ゆめのまちanother『くるみのゆめアール大作戦』 作:TAMZET
大阪だと、梅田の地下が迷宮になっているそうで。
今度行ってみたいと思います。
空も黄昏れ、夕闇に差し掛かる頃。
ミルクは、東京の空を一人眺めていた。
光沢のある箔に包まれた真白い建物の柱に寄り掛かり、電子掲示板を眺めている。
足は泥と煤に塗れ、目の下は腫れていた。
ここがどこかも分からない。
大きな建物に、緑の字で、『渋谷駅』の文字が刻まれている。だが、ミルクにはその渋谷駅が東京のどこなのかわからない。
何時間そうしていたのだろう。同じ映画の予告を見るのにも、もう疲れた。
雑踏の中には、色々な人がいる。
目を閉じると、たくさんの声が聞こえてくる。
声が、身体を通り過ぎていく。
まるで、自分なんかいないかのように。透明になってしまったかのように。
「……ミル………………」
冷え切った身体を揺すり、ミルクは立ち上がる。くすんだ紅の瞳に、光が戻る。奮い立つとは、まさにこの事だ。
「……寂しくなんかないミル。ミルクは元々一人ミル! 今更、一人なんてどうって事無いミル」
電子掲示板を遠目に眺め、ミルクは強がってみせる。
だが、それきりだ。
人混みからは、何の返事も無い。
その内元気も無くなり、また壁に背をつける。
声に出してしまうと、空きっ腹に響く。心の中にぽっかりと穴ができたかのようだ。
「うぅ……かれん……りん……うらら……こまち……みんな、どこミル……?」
また、涙腺の奥を細い針がくすぐる。
早くこの感覚が消えて欲しい。そう願っていると、ふとミルクは、自分の元に走り寄って来る何かの気配を感じた。
気配のした方を見ると、毛並みのいい、茶毛の犬が走ってきていた。
「ミル!?」
犬は真っ直ぐにこちらに駆けてくる。
硬直した身体に逃げる術もなく、ミルクはじゃれつかれてしまった。
「アン! アン!」
「わっ!? どうしたミル? 飼い主と逸れたミル?」
犬の頭には、宝石を象ったアクセサリーが付けられている。どうやら飼い犬のようだ。
このワンちゃんも、飼い主と逸れてしまったのだろう。大都会のはぐれ犬だ。
犬は仲間を見つけたかのように、嬉しそうに戯れてくる。
「お前は偉いミル。ミルクも一緒ミル……大事な人と逸れて、それっきりミル。大都会の夜は、月も見えなくて寂しいミル……」
「アン!」
犬は、警戒する事なくじゃれ付いてくる。
ミルクは若干困り顔だ。
いくらパルミエ王国の準お世話役とはいえ、妖精の姿では犬を相手にできない。
「げ、元気すぎミルぅ」
思う様じゃれつかれたミルクは、力なく耳を垂れた。元々無い元気が、底を尽きたのだ。
すると、犬もそれを察したのか、ミルクが寄りかかれるように、体を丸めた。さながら、毛皮のベッドである。
ミルクは、それに甘える事にした。
「…………本当に気が利くミル。お前のご主人は、きっと女王様ミル」
犬の頭についていたアクセサリーは、ティアラだった。
皇女様がつけるような、煌びやかなティアラ。ペットのアクセサリーとは思えないほど、精巧な作りをしている。
「綺麗なティアラミル……もしミルクが王女様だったら、こんな風に……」
ミルクは考える。
もし私が王女だったら……そう、例えばクレープ王女みたいに、凛々しくて可愛い王女だったら、ココ様は振り向いてくれただろうか。
ナッツ様は褒めてくれただろうか、と。
そこまで考えて、ミルクは首を横に振る。
もし万に一つ、夢が叶ったとしても私はお世話役。ココ様とナッツ様の隣には立てない。どれだけ万に一つを重ねても、あの二人は遠い……
ミルクは空を見上げる。
光を伴った摩天楼の群が、背伸びをしている。
そればかりだ。
背中を丸めると、ふと、背中に温かい感覚があった。ふさふさとした柔らかな耳触り。最高級の綿で織った布団のような、ふかふかした触り。
犬が体勢を変え、より寄りかかりやすくしてくれたと、ミルクには分かった。
「暖めてくれるミル?」
「アン!」
「……賢い奴ミル」
このまま眠ってしまいそうだ。
暖かいのだ、仕方がない。
もう、寒いのは嫌だ。
でも、起きてそこにココ様がいなかったら?
ミルクの思考に、恐怖が混じる。
ナッツ様がいなかったら?
のぞみがいなかったら?
りんが、うららが、こまちが……かれんがいなかったら?
私は、本当にひとりぼっちに……
考えるだけで、震えが止まらなくなる。
耳を丸めようとした、その時……声が聞こえてきた。
「……ミル?」
複数の少女の声だ。声の柔らかさから察するに、のぞみ達と同じ歳くらいだろうか。
声は段々とミルクの方へ近づき……やがて、彼女のすぐ側で止まった。
「あーもうラテ! 勝手に走って行っちゃ、ダメだって!」
声の主が、犬を抱き上げた。暖かな感触が耳から離れてゆく。名残惜しい……だが、今はその余韻に浸っている暇はない。
ミルクの外見は、ぬいぐるみに酷似している。それがいきなり動き出しては、声の主を混乱させてしまうだろう。下手をすれば、変な店に売られ、アマゾンの奥地に……
ここは、ぬいぐるみのフリで通すのが最善手。そう考えたミルクは、不動を保つ事にした。
時は戻り、数時間前。
そろそろお菓子の時間が近づいてくる頃合い。麗かな春の日差しが、ビル群に反射して人々の頭上を照らす頃。
のぞみ達一行は、手分けして東京を旅していた。理由は一つ、あの謎の少女カグヤを探すためである。
意味深な事を言って消えたカグヤ。
彼女の言葉に不安を感じていたのは、皆同じだった。
この東京でこれから起きようとしている事を突き止めるべく、のぞみ達は彼女を探していたのだ。
のぞみとりんの担当地区は、原宿周辺。
捜索当初から、りんは呆れ果てていた。
のぞみはやる気に満ち溢れている。探すペースもりんより早い。それはいいのだ。
問題は、彼女の探し方にあった。
高架下を見たり、公園の茂みを見たり、そもそも人が隠れていそうもない場所ばかりを探すだ。当然、出てくるのは、野良猫や野ネズミといった、野生動物ばかり。
ため息混じりに人混みに目をやっていると、ふとりんは、同じような事をしている少女を見つけた。
ピンクブラウンの髪をボブカットにした少女だ。
自分で描いたカグヤの似顔絵を片手に、少女に声をかける。声をかける寸前、少女もこちらを振り向いた。
お互いにびっくりするりんと少女。
「あの……こんなワンちゃん、知りませんか?」
少女は、恐る恐ると言った調子で質問してきた。
少女が差し出した紙……そこに描かれていたのは、たわしのような見た目をした何かだった。目と耳のようなものがある位置から、辛うじて動物である事はわかる。
だが、それが何かは分からない。
「これ、犬?」
「うぇ!? の、のぞみ!?」
気がつくと、すぐ後ろにのぞみが来ていた。
のぞみの少女は大真面目に頷いた。随分と個性的な犬だと思ったが、りんは口には出さないでおいた。
「さっきまで一緒にいたんですけど、突然どこかに駆けていっちゃって……」
「うーん、見たことないなぁ。こんな子がいたら、すぐに分かると思うんだけど……」
のぞみの発言に、りんは大真面目に頷く。こんなものが道を歩いていたら、まず動画サイトのトレンド入りをするだろう。
翌日には100万回再生間違いなしだ。
「一緒に東京を見て回ろうって、約束したのに……」
心配そうな表情の少女。
これは、アレだ。いつものやつだ。
りんは、のぞみが言うであろう次の台詞を予想し、徐にスマホを開いた。
「一緒に探そっか!」
「いいの!?」
「もちろん! 困った時は、助け合いだよ!」
少女の表情に、大輪のひまわりが咲いた。
やっぱりね。りんは心の中でそう呟きつつも、用意しておいたスマホのマップを二人に見せる。
「どこで逸れたの? 逸れた時間と場所が分かれば、探す範囲も分かるからさ」
「さっすがりんちゃん! 準備が早いっ!」
「伊達に幼馴染やってないっての」
少女が犬と逸れた場所は、どうやらこの原宿付近らしい。時間は、およそ数分前。
「なら……」
大体の範囲を割り出し、少女へと見せる。逸れてからそれほど時間が経っていなかった事も幸いし、そこまで範囲は広くなかった。
少女は「ありがとうございますっ」と、風が起きるくらいに激しくお辞儀をした。
どういたしましてを言おうとしたところ、後ろからのぞみに遮られた。
「私、夢原のぞみ! あなたは?」
「私、花寺のどかって言います!」
「のどかちゃん、かぁ! すごい! 素敵な名前!」
「のぞみちゃんも!」
二人はきゃっきゃと、まるで小動物のようにはしゃいでいる。自己紹介の機を失ったりんは、そっとカグヤの似顔絵をしまう。
「それじゃ、のどかちゃんのワンちゃんを探すぞー! けってーい!」
「け、けってーい!」
意気揚々と歩き出す2人。
だがその歩みは数分後、のぞみが道に迷った事により、頓挫することになる。
りんの目の下のクマが深くなったのは、語るまでも無い。
こまちは、かれんと共にカグヤを探していた。
担当区域は、恵比寿周辺だ。
二人とも、彼女の事はテレビで観たことがある程度である。捜索は難航していた。
人探しをする中で、二人はとある少女に声をかけた。黒髪をポニーテールに結った少女であった。
少女は何かを探しているようで、二人が質問をするより先に、焦った様子で二人に質問をしてきた。
「あの……この辺りで、ワンちゃん……見かけませんでしたか?」
「どんなワンちゃんかしら?」
少女の見せてきたスマホには、可愛らしい犬の写真が映し出されていて。綺麗な茶色い毛並みの犬だ。どこか気品を感じさせる。
こまちは、かれんを仰ぎ見た。首を横に振るかれん。見た事はないようだ。
「そう、ですか」
二人の反応に、少女は目を伏せる。だが、すぐに元に戻ると、彼女は笑顔で頭を下げた。
その仕草の、整っている事。
思わず口を開けてしまいそうになるほどだ。
その時だった。かれんが呟いたのは。
「あなた、もしかして旅館、沢泉の……ちゆ、ちゃん?」
自信なさげな口調のかれん。
しかし、少女は驚いたようにばっと顔を上げた。
「そう、ですけど」
「やっぱりそうよね! 懐かしい……」
「かれん、お知り合い?」
「前に家族で泊まりに行った旅館の子なの。私がサンクルミエールに入学する前だから……5年くらい前だったかしら」
少女はまだかれんの事が思い出せていないようだったが、やがてポンと手を打つと、恐る恐る質問を投げかけた。
「……もしかして、水無月かれんさん?」
「そうよ。覚えていてくれて嬉しいわ」
疑問が解決したからか、二人のぎこちなさが解ける。そんな二人を、こまちは柔らかな微笑みで眺める。
「来年の夏休みは、みんなを連れて泊まりに行こうかしら」
「はい! ぜひ! その時は、最高のおもてなしをさせていただきます!」
少女がペコリと頭を下げる。思いがけない数奇な邂逅。これも、大東京の魔力がなせる技だろうか。
しばらく語り合ったのち、かれんは用意していたカグヤの似顔絵を見せた。
「そうだ……こんな子、見かけなかったかしら」
ちゆは眉を寄せ、その紙を覗き込む……そして、あっと声を上げた。
「この子……」
その時であった、茶色い毛並みの犬が、こまちの視界を横切ったのは。
「あーっ!!」
声を上げるこまち。
ちゆも振り返り、同じように叫ぶ。
と、次の瞬間、ちゆは身体をリスのように丸めると、脱兎の如く駆け出した。
2人の髪を、風が揺らすほどのスタートダッシュであった。
「す、すごい……」
嵐のように走り去るちゆを、こまちは目を丸くして見送るしかなかった。
くるみは、りんの描いた似顔絵を片手に、カグヤを探していた。
担当区域は新宿周辺。
だが、新宿がどこかは分からない。
あまり知らない人に声はかけたくない。顔だけを頼りにカグヤを探すが、戦果は上がらない。
人の数が多すぎるのだ。
「ったく、どうしろって言うのよ」
くるみは、両手を後ろ手に組み、壁に寄りかかる。そうでもしないと、大都会の波に呑まれてしまうような気がした。
仲間達の元に戻りたい。そう思いながら、くるみはひたすらに歩く。
ふと、肩を叩かれる感触にくるみは身を硬らせた。
「な、なにっ!?」
振り返ると、そこには大人びた雰囲気の、金髪の女の子がいた。
女の子は少し驚いた様子だったが、すぐに笑顔に戻り、くるみに尋ねた。
「この辺りで、ラテさ……こんな感じのワンちゃん、見かけませんでしたでしょうか?」
女の子が見せた絵の中には、たわしのような毛並みの動物が描かれていた。
事前に犬と伝えられていなければ、栗かなにかと見間違えていただろう。
これでは情報が少なすぎる。くるみは、素直に伝えることにした。
「いえ、見たことありません。他に、何か犬の特徴とかありませんか?」
「特徴、ですか? そうですね……どこか、お姫様っぽいというか……」
「お姫様、っぽい?」
くるみの頭の中で、絵の中のたわしがドレスを着て床を磨いている。
「それに、少し病弱ですね。今も、くしゃみをしてうずくまっているかもしれません」
「病弱で、くしゃみを?」
頭の中で、ドレスを脱いだたわしが、ベッドに横たわっている。横には箒や雑巾達の姿。思わず吹き出しそうになるのを抑え、くるみは首を振って犬を見ていない事を伝えた。
そこで、くるみは本来の目的を思い出した。
りんの似顔絵を開げ、少女へと見せる。
「こんな感じの人、見た事ありません?」
「いえ……見たことはありません。ごめんなさい、お役に立てず……」
女の子は申し訳なさそうに首を振った。
くるみは、いいですよと彼女を慰める。
まあ、当然である。この大都会の中で、一人の人間を見つけるのがどれだけ難しいか、それを身をもって知っていたのだ。
女の子はペコリと頭を下げ……思い出したように「最後に一つ」と人差し指を立てた。
「ところで、ここは東京のどの辺りなのでしょうか? ひなたには、迷ったら東京駅に集合と言われたのですが」
「……」
「どうされました?」
「……」
くるみが黙っているのは、決して意地悪ではない。本当に分からないのだ。彼女の地理知識は、サンクルミエール学園の周辺に限定される。東京の地理は、複雑で分からないのだ。
「ケータイとか持ってないの?」
「ケー、タイ?」
女の子が、首を傾げる。やがて、女の子はポンと手を打った。
「あぁ、スマートフォンの事ですね」
女の子はそれを慣れない手つきで弄ると、「あぁ!」と一笑した。
どうやら、東京駅の場所を見つけたようだ。
女の子はくるみに頭を下げ、去ってゆく。
去りゆく彼女を眺めながら、くるみは、一抹の寂しさを感じていた。女の子と別れた事にではない、時代の進歩に取り残される自分にだ。
電子端末、持とうと思った事も無い。サンクルミエールの近くなら道は分かるし、何より、それらの使い方なんて今更分からない。
「あんな物なくても、ナッツ様の作ったミルキィノートがあるじゃない。電話するだけなら、あれで十分よ」
のぞみにそう言ってのけたのが懐かしい。
そう、世界は変わっても、サンクルミエールの周りの景色は変わらない。のぞみ達も同じ。
だったら、このままでいい。私は、ミルキィノートとミルキィパレット頼りの美々野くるみのままで。
そこまで考えたところで、くるみの頬を冷たい汗が伝った。嫌な予感がしたのだ
「今ノート持ってるのって……」
カバンを弄るくるみ。案の定、ミルキィノートが無い。最後にあれを持っていたのは、ナッツ様だ。
電車の乗り方なんて分からない。東京の地理もわからない。人に聞く勇気もない。
「……どうやってみんなと合流しよう?」
大都会に小さな身ひとつ。
くるみの心に、薔薇の吹雪が咲きそうになっていた。
うららが担当していたのは、東京駅付近。
かつて撮影でこの場を訪れていた彼女には、土地勘があったのだ。
しかし、声をかけれど顔を探せど、カグヤらしき少女は見当たらない。
人をあたるうち、とある栗毛色の髪の少女にうららは声をかける事となった。
「ふぇ? なになに?」
少女は振り向き、現代人らしい仕草で答える。どこか動物らしい雰囲気を醸し出す、可愛らしい少女である。
「ん?」
少女はうららを二度見し、さらにまじまじと見つめる。そして、芸人もビックリするほどのリアクションで飛び上がった。
「あ、あの!? 春日野うららさん、ですよね!」
「そ、そうですけど……」
少し驚きながらも、うららは答えた。少女は興奮した調子でまくし立てる。
「サインお願いしますっ! あ、な、名前は、平光ひなたでお願いします!」
「いい、ですよ!」
困惑しつつも、うららは少女……ひなたの差し出したCDにペンを走らせる。
ふと鞄の中身を盗み見ると、そこにはありとあらゆる有名人の本やCDが入っていた。
ひなたはCDをぎゅーっと抱きしめ、飛び上がって喜んだ。その喜びように、うららも頬を緩ませる。
そんな所で、うららは本来の目的を思い出した。
「こんな感じの子、この辺りで見ませんでしたか?」
りんの書いた似顔絵を見せる。
ひなたは、それを見て首を傾げた。どうやら、どこかで見覚えがあるようだ。
少しの間の後、ひなたはポンと手を打った。
「この子、ゆめアールプリンセスのカグヤちゃんじゃない!?」
「そうなんです!! 分かってくれるんですね!!」
「もちのロン! カグヤちゃんなら、今日渋谷のハチ公前でライブあるじゃん! 野外ライブだからチケット要らないし!」
「ひなたさん!! ナイスインフォメーションです! 今度絶対お礼します!」
二人は、ハイタッチでお互いを称え合う。
これは大きな情報だ。
ひなたも何かを探しているらしく、手に持った紙を見せてきた。そこには、紫の取っ手が付いた茶色いたわしの絵が描かれていた。
「これ、探してるんだけど」
「東急ハンズとかで売ってませんか? スマホで検索すれば出てくると思いますけど」
「え?」
ひなたは絵をもう一度見直し、慌てて訂正した。どうやら、犬の絵らしい。
「この辺りで、こんな感じのワンちゃん、見てたりしない?」
こんな犬がいたら怖いと思う。そんな言葉を押し殺し、うららは首を振る。
ひなたは肩を落としたが、すぐに立ち直り、笑顔に戻った。その笑顔の眩しさに、釣られて、うららも笑ってしまう。
「お元気で! また、会えるといいですね」
「うんうん! 今度は、ありったけのうららちゃんコレクション、持ってくるから!」
そう言うと、ひなたは足早に去っていった。その後ろ姿に、うららはとある友達の姿を思い浮かべるのだった。
少女達の昼下がりは、こうして過ぎ去っていった。
そして時は進み、夕暮れの渋谷。
声の主達は、何やら嬉しそうに話している。
こちらに気がついていないのだろうか。
そう考える、ミルクはゆっくりと目を開ける。そこには4人の少女達がいた。
可愛げなピンクブラウンの髪の少女、落ち着いた雰囲気の黒髪の少女、元気な栗毛髪の少女。
少女達は、ラテと呼ぶその犬を交互に抱き、一回り大人の、金髪の女の子へと手渡した。
ミルクは目を見開く。金髪の少女に見覚えがあったのだ。昼間、犬を探していた女の子だ。
金髪の女の子は、何やら聴診器のようなものをラテに近づけた。女の子は耳から聴診器を外し、話し出す。
「妖精さんが泣いているのが聞こえて……慰めていたのだそうです」
「妖精? え!? どこどこ!? 見たい!!」
はしゃぐ栗毛髪の少女に、金髪の女の子はにこやかに頷いた。女の子がさした指の先は、こちらに向いている。
少女の小さな手が、ミルクの小さな身体を持ち上げる。
心の臓の鼓動を抑えんと、ミルクは息を止める。
「なにこれ、ぬいぐるみ?」
「それにしてはきれいね。持ち主が近くにいるって事かしら?」
「じゃあ! 拾ってあげなきゃじゃん!! いや、こういう時は交番かな……?」
「待ってひなたちゃん! この子、もしかして……」
そこまで聞こえたところで、ミルクは身体を硬直させた。
右耳に温かく湿った感触があったのだ。
直後、おかしな感覚がミルクの右耳を襲った。
「ふ、く、……くふっ!」
変な声が出てしまった。
耳の周りが、くすぐったい!
耳を舐められている、そう気がついた時、ミルクは身体を思い切り捩りたい衝動に駆られた。
「ラテ……? どうしたの?」
くすぐったさが、耳周りで渋滞している。
必死で声を抑えるが、ラテの舌は的確に、ミルクのくすぐったいポイントを突いてくる。
「……ル」
「る?」
(や、やめるミル! バレちゃうミル!!)
ミルクは心の中で絶叫するが、ラテはやめてくれない。
「アン! キャウウン!」
心中でどれだけ叫んでも、ラテはやめてくれない。
しつこいくらいにくすぐったさの溜まり場を舐めてくる。
「ル……ミルミ……ル」
「ん? 今誰か喋った?」
「いや?」
「私達ではありませんね」
声を抑えているのは、今や彼女にとって最大限の抵抗だ。
くすぐったさは、とっくに限界を超え、熱へと変換されている。身体の芯がマグマになってしまったかのようだ。
(お、お願いミル……!! く、くふ……っ!! み、みみの裏は反則……み……ミル……)
ラテの攻撃は、止まる事を知らない。
少しずつ早くなってきているようにも感じる。
「ペロペロ……」
(も……もうダメ、ミルゥ……!!)
数秒後、ついに、ミルクの我慢が決壊した。
「ふ、ふくくくく!! く、くすぐったいミルッ!!」
体を捩り、耳を捻り、くすぐったさから逃れる。堪えていた笑いが、一気に口から噴出した。耳を丸め、目から涙を流しながら、ミルクは笑い転げた。
そこでミルクは気がついた。
ここは、少女の手の上だ。
恐る恐る顔を上げると、栗毛型の少女が、目を丸くしながらこちらを見ていた。
「あ……」
「ミル……」
少女が、凄まじい悲鳴をあげる。
「ウ、ウゴイタァァァァ!!?」
「ミル──────ッ!!?」
「シャ、シャベッタアアアァァァァ!!?」
「ミル──────ッ!?」
ひたすらに悲鳴をあげる2人。
長い、長い悲鳴が渋谷の夜にこだまする。街ゆく人々が、振り返っている。
「ってしつこいミル!」
ミルクは、真白い大きな耳でひなたのほっぺをぶっ叩く。
正体がバレてしまったら、する事は一つ。超高速の撤退だ。
私は駆け出す。アテなど無い。とにかく逃げ惑うのみだ。その様子を見て、ピンクブラウンの髪の少女が頷いた。
「やっぱり、この子、のぞみちゃんが言ってた……」
カグヤのコンサートが始まるまで、あと2時間と数分。
それぞれの思惑を胸に、少女達は動き出していた。
私が本格的にプリキュアの二次創作を書き始めたのは、ハグプリ×ジオウの二次創作からでした。件のくくれ氏に、どうしても本作の執筆をお願いしたいと頼まれ、観始めたのがきっかけとなります。
私の専門はガンダムやライダーのため、当初はプリキュアシリーズを女児向けアニメと馬鹿にしている節がありました。ですが、実際に作品を視聴すると、その物語構成の緻密さ、分かりやすいストーリーの中に込められた温かなテーマに驚かされました。
現状私が観ているのは、ハグプリ、プリキュア5シリーズ、ヒーリングっどの4本ですが、他のシリーズも制覇したいものです。
一番思い出に残っているのは……やはり、ヒーリングっどですかね。サウザーとコラボらせたのが懐かしいです。