ゆめのまちanother『くるみのゆめアール大作戦』 作:TAMZET
ナイトメアの闘技場での戦いは、最早戦いと呼べるものにはなっていなかった。
スーパーマネマネが行う一方的な虐殺行為である。
ココとナッツはミルクを連れ闘技場の端へを逃げ回っていた。
それを嘲笑うように、マネマネの目から放たれるレーザーが彼等を襲う。
「ココ! もっと速く走らないと焼かれるナツ!!」
「分かってるココ! でも、ミルクを担ぎながらだと、これが限界ココ!」
マネマネは口元をキュッと歪ませレーザーの速度を上げた。
走る速さを遥かに超えるレーザーに、二人は絶叫し、さらに走る速度を上げる。
怪物はそれを見て、さらにレーザーの速度を上げた。
もう追いつかれてしまう……そんな時、怪物の前に立ちはだかる人物がいた。
レーザーはその人物の前で曲がり、闘技場の観客席を穿った。
「おっと、ここから先は通さないよ」
立ちはだかったのはブンビーであった。
徒手空拳による乱撃でレーザーを歪曲させたのだ。
自分より遥かに矮小な彼の姿に、マネマネはため息をつく。
「はぁ……しつこいですねあなたも。勤める会社も無くなった今、何が目的なんです?」
「おニューのスマホ。修理代請求するからね」
呆れて物も言えないと言った調子のマネマネは八手で肩をすくめた。
さながら千手観音のような出立ちである。
「その邪魔に何の意味があるんです? 弱者がいくら力を合わせたところで、強者には勝てません。ブンビーさん? あなたが教えて下さった事ですよ」
「く……っ!?」
痛いところを突かれたのか、ブンビーの視線がどこかに逸れた。
だがそれも束の間、彼は『よく覚えてるねそんな昔の事』と意地悪そうに言い返してみせた。
「まぁ、そんな事教えた気がしたけど……今は! 私はそうは思わない!」
「どうしてです……!!」
ブンビーの言葉を遮るように、マネマネの瞳からレーザーが射出された。
ブンビーは空中機動でレーザーを躱すと、その顔面に向けて針弾を乱射した。
マネマネは微動だにしない。
何かしましたかとばかりに彼を嘲笑うのみだ。
効かない攻撃。
しかし、ブンビーさんは諦めない。
「ミルキィローズは弱者ではない。今は倒れていても、必ず立ち上がる。この私が保証する! それに、私も強い。つまり、弱者はここにはいなぁい!」
「言っていることが滅茶苦茶ですよ。そこにいるボロ切れ三枚が弱者ではない? 現実を見てください。そんな事で、会社の運営が出来るとでもお思いで?」
マネマネは片目を閉じると、まあ片方の目をチカチカと瞬かせた。
その瞬きの数だけ、レーザーが発射される。
ブンビーさんはそれらをまともに食らいながらも、針弾を撃ち返した。
その内いくつかが目に入り、マネマネは軽くのけぞった。
敵とて無敵なわけではないのである。
圧倒的な脅威を前に、ブンビーは善戦していた。
「会社の運営? できるね!」
「何を根拠に……」
マネマネの言葉を遮りブンビーは懐へと飛翔した。
遅い来る無数のレーザーを躱し、懐のコワイナー仮面を殴りつける。
仮面にはヒビが入りマネマネの身体は後退した。
肩から煙を出しながらブンビーは巨体を見上げた。
「生意気な新人に教えてやろう。無理を通せば、道理は引っ込むんだよ!」
「無理が通れば、ですよ! そして、この私を前に、そうそう何度も無理は通らない!」
両者の間に存在する、圧倒的な戦力差。
しかし心の対決では、彼等は拮抗していた。
ブンビーの奮戦により攻撃が中断されている間、ココとナッツは懸命にミルクへと呼びかけていた。
マネマネへと啖呵をきった後、ミルクはレーザーの余波により再び意識を失ったのだ。
疲弊しきった彼女は目を覚ます様子はない。
それでも2人は懸命に彼女に呼びかける。
「ミルク! しっかりするココ!」
「今ブンビーがアイツを足止めしているナツ! この隙に、ドリーム達を助けるナツ!」
彼女がもう戦える身体ではない事は、二人も分かっていた。
だがミルクは切り札を持っている。
そう、3人分の夢の蕾である。
これをプリキュア5へと返せば、少なくともルージュ、レモネード、ミントの3人を目覚めさせる事ができるのだ。
それなら、あの怪物を相手にしても勝機はある。
だが2人の誤算は、異世界の出口は見つからない事だった。
闘技場中を駆け回っても見つからない出口……それでも諦めようとしない彼等を止めたのは、他でもないミルクだった。
「……ダメミル」
「ナツ!?」
「ドリームは、ミルクを頼ってくれたミル。から、ミルクは……コイツを倒さなきゃいけないミル……」
立ち上がりなおも戦おうとするミルクを、ナッツは止めた。
息も荒く怒っている。
当然だ、動かない体で戦おうとしているのだから。
「強がってる場合ナツ!? もうボロボロナツ!」
ミルクは「それでも!」と言い返した。
強い抵抗の意志がそこには現れていた。
「ボロボロでも、やらなきゃダメな時があるミル! ミルクは、プリキュア5に何度も教えてもらったミル!」
「ナツ……」
ミルクはナッツの腕を抜け出し、壁に手をついてでも立ち上がろうとする。
足が動かなくても、手を使い、耳を使い、立ち上がろうとする。
そんな彼女を、もうナッツは止められなかった。
「ミ……ル……」
両の足と両の耳、持てる全てを使いミルクは立ち上がった。
足は震えている。
膝も震えている。
耳だって無事ではない。
けれど、その眼は死んでいない。
確かな意思を持って、マネマネを睨んでいる。
「動け……ミル……ミルクが……んなを……すけな、きゃ……ダメ……なの……ミル……」
「ナツ……」
その精一杯の試みに、マネマネもまた気がついたようだ。
必死の歩みを続けるミルクを見下ろし、嘲笑い、その足元にレーザーを照射してみせる。
だが、ミルクの歩みは止まらない。
抵抗にもならない僅かな抵抗。
だが、それがマネマネの逆鱗に触れた。
「愚かな! そこまでして死にたいなら、お望み通り、灰にして差し上げましょう!」
マネマネの視線がミルクの額を確かに捉える。
今のミルクにレーザーを躱す余力は無い。
マネマネの瞳が赤く光った。
「ミルクに手を出すなナツ──ーッ!!」
「ナッツ……様…………」
「ミルクは大切な仲間ナツ! ココとナッツが絶対に守るナツ!」
ナッツはミルクの前に立ちはだかり、光の盾を張った。
ココもナッツを支える形でそれに続く。
彼等自身分かっていた。
この程度では敵の本気のレーザーは止められないと。
マネマネが片目を閉じる。
レーザー照射の合図だ。
それでも、3人はマネマネから目を逸らさない。
3人の視界の中で、真っ赤な光が輝いた……
「メー! メー!」
瞬間、射線間に割って入るものがあった。
直立二足歩行のメールボックス型の生物(?)、メルポだ。
シロップの元にいたはずのメルポが、割って入ったのだ。
「メルポ! どうしてここに!?」
ナッツは慌てて盾をしまうと、メルポに問いかけた。
メルポは、何やらメーメーと言い続けている。
「……? パルミエ王国からの手紙を届けに来たナツ?」
「メー! メ────────メ────────ッッッ!!」
そう叫んだかと思うと、メルポはその口から大量の何かを吐き出した。
何かは膨大な質量を持っており、瞬く間に闘技場中に溢れかえった。
その勢いは凄まじく、闘技場の中心部で戦っていたブンビーさんとマネマネを一気に押し流す程だ。
「おお!? おおおおおおぉおっ!?」
「何ですかこれはッ!! て、手紙……?」
マネマネの見立て通り、それは手紙であった。
濁流と見紛う程の無数の手紙がメルポから吐き出されたのだ。
手紙には皆パルミエ王国の印が押されている。
いや、パルミエ王国だけではない。
その周辺の4国の捺印がされた手紙も見受けられる。
「これは……みんなからの応援の手紙ココ?」
「ミルクがシロップにお願いしたミル。ミルクがピンチの時、励まして欲しいって。でも、こんなに沢山はお願いしてないミル」
「それほど、王国のみんなはミルクを応援したいと思ってるココ! 負けるなミルク! がんばれミルクココ!」
3人の目の前で、応援の手紙は勝手に浮き上がり、それぞれの書き主の言葉で朗読を始めた。
まるでどこぞの魔法学校で展開されているような図だ。
初めに浮き上がってきたのは、パルミエ王国の紋章であった。
見知ったヒゲモジャ顔が、しゃがれた声で手紙を読み始める。
『ミルク! よく頑張っているパパ! お世話役としてはまだ未熟パパが、ココ様とナッツ様は、お前になら任せられるパパ!』
「パパイヤ様……!」
続けて、ドーナツ王国の印が闘技場の天井に浮かんだ。
手紙の主はドーナツ国王だ。
彼は威厳のある声で朗読を始めた。
『あの時は世話になったドナ! ミルクの不屈の精神があれば、どんな敵も倒せるドナ! 自信を持って頑張るドナ!』
「ドーナツ国王……」
「良いこと言うココ!」
次は、モンブラン王国の印が刻印された手紙であった。
穏やかな亀の国王、モンブラン国王である。
『モモ! ミルクのおかげで、エターナルにも勝てたモモ! 自分を信じて頑張るモモ!』
「モンブラン国王……」
「ドーナツ国王と同じ事言ってるナツ」
次に浮かんできたのは、やけに大きいババロアの印が刻印された手紙であった。
3人の顔が、露骨に険しい表情になる。
「これは、ババロア女王ミル……」
「長い話になりそうココ……」
手紙は甲高い女性の声で朗読を始めた。
『ミルク! 辛い事がある時は、自分の思った通りの事をやりなさいロロ。それで失敗しても、それがきっと次に自分を成長させるためのエネルギーになるロロ! それか……』
『長いクク! ババロア女王!』
ババロア女王の手紙を遮り、クレープの紋章が現れた。
クレープ王国のクレープ王女からの手紙だ。
手紙はやがて、王女の顔へと変わってゆく。
ミルク達が見守る中、彼女は朗読を始めた。
『いいクク、ミルク? クレープはココリンとの婚約を諦めたわけじゃないクク。のぞみとミルクは、クレープの恋のライバル。だから……絶対誰にも、負けるんじゃないクク!』
「クレープ王女……分かったミル!」
クレープ王女の手紙は、小さな光の玉となりミルクの身体へと飛び込んだ。
それを皮切りに無限にあった手紙が次々と光の玉になり、ミルク達を取り囲み始めた。
闘技場中が眩い光に包まれてゆく。
「不思議ミル……」
「どうしたココ?」
ココの問いに、ミルクは「全然体が痛くないミル」と返した。
その声には、先程までの疲労の色は見受けられない。
「膝も震えない、体も痛くない。心が、体を動かしてくれる。そんな不思議な感じミル!」
胸をいっぱいに広げるミルクの元へ、光の球が一つ、また一つと吸い込まれてゆく。
その光景を前にしながら、ココとナッツはミルクと向かい合った。
「昨日は酷いこと言ってごめんナツ……ナッツは、本当はミルクなら、もっと素晴らしいお世話役になれると信じてるナツ。だから……自分を、信じて欲しいナツ!」
「クォクォ! ココはミルクの夢を応援するココ! それがたとえどんな夢でもココ! だから、本当の事を言っていいココ!」
2人の激励と王国中の手紙が、光となってミルクの身体を包み込む。
まるで、かつてプリキュア5を立ち上がらせた奇跡のように。
『頑張れ! プリキュア! がんばれ! ミルク!』
ミルクは泣きそうなのを堪え、笑った。
手紙をくれたみんなにありがとうを伝えるために。
「……十分ミル。ありがたすぎるお言葉、たっくさんもらったミル!」
ミルクはくるみに変身し、眼前の怪物を見上げた。
光が晴れた先にいたのは怒りの表情を浮かべるマネマネだ。
圧倒的な力を持つ絶望の化身。
だが今のくるみにとって、敵は絶望の対象では無かった。
「今までよくも好き勝手やってくれたわね。ここからは、私の時間よ!」
怪物を睨みつけ、くるみは不敵に笑ってみせた。
マネマネは焦っていた。
あり得ない程の手紙の濁流、それらがミルクに吸い込まれた事象。
それら全てはあの時と酷似していたからだ。
プリキュア5が絶望の底から復活した時、そして本社でデスパライアを倒した時。
どの時も彼女達は絶望の底から這い上がり、あり得ない力で闇の力を駆逐した。
その鍵となったのは……
マネマネの視線はくるみの手に握られているものに寄せられた。
「ゆめペンダント……?」
逆転の鍵は、その他の中に握られていたのだ。
夢。
無限の暗闇が覆う未来に進むための力。
それが絶望の対義語だと、マネマネはその時気がついた。
「よーく聞きなさい! マネマネ! ブンビー! あと、ココ様とナッツ様! あとお手紙くれたみんな!」
「は、はいココ!!」
ミルクの声の迫力に、ココは直立不動で気をつけをした。
ナッツもそれに続く。
くるみは手を振りかざし、演説を続ける。
「私はプリキュア5の仲間で、準お世話役で、大抵の事は何でもできる中学2年生! 美々野くるみ! 又の名をミルク! それが、今の私!」
くるみは真っ直ぐマネマネを睨みつける。
もう臆さない。
絶望になんて屈さない。
みんなから貰った力があるのだから。
「一人前のお世話役になる事、ココ様とナッツ様を支える事が、私の本当の夢だと思ってた。けど、違う! 私の夢は、それだけじゃない!」
くるみは目を閉じる。
暗闇の中に見える、巨大な光。
これが、夢なのだ。
私の夢なのだ。
「今わかった。閉じ込めてた私の夢。私の夢は、お世話役になる事だけじゃない……もっと、もっと大きなものよ!」
「何ですこの夢の輝きは……? あなたに、そんな夢は無いはず」
くるみは目を開けた。
先程までの迷える少女の面影はもうない。
自分の居場所を見つけた、一人前の戦士の顔がそこにあった。
「私の夢は、一人前のお世話役で、一人前のプリキュアで……」
枯れ果てた闘技場を横切るように紫の蝶がどこからとも無く飛んでくる。
蝶はひらひらと舞ったかと思うとくるみの頭に止まった。
それが何を意味するか、マネマネには分かっていた。
敵の片目が紅の極光に染まる。
「危険ですね……ここで消しておきましょう!」
赤熱したレーザーがくるみ目掛けて放たれた。
レーザーは空気を揺らし、音速でくるみを貫かんと迫る。
だがそれは途中で何者かに弾き飛ばされる。
「やらせないって言ってるよね?」
レーザーを弾き飛ばしたのはブンビーであった。
仮面は所々ヒビが入り、右腕の銃口もひしゃげている。
だが、それでも彼はマネマネを前に笑った。
「ブンビー!!」
マネマネは怒りのままに彼を殴り飛ばした。
最早そこに余裕も体裁も無かった。
超速で吹き飛ばされたブンビーは、ついに闘技場の壁に埋まり動けなくなった。
彼は動かない体でくるみへと笑いかけた。
「頑張れよ、ミルキィローズ……」
「ありがとう、ブンビーさん。私、やります」
くるみは力強くそう答えた。
その前を待っていたかのように、彼女の手に握られていたゆめペンダントが虹色の光を放ち始める。
「私の本当の夢は……本当の夢は……」
無限とも思える光にマネマネは目を覆った。
視界全てを覆い尽くす光、くるみはその中に王冠を見た。
ココとナッツにも見えたようだ。
驚愕に口を開け、目をまん丸にしている。
「パルミエ王国の女王がつけるティアラココ!」
「三つ目の、冠ナツ!!」
くるみは満を辞して天にペンダントを掲げた。
己の願いをゆめペンダントに込めるために。
「ゆめペンダント……お願い。私、パルミエ王国の女王様になりたい! お姫様として、ココ様とナッツ様と一緒になりたい!」
くるみの願いに応えるように、ゆめペンダントの光がくるみの全身を包み込んだ。
光はやがて真白い輝きとなり、くるみの全身を、輝きを纏うダイヤモンドのドレスで彩った。
そしてその手には、黄金のミルキィパレットが握られていた。
「これは……新しいミルキィパレット」
黄金のミルキィパレットを開き、くるみは三つの薔薇のスイッチを入れた。
その薔薇が意味するもの……のぞみの薔薇、私の薔薇、そしてキュアローズガーデンの薔薇。
そして、今ここにいるココとナッツと私。
それらが全部一つになる私の夢の力で。
「行くわよ! ココ様、ナッツ様!」
「クォクォ!」
「ナッツゥ!」
くるみは頭に浮かんだ直感のままに、パレットを天に掲げた。
光が彼女の全身を包み込んだ。
「トリプルローズ・トランスレイト!」
光はココとナッツを剣の姿に変え、ミルクの手元へと運んだ。
ミルクの全身を取り巻いていた輝きは光輝くプリキュアの衣となり、ミルクの手脚を煌びやかに彩ってゆく。
やがて光が完全に晴れた時、そこには光のプリキュアの姿があった。
「咲き誇る三つの心! ココナッツミルキィローズ!」
半身を切って構えるミルクの手元で、ココとナッツが驚いた声を出す。
2人は2対の双剣へと変わっていたのだ。
ココは黒いフルーレに、ナッツは青いフルーレになっていた。
「これは何ナツ!? ナッツ達の身体が剣になっちゃったナツ!?」
「ココとナッツとミルクが、一つになってるココ!!?」
「定番の合体フォームよ。ココ様、ナッツ様。パルミエ王国と、4つの王国の力が合わさった、奇跡の力! …… 小説版限定フォームとも言うかもね」
ココナッツミルキィローズはあざとい笑みを浮かべた。
双剣を手に、ローズはマネマネを睨みつける。
「マネマネを倒し! ココ!」
「夢の蕾を取り戻し! ナツ!」
「ドリーム達を助ける!」
3人の意思は既に一つ。
倒すべき敵はマネマネ。
「マネマネ! あなたの野望はここで私が打ち砕く! これが最後の戦いよ!」
圧倒的な光の力と絶望的な闇の力。
最終決戦が今、始まろうとしていた。
次でマネマネ戦ラストです。
これが終わったら、後は最終決戦とエピローグだけです。
※セリフ修正しました