ゆめのまちanother『くるみのゆめアール大作戦』 作:TAMZET
ココナッツミルキィローズと怪物マネマネ。
光と闇の化身となった2人の最後の戦いが始まった。
先に動いたのは、ローズの方であった。
動いたと言っても目に見える速度でではない。
飛翔したかと思ったローズはいきなりマネマネの眼前に現れていた。
瞬間移動に近い移動であった。
ローズはくるりと宙返りをすると、輝きに満ちた踵をマネマネに向けて振り下ろした。
移動と違い、大振りな攻撃である。
マネマネは2本の腕をクロスさせるとその攻撃を防御した。
攻撃を受け止め、マネマネはにやりと頬を歪めた。
「ふふ……大仰な変身をしたかと思えば、戦闘力は大した事ありませんねぇ。まったく、こけおどしもいい所です!」
マネマネは腕を振るとローズの身体を吹き飛ばした。
彼女は空中で宙返りをし、速度を殺して着地した。
続け様にマネマネの瞳が赤く染まった。
レーザー発射の合図である。
だが、ローズはその場に立ったまま動かない。
マネマネの瞳がきらりと光った……瞬間、マネマネは苦悶に顔を歪めた。
それもそのはず、彼の胸にあったコワイナーの仮面が破壊されていたのだ。
「な、何ッ!? コワイナーの仮面が、一瞬で!? 何故!?」
「最初に蹴った時よ。早すぎて気がつかなかった?」
「な、何ですってぇ!?」
間髪入れずローズは再度マネマネとの距離を詰めた。
両手に握った剣を振り上げ、彼女は飛翔する。
「スカイフルーレ! 秘密の光ナツ!」
「グランドフルーレ! 王家の光ココ!」
青と黒、1対のフルーレによりマネマネの身体が切り裂かれる。
マネマネはその巨体で跳躍すると、ローズと距離を取った。
「私の知らない武器!! この力、あの時のプリキュア達の力と同じ……いや、それ以上か!」
怯えるマネマネは両目に力を込め天に向けて無数のレーザーを放った。
レーザーは空で無限に分割されまるで雨のように降り注ぐ。
だがローズは1対のフルーレを交差させ、回転切りを放つようにしてそれらを斬り払う。
フルーレが振るわれるたびレーザーは消滅し、透明な光へと変わってゆく。
「私の力が、通じないのか!?」
「これが、ココナッツミルキィローズの……パルミエ王国の力よ!」
ローズは地を蹴ると、再度マネマネの元へと超速移動した。
フルーレを交差させ、エックスの字に斬撃を放つ。
斬撃は空中で回転するとマネマネの中の夢の蕾を穿った。
夢の蕾は斬撃により摘出され、ローズの手元へと戻った。
「くっ!? ドリームとアクアの力までも!?」
マネマネの巨体が、目に見えて縮んでゆく。
夢の蕾の力を失ったからだろう。
敵は苦し紛れに、尻尾を鞭に変化させて応戦する。
ローズはフルーレでフルーレを振るい、マネマネを追い詰めてゆく。
「絶望こそ人の寄る辺! 進む事を放棄し、暗闇に身を委ねる事が最たる安寧なのです! お前達は、どうしてそれを理解できない!」
「そんなの決まってるじゃない。夢という名の希望の光があるからよ!」
「そんなまやかしを……」
「まやかしなんかじゃない! 例え叶わない夢かも知れなくても、私達は、それを持っていれば前に進める!」
ローズはマネマネが防御のために構えた尻尾にフルーレを突き立てた。
凄まじい悲鳴と共に、尻尾が根元から切断された。
叫ぶマネマネをローズは突撃で吹き飛ばした。
闘技場の壁にめり込み、マネマネは動けなくなった。
ローズはフルーレを交差させ、剣先に力を溜めた。
「受け取りなさい! あの日あなた達に滅ぼされ……もう一度甦った、パルミエ王国の光を!」
ローズの手にしたフルーレの先に、2輪の薔薇が蔦を伸ばしてゆく。
スカイフルーレからは群青の薔薇が。
グランドフルーレからは漆黒の薔薇が。
二つの薔薇はローズの背後で混じり合い、黄昏色の薔薇となった。
3人の意思が一つになる。
「プリキュアに!」
「ミルキィローズに!」
「私に!」
光がローズを包み込んだ。
「「「力を!!!」」」
ローズが掲げるは黄金に輝くミルキィミラー。
彼女の身体から飛び出した手紙の光が鏡に集まってゆく。
「乙女の夢が巻き起こす……薔薇の嵐を吹かせましょう!」
ローズはフルーレの鋒をマネマネへと向けた。
光は無限大に広がったかと思うと、一点に収束し、光の槍となってマネマネを捉える。
ローズは大きく息を吸うと、右脚を引き、腰を深く構えた。
「トリニティ……ロイヤルパルミエブリザード!」
叫びと共に極光の槍がマネマネへと向けて放たれた。
壁に埋まっているマネマネは槍を避けられず、真正面から受け止める。
「おおお……おおおおおおおっ!!? この力、到底受け止め切れるものではない……ッ!?」
恒星の如き光のエネルギーに、マネマネはその姿を歪めてゆく。
否、消えているのだ、身体そのものが。
光の奔流の中で、マネマネは思う。
「私はまた帰るのか……あの暗闇の中に」
光と闇の狭間で、マネマネは確かに感じた。
自分を覆う、暖かさを。
それの正体は、昔からずっと、自分の側にいた。
あの人の側に、ずっと……
「認めたくはないものですね。求めていたものは、もう手に入っていたなんて」
闘技場を揺るがす巨大な爆発と共に、マネマネは光の中へと消えていった。
マネマネが消滅したからだろう、闘技場は完全に崩壊し、ローズ達とブンビーはプリキュア達が眠っている研究室に皆投げ出された。
『一時的に、機能が制限されます』
ペンダントから響く機械音声と共に、ローズの変身が解除された。
その身体には、傷一つない。
みんなの力をもらい、夢が花開いたのだ。
寝巻きのままの、素顔のくるみ。
それでも、その表情は晴ればれとしていた。
「やった……マネマネを、やっつけた……わ……」
くるみはくらっとぐらついたか思うと、その場に倒れ伏した。
マネマネとの戦いで疲労が嵩んでいたのだろう。
限界を超えた戦いを繰り返したのだ、無理もない。
ココとナッツも同じ様子だ。
地面に倒れ伏したまま、起き上がらない。
そんなくるみを優しく抱き起こす人物がいた。
我修院博士その人であった。
「マネマネを倒し、夢の蕾を取り戻してくれたんだな。本当に感謝する」
「博士……」
寝ぼけ眼のくるみを抱え博士は研究室を進む。
試験管を開くと、博士はくるみの体をそこにそっと収めた。
「こんなに大きな夢の蕾があれば、大いなる夢の蕾も花開くだろう。ありがとう。君のおかげで、これからもずっと、カグヤの誕生日を祝ってあげられる」
博士は液体が溜まりゆく試験管に、深々と頭を下げた。
「……ありがとう。キュアドリーム、ミルキィローズ。プリキュア5……」
お礼と共に、試験管の扉が閉められた。
これにて、くるみとマネマネを巡る長い戦いは終局を迎えた。
やがてここにカグヤが来る事になるのだが、それはあと数分後の話。
屋敷の庭にて、ブンビーは新人にビンタを食らわせていた。
新人は約4回目のビンタで、うっすらと目を開けた。
「おい! おいってばおい! 大丈夫か!? 新人!」
「え、ええ……私は、いったい何を?」
新人は本当に何も覚えていない様子だ。
ブンビーはしばらく腕を組んだ後「いろいろだ」と返した。
首を傾げる新人を前に、ブンビーは遠くを見て話し出す。
「やり直せん事はないさ。一緒に、新しい道を見つけていこうじゃないか」
「……ええ。あなたが上司なのは、少し、いやだーいぶ頼りないですが」
新人の軽口に、ブンビーの額に青筋が浮かんだ。
「言ったな! 相変わらず、生意気な奴だ! 報告書書くか!?」
「結構です! 私は定時後出社定時前退社がモットーなので」
「サボりまくってるじゃないか!! 息抜きは大事だが、抜きすぎも良くないぞーっ!!」
「分かってますよぉ〜」
新人は手をひらひらと振りながら、先にスタスタと歩いて行ってしまう。
ブンビーさんは怒りながら、彼の後を追いかけた。
「やっぱり、帰ったら報告書だーっ!」
ブンビーカンパニーの忙しい忙しい1日は、これにて、幕を閉じたのである。
あと2話でおしまいです。
やってきやしょう。