ゆめのまちanother『くるみのゆめアール大作戦』   作:TAMZET

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がんばってます。


第八話『マネマネ襲撃』

昼下がり……朝のくるみ達の喧騒などまるで知らぬと言った顔で、ホテルの一室でカーテンが静かに揺れている。

部屋の電気は消えており、割れた窓の隙間から差し込む陽光だけが部屋の中を照らしている。

ベッドの上には、紫の寝巻きのまま眠りこける少女の姿があった。

小さな身体のあちこちには、生々しい傷跡が無数に刻まれている。打撲痕……擦過傷……裂傷……その種類は様々だ。一部は絆創膏や包帯で手当てされているが、そうでない部分がいっそう目を引く。

泥のように眠る彼女。

そんな彼女の元に、歩み寄る影があった。

 

「おい、しっかりしろよ」

 

影はくるみの肩をたたく。少し尖った、声変わり前の少年の声だ。

くるみは死んだように動かない。

影はさらに強く彼女の体を揺する。

 

「おいってば!」

 

瞬間、くるみがカッと目を開けた。

 

「っ!!?ドリームッ!!アクアッ!!」

 

静かだった部屋の空気を突如として切り裂いた彼女の叫び……突然の挙動に、影はたじろぎを見せた。

その身体が、陽光の元に晒される。

影の正体は、プリキュア5の仲間、シロップであった。

 

「みんな……」

 

くるみは傷だらけの両腕をゆっくりと動かし、上体を起こした。

シロップの姿に、くるみは目を丸くする。

それもそのはず、彼は今、キュアローズガーデンにいるはずなのだ。

 

「シロップ?あなた、どうして……」

「まだ寝ぼけてんのか?まぁ、あんな目に遭ったばかりだし、仕方ないとは思うけどよ」

 

シロップは、優しく笑う。

その笑みに隠された影に、くるみの胸が締め付けられる。

自分は何か、大事な事を忘れているのではないか。

ズキズキと鈍く痛む頭をさすりながら、くるみは記憶の中は手を伸ばす。

液状化した鉛の海の中に潜るように……鈍い痛みが記憶を阻害する……

 

「そうだ、私……ココ様とナッツ様を追いかけて……」

 

記憶の中にある光の中へ、くるみの意識は入っていった。

時は戻り、数時間前……

 


 

そう、私達はココ様とナッツ様を攫ったエゴエゴを捕まえた。そこでエゴエゴの……我修院サレナ博士の目的を知ったドリームは、自分もカグヤちゃんを助けるのに協力したいと言い出した。

ドリームらしい、突飛な発想だ。

私達の持つ夢の力の抽出には、時間がかかる。

私達は試験管の中に入って、夢の力の抽出を待っていた。

そう、そのまま全ては終わるはずだった。

 

昏い視界の中で、私……美々野くるみは意識を取り戻した。

 

「ふむ、このミルキィローズというのだけは夢の抽出が遅れているな。何故だ?夢だけ見るなら、他のプリキュアよりも大きいはず……」

 

混濁した意識の中で、誰かが喋っているのが分かる。

この声は、博士の声だ。

他の皆はもう眠っているのだろうか。分からない。

 

「おはよう、キュアドリーム。協力、感謝する」

「カグヤちゃんの、お母さん、ですよね」

 

博士の声に答えたのは、聞き慣れたドリームの声だ。

どうしてだろう、近くで聴こえているのは間違い無いのに、どこか遠から聞こえるように、変に反響している。

博士は数秒の沈黙の後、答えた。

 

「そうだ。短時間の睡眠であれば、記憶の混濁は少ないようだな。これもまた、一つのデータとして参考にさせてもらおう」

 

カチカチと機械の音が聞こえる。博士が計器をいじっているのだろうか。視界が効かない中でこんな音が聞こえるのは少し怖い。

 

「私達の夢があれば、東京の人達の夢は、全部返してもらえるん……ですよね?」

「……あぁ、約束しよう」

 

サレナの声は、明らかに何かを隠していた。

彼女に対する不信の種が、私の胸の中で芽を出す。

ドリームはそんな私の心も知らず、能天気に笑う。

まったく、少しは疑う心を覚えればいいのに。

 

「しかし驚いたよ。もう少し抵抗するものだと思っていたが」

「カグヤちゃんのためだもん。それに、私、サレナさんの事……信じてるから」

「どうして信じられる?プリキュアは、人の心も読めるのか?」

「ううん。でも、サレナさんがカグヤちゃんの事を大事にしてるって事は、分かる」

「……」

 

沈黙するサレナに、ドリームは「えへへ」と笑いかける。どんな顔をしているのか、大体想像できるのが悔しい。

 

「サレナさん、カグヤちゃんの話してる時、本当に悲しそうな顔するんだもん。本当にカグヤちゃんの事がどうでもいいなら、そんな顔なんてできない」

「ふふ、まるで超能力者だね。いや、心理学者とでも言うべきか」

「ううん。私は、なんとなく分かるだけ。サレナさんの気持ちも、カグヤちゃんの想いも」

「天性のセンスだね。羨ましいよ」

 

サレナの声色が、若干明るくなったように感じられた。

ドリームに対して僅かながらも心を開いたという事なのだろう。

長い間付き合ってきて、やはり感じるもの。ドリームには、人の心を緩ませる魔力がある。私やかれん達には無い、彼女独自の才能だ。

 

「お願いサレナさん。約束、守ってね」

「あぁ……可能な限り守ろう」

「サレナさん……?」

「だが、私は、カグヤのためなら……何でもする。だが、もしお前達の夢が、あの花を咲かせるのに足りない時は……」

 

瞬間、サレナの言葉を切り裂くように、けたたましい警報音が鳴り響いた。混濁していた私の意識が、水面へと引き上げられる。

 

「これ、なんですか!?」

「どうしたというのだ!」

 

狼狽えるサレナの声に重なり、小動物の足音が聞こえる。

うっすらと目を開けると、試験管のガラス越しに、小型のエゴエゴがサレナに報告を行なっているのが見えた。

 

「屋敷に侵入者!見た目、エゴエゴに似てる!でも、エゴエゴじゃない!」

「何……?どういう事だ!!」

 

瞬間、私の視界に黒いものが映る。影は、音もなく博士の後ろに忍び寄ると、その巨大な鉤爪を振り上げた。

 

「こういう事ですよ、我修院博士」

「ッ!?」

「サレナさん危ない!!」

 

くぐもったドリームの叫びが、サレナを動かした。

影の斬撃を反射的に攻撃を避けたサレナだが、影は続け様に体当たりを繰り出した。その素早い挙動に、サレナも対応しきれない。

彼女は研究室の壁に身体をぶつけ、目を閉じた。

影の正体は、エゴエゴにも似た真っ黒い狐の化け物だった。

真っ赤な四つの瞳を爛々と輝かせ、化け物は私達のいる試験管の方へとやってくる。

 

「これはこれは、お久しぶりですね、プリキュアの皆さん。私の、ナイトメアの憎き仇」

「ナイトメア……?あなた、誰なの?」

「これはこれは、申し遅れました。私はマネマネ。絶望より生まれ、憎きプリキュアを誅する者です」

 

マネマネを名乗る化け物は、ドリームのいる試験管目掛けて、その巨大な鉤爪を振り上げた。

瞬間、カチッと音がした。

サレナが、操作パネルのスイッチを押したのだ。

 

「夢供給システム、緊急停止!!プリキュア、各員を地上に射出する!」

 

サレナがそう叫んだかと思うと、私は身体に凄まじい衝撃を感じた。

覚醒しきらない意識のまま横を見ると、ドリーム達の入る試験管が次々と上の階へ飛び上がってゆく。

 

「ここまで来たんだ……邪魔されてたまるか!」

 

サレナは、背にいるエゴエゴに手招きする。

 

「お前は私の夢を使え!」

「いいのか?博士、動けなくなる」

「蕾は後で返せばいい。プリキュアを守り、必ずカグヤを甦らせるんだ!」

 

エゴエゴ、不満げに頷いた。

 

「エゴエゴ、了解」

 

博士の身体から夢を取るエゴエゴ。

私が見ることができたのは、そこまでだった。

視界が暗転し、凄まじい衝撃が全身にかかる。

息ができない苦しみは一瞬で……すぐに、光が眼前に広がった。

 


 

気がつくと、目の前には和室が広がっていた。

辺りを見回すと、和室には場違いな巨大な試験管が6本聳えており、そこにはまだ仲間達が眠っていた。

ふと、試験管の扉が開き、私達は地面に投げ出された。

 

「ぎゃふん!」

 

ドリームが情けない悲鳴をあげる。

ドリーム以外はまだ眠っているようだ。

皆を起こさなければ……走り出した私を遮るように、黒い影が柱の影から飛び出した。先程博士を襲ってきた怪物、マネマネだ。

 

「こんな所にいたんですねぇ。探しましたよぉ!」

 

「あなたなんかに、サレナさんの邪魔はさせない!!」

「そうですか。しかし、寝起きのあなたの力で止められますかねぇ?」

 

マネマネは高速移動し、ドリームに爪を振り上げる。

だが、マネマネの攻撃はドリームに命中する事は無かった。

当然、いつまでも寝ていられるわけがないのだ。

 

「この私を忘れてないかしら?マネマネさん」

「あなたは……」

「ミルキィローズ!」

 

私はドリームを背に、マネマネへと立ち向かった。

段々と思い出してくる。

そう、私はここで……マネマネに……




がんばります。
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