ゆめのまちanother『くるみのゆめアール大作戦』   作:TAMZET

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夢を扱った作品といえば、映画の『パプリカ』が好きです。
いつかオリジナルでも何か書いてみたいなと思うこの頃です。


第二話『お忍びのプリンセス』

 東京観光もひと段落し、昼下がり。

 のぞみ達は上野の無人ホールを訪れていた。休館していたホールを、かれんが借り切ったのである。皆の胸には、ゆめペンダントがぶら下がっている。使った者の夢を具現化する、魔法のアイテムだ。

 

「よーし! それじゃ、みんな改めて、みんなの心にぃ~~!!」

 

 各々がそれぞれの夢を心に秘め、大きくペンダントを掲げる。

 

「「「「「ゆめアール!!」」」」」

 

 呼びかけに応えるように、ペンダントが眩い光を発した。その輝きの強いこと強いこと。光から逃げるように、皆は同様に目を覆った。

 

「おぉーっ!!」

 

 初めに声を上げたのは、うららだった。

 くるみも目を開ける。そこには信じがたい光景が広がっていた。

 りんの手から、無数のビーズが湧き出ているのだ。ビーズはまるで生き物のように、流動的な軌跡で空中を駆け回る。

 のぞみとうららは目を輝かせてそれを追い、くるみも、唖然としつつもそれらに視線を取られてしまう。

 

「りんさん、すごい!! 魔法みたいです!!」

「えぇーっ!? りんちゃん!? それどうやってやってるのっ!! ?」

「私にも分かんない!! これがゆめペンダントの力ってこと?」

 

 りんもあっけに取られた表情をしていた。だが、すぐに目の焦点をビーズを塊に合わせ、両手を鞭のように振るう。

 するとどうだろう。驚いた事に、それまで不規則な挙動を取っていたビーズ群が、一糸乱れぬ動きで動き出したのだ。

 くるみは口をあんぐりと開け、感嘆する。

 

「なにこれ!! すごい……図面が、頭の中から……飛び出してくるみたい!!」

 

 飛び出さんばかりに目を見開く3人の前で、ビーズは凄まじい勢いで形をなしてゆく。さながら、達人の為す水芸のように。

 りんが額の汗を拭うと、壇上にはビーズ製のとある建造物が完成していた。高さは、悠に5mを超え、ホールの天井へと達そうとしている。

 

「よし!完成っと……!」

 

 完成したビーズのお城を見上げ、りんは満足げに息を吐いた。額には汗が滲んでいる。余程の集中力を使うのだろう。

 

「ビーズのお城だぁ!!」

「すごいですよこれ! 中に入れます!」

 

 のぞみ、うららに続いて、くるみも恐る恐る城の中へと足を踏み入れた。中は塔のようになっており、頂上へと螺旋階段が伸びている。

 恐る恐る一歩を踏み出す……が、次の瞬間! ビーズの丸みに足をかけてしまったくるみは、体制を崩して転んでしまった。

 

「痛ったぁ……」

 

 ビーズ製の階段だ、登るのは困難が想像される。登頂を諦め、くるみは塔から出る。すると、塔の上部からのぞみの悲鳴が聞こえてきた。

 

「うわああぁ──っ!? 止めて止めてーっ!!」

「うぇ!?」

 

 くるみの頭に鈍衝撃が走り、視界がぐらつく。どうやら、落下してきたのぞみと頭をぶつけたらしい。文句を言ってやろうと目尻を釣り上げたところで、ふと彼女は、舞台の照明が消えている事に気がついた。

 

「いてて……ごめんねくるみ」

「今度から下には気をつけなさいよ!」

「うん……」

「でも、これって……」

 

 観客席には、いつのまにか無数の観客がひしめいていた。観客の一人一人はマスクをしており、顔は伺えない。質量を持った無数の視線の波に叩きつけられ、くるみは思わず身を震わせる。

 だが、彼らの視線は自分に向けられているわけではない事に気がついた。

 視線の先は────

 

「あーっ! くるみ! ねぇねぇ! 上! 上!」

「上?」

 

 塔の上、5mはあろうかという頂上のバルコニー。うららが観客に向けて手を振っていた。

 いつ着替えたのか、テレビで見かけるようなスパンコールドレスを身につけてたうららが、お客へ向けて深く腰を折った。ざわめいていた会場が、波を打ったように静かになる。

 

「お次の演目は私、春日野うららが務めさせていただきます……」

 

 言うや否や、パチン! という鋭い音が会場内に響き渡った。

 瞬間! 

 スポットライトはうららのみを照らし出した。

 くるみの視界は暗闇に包まれる。闇と光が織りなす混乱の最中、会場のスピーカーから、軽快な音楽が掛かりだす。

 

「な、なにこれ!?」

「この曲、もしかしてうららの十八番の……」

 

 音楽に合わせ、ビーズの人型達が会場の裏側より走り出す。数は20では効かない! 

 くるみとのぞみは彼らに押し出されるように、観客席に腰掛けさせられた。

 

「みーんなー! 来てくれてありがとーっ!!」

 

 うららの呼びかけに、観客席から凄まじい熱狂を纏った声援が帰ってくる。荘厳なホールには似つかわしくない、大絶叫だ。

 うららはそれを受け止め、右手を大きく掲げた。

 

「春日野うららの東京ソロライブ! 一曲目は……みなさんご存知! 【ツイン・テールの魔法(まほう)!】」

 

 軽快な音楽と共に、春日野うららのソロライブが始まった。うららの踊りに合わせ、ビーズのバックダンサー達が躍動する。

 オーバーヘッドキックをしているものもいれば、特に意味もなく回転しているだけのものもあった。

 スピーカーから響くうららの歌声に、観客達は頬を綻ばせ、あるいは目を閉じ、あるいは涙を流して喜んでいる。

 

「な、なんなのよ、もう……」

「これが、うららの夢なんだ……りんちゃんも、すごい……」

「まったく、二人ともはしゃぎすぎよ。こまちなんか、あんなに静かに小説書いてるって言うのに」

 

 こまちは観客席の隅で、静かに小説を書いている。その周りでは色とりどりの花が咲き、一つの花畑ができていた。こまちがペンを動かすたび、花畑の周りに蝶々が増えてゆく。

 蝶々は次々とステージへと飛び立ち、うららの周りでダンスを踊り始める。それだけでは無い。蝶々はくるみ達の方にも飛んできた。

 

「うぇ!? な、なんでこっちにばっかりぃ!?」

 

 赤、白、黄色……

 無数の蝶に囲まれたくるみは、這々の体で別の席へと避難した。

 

「はぁっ……はぁっ……ぜ、前言撤回! こまちもはしゃぎ過ぎ! 目立たなきゃいいってもんじゃないわよ」

「こまちさん、ふふぉいふぁ(すごいなぁ)〜!」

 

 ついてきていたのぞみが、カステラを頬張りながら感嘆の声を上げる。

 これらはゆめペンダントで生み出したものだろうか。口いっぱいにカステラを頬張っているため、何を言っているか分からない。

 

「のぞみも、自分の夢を出したらいいじゃない。お菓子ばっかり出してないで」

「ふぇ?」

 

 のぞみの横には、お菓子の山が出来上がっていた。うららのライブほどでは無いが、通常では考えられない量だ。これらを全部食べたら、確実に胃がはち切れるだろう。

 

「ふぇー!? ふぉふぁし、ふぉふぃふぃふぃふぉー」

「もの食べながら話さないの! それに、何言ってるか分かんないって! もう! みんな自分勝手なんだから」

 

 ため息と共に、くるみはお菓子の山を後にする。目指すはかれんのいるバルコニーだ。バルコニーの最上段には、白衣が身を包んだかれんの姿があった。

 どんな格好をしていても、ホールに似合うお姉様。そんな彼女の隣に腰掛けた時、くるみは、自身の心が少し安らぐのを感じていた。

 

「盛り上がってるわね、うららのライブ」

「えぇ。アレだけのものを、一人の夢だけで作れるのは、うららがすごいのか、ゆめペンダントがすごいのか……」

 

 かれんに、夢を出した様子はない。どうやら、ペンダントの力は衣装チェンジにだけ使ったようだ。

 

「かれんは……お医者さんね。みんなの前で手術とかしないの?」

「手術はショーじゃないわ。苦しんでる患者さんを夢で作るなんて、不謹慎よ」

「た、確かに。そう考えると、なかなか不便ねこれ」

「そうでもないわ。格好を変えられるだけでも、十分楽しんでるもの」

「うん……たしかに」

 

 かれんは一度言葉を切り、少し優しい口調でくるみに尋ねた。

 

「くるみは、ゆめペンダントを使わないの?」

 

 くるみは少し俯き……そっぽを向いた。

 

「私は良いわ。みんなみたいに、大きな夢があるわけじゃないから」

「パルミエ王国のお世話役……十分に立派な夢だと思うわ」

「それはそう、だけど」

 

 くるみは、唇を噛む。

 尋常ならざる様子の彼女に、かれんは心配げな視線を向ける。

 

「私は、りんやかれんみたいに……」

 

 その時、くるみの言葉を遮るように、小さな拍手が起きた。決して大きな音では無い。だが、その小さな拍手に、うららはライブを止めた。

 

 声の人物へと、サーチライトが向けられる。

 白い髪を、カーキ色のキャスケットで隠した少女。地味な服装ながら、その髪と目、纏う雰囲気が、彼女が只者でない事を物語っている。

 

 海を渡るモーセのように、観客が彼女の前の道を開けてゆく。会場は再び、波を打ったように静かになった。

 

「春日野うららさんね。会いたかった!」

「あなたは……」

 

 うららが一歩を踏み出す。ビーズのダンサー達が、その足元に重なり階段を作る。ビーズの塔を駆け降りるうららの足取りが、徐々に早くなってゆく。

 やがて、彼女の元へとたどり着いたうららは、彼女の名前を呼んだ。

 

「カグヤさん?」

 

 少女がキャスケットを外す。真白い絹のような髪が、こぼれ落ちた。

 

 


 

 ホールは、静寂を取り戻していた。のぞみ達6人は、壇上で少女・カグヤと向かい合う。

 霞のように儚げながら、自然と視線が吸い込まれてしまう。相反する二つの魅力を備えた、不思議な少女だ。

 くるみは不思議な感覚に包まれていた。まるで、今までの出来事が全て夢に思えてくるような、そんな錯覚。少女は、年相応にカラカラと笑い、話し始めた。

 

「すっごいゆめの力を感じたから、来てみたんだけど……まさか、こんなところでうららさんに会えるなんて!」

「私の方こそ! こんなところでカグヤさんと会えるなんて! 光栄です!」

 

 興奮を隠せない様子のうらら。

 カグヤは唇の前に指を一本立てて見せる。

 

「しーっ……」

 

 それを見たうららは、何かに気がついたように、慌てて同じ仕草をした。

 

「そ、そうですよね。お忍びですもんね」

 

 くるみはこの子を知らない。地球のありとあらゆる歴史は一通り勉強したが、最新の芸能関係は分からない。うらら以外の4人も同じ様子だ。

 そんな皆の様子を察してか、いの一番にのぞみが問いかける。

 

「うらら、知り合いなの?」

「知り合いも何も、この人がゆめアールプリンセスのカグヤさんですよ!」

 

 うららの回答に、こまちとかれんが、目を丸くした。りんとのぞみは、まだ首を傾げている。

 

「ゆめアールプリンセス?」

「カグヤサン?」

「私と同じ! 歌って踊れるスーパーモデルさんです! 二人ともMステとか紅白とか観てないんですか?」

 

 のぞみとりんは、揃って頭を掻いた。

 

「映画とかドラマばっかりで……」

「ほら、ウチはゆうとあいがリモコンの取り合いするから……」

 

 現代人離れした二人の回答にうららが頭を抱える。2人のように呆れられたくないので、くるみはとりあえず、知っている風を装う事にした。

 一連のやりとりをにこやかに眺めていたカグヤが口を開く。

 

「こちらの方々は、うららちゃんのお友達?」

「はい! 同じ学校の集まりで……大親友です!」

 

 各々が手を挙げる。

 

「水無月かれんです」

「秋元こまちです」

「夏木りんです!」

「私、夢原のぞみ! よろしくね、カグヤちゃん!」

 

 瞬間、りんの手刀がのぞみの頭頂部を襲った。強烈な一撃だ。

 

「声が大きい!」

「ぎ、ぎふっ……」

 

 のぞみは声を殺して悶絶する。その様子を見て、くるみは絶対にこの子を名前で呼ぶのをやめようと思うのであった。

 

「はじめまして! お忍びゆめアールプリンセス、カグヤです。みなさん、素敵な夢を持ってて……羨ましいくらいです!」

 

 カグヤは、はにかむように笑った。5人は、それぞれ照れ臭そうにしている。くるみは、慌てて目を伏せた。

 誰にも、自分の顔を見せたくなかった。

 

「特に、のぞみさん! あなたの夢の蕾はとっても大きいんです」

「えぇ!? そうなの!! それって、私の夢が、と──ってもすごいって事?」

「そんなに誇張して言ってなかったよね?」

 

 りんのツッコミに、のぞみは肩を落としかけたが、負けるもんかと持ち堪えた。相変わらず感情の起伏が激しい子である。くるみは心の中で笑いを堪えた。

 

「こんなに大きい蕾を持っている人は、本当に珍しいんです! きっと、とってもすっごい……」

 

 カグヤの言葉が、そこで止まった。まるで、ロボットのネジが切れたかのように、ピタリと止まったのだ。

 どうしたのだろうか。

 急に勢いを失った様子の彼女を、のぞみが怪訝そうに見つめる。

 

「……?」

 

 カグヤの口が、ぱくぱくと動く。しゃべりたいのに、何かがそれを押さえつけているように。

 

「のぞ、み……さん……」

「カグヤちゃん? どうしたの?」

 

 カグヤは、見るからに顔色が悪そうだ。のぞみはカグヤへと歩み寄り、その顔を覗き込む。

 

「だいじょ……」

「のぞみさん!! いや、のぞみさんだけじゃなくて、みなさん全員……今すぐ、東京から離れて!」

 絶叫にも近いカグヤの警告に、くるみは身を硬らせた。それは正しく、必死の叫びであった。

 日常がいきなり非日常へと転化する、不快感と恐怖。その二つに全身を撫で回され、くるみは口内に溜まった唾を飲み込んだ。

 りん達も同じようだ。言葉を発する事ができない。

 その中で、のぞみだけが、いつもと変わらない、素っ頓狂な声を上げる。

 

「えぇ!? ど、どど、どうして!? もしかして、私のお菓子が原因!?」

「違う! あなた達は悪くないの!!」

 誰も言葉が発せない。カグヤは、物悲しげな表情を浮かべ、少しずつ後退してゆく。

 

「素晴らしい夢を持ってる人は、この街だと標的にされるの。今は、詳しいことは言えない……けど、ここにいると、きっと良くない事が起こる。だから……」

 

 カグヤは、舞台袖の暗闇の中へと消えていった。彼女の姿が見えなくなって少しして、くるみは初めて、自分の身体が硬直していたことに気がついた。

 皆も同じようだ、体を揺すったり、息を荒くしたりしている。

 

「待って!!」

 

 思い出したかのように、のぞみが駆け出した。皆、声も出せずにそれに続いてゆくその中で、くるみはただ1人、言いようの無い感覚に包まれていた。

 異邦の地で、同胞を見つけたような感覚、仲間に出会った感覚……それらが彼女の胸の中に去来していた。

 

「……?」

 

 感覚の正体を見つけられないまま、くるみは壇上に佇むしかなかった。




 この話の時系列は、本編でのどかがカグヤちゃんと会う直前になります。
 これは共同制作時代の裏話ですが、元々くくれ、氏より提案されていたのは、のぞみとカグヤのお話でした。それをベースに私が話を組み立てたのですが、その途中でミルクが自己主張を始め、やがて主人公になり変わってしまったのです。
 この頃は、まだのぞみが主人公やっていた頃ですが、すぐにくるみが主張してきますので、お楽しみに。
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