ウマ娘の小説を漁っていて思った事。
タイシンの小説、少ないやん!!
これはいけません。
ということで、書き上げました。
かなり不定期になるかもですが、読んでくれると幸いです。
それでは、どうぞー。
その姿はまるで流星のように見えた。
流星は大気との摩擦熱で燃え上がり、岩塊がガラス質となり、宝石のように輝きだし、自らの存在感を見ている人に植え付けていく。
君もそうだった。
最初は小さな光。
だけどそれが、レース終盤にかけて徐々にとレース後方から存在感を増していき、全てを抜き去り一着でゴールするのだ。
そして、みんな口々に言うんだ。
「Nemesis Reversal」
───逆転のウマ娘って......。
「っていうコラムを、月刊トゥインクルに掲載してタイシンの知名度を上げてもらうのって、良い考えだと思うんだけど、タイシンはどう思...「却下」即答かよ!?」
当たり前だ。
何でそんな物を掲載しなければならない。
ただただ、アタシが恥ずかしいだけだ。
というかこんな物を聞かされる為に、食後の昼寝から起こされたのかと思うと少しイラついて来る。
ただでさえ、最近寝不足だと言うのに。
「というかトレーナー、放課後のトレーニングの準備出来てるの?」
「ああ、それなら、もう午前中に終わらせた!! だから、こうして余った時間で、このコラムを......「だから、それはもういいって」」
思わずため息をつく。
「大体そんな噓っぽい記事が信じられると思う訳?」
「ふっ、そこは俺の名声とかで……「ああ、もういいから!!」」
そうだった。
こんなふざけた事をしていても、コイツは凄く優秀だった。
どれくらい優秀なのかと言えば、赴任初日に学園中のウマ娘達が、トレーナーに自分を売り込みに行ったくらいだ。集まり過ぎて、生徒会から規制が敷かれたことは記憶に新しい。
何でも、海外にある名門と呼ばれる、ウマ娘の専門学校を首席で卒業したらしく、そこから最年少でトレーナーの資格を取って世間から、注目を浴びるほどコイツは有名だった。
────そして、アタシの担当トレーナーでもある。
「....ほんと、何でこんなやつと契約しちゃったんだろ」
「うん?何か言ったか?」
「何でもない」
そんな会話をしていると学園内に、昼休憩終了のチャイムが鳴り響く。
トレーナーにバレないように、ため息をつく。
結局あまり寝れなかった。
「っと、もうこんな時間か、確か今日は後もうひとつ授業あるんだっけ?」
「うん、そう。 ──じゃあ、アタシもう行くね」
腰を上げ、屋上の扉に手を掛ける。
「おう、頑張ってこい」
その言葉にアタシは、背中越しに手を振って応えた。
アタシとトレーナーが初めて出会ったのは、ライトが消えたコース場だった。
とっくに消灯時間をむかえた時間帯。
ただひたすらに走っていた。
全ては、アタシの望みの為に。
ただ他より小さいというだけ。
それだけで、周りはバカにしてきてからかってくる。
──鬱陶しかった。
だけど、そんな連中に走って勝つのは心地よかった。
バカにしてきた連中を全て見返してやることが出来たから。
だから、レースにのめり込んで行った。
全てを置き去りにしてゴールしたその先の場所、そこが、アタシらしくいられる場所、そう思った。
だけど、
──現実は甘くなかった。
トレセン学園に入学してから、それを嫌ほど思い知らされた。
昼間の全く知らないトレーナーから聞かされた言葉が蘇る。
「このまま、レースの世界に居続けるのはやめた方がいい」
──ふざけるな、うるさい、だまれ。
言いたいことは山ほどあった。
だけどそれは全て喉の奥に引っかかって、出て来なかった。
「はぁはぁ」
コースを走り抜くが、消耗により脚が一歩も動かせない。
気を抜くと倒れそうになる体を疲弊しきった脚で支える。
息が上手く出来ない。
だけど......だからといって、
「......このままでは、終われない。いや、終わらせてたまるもんか。 アタシは......」
アタシはこの脚で必ず勝つんだ。
誰にも、誰にもあの場所を譲らせない。
そう心に決めたんだ。
「はぁはぁ。 よし、もう一度......」
もう一度、走ろうとした......その時だった。
「今日はもうやめとけ」
「......は?」
突然声を掛けられる。
そう、そこに居た声の主、そいつこそが、
「それ以上やると、ケガするよ」
アタシのトレーナーだった。
「......ん、やっと終わった」
授業中に眠たくなり、眠気を覚ますために、教室の窓からコース場に目線を移したら、あたしの目に練習をしている子を見掛けた。
そしたら、いつの間にか昔の事を思い出してしまっていた。
あの日。
トレーナーとの初対面は最悪だった。
いくら気が立っていたとはいえ、
『どうせ、アンタも!! アタシには向いてないとかって言うんでしょ!! 』
『うるさいんだよ!! そんな事、もう聞き飽きたっつの......!!』
というような言葉を、初対面の人にぶちかましていた。
今思えば、よくあんな酷いことを言えたなと思う。
だけど、そんなアタシの叫びを。
『.......うん、いいね。その目......よし、決めた!!』
『は?』
トレーナーは軽く受け流していた。
それどころか、あたしの方に手を指し伸ばしてきた。
『......何? この手?』
不満を隠さずに、言葉を投げかけ返す。
この目の前のトレーナーの行動が理解出来ない。
そして、困惑していたあたしは更に驚愕に見舞われたのだ。
『君をスカウトさせてくれ!!』
『は、はぁ!?』
とまあ、これがアタシとトレーナーの出会いだった。
寮へと戻り、制服からジャージへと着替える。
洗剤の柔らかな匂いがアタシの鼻孔をくすぐる。
トレーニング用のシューズに履き替え、部屋を出ようとした時だった。
アタシのスマホから、通知音が鳴り連絡してきた相手を確認する。
相手はトレーナーだった。
『トレーニング行く前に、トレーナー室に来てくれないか?』
──珍しい。
大抵はいつも、コース場に集まるのに。
今日に限っては、トレーナー室。
トレーナー室にはレース前のミーティング時や、アタシのレース映像を見る時ぐらいしか入ったことがない。
それに、アタシが出るレース....メイクデビューはまだ先だ。
なので、全くトレーナー室に行かなければならない理由が分からなかった。
首を傾げるが、それをすぐに辞め、
トレーナーに「リョーカイ」とだけ返した。
きっと何か、用事があるのだろう。
だけど、
──昼みたいなことだったら蹴ろう。
そう心に決めて、あくびを嚙み殺しながら部屋の外へと出た。
アタシ達、ウマ娘の寮は学園の外にある。
だからトレーニング場までは少し距離がある。
と言っても、歩いて十分くらいなものだが。
そしてトレーナー室はそんなコース場の近くにある。
トレーナー室へと向かう途中。
先程、校舎から見えていた、他の子たちの練習が目に映る。
どうやら、模擬のレースをしているようだ。
必死にコース場を駆け抜けている。
『序盤はしっかり脚をためるんだ』
『君の武器はその末脚だ、末脚のキレならば誰にも負けない。 それは俺が保証する!!』
そんな様子を見ていると、先日行われたレースの光景が思い浮かぶ。
アタシの悪評は、学園の教官やトレーナー陣から上がっていた。
努力のためとはいえ、門限破り等の校則違反。
更には努力に伴わない、レース結果。
学園側から退学させるべきという意見が上がるのももっともだった。
そんな状況を打破すべく、今一度アタシの可能性を見極める為に行われたのが、
──アタシの在学を懸けたレースだった。
そしてそのレースの、一時間目にトレーナーに言われた言葉。
それを思い出していた。
いつも周りからは、アタシを否定することばかりの言葉を投げられていた。
だから、それを言われた時正直戸惑いが大きかった。
そしてそれ以上に、アタシを認めてくれる人が、しっかりと見てくれる人が居るんだ。
そう思った。
だからなのだろう。
アイツの意見に傾けて、レースを走って勝利を収めた時に、
──コイツと一緒に夢を見たい。アタシを救ってくれたコイツと。
そう思えたのは。
「....やっぱり寝不足かな。こんなに昔の事を思い出すなんて」
そう独り言ち、トレーナー室へと向かっていた。
「来たよ、トレーナー」
「おお、来たか、タイシン」
トレーナー室の中に入ると、中央に置かれている机の前にトレーナーは座っていた。
そしてそこに置かれているPCで何やら作業をしている。
「何してるの?」
「あー、苦情のメール処理」
「苦情?」
少し不思議に思い、作業しているトレーナーに近づき、PCの画面を覗き込む。
そこに表示されているのは、メール画面。
しかもそれは英語で書かれていた。
「何て書いてあるの、これ?」
「タイシンの担当を降りろっていう催促、それも何十件も」
「.....えっ?」
今、トレーナーは....何て言った。
「俺の母校からのメールだよ。どうしても俺を手元に置いときたいらしいな、それにこのメール。ご丁寧にタイシンの事も調べあげてる。他のメールも似たような内容だよ。 はあ、まったく嫌になるよ 」
言葉が出なくなる。
急速に世界が色褪せていく。
そして感じるのは、ネガティブな感情。
悲壮感や劣等感という言葉では言い表せないそんな感情がアタシの中を駆け巡る。
だからなのだろう、トレーナーにこんな事を言ってしまったのは。
「...ねぇ、トレーナー?」
「うん? どうし...タイシン?」
トレーナーへと向きあう。
「アタシを捨てる...の?」
「え?」
トレーナーが困惑の表情をしている。
そんなトレーナーを見ながら、アタシは言葉を続ける。
「だって、トレーナーは...アタシなんかより比べて...優秀だから。 他の子の担当になったほうがトレーナーの為になるってのは理解してる!! だけど、アタシは.....アタシはずっとトレーナーの隣に居たいの!!...だから」
──アタシもっと頑張るから、トレーナーと一緒に夢を追いかけたいから.....だから、トレーナー。
座っているトレーナーの胸へと寄りかかる。
トレーナーの匂いが鼻孔をくすぐる。
「...アタシを捨てな「捨てないよ」...え?」
その言葉に、ハッとしながら顔を上げる。
と同時に、背中に温かさを感じる。
「え、あ、ちょ、...トレーナー!?」
そんな言葉を発すと同時に、アタシは気付く。
今、自分は背中を撫でられていると。
言葉にならない言葉を言っていると、頭上からトレーナーの声が聞こえてくる。
「俺は、タイシンを捨てないよ。 そもそもメールの件は全部断ってるよ」
「...本当に?」
「本当だよ、それになタイシン。 確かに中には良い成績を出せなくて、トレーナーに見限られるってことも、なくはないかもしれない......だけど俺は、絶対に」
トレーナーはそこで一旦、言葉を止める。
と、同時に今度はアタシの頭をトレーナーの手によって撫でられる。
──タイシンを見捨てない。
労わる様に、
──俺は君のトレーナーだ、最後まで君と一緒に夢を追いかけるよ。
慰める様に、
──だから、心配するな。
アタシを激励する様に、
──誰が何と言おうとお前の担当だよ。
欲しかった言葉を言ってくれた。
そしてその言葉で確信する。
......やっぱりこの人は、ナリタタイシンという自分を認めて信じてくれている。
だったら、アタシも頑張らなければならない。
もうトレーナーに、苦情のメールをこさせないように。
アタシは強くなる。
──な、タイシン!!
トレーナーと一緒に強くなる。
「.....うん、ありがとう、トレーナー」
「で、まさか俺にもたれかかったまま寝るとはな、いやあトレーナー室にソファーがあって良かった、良かった...にしても」
トレーナーがソファーで寝てるタイシンへと目線を移す。
タイシンは心地よさそうに寝ている。
「やっぱり、寝不足だったんだな。 いやまあ、今日は寝不足っぽかったから、寝させて上げようと思ってたから、良かった、良かった」
そう呟き、タイシンの寝ている様子をもう一度目に収めると、
トレーナーは残りの事務作業に戻っていた。
この日の出来事が原因で、タイシンがトレーナーの顔を、数日間見れなくなったのは別のお話。