ホロライブラバーズ ~難易度【オーディション】を脳筋でクリアしたい実況~    作:てらバイト

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参ったな~…戦闘は専門外なんですが……




キヒヒッ!精々退屈させんなよ?


不図の幕切れ

目の前で繰り広げられる種族間を越えた友情の芽吹きを見たクロエは、その光景を美しく尊いものを見守るような慈愛を籠めた眼差しで見つめていた。

 

 

何故ならば、それは且つて自分が欲しくて止まなかったもの。

喉から手が出る程、手に入れたいと焦がれ続けていたもの…他者からの親愛に他ならないからだ。

 

 

たとえそれを手にしたのがこれから戦う相手だとしても。

その素晴らしさを身に染みる程理解しているクロエは、隙をつくような無粋な真似はせずその場から一歩も動かなかった。

 

 

今はただこの光景を一秒でも長く眺めていたい。

およそバトルロワイヤルでは適さない私的な感情が、『宵狩り』の脚を鈍らせた。

 

 

 

 

 

(…そうだよ。種族なんて関係ない。お互いが信じ合い、慈しみ合い、尊重し合えば。種族の違いなんて些末なもの。それさえ出来れば私達は手を取り合って生きていける)

 

 

(ありがとう、ぼたん。やっぱり間違っていたのはあの人達(・・・・)の方だったんだね。おかしくなったのは私じゃなくて、本当は…―)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お前なんて産むんじゃなかった。お前のような化け物……育てなければよかったッ!!』

 

『返せ!私達の、本当のっ…!本物のクロエを返せェェェ!!!』

 

 

『即刻、出ていけ。薄汚い混ざりものが…!このラブラック家に純粋な人間以外は不要だ!』

 

『人間ごっこは楽しかったか?化け物め……二度とその顔を俺の前に出すなッ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死に失せろ

 

 

 

 

 

ブツリ、と

 

 

衝動的に握りこんだクロエの掌から血が滲み出た瞬間、力強く踏み込んだねねが猛進する。

一足で拳の間合いに飛び込み彼我の距離を限りなく零に近づける。

拳の間合い(クロスレンジ)。それは両者にとって全力を奮える必殺の領域である。

 

 

 

「一番、桃鈴ねね!いっきまーすっ!」

 

 

 

元気な掛け声と共にねねが先手の正拳突きを放つ。クロエは想定よりも遥かに鋭い一撃に僅かに驚きながらも身体を半身にすることで回避。顔の前を過ぎ去る拳圧を肌で感じながらお返しに左アッパーを見舞おうとクロエが拳を突き出す直前、何かに気付いたのか突如攻撃を中断し上体を反らした。

その直後、クロエの頭があった位置にねねの肘鉄が空を切る。あと数瞬身体を反らすのが遅れていれば間違いなく直撃し少なくないダメージを負っていただろう。クロエはねねの淀み無い攻めの連携に関心しながらも軽々と回避してみせた。その表情に浮かぶ余裕の色は、未だ剥がれる様子を見せない。

 

 

 

 

「足元がお留守アル!」

 

 

しかし、ねねの怒涛の攻めはまだ終わっていない。

不安定な体勢となったクロエにねねは素早く下段蹴りを放つ。足首を狙って放たれた蹴りは足元を薙ぐように当たり…クロエの身体は宙に舞った。

 

 

 

―好機!

 

 

 

“イッキカセーに叩き込む!”と勢いづくねねは、身体に巡る気を右足に集中させる。

そして足払いの蹴りの勢いを殺すことなく回転し、強力で鋭い回し蹴りを繰り出した。

 

 

対するクロエは足払いをかけられても動じることなく両手を床に着き逆さまの体勢のまま腰を瞬時に捩じる。ミシミシと音が鳴る限界まで捩じり…解き放つ。独楽のように回りながら回転の力を乗せた蹴りを放った。

 

 

 

旋蹴舞(せんしゅうぶ)

 

 

旋天牙(せんてんが)

 

 

 

パアンと空気が割れるような音が響く。

それは互いに繰り出した技と技が相殺し合った証。

 

 

ねねは、自身が得意とする技を容易く打ち消したクロエに驚きと関心が伝わる純粋無垢な笑みを。

クロエは、思わぬ好敵手の出現に心を高鳴らせ、興奮と期待が入り混じった獰猛な笑みを。

 

 

脚を交差させた二人は、まるで対照的な笑みを浮かべていた。

 

 

 

か、カッケぇーーー!!!何その蹴り!?どうやってんの!?ねねもやるっ!」

 

 

「随分と激しいねぇ…私とラテンダンスでも踊りたいの?せっかちさん♡」

 

 

 

 

 

 

互いの言葉を皮切りにより一層激化していく武人同士の戦いを、ぼたんはハンドガンを構えながら立ち尽くすことしか出来なかった。援護射撃をしようにも二人の肉弾戦の攻防が速すぎて狙いが定まらないからだ。万が一誤射などしてしまえば目も当てられない。

 

 

(ねねちゃんがあのクロエと渡り合える位強いのは嬉しい誤算だったけど…ダメだこりゃ、全然狙いが定まらん。かと言って負傷した身体であのレベルの殴り合いに素手で割り込むのは自殺行為だし、却って足手まといだよなぁ…)

 

 

どうしたもんかな、と逡巡する。その時、掠れる様なか細い声をぼたんの耳が拾う。

怪訝に思いながらも横目でポルカを一瞥すると腕を組みながら目を瞑りブツブツと何事かを呟くポルカが居た。眉根を寄せ額に汗を滲ませ何かを堪える様な表情を浮かべている。

 

 

さっきまでの騒々しさとは一変した仲間の様子に目をむいたぼたんが声を掛けようとした瞬間、ポルカの瞼がカッと開く。そして鬱陶しそうに汗を拭いながら、ぼたんに勝気な笑みを向けた。

 

 

 

「待たせたなししろん…泣く子も笑う尾丸ポルカ渾身の十八番(・・・・・・・・・・・)、特等席で見せてやる」

 

 

 

 

 

 

「ねーねークロちー、さっきの逆さまベーゴマキックねねに教えてよぉ!あーいう派手な技、ねねも使いたい!」

 

 

「あはっいいよ?ねねになら特別に手取り足取り、身体の隅々まで教え込んであげる。ただし…私に勝てたらね?」

 

 

「おっ言ったな~?いーのかなーねねをその気にさせちゃって~。後で泣きベソかいても知らないよ~?」

 

 

 

拳と蹴りの応酬を繰り返す二人は戦いの最中で名乗り合い、殴り合いながらも会話に花を咲かせていた。僅か数分前に初めて会ったとは思えないような仲睦まじさであり、ねねに至っては既にクロエをあだ名で呼んでいた。

 

 

これは二人が武術を修めているという共通点と、ねねが持つ誰にでも明るく接する性格と物怖じしない奔放さに依るものが大きい。ねねの生まれ持った快活さと人を選ばないコミュニケーション能力が遺憾なく発揮された結果と言えるだろう。

 

 

二人は初めて行う同年代との体術戦を心から楽しんでいた。境遇や事情こそ違えど同年代と接する機会が少なかった(・・・・・・・・・・・・・・・)二人にとって、自身の得意分野で競い合える存在というのは何よりも貴重であり新鮮であった。時間の進みに比例するかのように戦闘は激しさを増し更なる熱を生む。

 

 

そしてクロエとねねが拳を交えてから1分が経過した頃、戦況が動きだす。

 

 

クロエが、身体の内側に響くような重い打撃を受け続けたことにより腕や脚に鈍い痛みを覚え始めた時。

 

 

ねねが、一撃でもまともに喰らえば敗北必至の凶撃を捌き続けてスタミナと集中力の低下を自覚し始めた時。

 

 

 

「いくぞ、ねね!」

 

 

 

ポルカの号令が響き渡った。

 

 

 

突然声を張ったポルカに意識を向けたクロエは、敢えて行動を起こさず出方を窺う選択を取った。一体何をするつもりなのだろうか、と興味津々な様子で待ち構えていると、ポルカがパチンと指を弾いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

― トイ・トリック

 

 

 

その瞬間、教室内が鮮やかな青一色に染まった。

 

 

 

 

―わぁ、キレイ…!

 

 

 

まるでこの一室だけが巨大なアクアリウムの中心に転移したと錯覚するような、陽光が射す透明で美麗な海の色。視界に飛び込んだ神秘的であり暴力的なまでの青一色の幻想空間を前に、クロエは我を忘れて見惚れた。

 

 

そんな致命的なまでの隙を武芸者であるねねが見逃す筈は無く。

 

 

 

「せいやぁ!」

 

 

 

初手に打った正拳突きをもう一度放つ。

咄嗟に出したからか、又は元から当てることに重きを置いた為か。速度こそ出ているが力はそこまで籠められてはいない。

 

 

そう判断したクロエは迫る拳を脅威とは捉えず、掌を顔の前に出す最低限の防御姿勢を取ってすぐに視線を逸らした。

クロエはポルカが生み出した空間に、完全に心を奪われていた。この幻想的な光景を目に焼き付けたいが為に、視線を、意識を、一瞬だけねねから外した。

 

 

 

 

 

その隙が、大きな痛手を生むとは知らず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ねねの軽い拳が掌に触れた瞬間

受け止めた左手ごと(・・・・・・・・・)、クロエの顔面に突き刺さった。

 

 

 

「ご、ふぁ…!?」

 

 

 

予想外の衝撃と痛みに戸惑いながらも、クロエは上体を反らし背筋に力を込めて何とかその場で踏み止まる。転倒だけは避ける事ができたが、ねねの猛攻は止まらない。息もつかせぬ間に繰り出された第二波は、胴を狙った蹴り上げ。

 

 

先程同様、速度を重視した軽い蹴り。クロエはねねの攻撃に対する警戒を一段階引き上げ、両腕を交差させて全力の防御の構えを取る。

 

 

 

「ぐぅっ…!?」

 

 

 

しかし、堅牢な防御は呆気なく破られた。

あの軽い一撃からはまるで想像できない威力の蹴りは両腕を容易くぶち上げ、クロエはまるでバンザイをするかの様な体勢で無防備を晒してしまう。追撃の踵落としをバックステップで躱したクロエは自身の両腕を見やる。弾かれた両腕はビリビリと痺れ、ねねの蹴りの威力を克明に物語っていた。

 

 

自身の全力の防御すら意に介さないねねの打撃に。

さっきまでの打ち合いがまるでお遊びだったと言わんばかりの威力の変化に。

クロエは、今度こそ驚愕した。

 

 

 

―…ッ!この一撃の重さ…ノエルと同じ、いやそれ以上(・・・・・)……?

 

 

 

クロエが思い浮かべたのは、つい最近知り合った剛力を誇る愛しの聖騎士、ノエル。

自分と似た運動能力と筋力に優れた体質を持ち、人間離れした膂力と重厚な戦槌を活かした戦法を得意とする生粋のパワーファイター。武器を用いた純粋な破壊力で言えば自身を凌駕する程の使い手。

そのノエルの重く荒々しいメイスの一撃に比肩する攻撃を、ねねはあろうことか無手で放ってみせた。この事実を前に手を抜ける程、クロエは傲慢でも楽観的でも無かった。

 

 

戦慄からか、一筋の冷汗が流れる。

クロエの表情から余裕の色が消えた。

 

 

―十中八九この青い空間の能力。効果は恐らく…物理攻撃の強化、もしくは身体能力の向上かなぁ。それなら……こっちも利用させてもらうね(・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

ねねの軽い一撃が急激に威力を増したことから、青い空間の効果を範囲内の者に何かしらの強化を与える類だと判断したクロエは守りを捨て攻勢に打って出た。蛇顎で瞬時に加速し自らねねとの距離を詰め、鋭い連続蹴りを見舞う。

 

 

 

うわっととぉい!?急に来たらびっくりするじゃんかクロちー!」

 

 

「ねねはもう充分攻めたでしょ?次は私の手番…たっぷりお返ししてあげるね!」

 

 

「ぬおぉ~当たるかぁ~!持ってくれよ、ねねの足ぃ!よっ!ほあっ!……あ″っ!

 

 

 

一転攻勢。

防御に徹していたクロエの突然の猛攻に狼狽えるねねは回避に専念。その様子からクロエは自身が予想した空間効果が当たっていると断定、攻撃の手を更に激しくしていく。

間断なく迫る暴力の嵐を必死に避け続けるねねだったが、不幸にも足を滑らせバランスを崩し前に倒れかけた。

 

 

 

―痛いの、イクよ?

 

 

 

思いがけない勝利への一手(リーサル)を、クロエは見逃さなかった。

一撃確殺。これで仕留めると言わんばかりに足先に闇を纏わせ、刹那の如き速さで蹴り上げた。

 

 

 

― 轟牙双天刃!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パシッ

 

 

 

「「…え?」」

 

 

 

絶好のタイミングで叩き込んだ必殺の一撃は

反射的に出したであろうねねの片手でいとも容易く受け止められていた(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

予想だにしなかった結果に足を上げたまま石像の様に固まるクロエ。目の前で起きた不可解な現象を分析しようと脳をフル回転させるがしかし、浮かぶのは疑問ばかりで解決には至らない。

 

 

(…空間効果の予想を間違えた?単なる強化ではなく何か別に発動条件があった?そもそも効果は強化で合っていたの?まさか味方にだけ作用する特殊なもの?…というか、なんでねねも驚いているの?反応がおかしくない?

 

 

 

 

 

「…はっ!?そっかぁ忘れてた(・・・・)!とりゃあ!」

 

 

「…っ!くっ…!」

 

 

何故、ポルカとチームを組んでいるねねが一緒になって固まっていたのか。

そんなねねの奇行も相俟って混乱するクロエ目掛けて、今度は後ろ回し蹴りが放たれる。空間の正確な効果が把握できない状況でねねを懐に入れるのは危険と判断したクロエは、バク転で回避しながら距離を取りねねの間合いから遠ざかる。そして、手拍子をする様に両手を上に掲げた。

 

 

 

“敵の能力の正体が掴めない時は見に徹して機を窺え”…だっけ。思い出したついでに、偶には言う事聞いてみようかなぁ)

 

 

 

それは、おばあさま謹製の大鎌を呼び出すための動作。

防戦一方の状況を打破すべく己の武器を取り出そうと手を叩く

 

 

 

 

 

 

 

 

その直前、ポルカの声が木霊した。

 

 

 

 

解除(リリース)

 

 

 

 

幻想空間の消失。

青に染まった景色が元に戻っていくのと同時に響くいくつもの銃声。

 

 

 

―…え?何で自分から解除……あっ…

 

 

 

重ね合わせた両手が何かに接触したかの様に弾かれる。

焼ける様な痛みが走る両手にクロエが目を向けると、そこには両の掌にぽっかりと開いた弾痕。

誰の手によるものなのかは、明白であった。

 

 

 

「ジャックポット…油断大敵ってね」

 

 

 

撃ち抜いたのは、机に身を隠し気配を消していたぼたん。

完璧にクロエの虚をついた狙撃は、正確に両手を捉え大鎌の召喚を封じた。

 

 

 

「チャーンス!これで決めるよ、クロちー!」

 

 

 

仲間が稼いだ僅かな時間。数秒に満たない好機を無駄にはしまいとねねは足を床にめり込ませる程強く踏み込み、弾けるように駆ける。

疾風迅雷を体現するような速さで、クロエの懐に飛び込んだ。

 

 

 

 

 

大きく床を踏み込むねねを見たクロエは、慌てて回避しようとも蛇刹等の迎撃姿勢を取るでも無く、ただぼうっとその場で立ち尽くした。しかしそれは自身の敗北を悟った上での行動では無い。その証拠にクロエの表情に諦念の色は一切見えず、それどころか胸のつかえが取れスッキリとした様な顔をしていた。まるで失くしていたパズルの1ピースを見つけ出した時の様な釈然とした表情で、クロエは静かに佇んでいた。

 

 

何故ならば気が付いたからだ。

視線の先にいる異彩な恰好をしたフェネックが展開した空間。その真の能力に。

思考を加速させ空間が展開されてからの戦闘を思い返すことで、クロエは答えを導き出した。

 

 

何故、ねねの攻撃力だけが飛躍的に上昇したのか?

何故、ねねは空間展開中に技を出さず軽い攻撃ばかり振ったのか?

何故、私の轟牙双天刃は簡単に受け止められたのか?

何故、発動者であるあのフェネックはぼたんの狙撃直前に自分から空間を解除したのか?

 

 

これらの疑問から推理出来る空間の能力は…―

 

 

 

 

 

反転(・・)、かぁ……これは一本取られちゃったなぁ……

 

 

 

クロエは、相手の能力にまんまと踊らされた己を自嘲するかのようにクスリと笑い、その場で完全に沈黙した。

 

 

得意とする肉弾戦で劣勢に追い込まれ

頼みの綱の大鎌も妨害されて呼び出せず

自身よりも戦闘経験で劣るであろう三人による即席の連携で窮地に立たされた

 

 

およそ歴戦の狩人であれば、その矜持を大きく傷つけられるであろう結果。

師であるハザマが見れば顔を手で覆い天を見上げるであろう失態を前に。

 

 

 

クロエは、うっそりと笑った。

 

 

 

それは三人の見事なチームワークに感じ入り、心からの賞賛の意を籠めた純粋な笑みだった。最早今のクロエの頭には数分前に脳裏を掠めた忌々しい記憶(・・・・・・)や、欠損した部位から発せられる痛みの事など欠片も残っていない。

 

 

歓喜、祝福、愉悦、喜悦。

自身をここまで追い込んだ三人の強さを認め、一言では言い表せない喜びの感情に身を震わせたクロエは、おもむろに全身の力を抜いて脱力する。

 

 

眼前に迫る蹴りを、心ゆくまで味わう為に。

 

 

 

 

―旋蹴舞!

 

 

「ぐぁッ――」

 

 

 

頭部・足・頭部の順で蹴り抜く回し蹴り三連。

鮮烈で凄烈な三段蹴りは確実に相手を打倒しうる威力を秘めており、クロエの身体は三段目の蹴りでゴム毬の様に宙を舞った。

 

 

ねねは間髪入れず足を前に踏み込みクロエに肉薄する。

まるで震脚を思わせる強力な踏み込みで得た殺人的な加速と練り上げた気を乗せて、ねねは止めの技を解き放つ。

 

 

 

裏裡門(うらりもん)ッ!

 

 

 

前方に踏み込みながらの肘鉄二連が突き刺さる。

ねね渾身の全身全霊を籠めた必殺技はクロエの鳩尾を抉る様に穿ち、浸透。肘鉄に乗ったねねの気は衝撃と共に波打つ波紋の様に身体全体に広がり、内臓を中心に甚大なダメージをクロエに与えた。

 

 

 

―嗚呼、なんて……刺激、的………♡

 

 

 

血を吐き身体に走る痛みを感じながらも恍惚とするクロエは砲弾の様に吹き飛び、その身体は壁に叩きつけられても勢いを失なう事無く…轟音を響かせながら壁を突き破り隣の教室へと姿を消した。

 

 

 

ガラガラと音を立てながら机の列に突っ込んでいくクロエを確認したねねはその場でクルリと回り、ポルカとぼたんに向き直る。

そして共に戦い抜いた仲間に向かってニカっと笑い掛けた。

 

 

 

「勝利の~~…ブイ!どやっ!」

 

 

 

その笑顔は、正に天真爛漫を表す今日一番の笑顔であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

威力・衝撃の強弱を反転させる空間を作る(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)。それが人様の前で披露できるポルカ唯一の切り札…【トイ・トリック】だ』

 

 

数分前、おまるんの口から告げられた切り札に、私は半信半疑だった。

何せ荒唐無稽が過ぎる。実際、言われた直後は場を和ませるその場限りのジョークかなって本気で思ったもん、あたし。だってそんな魔法や能力なんて長い傭兵稼業の中でも聞いたことが無かったし、何より……強すぎるでしょ(・・・・・・・)、そんなん。

 

 

威力を反転させるって事は、使いようによっては最強の矛にも最硬の盾にも成りうる。

さっきのクロエとの戦闘でやったように味方の攻撃タイミングに合わせて発動すれば、どんな軽い攻撃でも一発KOを狙える致命の一撃に変化させることが出来る。逆に相手の喰らったらひとたまりも無いような攻撃に対して発動すれば、人間を空高く打ち上げる様な凶悪な蹴りでさえも無力化出来る即席の防御壁になる。

 

 

攻守ともに使える破格の性能。効果にだけ焦点を当てたらゲームとかで言う所謂“ぶっこわれ技”なんだけど、もちろん欠点が無い訳じゃない。

おまるん曰くこの技にはいくつか制約があるようで、そこまで使い勝手が良いものでは無いらしい。一日で使える回数に制限があるとか、発動までに十数秒の溜めが必要だとか、発動中本人は一切動けなくなるとか。他にも色々あるような口ぶりだったから、効果に見合った重い縛りがあるみたいだった。強力な技や能力にはそれ相応の対価が必要ってことだね。

 

 

他にも発動中に動けない制約と発動までにかかる溜めのせいで一対一の状況じゃまず使えないとか、相手にトイ・トリックの効果を知られたら、効果範囲内に居る相手に威力反転効果を逆に利用され兼ねないっていうリスクも確かにある。……でもまぁ、それらのデメリットを差し引いても強力な技には違いないんだけどね。

 

 

 

(使いどころさえ間違えなければ、型に嵌めて相手に何もさせなければ…あのクロエでさえも(・・・・・・・・・)完封可能かぁ…マジでえぐいなこの技。対戦ゲームで出てきたら確実にナーフ案件でしょ)

 

 

 

おっそろしい技だよ、ほんと。

そんな事を考えながらすぐ傍にいるおまるんを流し目で見ると、ねねちゃんと勝利のハイタッチを決めてるとこだった。うわ、バッチーーンて凄い音鳴っとる…痛くないんかな、あれ。

 

 

 

い″っ″た″い″!!!おまっ、勝利のハイタッチでここまで力入れる奴がいるかぁ!?手ぇぶっ飛ばす気か!」

 

 

「イェーイやったねおまるーん!優勝優勝優勝だー!Foooooooo!!!

 

 

「だ、ダメだコイツ…ハイになりすぎて話が通じない…おい、ししろん見てないで助けてくれ!これはポルカ一人の手に負えな「ねねねダーイブ!」ぐへぇっ!…やめろぉ!ポルカのそばに近寄るなああーッ!

 

 

「…くくっ、ははは!あ~おもしろ…」

 

 

飽きないなぁ、このコンビのやり取り。

激しい戦闘を終えたばかりだっていうのにすぐさまじゃれ合う二人を見てると、バトロワ中だっていうのを忘れてつい気が緩んでしまう。堪えきれずについ噴き出しちゃったよ。

 

 

…本来なら、こんないつ戦闘が起きてもおかしくない戦場で気を緩めるなんて在りえないことだ。少なくとも入学前の傭兵稼業に明け暮れるあたしだったら絶対にしない油断。右も左もわからない新人ならともかく、十年以上続けてるベテランがしてたら傭兵失格だろうね。それくらい初歩的な事、あたしだってもちろん分かってる…それでも、今だけは。

 

 

 

(ちょっとくらい浸っても罰は当たんないでしょ?勝利の余韻ってやつにさ)

 

 

 

こんな気分も、偶には悪くない。

いつもの自分らしくない感情に振り回されるのも面白いと、二人の微笑ましい喧騒を眺めながら独り言ちていると、教室のスピーカーから誰かの咳払いが聞こえた。

残り人数の報告かと思い耳を澄ませていると

 

 

 

 

 

<バトルロワイヤル参加中の生徒にお知らせ致します。只今をもって、今年度第一回目のバトルロワイヤルを終了致します。戦闘を行っている生徒は速やかに戦闘行動を中断し、転送が行われるまで今しばらくお待ちください。繰り返しご連絡致します…―>
   

 

 

 

 

バトルロワイヤル終了を告げる放送が流れた。

 

 

 

(は…?終了って…バトルロワイヤルは最後の一人になるまで戦う筈なのに、何でこのタイミングで?現にここにはあたし含めてまだ3人も残ってる……今年からルールが変わったとか?いや、もしそうなら開始前に通知なり説明なりがあって然るべきだよな……)

 

 

 

 

…1人で考えても埒が明かない。ここはおまるんとねねちゃんと情報のすり合わせをしよう。二人の意見も聞きたいし。

 

 

 

 

「ねぇお二人さん。今年からバトロワのルール変更があるって話、聞いた覚えある?」

 

 

「いや…何も。入学案内には『最後の一人になるまで戦う』って書いてたと思うんだけどなぁ…ポルカの見間違いか…?ねねの方は?入学案内のバトロワ部分の記載覚えてる?」

 

 

……??

 

 

「うお、どしたねねちゃん。なんかすっごいアホ面になってるけど」

 

 

「…おいねね。まさか入学案内に目通してない(・・・・・・・・・・・)とか言わんよな…?あれ入学当日の段取りとか書いてある大事なやつ…」

 

 

……てへっ☆

 

 

てへっ☆…じゃねえわ!可愛く言ってもポルカの目は誤魔化されんぞ!さてはお前、入学前の準備とか手続き全部親に任せっきりにしたクチだな!?

 

 

だってえぇぇぇ!ねねがやる前にママちとパパちが『全部やっておくから、ねねは遊んできなさい』って言うんだも~~ん!ねね悪くないよおぉぉ!

 

 

過保護かっ!娘にゲロ甘じゃねえか桃鈴家!甘やかし過ぎは娘の為にならんぞ!」

 

 

 

…ほんの数秒で騒がしくなった二人は置いといて一旦整理しよう。

二人の話…いや、おまるんが言うには入学案内にバトロワのルール変更については特に記されていなかったっぽいね。あたしもざっと目を通した時にそういう記載は無かった気がするし、多分これは確定。

なら考えられる可能性は…単純なルール変更の伝達ミスか、或いは…不測の事態により中断せざるを得なかったか

 

 

普通に考えれば可能性が高いのは前者の方。単純な作業ミス…ヒューマンエラーっていうのはいくら気を付けても起きる時は起きるものだ。もし急なトラブルと伝達ミスを比べてどちらが現実に起きやすいかと聞かれたら、普段のあたしなら間違いなく伝達ミスの線を疑うね。それが自然だ。

…でも今回のコレは、な~んかきな臭い(・・・・)んだよなぁ。あたしの直感が、後者の可能性をずっと睨んでる…所詮は勘って言われたらそれまでだけど。

 

 

 

(胸の辺りが妙にざわつくっていうか、落ち着かないんだよなぁ…ただの気のせいならいいんだけどさ)

 

 

 

「そ、そういえばさ、順位ってどうなるんだろうね!残った人全員一位なのかな!?」

 

 

っ!…いっけね、思考にのめり込みすぎた。所構わず集中するのはあたしの悪い癖だな…。

ふと耳に入った声に反応すると、おまるんに髪をわしゃわしゃされてるねねちゃんが唐突に切り出した。多分話題を変えて自分の髪の被害を減らそうとしたんだろうけど、既にねねちゃんの髪は弄られ過ぎてジミヘンみたいな髪型になっていた。おぉ、めっちゃギター上手そう。

 

 

それはそうと、順位かぁ。普通に考えれば倒した人数に応じて加点するのが妥当かな。現時点で残った人数にも依るとは思うけど、流石に全員一位は無いとは思う。

 

 

 

「全員一位ぃ?…いや流石に無いだろ。例えばだけど、バトロワ終了時点で何十人と倒したやつとずっと物陰に隠れて一人も倒さずにやり過ごしたやつの二人が居たとしたら、その生き残った二人は同率一位、つまり同じ評価って事になる。そうなったら多分、いや絶対に苦情が殺到する。『あんな生き残り方をした奴を一位として認めるのか』ってね」

 

 

「あっそっかぁ…う~、全員一位だったらねね達三人揃って優勝(・・・・・・・・・・)だったのに…」

 

 

「三人って…もしそうなら嬉しいけど、それは難しいんじゃない?他のエリアでまだ残ってる人とかいるだろうし」

 

 

「だよな~…ん?でもさっきからポルカ達の話声以外聞こえなくない…?やけに静かっていうか……戦闘音が全然耳に入ってこないんだけど」

 

 

 

……本当だ。おまるんの言った通り耳を澄ませてもあたしたちの話声以外の音がしない。クロエと戦う直前まで周りから鳴り響いていた剣戟の音とか銃声が、今は一つも聞こえない。

 

 

これはもしかして…もしかする(・・・・・)のか?

 

 

 

「ひょっとして、これ…ポルカ達以外、誰もいなくない?生き残り」

 

 

「だよね、音しないもんねっ!……

 

よっしゃぁあああ!!ねね達がチャンピオンだぁああああ!!!

 

 

「うわっうるさ!てかチャンピオンって、さっきからねねだけ三人一組のFPSやってない?全くノリについていけないんだが!?」

 

 

「二人とも騒ぎすぎだってー。残ったのがここに居るあたし達三人って決まった訳じゃないんだからさ」

 

 

 

そう二人を諫めながらもあたしは内心確信していた。

今回のバトルロワイヤル、生き残ったのはあたし・おまるん・ねねちゃんの三人(・・)だと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三人じゃなくて、四人だよ

 

 

 

 

「「「―――ッ!!!」」」

 

 

 

三人揃って一斉に振り返る。

気のせいなんかじゃない。声は確かに聞こえた……大穴が空いた壁の向こうから(・・・・・・・・・・・・・)、はっきりと。

 

 

時刻はまだ午前中。窓から陽光が差し明るい筈の隣の教室は何故か酷く薄暗く、まるで月が見えない丑三つ時の様に真っ暗だった。

コツ、コツ、と床を叩くブーツの鳴き声があたし達のほうへ近づいてくる。

 

 

 

「より正確に言うなら四人以上、かな?フィールド全体に中の音を遮断するエリアがいくつかあったから、そこにも何人かいると思うよ?それにしても、学生同士の催し物の割には凄く凝ってるよねぇ。…そうだっ、次のバトルロワイヤルは色んなギミックを味わいながら回ってみようかな?」

 

 

 

(コンクリの壁に大穴空ける技モロに喰らっといて、何で歩ける……!?冗談キツイっての…!)

 

 

 

暗闇から姿を現したのは、教室に奇襲をかけてきた時よりも一層ボロボロとなったクロエだった。頭は血濡れで口からは夥しい量の血が流れた痕が…ねねちゃんが最後に打ち込んだ技で内臓が傷ついたんだ。あんな量の血を吐くなんてとても歩けるような軽い怪我じゃない、今すぐに治療が必要なレベルの重症…なのに、なんで……

 

 

 

なんで笑ってられる(・・・・・・・・・)…!?

 

 

 

クロエは、あたしと中庭で顔を合わせた時と同じように笑っていた。

楽しそうに、愉しそうに、目を細めながらにんまりと、笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

……すっっごぉーい!クロちー、今の耐えれんの!?うわー、ねねの技喰らって起き上がった人初めて見たぁ…んんー何でだろ、よく分かんないけどちょっとうれしい(・・・・・・・・)…!

 

 

 

……ん?

何か今、緊迫した空気にそぐわない超絶能天気な声が横から聞こえた気がすんだけど。

ゆっくりと顔を向けると、そこには目をキラキラと輝かせて興奮した様子のねねちゃんがいた。

 

 

これは、うん。あれだね。なんか既視感あると思ったらあたしのFive-seven見た時と似たリアクションだわ。すっごい嬉しそう…何ならさっきあたしとおまるんに見せてくれた笑顔よりも輝いて見えるわ……

なんで今日イチの笑顔ここで見せっかなぁ…!頼むねねちゃん、これ以上クロエを刺激するような事言わずにじっとしてて!何がクロエの癪に障るか分かんないこの状況は危険過ぎ―

 

 

 

ガシッ

 

 

 

一瞬。そう、一瞬だ。

あたしが一度瞬きをした一瞬…その刹那の合間にクロエはねねちゃんの目の前で顔を突き合わせていた。

 

 

 

ねぇ、今うれしいって言った?言ったでしょ?言ったよね?ねぇ

 

 

「な…ッ!?逃げろ、ねねッ!」

 

 

 

クロエの接近に気付いたおまるんがナイフを投げようと懐に手を入れ、その数瞬後に気付いたあたしもFive-sevenに手を掛ける…が、遅かった。

 

 

クロエは目が眩む様な速さでねねちゃんの両手を包み込むように掴み、更に顔を近づけ…

 

 

 

 

 

すっっっごいわかるよその気持ちっ!そうだよねっ自分の力を受け止めてくれる人が現れたら心が躍るよねっ嬉しくなるよねっ!どこまで本気を出して良いのかなって、ワクワクするよねっ!!!

 

 

ッ!そうそう、それそれ!ねねが言いたかったやつ、それだよクロちー!えっやば、なんで分かったの!?天才!?エスパー!?

 

 

ふふっ分かるに決まってるよ…拳、いや脚を交えた時から薄々感じてたんだぁ。ねねちゃんは私と同類だって…同じ悩みを持つ、仲間だって!

 

 

うおぉ…すっげぇ…これはもうあれだね、ねねとクロちーはここで出会う運命だったんだ…えっと、運命って何だっけ……そうっジャスティス!ジャスティスだよ!

 

 

 

 

「「…は?」」

 

 

 

間の抜けた様な声をおまるんと一緒に口にしていた。

…いや、いやいやいや。そうはならんやろ。何がどうしたらそうなんの?一瞬走ったシリアスな空気を返してよお二人さん…。めっちゃ意気投合して話してるし、実は相性良かったとか?意外な組み合わせだなぁ…

 

 

 

なん…だと…?まさかねねの全力のテンションについていける奴がいるなんて…アイツ、何者だ…!?

 

 

「おおーい落ち着けおまるん。混乱しすぎてツッコミのノリが某OSR漫画みたいになってるよ」

 

 

 

おまるんはおまるんでおかしくなってるし…もういいや。あの様子ならクロエと戦闘することにはならなそうだし放置でいいか…転送されるまで座っとこ。

 

 

…あー、しんど……毒気を抜かれたっていうか何て言うか…一気に疲れが押し寄せてきた感じだなぁ…アイテテッ肋の痛みもぶり返してきたし…転送、早くしてくんないかな……

 

 

 

そうぼやいていると、突然ねねちゃんとおまるんの身体が光に包まれていった。いいね、ナイスタイミング。日頃の行いが良いからだろうなぁ。サンキュ神様、貸し1ね?

 

 

 

「おっ転送だ!それじゃあ先に行くねおまるん、ししろん、クロちー!…あっそうだ!クロちー約束!ねね達が勝ったから(・・・・・・・・・)、あの蹴り技教えて!」

 

 

「うん、もちろん。放課後時間が空いたら教えて?すぐに跳んでいくから(・・・・・・・・・・)

 

 

「りょうかーい!それじゃあ、またねねー!」

 

 

 

『ねね達の勝ち』、か……

あたし達は三人がかりとはいえ連携を組んでなんとかクロエのダウンを奪えた。でも…仕留めきれなかった…。バトルロワイヤルのルールで考えると相手を倒すか降参させて初めて勝利したって事になる筈だ。

 

 

確かにあたし達はクロエを追いつめて、打倒一歩手前くらいには持って行けたかもしれない。意表を突いて、行動を封じて、致命的な一撃を叩き込んで……そこまでやっても結局クロエは倒せなかった。

 

 

果たしてそれは、本当に勝ったと言えるんだろうか。

 

 

 

(はぁー……思ったよりも高いなぁ。超えるべき壁は)

 

 

 

机に肘をついて項垂れていると、視界に影が差す。

首を向けると、すぐ横にクロエが柔らかな笑みを浮かべてあたしを見下ろしながら佇んでいる。

 

 

あれだけ流れていた血は、初めから無かったかの様にピタリと止まっていた。

 

 

 

「…おまるんは?もう転送された?」

 

 

「うん。あ、そういえば転送される前に何か呟いてたなぁ。確か…『剣は片手で振るよりも両手で振るう方が強いんだ』とかなんとか…私はちょっと分からなかったんだけど、ぼたんは何の事か分かる?」

 

 

「あぁ~…いや、気にしなくていいよ。おまるんはちょっとOSRの波動に目覚めただけだから、明日には元に戻ってると思うよ?」

 

 

「オサレ…?そこはかとなく気になるけど、ぼたんが言うならそうするね。……あぁ、ドレスが血でべっとり…またおばあさまに仕立ててもらわないと…」

 

 

「血……そういえば何て言ったっけ、クロエの…奈落なんちゃら?便利だよねぇ。そうやって止血にも使えるんだ」

 

 

「奈落迷彩の事?そうだねぇ、確かに便利だけど…普段傷つかない様な場所の修繕には結構時間が掛かるっていう欠点もあるの。だから内臓周りとかの滅多に傷つかない部位はかなり時間かかっちゃったんだぁ。…そういえば、最後にお腹の中を治したのっていつだろう…5年?いや、もっと前…狩人になる前かな(・・・・・・・・)

 

 

「5年以上前…?ちょっと待って、じゃあもしかしてクロエって、少なくとも5年間ほぼ無傷で狩人として活動し続けたって事…?」

 

 

「無傷なのは胴体と頭部だけ、ね?その代わり手足とかはよく潰れたり千切れたりしたよ?そのお陰で手足に限定すれば(・・・・・・・・)すぐに治せるようになったんだぁ。怪我の功名って言うんでしょ?こういうの」

 

 

 

…意外だった。奈落迷彩っていう便利な能力があるんだから、もっと強引に…それこそ腹に風穴空けても気にせず特攻してるイメージあったんだけど…まぁそれは流石に【宵狩り】の悪名に引っ張られ過ぎかな?……クロエなら大鎌振り回しながら突っ込んでも、正直全然違和感ないけど…

 

 

…ん、あれ?さっきさらっと流したけど…最後に内臓周り治したのは狩人になる前って言わなかった?狩人の依頼を受け始めた後よりそれ以前の方が大怪我してたって、普通逆だと思うんだけど…どんな環境で育ったのさクロエ。

 

 

それにしても…5年以上前、ねぇ。

普段化け物やら凶悪犯相手にしてもほぼ無傷だったクロエ相手に一矢報いたって考えれば…意外と

 

 

 

「ふふっそうだねぇ。もっと自信つけてもいいと思うよ?ぼたん」

 

 

「…ッ!あー、ごめん。もしかして口に出てたり…?」

 

 

「ううん、戦いの後のぼたんがちょっと落ち込んでる様に見えたから、鎌をかけてみたの。三対一で私を倒せなかった事、変に気にしてるのかなぁって。どう?当たってる?」

 

 

「…はぁ~、参ったね。あたし、そんなに分かりやすかった?あんま顔には出ないタイプって思ってたんだけど」

 

 

「ふふっ!人の感情や思いっていうのはね、表情以外にも目線や仕草、呼吸の深さでもある程度分かるんだよ、ぼたん。まぁ、全部おばあさまの受け売りだけど…あっ、そろそろだね」

 

 

 

クロエそう言うとあたし達の身体が足元から光に包まれていく。

ゆっりと転送が始まり、光が徐々に頭へとせり上がってくる。

 

 

その途中、おもむろにクロエが言葉を紡いだ。

 

 

 

「誇るといいよ、ぼたん。【宵狩り】の名を冠する私をここまで追いつめたのはぼたんで3人目(・・・・・・・)。悍ましい異形や傲慢な魔族には届かなかった私の腸に、深い爪痕を残してみせた。他の有象無象には出来ない事を、ぼたんは成し遂げたの」

 

 

「―――」

 

 

「たとえ他の人の力を借りた上での結果だとしても。たとえ決定打を放ったのが自分ではなかったとしても。この結末はぼたん自身が手繰り寄せたもの。縁と縁を結び付けてねねとポルカを引き寄せるきっかけを作ったのは、他でもない貴女だよ、ぼたん。ぼたんが身を挺してポルカを助ける優しさを持っていたから二人は応えてくれた…ぼたんがいたから、私をここまで追いつめることが出来たんだよ。だから……もっと胸を張って?」

 

 

 

…声も出ないっていうのは正にこういう事を言うんだろうね。

あの【宵狩り】からまさか励まされる日が来るなんて、夢にも思わなかったよ。ははっ人生何が起きるか分かんないもんだね~…

 

 

けど、うん…何て言うか……うぁー、認めなくないけどっ…クロエの言葉で気が晴れたっていうのも、確かな訳で…

 

 

 

…ありがと

 

 

「ふふっどういたしまして♡」

 

 

 

せめてもの抵抗って訳じゃないけど。

今のあたしには顔を背けながら小さく礼を言う事しか出来なかった。

 

 

……だあぁーーーもうっ気恥ずかしいなぁ…!顔赤くなってないか、あたし!?気づかれて、ないよね…?

 

 

そうやって一人悶えていると、クロエの方が僅かに転送が早かったのか、一際強い光を放ち始める。そして転送が完了する直前

 

 

 

「あっ、そうそう。最後に一つだけ。もしぼたんが後になって今日の結果に納得できない、一人で私に勝ちたいってなったら、いつでも来てね?その時は

 

 

 

 

 

正々堂々、サシでやろうね♡

 

 

 

そう言い残し、消えていった。

 

 

 

「はっ…焚きつけんのが上手いねー……ぜってー追い付いてやる

 

 

バトルロワイヤルで生き残ることは出来た。でも、現状で満足はしない。

目標は見えた。超えるべき壁の高さも知れた。なら後は、その先を目指してひた走るだけ。

 

 

打倒クロエ…やってやろうじゃん。

 

 

決意を新たに、心に火が灯る感覚を覚えたと同時に光が全身を包み…跳んだ。












おまけという名の没ネタ紹介コーナー


・しょうもない理由でダメージを喰らうクロエちゃん



ポ「お前入学案内読んでないの!?しかも準備も親にやってもらっただぁ!?」

ね「普通そんなの読まないって!読んだとしてもねねパパーッて一気にページ捲るから覚えられないよ!」

ポ「変な所で威張るな!ったく、新入生で読んでないのお前くらいじゃないのか?」

ク(机の下で修復中)「(うぅ…耳が痛い…痛いよぉ…)」


没理由:よく考えたらクロエちゃんはそんな事で傷つくようなメンタルしてないなと気付いたから。当たり前だよなぁ?





・オサレポエムbotと化したポルカ



ポ「剣を握らなければおまえを守れない。剣を握ったままではおまえを抱き締められない」

ク「…」

ポ「錆びつけば二度と突き立てられず。掴み損なえば我が身を裂く。 そう、誇りとは刃に似ている」

ク「…」

ポ「僕は、ついてゆけるだろうか。君のいない世界のスピードに」

ク「(なんて素敵なポエム…ずっと聞いてられそう…)」


没理由:本編でやるにはギャグ色が強すぎるから。仕方ないね




はい、と言う訳でバトルロワイヤル編終了です。まさか導入含めて7話も使うことになるとは…やっぱりちゃんとプロット組むのは大事なんやなって。

本来の予定だとねぽぼ組戦の後にあと2回戦う予定だったんですが、この調子じゃバトロワ編書いてる途中で年跨ぐなって思い断念。次回以降に持ち越すことにしました。妥協も時には大事ですたい。

それと週一投稿サボってすまぬ…すまぬ…。GC版PSOのレア堀にハマってしまったばっかりに…で、でも俺は悪くねぇ!高Hitチェインソードをドロップしないバルマーが悪いんだ!俺は悪くねぇ!(責任転嫁)


じゃあ俺、アルティメット悪魔の食物周回するから…
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