ルーキー日間一位
......は?
冗談抜きでこうなりました。
みんな、タイシン好きなんやな。
ということで、二話目です。
めっちゃ疲れた。
アタシのトレーナーは優秀だ。
それ故に周りから期待され、尊敬の眼差しでよく見られている。
中には、「若き天才」とか、「トレーナーになる為に生まれた天才」とか、そう呼んでいる人もいる。
だがそれは、あくまでしっかりとした場所での話だ。
ならば、周りから見られない.....プライベートの空間でならどうだろうか?
人は誰も欠点が存在する。
欠点が存在しない人間という完璧な人間なんていない。
それは、アタシのトレーナーとて例外ではない。
「......トレーナー」
「......はい」
「この部屋は何?」
そう言うアタシの言葉は冷ややかだった。
トレーナーはと言うと、アタシの言葉と目線に耐えきれず、目背を逸らしている。
そんなトレーナーに、更なる追撃を加える。
「確かに今日は世間一般的に休日だから、遅くまで寝たい気持ちは分かるよ。だから、トレーニングの時間に遅れたことは怒らない。 だから、こうしてわざわざ、トレーナーの寮まで迎えに来てあげた......」
淡々と、普段のアタシからは考えられないほど、長文を喋る。
それ程までに、この状況は彼の担当バとして......いや人として看過できない。
トレーナーもそれを分かっているのだろう、アタシが喋っている間も、目線を此方に向けない。
それ程までに、この光景が後ろめたいらしい。
だけどアタシは、その後ろめたいであろう事実を、元凶に指を指しながら叩きつける。
「この光景は明らかに異常!!」
アタシの叫び声が、トレーナー寮に響き渡る。
目の前に広がるトレーナーの部屋の中。
床には、物が散らかっており足の踏み場もない。
見た感じ食べた後のゴミなどはないものの、アタシには、
「それ要るの?」
というような物が、チラホラと見えている。
「......トレーナー、いい加減アタシを見て」
そう指摘すると、
トレーナーは無言のまま此方へ目線を向ける。
そう言うアタシは腕を組み、トレーナーにゴミを見るような視線を向ける。
「......何か言う事があるんじゃないの?」
「えーと.....」
トレーナーが言い淀む。
口ではそう言うが、アタシは別に怒ってはいない。
トレーナーという仕事は、一般の人が想像するより激務だからだ。
いかにトレーナーが優秀とはいえ、体力はトレーナーとして一般的な彼が、身の回りが疎かになるのは、容易に想像できる。......まあ、ここまでの汚さはちょっと異常だが。
だから、素直に謝れば許S.....「朝ご飯食べる?」
──前言撤回。
自分の脚に力を込める。
「このバカっ!!」
「っ、痛っ......たぁぁぁぁぁ!!」
そう言いながら、トレーナーの足に軽めのキックを叩き込んだのはしょうがないと思う。
今日はトレーニングが出来なさそうだ。
「で、トレーナー。どうしてこんなになるまで、掃除をしなかったの?」
床に散らばっていた雑誌を本棚へと片付けながら、
トレーナーに尋ねる。
「いやぁ、最近帰ってもすぐに寝て、学園に行くだけだったから、片付ける暇がなかったんだよ」
窓を全開に開け、そこから布団を干しているトレーナーから返答が返ってくる。
大方の予想通りだった。
これで変な答えが返ってきたら、また蹴るところだ。
「......はあ、流石にキツイことは言わないけど、もうちょっとしっかりしてよね。 全くなんでアタシがこんなことを......」
ボヤきながら手を動かす。
トレーニング返上の掃除を開始してから三十分後。
大分、物は片付き床は歩けるようになっていた。
でも、こうなったら徹底的にする事にする。
台所やお風呂場、トイレなど、それはもう徹底的に。
今度はいつ掃除が出来るか分からない。
「大丈夫。トレーナー室はちゃんと片付けてるからな!!」
「そう言う問題じゃない!! というか普段からしっかりしろ!!」
再びアタシの叫び声がトレーナー寮へと響いた。
「いやあ、助かったよ。タイシン、ありがとな!!」
そして全てが終わった頃にはお昼前だった。
かれこれ三時間ほどトレーナーの部屋を掃除していた事になる。
そしていい感じにお腹が空いている。
今日は朝からトレーニングの予定だったから、エネルギー補給のゼリーしか口にしていない。
──今日は何かガッツリ食べよう。
普段は少食なアタシだが、今日はそんな気分だった。
「次やったら、本気で蹴るからね」
「ああ、善処する」
トレーナーがカクカクと頷く。
「ん......というか、このガラクタどうすんの?」
「あー、どうすっかな」
そう言うアタシらの前にあるガラクタ。
どうやら、これは貰い物らしい。
何でもトレセン学園のウマ娘達から、
『おーす、未来のチャン〇オン。このゴルシ様がお前に、これを恵んでやるよ』
長身のウマ娘から、どこかの部族が着けてそうな仮面を。
『やあ、君が噂の天才トレーナー君だね。どうだろう、お近付きの証にコレを上げよう』
白衣を着たウマ娘からは、怪しげな小瓶を。
とまあ色々な物を、無理矢理渡されたらしい。
というか、この部屋の床に散らばっていたのは大半、ウマ娘達から貰ったものだった。
「とりあえず、貰ったものは実家に送っとくかな。......この小瓶以外」
「うん、そうした方が良いと思う」
流石に貰ったものは捨てるべきではないと思う。
というか、小瓶に関して、中身は普通に棄てても良い物なのか。
......なんとなくだが、そのまま流してはいけない。
そんな気がする。
「よし、じゃあ善は急げだな。 スーパー行って段ボール貰ってくるよ、ついでに昼飯買って来るよ。 タイシンもお腹空いてるだろ?」
「......まあ、うん。 買ってくるなら食べる」
「おっけー、野菜中心のメニューで大丈夫か?」
「ん、それで。 できればちょっとだけボリュームがあると嬉しい」
トレーナーは「りょーかい」とだけアタシに言うと、スーパーへと買い出しに行った。そして部屋にはアタシだけが取り残される。
......正直暇だ。
「あ、トレーナーの漫画でも読もうかな」
だからアタシは暇を潰す為に、トレーナーが買ってある漫画を読む事にした。
正直アタシは、普段からそんなに漫画を読まない。
精々、チケットがおすすめしてくる恋愛漫画を借りて読むぐらいなものだ。
だから、少年漫画を読むのは初めてだ、少しだけワクワクしている自分がいる。
ペラリと、ページをめくる。
ペラリ、またページをめくる。
そしてあっという間に、一巻を読み終える。
「......へえ、面白いじゃん」
男の子向けの漫画も案外面白い。
後でトレーナーに借りようか、そんな事を思う。
そして結局アタシはトレーナーが帰ってくるまで、漫画の続きを読みふけった。
「じゃあ、アタシもう帰るから」
「おう、ごめんなタイシン。今日無駄にしちゃって」
トレーナーが申し訳なさそうな顔をする。
その言葉の通り、トレーナーが買ってきた昼飯を食べた後、アタシ達はトレーニングに行かずに、トレーナーの部屋でゴロゴロしていた。
おかげでトレーナーの部屋にある漫画は全部読めて、アタシは満足だ。
それにどうせ。
「別にそんな事思ってない。......それにどうせトレーナーの事だから、スケジュールは余裕なんでしょ?」
「ふっ、よく分かってるね、何せ俺は天S「あー、はいはい、分かりました」」
やっぱりアタシの予想した通りだった。
片付けが苦手な欠点とかがあっても、トレーナーはちゃっかりしている。
最近それがようやく分かってきた気がする。
玄関でシューズに履き替え、トレーナーの方へと体を向ける。
「それじゃあ、トレーナー。 また、明日」
「おう、また明日な」
「うん」
そう言ってトレーナーの部屋を後にする。
トレーニングは出来なかったが、こんな日も偶にはいい物だ。
そんな事を、遠くの夕焼けを見ながらそう思った。