ゆめのまちanother『くるみのゆめアール大作戦』 作:TAMZET
猫とか犬とかになると、野生のを捕まえるのは不可能に近いと思います。私の1番の自慢は、3歳の時、公園の鳩を捕まえた事です。
夕陽もビルの端にかかる夕闇の時間帯。
のぞみ達は渋谷のハチ公前に集まっていた。うららからの情報で、カグヤのスピーチを待ち伏せていたのである。
集合時間に間に合っていたのはかれんとこまち。
少し遅れて、紙袋を手にしたうららが現れた。
「ごめんなさい! タワレコで新曲コーナーを眺めてたら、いつのまにか時間過ぎちゃってました……」
「うらら、時間には気をつけなさいよ」
「ごめんなさい……」
「でも、分かるわその気持ち。私も古本屋でかれんに急かされちゃって」
そして、さらに20分ほど遅れて、疲れ果てた表情のりんが、眠りこけたのぞみを背負って現れた。
りんは全身に、疲れをまとっているかのようだった。一挙一動がぎこちない。
「うーん……パンケーキ……パンケーキ探偵……」
「ご、ごめんなさい……のぞみが、どうしても起きなくて……」
「気にしなくていいわ。ライブまでは、まだ結構あるみたいだから」
かれんの一言に、りんはくたっと石椅子の上に崩れ落ちた。ずれ落ちるのぞみの身体は、こまちが抱き止める。
その衝撃で、のぞみの目が開いた。眠い目を擦り、少しずつ覚醒してゆく。
「ふぁれ? わたし、ねちゃってた?」
「寝ちゃってたも何も……」
りんのこめかみに、青筋が浮かぶ。
予想される衝撃に、うららは、さっとこまちの後ろに隠れる。
「大爆睡よ! 何度起こしても起きないし! 私がどれだけ苦労した事か!」
「ふぇ!?」
「女の子一人担いで、原宿から渋谷まで歩いたのよ! 何で東京まで来てこんな事しなきゃいけないの!? 下手な部活の朝練よりキツいっての!」
「わわわ!? りんちゃんほんとごめんっ! かれんさんもこまちさんも、うららも、くるみも……?」
そこで、のぞみは言葉を切る。
「くるみは?」
互いが互いを見合う5人。
皆、キョロキョロと忙しなく互いの目を見合っている。
「くるみって、誰と一緒に回ってたっけ?」
「私、かれんさんやこまちさんと一緒だと思ってました」
「私は、うららと一緒に探してたと思っていたけど……」
「私は、かれんさん達と一緒に探していると思ってました。あれ、というか、これ、もしかしてくるみさん……」
うららの顔色が青ざめてゆく。続いて、りんがぎこちない動きで、口を開いた。
「く、くるみって、スマホ持ってたっけ?」
「「あっ!!?」」
のぞみとこまちが声を上げる。全員が、事の重大さに気がついたのだ。
凍りついた空気の中で、かれんが、震えた声で話し出す。
「し、心配しなくても、公衆電話もあるし。困ったら、電話をかけてくるでしょ?」
「……くるみって、私達の電話番号知ってると思う?」
「流石に知ってるんじゃないですか? 私は、電話で話した事ないですけど……」
「私も……というか、もしかして、くるみってまともに電話使った事無いんじゃ……」
皆の表情から、音速で余裕が消えてゆく。
それを払拭するように、りんが無理に明るい声を出した。
「そうだ! ミルクにはミルキィノートがあったじゃない! もし道に迷っても、私達のキュアモに通信してくるから……」
「そ、それ今私が持ってる。 ナッツがナッツハウスに忘れていったから、急いでカバンに入れてきたの忘れてて……」
のぞみの、この発言が決定打となった。
ハチ公も驚く大パニックの嵐が、5人の中に吹き荒れた。
「これ迷子になってるやつだ──っ!!?」
「何でのぞみさん、今日に限ってミルキィノート持ってるんですか!!?」
「だって、ナッツの忘れ物だと思ったから!!」
「だったら、ナッツに渡しておけばよかったのよ! ワンチャン、ホテル帰ってるかも!! ココとナッツは!?」
「こまちさん! ホテルに電話して電話!!」
「う、うんっ!!」
問題が問題を呼び、事態は加速してゆく。
周りの人達が見ているのも構わず、5人は慌てふためくばかりだ。
「ナッツさんと連絡取れたわ。もうホテルに着いてるって」
「ミルクはいなかったの!?」
「まだ着いていないみたい。これから、2人も探しに来てくれるって」
「私達も探そう! かれんさんこまちさんは、近くの交番に落とし物が届いてないか確認して下さい!」
「分かったわ!」
「交番ね!」
こまちとかれんが駆け出す。続けて、りんはうららをビシッと指さす。
「うらら! 今から私が似顔絵描くから、それをSNSで公開してくれない?」
「えっ!? い、いいですけど……何でですか?」
りん、いたずらっ子の顔。ニヤリと笑い、うららにピンクのマークが記されたアプリを見せる。
「それ、キュアスタじゃないですか」
「うらら、フォロワー多かったよね? みんなの力を借りて、ミルクを見つけるの!」
「……なぁるほど! やってみますっ!」
りん、速攻で似顔絵を書き出す。デッサンで鍛え続けた速記力、凄まじい速さで、ミルクの似顔絵が完成されてゆく。
うららは、これまた凄まじい速さで文章を打っていた。
そんな中、のぞみはとある人物に連絡を取っていた。通信アプリの名前欄には、花寺のどかの名前が記されている。
『のどかちゃん! こんなの、見なかった!?』
のどかとのトーク欄に、ミルクの写真が貼り付けられる。真っ白なミルクが、チョコを食べている写真だ。
『すばしっこくて、しゃべるウサギで、ミルクって言うんだけど』
既読のマークは、すぐについた。
しばらくして、返事が来る。
『この子の事?』
写真には、ひなたの腕の中で暴れるミルクの姿。足は黒く汚れ、所々毛並みが乱れている。
のぞみの頬が、希望に緩んだ。
『その子! のどかちゃんすごい!』
『でも、ごめんね……逃げられちゃった。今、友達とみんなで追いかけてる。渋谷駅の方に行ったと思うんだけど……』
のぞみの表情が、キラリと輝いた。
渋谷駅構内でも、騒ぎが起きていた。
ちゆとひなたが、渋谷駅構内でミルクを追いかけているのだ。ミルクも、小さいながらも全力で足を動かし、二人から逃げている。
「こらー! 待てー! そこの白ウサギ!」
「私達はあなたの敵じゃないわ。飼い主さんの所に帰りましょう?」
「敵はみんなそういうミル!! それに、ミルクはペットウサギじゃないミル!! 失礼しちゃうミル!」
「は、話を聞くペエ」
ちゆとひなたの服の中から顔を出すペギタンとニャトラン。周りの人には聞こえなさそうな声で、ミルクへと呼びかける。
「喋れるって事は、ヒーリングアニマルなんだろ!? なんかあるなら、相談乗るからよ!」
「飼い主さんが悪い人なら、ヒーリングガーデンへの帰り方も教えてあげるペエ!」
「ヒーリングアニマルって何ミル!? キュアローズガーデンならともかく、ヒーリングガーデンなんて知らないミル!!」
8番出口付近を抜け、メトロの改札口へと駆けるミルク。だが、そこには、あすみとラテが待ち構えていていた。
「アン! アン!」
ラテを前に、少し減速するミルク。
だが、進路は変えられない。
ラテのティアラとミルクの額が、思い切り激突する。ラテの体幹は想像以上であり、ミルクは尻餅をついた。
「アン!」
「いたたミル……ワンちゃんに関しては最初っからなーに言ってるか分からないミル! 言いたい事があるなら、日本語で言って欲しいミル!!」
「アン!?」
ラテはミルクの言葉に腹を立てたのか、毛を逆立て、威嚇を始めた。
「ウウウウ!」
「や、やる気ミル!? かかってこいミル!!」
「ラテ! 頑張ってください!」
「……いや、アスミ、止めてあげて?」
ちゆのツッコミも、アスミには届かない。
ミルクは、ラテを相手にファイティングポーズを取る。短い腕でのジャブによる連続攻撃だ。ジャブの間合いに飛び込めず、ジリジリと後退するラテ。
見かねたペギタンとニャトランが、間に割り込んだ。
ペギタンは、サングラスのちょいワルスタイルだ。ニャトランは、ブルース・リーのクンフーポーズを取っている。
「ちゆとボクササイズで鍛えた格闘術、見せてやるペエ」
「ヒーリングガーデンの虎と恐れられたオレの拳技、とくと味わえっ!」
2匹の短い手足から、矢継ぎ早に技が繰り出される。だが、ミルクも戦士の端くれであった。
ミルクは華麗なフットワークで2人の攻撃を躱し、カウンターのブローをお見舞いする。
拳はニャトランの腹に突き刺さり、その小さな身体を吹き飛ばした。
「ぶっ!? やりやがったな!」
「この子、すっごく強いペエ!」
「ふん! そんなんじゃ、ミルクには勝てないミル!」
素手での攻防を繰り広げる3匹。
そこに、のどかが階段から降りてきた。両手で、何やら長いものを持っている。
人をすり抜け、のどかはちゆ達の元へと辿り着いた。
「ひなたちゃん! 頼まれたもの買って来たよ!」
「ありがと! のどかっち!」
のどかは、持ってきた長物・虫取り網を構える。
100円ショップで買えるような安物だ。
ミルクは、ヒーリングアニマル達に気を取られて気がつかない。
「のどか! 今がチャンスラビ!」
「うんっ!!」
のどかが虫網を振り上げる。
ミルクの頭上に、黒い影ができた。
「これで、どうだっ!!」
「ミッ!?」
ミルクは、ペギタンとニャトランごと網に捕らえられた。すかさず、ペギタンがミルクにタックルをかます。二重の捕獲態勢の元、ミルクは取り押さえられた。
「捕まえたペエ!」
「ひなた、俺ごと捕まえてくれ!!」
「分かった!!」
格闘の末、ひなたがミルクを持ち上げた。
ミルクは耳を振って抵抗するが、ひなたは器用にそれを躱し、ミルクの自由を奪う。
獣医の手伝いで、動物を落ち着かせるのは慣れたものなのだ。
だが、ミルクも負けてはいない。
「捕まって、たまるかミル!!」
ミルクは、思い切りひなたの手に噛みついた。ひなたは悲鳴をあげ、手を振って抵抗する。が、そこは獣医の端くれ、手は離さない。
「
「あいた!! 痛い痛い噛まないで!!」
「のぞみちゃんこっちに来てるから。ね、落ち着いてミルクちゃん」
「
「ぎゃーっ!! 分かった分かった、離すから!!」
ひなたの手の力が緩むのと同時に、ミルクは思い切り身体を捻り、駅の改札を潜って逃げ出した。
改札の上に乗り、ミルクはひなた達を嘲笑う。
「捕まってたまるかミル!! どうせミルクを捕まえて、サーカスにでも売り捌く気ミル!! そこの金髪の子が昼間、ワンちゃんを探してたのも、まさか、そのためミル!?」
「……? 私が、昼間、探してた……ですか?」
アスミは、ミルクの言葉に心当たりがあるのか、少し考え込むような表情を浮かべた。
「もしかして、あの紫の……」
アスミがミルクに声をかけようとした時、のどか達の背後から、駆けてくる人々がいた。
「あーっ!! いたいたーっ!!」
現れたのは、のぞみ達だった。
かれんやうらら、みんな揃っている。
「のぞみーっ!!」
ミルクは泣きそうな顔で、皆の方へと駆け出した。渾身の抱きつきを、のぞみが受け止める。
ミルクはしゃくりあげながら、わんわんと泣いている。
「酷い目に遭ったミル!! 珍獣コレクターに捕まって、アマゾンの奥地に売り飛ばされようとしてたミル!!」
「いや、ミルク、多分それ逆。普通はアマゾンの奥地からこっちに売られて来るの」
りんの言葉も耳に入らないようで、ミルクはのぞみの胸に、ひたすら顔を擦り付けている。
「よかった……ちゃんと帰って来てくれて」
「ミル……」
そんなミルクの様子を見た仲間達の顔にも、安堵の色が浮かんでいた。
そんな中、ひなたが声を上げた。
「あーっ! 春日野うららさん!」
「ひなたさんですね!」
ひなたとうららは、手を繋ぎ、ぴょんぴょんと跳ねて喜んでいる。たしなめようとしたちゆとかれんが、今度は顔を見合わせる。
「あっ! こまちさんに、かれんさん!」
「ちゆさん! ふふ、奇妙な偶然ね」
「沢泉の約束、楽しみにしているわ」
それぞれが再開を喜ぶ中、あすみはミルクにそっと歩み寄った。ミルクは身を硬らせたが、のぞみに撫でられた事で力を抜いた。
アスミが、笑顔で尋ねる。
「あなた、もしかしてあの時の紫の方ですか? ほら、カグヤさんという方を探していた」
「え……あ、うん。そう……」
ミルクはのぞみの腕から飛び降りると、ボワンと煙を出し、美々野くるみに変身した。
身につけている服は煤に塗れ、あちこちが破けている。靴は所々が煤で黒く汚れていた。
「そうよ。私は美々野くるみ。あなた達、よくも散々追いかけ回してくれたわね!」
「うぇえ!? 人になったぁ!?」
ひなたが大声を上げ、それに続くようにヒーリングアニマル組全員が驚愕の表情を浮かべた。
「ヒーリングアニマルでもこんな事ないラビ!」
「珍しい動物……!!」
ひなたが、目を輝かせて写真を撮り始める。それに怯えるくるみは、またのぞみの後ろへと隠れてしまった。
「ありがとう! のどかちゃん! のどかちゃんのおかげで、またこうやってミルクと会えたんだよ」
のぞみは、のどかの手を取り、ブンブンと振った。だが、のどかは目を閉じ、首を振る。
「ううん。私達も捕まえられなかったから……でも、ミルクちゃんがのぞみちゃんの所に戻って来られて、本当に良かった!」
「本当にありがとう! のどかちゃん! ほら、くるみも!」
くるみはそっぽを向いて言うことを聞かない。のぞみはやれやれと言った調子で、のどかに微笑みかける。
「のどかちゃん! このお礼は絶対するから! 約束!」
「う、うん! また会おうね!」
やがて、両陣は別れを惜しみつつも解散した。
その後、彼女達はまた渋谷で会うことになるのだが、そんな事はその時の彼女達には知る由もなかった。
夜も始まったばかりの頃。
のぞみ達は、ココ達と合流するために、渋谷の街並みを歩いていた。問題が解決した事で、二人を除き、皆は笑顔で談笑している。
当の2人はと言えば、完全に対象的であった。
くるみは眉をこれでもかと言うほどに顰め、早足で歩き続けている。それを、のぞみが同じく早足で追い、必死に謝っている。
「本っ当信じらんない! まさか、ミルキィノートを持ってたのがあなただったなんてね!」
「くるみぃ……お願いだから機嫌なおして! ね!」
「絶対許さないから!! 一生そうやって謝ってればいいじゃない!」
のぞみは、ひたすらに謝り続けている。くるみはそれに一切答える事なく、振り返ることなく雰囲気だけで威圧していた。
くるみを嗜めようとしたりんも、その視線の圧に負け、おずおずと仲間達の元へと戻っていった。
「……どうして向かえに来てくれなかったのよ」
「え!? だ、だって、場所分かんなかったし……」
「どうにかして分かりなさいよ!」
「えー!?」
滅茶苦茶である。
くるみはそう吐き捨てるや、ぷいとそっぽを向き、さらに早足で歩き出した。
「ごめんってばぁー! ね? ほら、くるみ! ほら、チョコ買いに行こ!」
「そんな事で釣られるわけないでしょ!? どれだけ謝っても、許してあげないんだから!」
のぞみがくるみに謝っている間、残り4人はお土産の相談を始めていた。
話に入らないのではなく、誰もくるみを止められないが正しいのである。
「コ、ココとナッツもそろそろ来るみたいですし、お土産にシュークリームも買って行きません?」
「うらら! ナ、ナイスアイデア!」
「そういえば、近くにいろんなお菓子を売ってるお店があるの。私が羊羹作りの参考にしてるお店で、セレブ堂って言うんだけど……」
「じゃあ、そこに行きましょう?」
かれんの言葉に、こまちは少し困っ顔になってしまう。それに気がついたりんが、首を傾げる。
「こまちさん?」
「あのね……少し言いにくいんだけど、そこのお店、私たちのお小遣いだと……」
かれんは、すまし顔で財布からカードを取り出した。見たこともないような黒いカードである。呆然とするこまちに、かれんは優雅に笑んだ。
「心配しないで。お金なら、無限にあるから」
「わーお、さっすがかれんさん。カードが真っ黒!」
「ふふ、これなら心配ないわよね」
4人は、ウキウキでセレブ堂の方向へ歩き出す。
のぞみも、追いつこうと早足で歩き出した。だが、くるみがついてこない。
「くるみ?」
「……っ!」
くるみは、その場でうつむき、立ちすくんでいた。両手はこれでもかと言うほどに、硬く握られている。
「……ごめんね」
その様子に、のぞみも立ち止まり暗い顔になる。くるみが、わずかに顔を上げた。
「……さない」
くるみは大股でのぞみの元へと歩き出すと、物凄い速さで片手を取った。のぞみが片目瞑るくらい、ぎゅっと握りしめる。
「く、くるみ?」
「今だけ。離したら、許さないから」
くるみは口をへの字に曲げ、そのまま大股で歩き出した。のぞみは引っ張られるように歩き出す。歩く中で、のぞみは優しく、くるみの手を手を握り返した。
「一緒にお買い物しよっ!」
「……ん」
くるみは、声にならない声と共にそっぽを向く。その口元は僅かに緩んでいた。
これにて、第一部終了です。
ここまでは、東京で色々やってるプリキュア5勢の日常を描いてきました。共同制作時代は本来ここまでは1話くらいですっ飛ばすつもりだったのですが、私が無理やり引き伸ばしました。
プリキュアの良さって多分日常シーンにあると思うんです。それこそ、敵なんて出てこなくてもいいってくらいに日常シーンが完成されてるんですよね。だから、この辺りはしっかり書きたかったです。
第二部からは、ミルクの悩みや新たな敵の登場について書きます。
お楽しみに。