつき走るのをやめた。
壁の向こうに何か広がっている……?
ココが目を凝らすと、そこにはマネマネが作り出した闘技場の世界があった。
ローズが奮闘している様子が、ココの目に飛び込んできた。
「アレは、ミルキィローズココ! ナッツ! 戻ってくるココ!」
「何ナツ!?」
戻ってきたナッツが壁の奥の異世界に目をやる。
ナッツとココは互いに顔を見合わせた。
自分達が為すべき事、それは言葉に出さずとも分かっていた。
ミルキィローズとマネマネの戦いは続いていた。
マネマネはミルキィローズに変身して応戦している。
両者の力は本来なら互角……だが、これまでの戦いの中で度重なる傷を負ったローズとほぼ無傷の黒マネマネでは勝負にならない。
ローズにとっては、これは変身解除との戦いであった。
ぜえぜえと肩で息をするローズに向けて、ローズマネマネは容赦なく蹴り込む。
ブーツのつま先がローズの鳩尾にめり込んだ。
「かふっ……」
声にならない声が漏れ、ローズの体勢が崩れる。
だが、倒れない。
ローズマネマネは口元を歪め、さらに勢いよく連打を繰り出した。
肘が、膝が、拳が、つま先が、ありとあらゆる人体の角が、ミルキィローズの全身を攻め立てる。
ローズはそれらの攻撃を受け、防ぎ、守り、流し、躱し……辛うじて急所だけは守り続けた。
一撃一撃が変身解除との戦いの中で、彼女は歯を食いしばって耐え続ける。
「これがミルキィローズの力! 悪くありません。あの時あなたがこの力を持っていたなら、私ももう少し苦戦していたでしょうね」
「カワリーノ…………アンタ……はあっ……あの時……負けた、じゃない! 負けて……いなくなった!」
「いいえ? 私はあの後、絶望の淵を彷徨いました。そこは、暗く長い道。何度も己の命を絶とうとしましたが、それも叶わずっ!」
ローズマネマネは大きく脚を引き、鋭いローキックを繰り出した。
ローズは腿で受けた。
彼女の体勢が、大きく崩れる。
もう体力の限界などとっくに超えているのだ。
間髪入れず、嵐の連続攻撃がローズを襲う。
歯を食いしばり、彼女は耐え続ける。
「しかし、光が見えたのですよ。そこから抜け出した時、私は……」
ローズマネマネは顎へのストレートを放っていた。
しかし、その攻撃は途中で止まった。
マネマネが動かなくなったのだ。
「……っ? はあっ……はあっ……」
ネジの切れた機械のように、ローズマネマネはその場に停止している。
「……私は? どうしたのだ?」
マネマネは隙だらけだ、今やどんな攻撃も入るだろう。
だが、ローズもまた身体が限界であった。
拳を打ち込む体力さえ残っていない。
このまま敵が動かないのなら、バタリと倒れてしまいたい。
汗だくの身体が、軋む……
視界が……暗く……その中で……何かが動いた。
「隙ありッ!!」
ローズの眼前で、マネマネが吹き飛んだ。
ローズマネマネの懐に拳を見舞ったのは、ブンビーだった。
驚くマネマネに構わず、連続攻撃で体幹を崩してゆく。
「ブン…………ビー…………?」
「トドメの一撃ィィ!!」
ブンビーさんの後ろ回し蹴りが、マネマネの身体を吹き飛ばした。
その壁へと吹き飛ぶその身体を、赤青マネマネが受け止める。
「やりますね、ブンビーさん」
意識が戻ったのか、マネマネの表情に不適な笑みが張り付いた。
ローズは霞む視界で、なんとかその様子を捉えていた。
後ろ手に忍ばせたミルキィパレットを、ローズは握りしめる。
打てる技はせいぜいがあと一発。
なら、その一撃に全てを賭ける。
そんな心意気で、ローズは機を伺っていた。
「相方の息も上がっている。もう捨てた方がいいんじゃないですか? ミルキィローズは」
悔しながら、ローズは言い返せなかった。
もう本当に立っているのがやっとなのだ。
流れでる汗が、水たまりを作っている。
両足が震え、腕の筋肉は小刻みに痙攣している。
ブンビーは彼女を一瞥し、背に庇った。
「ふふ、相変わらず不合理ですね」
「悪いね。どんな出来の悪い部下も、面倒見てやるのがブンビーカンパニーの社訓でさ」
「それって第何訓でしたっけ?」
「今決めた、第一訓だよッッ!!」
ブンビーはそう叫ぶと、ローズマネマネに突撃した。
拳を大きく振り上げた、テレフォンパンチであった。
マネマネは膝を立て、その攻撃を受け止める。
マネマネの表情が邪悪に歪んだ。
ブンビーの横を、桃と青のマネマネが走り抜けたのである。
「しまった!」
ブンビーが振り返った時には、既に2体のマネマネは両腕を振り上げていた。
ミルキィローズは動かない。
攻撃が命中したかと思ったその瞬間……マネマネの身体が弾き返された。
二つの巨大な光の盾が、ローズを守ったのだ。
「ローズ!」
「助けに来たココ!!」
盾の正体はココとナッツであった。
かつてエターナル館長と戦った時にも発現した二人の力が、ローズを守ったのである。
ローズは言葉を発する余力も無いのか、僅かに微笑んだ。
「パルミエ王国の国王達!? この期に及んで邪魔をするのですか!!」
驚くローズマネマネを尻目に、ブンビーさんが躍動した。
ローズマネマネを桃青マネマネの所に吹き飛ばしたかと思うと、右手の銃口を向け、銃撃を乱射したのだ。
激しい銃撃に、3体は釘付けになっている。
ブンビーは彼等を攻撃しながら、背後のミルキィローズに叫んだ。
「しめた! ミルキィローズ! 必殺技で一掃してやれ!」
「……っ!! 分かったっ!」
ローズは地面を穿つ程に両足を踏み込み、構えを取る。
その双眸は、黒マネマネを鋭く睨みつけている。
「ナッツ! ローズに!」
「分かってるナツ! ミルキィローズに力を!」
ナッツの祈りに応え、パルミエ王国の王冠がローズに力を与える。
ローズの持つミルキィパレットは、ミルキィミラーへと変わり、凄まじい光を放ち始めた。
「邪悪な力を……はあっ……包み……込む……!」
一瞬……ローズの中で、そこまで張り続けていた意識の糸が切れた。
それはマラソン中、それまで動かしていた脚に力が入らなくなる感覚と似ている。
強い意識があれば、持ち直す事ができる。
だが、そこで倒れてしまえば……自力で立ち上がる事は困難だ。
そのショックの最大級がローズを襲った。
視界を暗闇が覆い尽くしてゆく感覚。
どれだけ頑張っても、その闇が晴れなくて……その内身体の力が全部入らなくなって、考えることも……
『そしたら……必ず、起こしにきてね』
どこかから聞こえてきた言葉。
ドリームの声だ。
それが、途切れかけていた彼女の意識を現実へと引き戻した。
緩みかけていた手に力を込め直し、ローズは詠唱を続ける。
「………………ッッ!! 煌めく薔薇を咲かせましょう!!」
ローズの詠唱に応え、ミルキィミラーは鋼鉄の薔薇の花弁を無数に生み出した。
無数の花弁はやがて一つの薔薇を形作り、ミルキィローズの背後で鎌首をもたげる。
「ミルキィローズゥッッッ!! メェタルブリザードォッッッッ!」
肺の中の空気を全て絞り出す絶叫と共に、ミルクは鋼鉄の薔薇をマネマネ達へと解き放った。
薔薇は凄まじい勢いでマネマネ達を飲み込み、悲鳴すら上げさせる事なく彼等の体を飲み込んだ。
ナイトメアの闘技場に薔薇の花弁がはらはらと散る中で、ローズはついに力尽き、変身を解除した。
ボロボロになり、あちこちが擦り切れた彼女の身体を、ココとナッツが支える。
ミルクは萎んだ目を懸命に開こうと頑張るが、どうやら何も見えないのか、やがて諦めて目を閉じた。
「か、勝った、ミル……?」
「そうナツ。良くやったナツ」
「もう動かないでいいココ! 休んでいいココ……」
ミルクは2人に支えられ、闘技場の壁へと寄りかかった。
ポシェットの中には、レモネード、ミント、ルージュの3人の夢の蕾が輝いている。
「ナッツ様…………昨日は……ごめんなさいミル…………ミルクがみんなに……迷惑かけたから……」
「その事はもういいナツ! 謝らなきゃいけないのは、ナッツの方ナツ! こんなにミルクが苦しい思いをしてる時に、ナッツは何も……何もできなかったナツ……」
塞ぎ込むナッツの肩を、ココがポンと叩いた。
ナッツは涙目で彼の方を振り返った。
ココの表情は、包み込むように暖かかった。
「もう戦いは終わったココ。ナッツがミルクに会おうと頑張ったからこそ、ミルクを助ける事ができたココ!」
「そう……ミル……。ナッツ様は何も……悪くない……ミル……それよりも……のぞみ達を……」
夢の蕾は、残り二つ。
取り返さなければ。
ミルクは大きな耳を支えに無理矢理立ち上がると、未だ煙に覆われる闘技場の一角へと目をやった。
あそこに夢の蕾がある。
早く、行かなければ。
だが、ミルクは見てしまった。
煙の中から、巨大な影が立ち上がるのを。
その影の中に、虹色の光が輝いているのを。
「これは……」
「ゆめペンダントの、光ナツ!」
煙の中にあるのは、明らかに夢の光である。
だが、あそこにいるとすれば、マネマネ以外あり得ない。
膨らむ疑念に、煙の中の影が答えを返した。
「私は、あの時、暗闇から出たいと願った。ここがどこかも分からない、私が誰かも分からない。だが、私が願う夢はただ一つ!!」
巨大な叫びと共に、影を覆う煙が晴れた。
そこにいたのは、ビル3階分はあろうかと思われる、一体の巨大な怪物であった。
二体のマネマネコピー、そしてスマホコワイナーと合体したマネマネは、凶悪な怪物の姿へと変貌していた。
腹にスマホの画面とコワイナーの仮面をつけた、四面八手の怪物である。
頭頂にある巨大な狐の顔が、ミルク達を見下ろした。
「プリキュアへの復讐!! それが私の夢!! そして、スーパーマネマネ! これが私の、真の姿です!!」
これまでの知略に頼ったマネマネとは違う、圧倒的な暴力の形態。
その絶望的な力を前に、ミルクはへたり込んだ。
脚を支えていた希望が、崩れ去ったのだ。
ブンビーさんもまた、怪物を前に絶叫していた。
「ぎゃあああっ!!? わた、私のおニューのスマホがああぁっ!!」
二つの絶望を前に、マネマネは高らかに笑う。
まるで勝利宣言でもするかのように。
「これで分かったでしょう? 夢も持たず、プリキュアでもないあなたでは、プリキュアの力までもを手にした私には……決して勝てない!」
圧倒的な絶望を前に、戦う4人の戦士。
既に体力は尽きかけ、満身創痍である。
それでも……
「それでも……ミルクは諦めないミル。のぞみはミルクを信じてくれたミル……だから、絶対諦めないミル!」
既に心は折れかけていても、それでも彼女は立ち上がった。
マネマネがついに最終形態に。
ここからの逆転劇、あるんでしょうかね?