ゆめのまちanother『くるみのゆめアール大作戦』 作:TAMZET
マネマネの戦いが始まってすぐ、私達はコンビネーションを駆使して、奴を追い詰めた。エゴエゴの時のような分身能力を警戒したが、そんなものを使ってくるような様子は無く、奴の攻めは消極的だった。
戦闘能力は高くないようで、私一人でも相手ができるくらいに思えた。だが、油断も束の間、マネマネの黒い爪が、私の頭上へと迫る。
両腕を交差させ、防御の姿勢を取る。だが、その爪撃は、背後から飛んできた水の矢によって弾かれた。アクアのサファイアアローだ。
「アクア、ありがとっ!!」
「ローズ! 一緒に決めましょう!」
「うんっ!!」
私はミルキィミラーを構える。マネマネが怯んでいる今がチャンスだ。アクアも私の横に並び、サファイアアローを構えてくれた。
「「【アクアローズ・ブリザードアロー】!」」
気合一閃、鉄の薔薇がミルキィミラーから放たれた。
アクアの放った水の矢と薔薇が融合し、鋭い銀色の矢へと成る。
水の速度に、鉄の硬度。空を裂く必殺の一撃は深々とマネマネに突き刺さり、その黒い身体を深々と穿った。
「グアアアアッ!?」
マネマネは悲鳴をあげ、パンと風船が破裂するように消えた。
まるで何も無かったように、屋敷には静寂が戻ってくる。
だが、何故だろう。私は全く気が抜けなかった。敵は倒したはずなのに、身体にまとわりつく黒い気配が消えないのだ。
「あれ、プリキュア、侵入者倒した?」
やったきたのは、白衣を纏ったエゴエゴだった。
博士の夢を手に入れ、力を得たという事なのだろう。
「あら、助けに来てくれたのかしら。意外といい所あるじゃない」
「勘違いするな、これ、博士の命令。エゴエゴ、お前たちの事、きら……」
瞬間、衝撃がエゴエゴの背に直撃した。
不意の一撃に、エゴエゴの胸の内の蕾が畳に落ちる。
「まずい! エゴエゴ、博士の蕾を無くすわけには行かない!」
エゴエゴは蕾を大事そうに抱え、凄まじい速さでどこかへと身を隠した。
私はその光景を、ただ見ているしか無かった。否、反応できなかったのだ。あまりにあり得ない事が、眼前で起きていたからだ。
背後からエゴエゴを襲った攻撃。
それは、エメラルドソーサーによる、奇襲だった。
皆が振り返ると、そこには、エメラルドソーサーを両手に展開したキュアミントの姿があった。
「ミント!? 何やって……」
「ドリーム? ミントなら私達と一緒にいる、じゃない……?」
そう、私の背後にミントはいる。
さっきまで一緒に戦っていたはずだ。
それが何故、目の前に現れているのか。
「ミント、あなた双子の姉妹……いないわよね」
「双子は……いないわ」
硬直する私達の目の前で、もう1人のミントはその姿をぐにゃりと歪ませた。さながら、真夏に見る蜃気楼の如く、周りの景色が歪むように、彼女はその姿を変えた。
「マネマネ、マネマネ成功」
そこにいたのは、あの黒毛の怪物であった。
怪物疲労の気配は感じられない。先程の戦闘など、まるで無かったとでも言わんばかり様態である。
「うそ!? アイツ、さっき倒したばっかりなのに!」
「アレは私の分身です。夢の蕾1つにつき、1体に作り出す事ができます。本体の私と比べて、弱いのが玉にキズですが」
動揺するルージュを、マネマネはクスクスと嘲笑う。
獣の外見をしているというのに、両腕は真っ直ぐ腿のあたりにつけられ、口元は嫌にニヤついている。
その見覚えのある仕草に、私は背中を冷たい汗が伝うのを感じた。
「あなた、何者なの!?」
ドリームの問いに、マネマネは深々と腰を折る。
「改めて自己紹介をば。私はマネマネ。自由意志を持つエゴエゴのコピーです。私が盗んだのは、変装の名人の夢。だから、私は変装や分身が得意なのです!」
「今度は怪人二十面相が相手って事ですね!」
「私に化けてみんなを騙すなんて……許せない!」
怒りのままに、ミントが跳躍した。両拳には、小規模のエメラルドソーサーが展開されている。狙うは拳による先制攻撃。最短距離を最速で詰める、突撃である。
レモネードもプリズムチェーンを手に続く。マネマネはそこに立ったまま、巨大な尻尾で身体を覆い隠し、2人の攻撃を阻んだ。
「相変わらず、一人一人の攻撃は単調ですねぇ」
マネマネは尻尾を鞭の如くしならせ、2人を跳ね飛ばした。
ガラ空きになるマネマネのガード……アクアとルージュは、それを見逃さなかった。
「【プリキュア・ファイアーストライク】!」
「【プリキュア・サファイアアロー】!」
水流の矢と大火球、どちらも直撃すれば大ダメージは必至である。
躱すには、迅すぎる。防ぐには、強大すぎる。
だが、マネマネはそのどちらもを選ばなかった。マネマネは第二の尻尾を出現させると、その尻尾に二つの技を巻き付け、絡め取ったのだ。
「なっ!?」
「ミント! エメラルドソーサーを!!」
マネマネは二つの技を帯びた尻尾をぶつけると、いとも簡単に相殺して見せた。
アクアの驚きも、当然である。
自分達の技の威力は、自分達が一番知っている。
おいそれと弾き返せるような技では無い。
「なんなの……この敵……」
今までとは別次元の強さに、ドリームの声も震えている。ミルキィローズには、その気持ちがよく分かった。自分も同じだったからだ。頭の奥の思い出から、怪物が這い上がってきたような、そんな感覚だ。
ローズはドリームの手を、ぎゅっと握った。
彼女達の胸中を知ってか知らずか、怪物がにやりと笑む。
「お久しぶりですね、プリキュア5。エゴエゴには感謝しなければなりませんね。こうして、あなた達に復讐する機会を与えてくれたのですから!」
言うや否や、マネマネは両腕を広げ、突撃してきた。ドリームは腕をクロスさせて受け止める。マネマネの繰り出す体術に、ドリームもまた体術で応戦した。撃ち合う2人。双方の格闘力は互角のようだ。
「あなた、何者!?」
「私の名はマネマネ。それ以上の事はご想像にお任せします。しかし、ただ一つ明らかな事は……」
撃ち合いの狭間、マネマネの姿がぐにゃりと歪んだ。
現れたのは、キュアミントの姿。凄まじく精巧な擬態である。
「ミント……!? いや、違う!!」
ドリームの動きが一瞬止まるのを、マネマネは見逃さない。
間髪入れず、真っ黒な膝がドリームの脇腹に突き刺さった。
彼女の表情が、苦悶に歪む。
「う……っ!?」
「あなた達はこれから、私によって絶望の底に突き落とされるのです!」
嵐のように押し寄せるマネマネの猛攻を、ドリームは必死に凌ぐ。
マネマネを止めるべく、ルージュとアクアが跳んだ。
しかし、マネマネは尻尾の一つを彼女達へと向け、2人の攻撃を受け止めた。尻尾の先には、翡翠色の盾が展開されていた。
「これ、私のエメラルドソーサー!?」
「あなた達の攻撃はもう覚えました! 行きなさい、私の分身達よ!!」
マネマネの号令と共に、どこに隠れていたのか、黒いマネマネの分身達が一斉にプリキュア達へと襲いかかる。その数は10体では効かない。
「みんな!? ……うッ!」
皆の元へと駆け寄ろうとするドリームは、苦悶に表情を歪め膝をついた。マネマネの攻撃が響いているのだろう……それほどまでに、強敵という事なのだ。
ドリームを支えてあげたい。思いを拳に乗せ、ローズは分身達を蹴散らしてゆく。
戦局が一変したのは、そんな時だった。
3体の分身達が、レモネードへと襲いかかったのだ。
「プリキュア・プリズムチェーン!」
プリズムチェーンで分身をまとめて絡め取るレモネード。3体の分身はその力に負け、あえなく塵となった。
だが、その隙を突きマネマネが背後に回っていた。
「わっ!?」
「1人目、手に入れましたよ!」
「レモネード、危ない!」
ルージュの叫びも虚しく、レモネードの胸にマネマネの腕が突き刺さった。その手の中には、輝く夢の蕾が握られていた。
「レモネード!!」
ローズは叫ぶのと同時に駆け出していた。
夢の蕾が取られたら……昨夜、夢を取られたダンサーさんを見ていれば想像がつく。仲間が目を覚さなくなる……そんな姿は想像したくない。
「さて、彼女の夢を食べてしまいましょうか」
「させるわけないでしょッ!」
ローズの鋭い蹴りが、マネマネの腕へ向けて放たれる。
だが、それはマネマネの尻尾に展開されたエメラルドソーサーに防がれる。ローズは悔しさに顔を歪めなおも攻撃を続けるが、敵はまったく動じる事なく、レモネードの夢の蕾を己の口に放り込んだ。
レモネードの身体が、ゆっくりとその場に崩れ落ちる。
「あっけないものですね! あれだけ夢の力を頼りにしていたあなた達が、夢の蕾を奪われてしまうなんて! クックック!」
「レモネード!!」
「絶対……許さないんだから!」
嘲笑を続けるマネマネに、ドリームが突撃した。拳を引いた、空手で言う正拳中段付きの構えである。
エメラルドソーサーの合間を突き抜け、拳が迫る!
だが、その一撃はまたもや何者かに防がれた。
一撃を防いだのは、先ほどの分身の内の一体だった。おかしいのは、その身体が黄色に染まっている事である。
ドリームは分身へと連続攻撃をかけようと、拳を構え直した。
だが、なぜだろうか。ローズはその分身に、妙な違和感を覚えていた。
「(なんで……何でこんなに、寒いんだろう? 心の奥を、誰かに撫で回されてるような……)」
ローズの思いをよそに、黄色いマネマネコピーがドリームへと反撃する。その手には、光の鎖ムチ、プリズムチェーンが握られていた。
「マネマネ・プリズムチェーン!」
プリズムチェーンは蛇の如く空中を這い、ドリームへと伸びる。ドリームは素早い動作でそれらを躱してゆく。
その表情には、明らかな混乱の色が見て取れた。
それは、プリキュア達も同じであった。
「これ、レモネードのプリズムチェーンよね!?」
「捕まえた相手の力を使える……そういえば、そういう能力だったっけ!」
ドリームを援護しようと、ルージュが駆け出す。瞬間、プリズムチェーンの先端が彼女の方を向いた。
「なっ!?」
不意打ちであった。黄色の蛇が、左右から彼女を絡め取る。ルージュは全身をプリズムチェーンに拘束されてしまった。
身を捩り、抜け出そうとするルージュ。だが、拘束力が強く抵抗することすらままならない。
ローズの脳裏を、レモネードの姿がよぎった。夢の蕾を抜き取られたレモネードは、動けなくなってしまった。もしルージュもそんな事になったら。考えるより早く、身体が動いていた。
ルージュの元へと忍び寄るマネマネの頭部に膝を打ち込む。マネマネは呻き声をあげて仰け反った。生まれた隙を突き、続けてプリズムチェーンへと手刀を叩き込む。鋭い一撃が、チェーンを断ち切った。
「ありがと、ミルキィローズ!」
「ルージュまでやられたらって考えたら、勝手に身体が動いてたわ。レモネードは私が助ける。大切な仲間に、これ以上好き勝手させない!」
気合一閃、ローズは黄色いマネマネコピーへと飛びかかった。素早い動きで肘を顔面に打ち込み、続けてガラ空きの頭部へと頭突きをかます。
黄色いマネマネは、頭を押さえて蹲った。
「ココ様もナッツ様も私が助けるんだから!」
呼吸を整え、黒マネマネを探すローズ。辺りに敵の姿は無い。
目を閉じ、気配を探る……獣のような息遣いは、確かに近くでする。右……違う。左……違う。前……近い……否、後ろ!
気がついた時には、既にマネマネは彼女の後ろに回っていた。
「しまった!」
夢の蕾、やられる、戦えなくなる、レモネードと同じ。
複数の言葉が、一瞬で思考の中を駆け巡る。
ローズは反射的に両腕を交差させ、防御の構えを取った。
だが、それを予想していたのだろう、マネマネは複数の尻尾を彼女の背中へと回し、身体を拘束しようとした。
「これで二つ目!」
「危ない! ミルキィローズ!」
ローズの身体を、鈍い衝撃が襲った。それは、胸を貫かれる感覚ではなく、何かがぶつかる感覚。思わぬ衝撃に、体勢が崩れる。
薄れる視界。慌てて立ち上がろうとするローズは、眼前に広がる光景に声をあげそうになった。
「ごめん、ローズ……あと、頼んだよ……」
胸から紫の残滓を流し、ルージュの身体が崩れ落ちる。
明らかに意思を失った身体……ローズはそこでやっと、ルージュが自分を庇い、夢の蕾を奪われた事を知った。
「ルージュ……?」
胸が締め付けられる感覚、それを喪失感と知るには、ローズはまだ若すぎた。彼女の理解を待つ暇も無く、赤いマネマネがローズへと襲いかかる。
「ローズ! 危ないッ!」
「しっかりしなさい! ルージュとレモネードの夢の蕾を取り返すわよ!」
「う、うん!」
「アクア、ローズは私の後に続いて。エメラルドソーサーで道を切り開くわ!」
言うや否や、ミントがマネマネへと突撃した。分身達の波状攻撃を、ミントは小盾エメラルドソーサーで受け流す。
マネマネはドリームの攻撃を捌きながら、ミントの突撃を待ち構える。
だが、ローズはその顔に嫌な笑みが張り付いているのに気がついた。
(罠を張っている……でも、どこに?)
辺りを見回すローズは、ふとある事に気がついた。黄色のマネマネが、少し離れた所で腰を低く構えていたのだ。
その手には……
「ミント! レモネードマネマネが何かしようとしてる!」
「そうなの……ッ!?」
ミントの反応が一瞬遅れた。プリズムチェーンが、その体を縛りつけようと唸る。彼女を助けようとアクアとローズが速度を上げる。だが、2人の前に黒いマネマネが立ち塞がった。
「いけませんねぇ! 邪魔をしては!」
黒いマネマネが、ローズの胸元に手を伸ばす。
鋭い痛みが胸に走ると共に、凄まじい嫌悪感が足先から頭までを駆け抜けた。体から力が抜けてゆくような……そんな感覚だ。
薄れゆく視界の中で、マネマネがほくそ笑んでいる。
抵抗を試みようと手を伸ばした……瞬間、マネマネを水流の矢が襲った。アクアのサファイアアローである。
「あ、ありがと。アクア」
「間に合ってよかった! ローズ、しっかりね!」
アクアの笑顔に、ローズは心の震えが止まるのを感じた。
いつもそうだ、アクアの側にいると安心する。いつも大事な時には、守ってくれると分かっているから。
ローズはアクアと並び立ち、黒マネマネを睨みつける。
「アンタには負けない! 2人の夢の蕾、返してもらうから」
「それは結構ですね。でも、いいんですか? お仲間がピンチですよ」
黒マネマネの嘲笑に、ローズとアクアは慌ててミントの方を振り返った。そこでは、チェーンに縛られたミントの姿があった。
並び立つ赤と黄のマネマネ。ミントを縛るチェーンに、赤マネマネが炎の力を送り込む。
「マネマネ! 炎の力と」
「レモンの力、食らうがいい!」
二つの力が一つになり、ミントへと襲いかかる。
「マネマネ・ファイアーチェーン!!」
ミントの身体に、炎の力が送り込まれる。縛られたまま焼かれるのだ、その痛みは筆舌に尽くし難いだろう。
「あぁっ!?」
「ミント……!」
ローズの眼前で、ミントの身体が崩れ落ちた。
駆け寄ろうとする2人を弾き飛ばし、黒マネマネはミントの蕾を拾い上げる。黒マネマネの身体から、緑のマネマネが生まれた。
赤、黄色、緑……三体のマネマネ達がプリキュアを包囲する。
黒マネマネは余裕の表情だ。
対するローズは、不安に押しつぶされそうになっていた。
残り3人、助けなきゃいけない、敵の方が多い、怖い、ココ様とナッツ様も助けなきゃ、アクアがいるから大丈夫、でもアクアもやられたら……もしかしたら、ドリームなら。
「ドリーム……どうしよう?」
ローズは泣きそうな目でドリームを見た。ドリームはそんなローズに、にっこりと微笑みかける。この極限と呼んでも差し支えない緊張の中で、どうしてそんな顔ができるのだろうか。
ドリームはローズの背を守るように構えた。
「ローズ、アクア! 背中合わせるよ!」
「え……? う、うん!」
「分かったわ!」
陣を整えた時、ローズの前には二体のマネマネが立っていた。他の2人も同じだろう。ローズはその陣形の効果に驚いていた。
これまで、3人は背後からの奇襲で夢の蕾を奪われた。だが、背中を合わせれば背後を取られる心配は無い。奇襲さえ無ければ、マネマネ一体の強さは自分達には勝らない。
「(やるじゃない。ドリーム)」
何より、背中に感じる仲間達の熱に、ローズは思わず頬を緩ませた。
黒マネマネはそんな3人の様子に、拍手を送る。
「いい作戦です。チームワークも良い」
マネマネは感心している様子だ。
しかし、それでもなお余裕の笑みを崩さない。
「しかしお忘れですか? 今の私は、プリキュアの力が使えるのです!」
ローズの眼前で、黒マネマネはレモネードに変身した。
両腕に展開したプリズムチェーンが、3人を両側から襲う。
「ローズ! アクア! 行くよ!」
「「YES!!」」
号令と共に、3人は同時に飛翔した。
ドリームは3体の分身マネマネを無視し、離れた本体へと突撃する。
「コピーマネマネ達を操ってる本体を叩くのね! ドリーム、考えたわね!」
「そっか、本体を倒せばコピーも消えるかも!」
ローズは笑みと共に、黒マネマネへと目の焦点を絞る。
マネマネの身体が、消えるように動いた。だが、注視していたからこそ、ローズはその動きを捉え得た。サイドに回っての、尻尾による攻撃。アクアを狙ったその攻撃を、ローズは辛うじて防いだ。
「相も変わらず不意打ち!? 性格悪いわね!」
「よく反応しましたね」
不敵に笑うマネマネの頭部に、ローズの蹴りが炸裂する。
体勢を崩すマネマネを、ドリームの追撃が襲う。だがそれでも、マネマネの余裕は消えなかった。
「ですが、残念ながら不正解です」
ローズは慌てて振り返った。ドリームには、黒マネマネの手から伸びたプリズムチェーンが巻き付いていた。アクアは、分身の伸ばしたプリズムチェーンに絡め取られている。
「ドリーム!? アクア!?」
「ッ!? うわッ!? いつのまに!?」
「こんなの、すぐに抜け出してみせるわ!」
アクアは自身の周囲に水の矢を展開させると、それらを壁に向かって放った。矢は壁に反射し、プリズムチェーンへと向かってゆく。
だが、それらの攻撃は途中で霧散した。
緑のマネマネが、エメラルドソーサーを投擲し、矢を破壊したのである。アクアの身体を締め付けるチェーンに、赤マネマネが触れた。
ローズの頭を、ファイアーチェーンで焼かれたミントの姿がよぎる。
「ごめん、ローズ、ドリーム! 私はこの3体を倒すから……後は、頼んだわ」
「アクア……?」
アクアは己の周囲に再度水の矢を展開させると、それを地面へと発射した。着弾点からは一斉に水柱が上がり、それらが3体のマネマネを襲う。圧倒的な攻撃力の一撃に、3体のマネマネは塵となり霧散した。
だが、その攻撃の影響はアクアにも及んでいた。身体中は水に切り裂かれ、傷だらけである。もう立っているのがやっとであろう。
そして、その背後には黒マネマネの姿があった。
「さようなら、キュアアクア」
マネマネの手が、アクアの胸を貫いた。
彼女の胸から、蒼い夢の蕾が抜かれてゆく。
ローズは知っていた。それが医者になる夢である事、そして、自分の夢を競走をしてくれる、大事な夢である事。
「や……やめてよ! それはアクアのなんだから! 取っていかないで……」
「大丈夫よローズ……私の事は、いい、から……」
アクアはにこりと笑んだかと思うと、その場に崩れ落ちた。
青のマネマネが黒マネマネの横に並び、弓を構えている。
その横には、先程倒した3体のマネマネの姿もあった。
「ローズ、しっかり! まだ来るよ!」
「ドリーム……私、もう……」
ローズはもう限界であった。何度もかけた攻撃、それらを全ていなされ、仲間達は次々と倒れ、残るは自分を含め2人……身体よりも、心が壊されていたのだ。
そんな彼女の両肩を、ドリームがしっと掴み支えた。
「ローズ。私達2人なら大丈夫」
「ドリーム……」
「二人の技を合わせるよ! みんなを助けよう!」
「……うん!」
ドリームの強い眼差しに、ローズは闘志を取り戻した。
ミルキィミラーを展開したローズは、ドリームの隣で力を溜める。
彼女を支えるのは、仲間を助けたい意思……そして、仲間達を酷い目に遭わされた事への怒りであった。
ドリームは己の手に桃色の蝶を展開させる。かつて彼女が得意としていた、必殺技の構えだ。
「夢見る乙女の底力……受けてみなさい!」
「邪悪な力を包み込む……バラの吹雪を咲かせましょう!」
プリキュアの必殺技を前に、マネマネ3体が盾になり、黒マネマネの前に立ちはだかる。だが、2人の姿勢は変わらない。
2人の技を、全力で放つのみだ。
「プリキュア・ドリームアタック!」
「ミルキィローズ・ブリザード!」
桃色の蝶を取り囲む、薔薇の吹雪が放たれた。
凄まじい衝撃波を纏った、剛速の攻撃である。ドリームアタックを守るように飛翔する無数の青い薔薇の花びら。
マネマネ達の攻撃は薔薇の吹雪が難なくなぎ倒し、エメラルドソーサーはドリームアタックが打ち砕く。マネマネ3体をあえなく破壊した2人の必殺技は、黒マネマネの躯体を破壊せんと迫る。
黒マネマネは動かない。ローズの表情に、余裕が戻る。
「これで、みんな……」
だが、超威力の攻撃を前に、黒マネマネは笑った。
「待っていましたよ、この時を!」
黒マネマネは二つの尻尾を回転させると、薔薇の吹雪を片方に絡め取った。その余りの操作能力がなせる技だろう。
吹雪の威力はそのままに、尻尾は回転し続ける。
もう一つの尻尾でドリームアタックを弾くと、黒マネマネは薔薇の吹雪をローズへと向けて投げ返した。
マネマネ達を破壊した超速の攻撃が、自分達に向かってくる。
「そ、そんなっ!?」
咄嗟のことに、ローズの反応が遅れた。
避けられない、ぶつかる、耐えられる? 無理……仲間は? 助けられない?
思考の渦が、反応を遅らせた。押し寄せる強大な衝撃に、ローズは全身を硬直させる。だが、その瞬間はいつまでたっても来なかった。
目を開けると……そこには、驚愕の光景が広がっていた。
「あ……あっ……」
「ドリーム!! なんで……」
ローズの前には、傷だらけのドリームの姿があった。
自分を庇ったのだと、ローズは直感した。崩れ落ちるドリームを支えようと、ローズはその身体を抱き止める。だが、黒マネマネがそれを阻んだ。ローズの頭部に向かって打ち出された尻尾、そこには、ドリームアタックの残滓が残っていた。
壁に叩きつけられ、昏倒するローズ。薄れゆく視界の中で、黒マネマネはドリームの胸へと手を伸ばす。
「これがあのキュアドリームですか。時とは、人を弱くもするものですね」
マネマネ、残念そうにそう呟き、ドリームの胸から夢の蕾を取り出した。一際大きな夢の蕾が、マネマネの口の中へと消えてゆく。
「やめてッ!!」
ローズの叫びも虚しく、ドリームの蕾は、マネマネの中へと消えた。
後には、物言わぬ5人の身体が残るのみである。
ローズは泣きそうになるのを必死に堪え、マネマネを睨みつける。
「ドリームを……みんなを……返してっ!!」
もつれる足で駆け出す。前に進まなければ、みんなを助けねば、その意思だけがローズを動かしていた。だが、そんな彼女を嘲笑うように、黄色マネマネのプリズムチェーンが彼女の足を絡め取り、転ばせる。
急いで立ち上がると、そこには必殺技を貯める桃マネマネの姿があった。防御体制を取るローズだが、赤マネマネがチェーンに炎の力を注ぎ込む。
「ッ!!」
熱と束縛の地獄。逃れようと身を捩るローズは、周囲に無数のサファイアアローとエメラルドソーサーが展開されている様を目にした。
「ッ!? うぅッ!!?」
数秒後に訪れる攻撃を予感し、身を強張らせるローズ。そんな彼女を愉快そうに眺め、黒マネマネは目を閉じた。
「マネマネ・シューティングスター」
桃マネマネが助走を始めると同時に、展開されていた全ての攻撃がローズを襲った。炎を纏ったプリズムチェーンは全身を焼き、サファイアアローとエメラルドソーサーの群が彼女の全身を切り裂いた。
ボロボロになったローズに、最早シューティングスターの一撃を耐える力は残っていなかった。蝶の印を纏った桃マネマネの超速の突進に、ローズの身体は吹き飛ばされた。
「きゃあああっ!! ……っ!!」
悲鳴すらかき消される攻撃の雨嵐。
辛うじて変身だけは残したものの、ローブには立ち上がる力すら残っていなかった。
薄れる視界の中で、マネマネが笑っている。
マネマネは、倒れたままのローズの胸に手を当てた。値踏みするように、夢の蕾を弄っている。
耐え難い不快感に、ローズは身を捩る。だが、その程度マネマネにとっては抵抗にすらならない。やがて、マネマネはまるで興味を失ったように、ローズを突き放した。
「あなたの夢の蕾……こんなものですか。小さいですねぇ!! これでは、部下にする価値もない!!」
マネマネはローズの手元に握られていたミルキィパレットを手に取る。
使い込まれたその道具をマジマジと見つめ、彼はため息をついた。
「あなた、変身道具が他の方々と違うんですねぇ。もしかして、プリキュアでもないとか?」
マネマネは、つまらなさげにローズから視線を外す。
「プリキュアの落ちこぼれ、そう考えると、辻褄が合いますねぇ! ふふ、無能はどこの組織にでもいて、組織を腐らせる」
ローズの瞳から涙が溢れる。
マネマネはそんな彼女をせせら笑い、続けた。
「あなたのせいで、プリキュア5は負けたんですよ。夢の小さい、プリキュアもどきさん」
マネマネはアクアに変身したかと思うと、ローズの頭部を優しく踏みつけた。その手には、サファイアアローが握られていた。尊敬している人から酷い事をされ、弓を構えられている。
その現実に、ローズの心が、ズキリと痛んた。
「あ、そうそう。本社での戦いの時のような事があっては怖いですからね。国王達はこのまま持っていきますよ」
サファイアアロー弓が引かれる。
だが、ローズは動けない。先程マネマネが放った技の数々は、ローズに深刻なダメージを与えていたのだ。
「あなたが障害になるとは思えませんが、念には念を入れて……」
マネマネの指が、弓の弦から離れた。
水流の矢が、ローズの首元目掛けて放たれる。
瞬間、旋風が我修院邸に吹き荒れた。
「ロプロプロプロプ!!」
大気を揺るがす羽ばたきの音と共に、オレンジの巨体が屋敷へと飛び込んだ。水流の矢は、僅かに狙いをずらし、地面を穿つ。
「ロプ──ーッ!」
「何ですか!?」
現れたのは、巨鳥シロップであった。
マネマネに体当たりをかまし、吹き飛ばしたシロップは、倒れ伏すミルクの身体を抱え、再び飛翔した。
ここまでが、くるみの思い出した記憶であった。
仲間を全て失った絶望と、全身に刻みつけられた傷の記憶。
頭を抱え苦しみ出すくるみに、シロップは慌てる。
「だ、大丈夫かよ!? まだどっか痛むのか?」
くるみは首を横に振った。
刻みつけられたマネマネの恐怖に、くるみはしばらく、そうしているしかできなかった。
もっと頑張ります。