ホロライブラバーズ ~難易度【オーディション】を脳筋でクリアしたい実況~    作:てらバイト

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はぁ、楽しかった…ノエル達と会えなかったのは残念だけど、また次があるよね……いいなぁ楽しみだなぁ、幸せだなぁわたし…!


…偶にはハザマさんにお土産でも買っていこうかな。いつもお世話になってるし、何よりとっても気分が良いものっ!ふふっ喜んでくれるかなぁ?


幕間:暗中蛇影

時は遡り、絶体絶命の状況から逃げ果せたぼたんを追ってクロエが第一校舎へと足を向けた頃。バトルロワイヤルが行われている学園の地下に広がるだだっ広い空間を、とある一人の男が歩いていた。

 

 

そこは学園が授業に使う道具や備品、又は購買で取り扱う食品等の荷物を滞り無く運び込む為に作られた資材搬入用地下通路。本来ならば運搬トラックが行き来する為のものでありそれ以外の用途で利用するのは禁止されている。言うまでも無く学園外へ出る為の通路目的で使用するなど以ての外だ。

が、男はそんなルールは知らぬ存ぜぬと言わんばかりに悠然と学園の外へ向かっていた。その歩みには一切の迷いが無く、まるで傍若無人とは斯くあるべしと周囲に知らしめる様な振る舞いであった。

 

 

 

「案外すんなり行けましたねぇ。想定を遥かに下回る警備の薄さ……いやぁ、平和ボケしてますね~、お蔭で仕事が捗る捗る!」

 

 

 

コツ、コツと革靴が地面を鳴らす音が静かに反響する。

スーツの男は誰かと通話でもしているのか、独り言にしては過剰な声量で饒舌に語る。自身の仕事が想像よりも早く片付いたからか、僅かではあるが声に明るさを滲ませていた。

 

 

徐にポケットから小型記憶媒体を取り出し何の感慨も無さげにそれを眺める。

男が口にした仕事…それは学園が秘密裏に管理しているとあるデータの入手(・・・・・・・・・)。そう、この小さなメモリのデータこそが学園に忍び込んだ男の目的であり成果である。

 

 

バトルロワイヤルが行われ普段よりも警備が手薄な頃合いを見計らい誰にも見つかることなく学園に侵入した男は、ついでにもう一つの用事(・・・・・・・)を済ませながら学園内を我が物顔で練り歩き難なくデータの抜き取りを成功させた。

 

 

男は内心拍子抜けしていた。

事前に侵入ルートの下見や学園内の構造把握、監視カメラの位置確認を済ませていたとはいえ呆気なく目的を達成出来た事で逆に罠の可能性を疑い始めた男だったが、“仕事が早く終わるに越した事は無い”と気持ちを切り替え退散。現在は地下通路で悠々と帰路に着く最中であった。

 

 

 

「欲しかったデータも無事手に入った事ですし一安心、と言ったところでしょうか。…やはりここの教職員は優秀だ。狩人界隈の情報網では手に入らなかった情報を迅速に、且つ精度の高いモノを正確に収集して見せた。いや~実に良い仕事をする!」

 

 

 

学園の情報収集能力の高さを賞賛する男。しかしにこやかな表情の中には隠し切れない…否、隠す気の無い侮蔑と嘲りの色が浮かんでいた。

 

 

 

「ま、警備の方は余りにもお粗末でしたが……えぇ、御尤も。だからこそ私が楽を出来たと考えれば逆に感謝したいくらいですねぇ。是非今後も杜撰な警戒を徹底して頂きたいものです」

 

 

 

皮肉を交えながら上機嫌に語る男は「あ、そうそう」と、何かを思い出した様に話題を変える。内容は…片手間に終わらせたもう一つの用事について。

 

 

 

「あなたが離れている間に確認しておきましたよ、クロエさんの戦闘(・・・・・・・・)…え?いやぁ、流石に負けてはいませんでしたよ。私が見ている間は、と但し書きは付きますが」

 

 

 

もう一つの用事とは、クロエ.A.ラブラックのバトルロワイヤルにおける戦闘内容及びその戦果の確認。

元々時間があれば見ておこう程度の算段だったが、校舎内への侵入が予定よりもスムーズに行われ時間に余裕が出来た男はクロエが行った二度の戦闘(・・・・・)の一部始終を俯瞰的に観察した。その上で現時点におけるクロエの…立場上弟子に当たる少女(・・・・・・・・・・・)の評価を忌憚なく述べた。

 

 

 

「そうですねぇ…“器”としては十分合格点だと思いますよ?やはりあの超人的肉体と術式適正は捨てがたい。先日のじゃれ合いの時に釘を刺していた技の振り方や見極めも改善されてましたし。……くくっ、やはり躾け(・・)には相応の痛みが必要ってことでしょう。クロエさんの様なじゃじゃ馬には特に、ね」

 

 

 

男―ハザマは普段からしている胡散臭い笑みをより一層深く、愉しそうにしながらクロエの評価を下す。

仮とはいえ弟子の事を凶暴な獣の様に揶揄するハザマ。しかし、この場にハザマの意見に対し苦言を呈する第三者が居る筈もなく。がらんどうな地下通路の中でハザマの愉悦に満ちた声だけが木霊した。

 

 

 

「後はあの慢心癖が治ってくれたらいいんですけどねぇ……えぇ、お察しの通り油断して格下に一杯喰わされてまして。最後は相手を空高く蹴り上げてたので倒したとは思いますが……ま、そもそも油断するなって話なんですけどね……はぁ、やはり脳筋は扱いが難しい。一つ覚えたと思ったら別の何かが出来なくなる。キリがないったらありゃしない」

 

 

 

何度言い聞かせても悪癖が治らない弟子(暫定)の未熟を憂い嘆息するハザマだったが、出口まで残り50mといった所で不意に足を止めた。

目に映るのは何の変哲もない地面と床、天井の照明、そして外へ通じる扉が一つ。取り立てておかしな部分は見られない有り触れた構造のそれらを、ハザマは胡乱げな視線でじっと見つめた。狡猾な蛇の様な双眸で目に映る光景を熟視…そして、溜息を一つ。

 

 

それは、億劫と嫌気が存分に籠められた陰鬱な溜息。

避けられない戦いの予兆(・・・・・・・・・・・)を感じ取ったハザマは、うんざりした面持ちで吐き捨てた

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほんっとうに優秀だなぁ……邪魔くさくて反吐が出る」

 

 

 

直後、光が満ちる。

見た者の網膜を真っ白に染める閃光は通路一帯を包み込み、瞬く間にハザマを飲み込んだ。反射的に顔を背けてしまう眼を刺す様な強い光を前に、ハザマは七面倒そうに顔を歪めながら光が収まるのを待つ。

 

 

クロエさんならこの光だけでアウトですねぇ…折を見て試してみましょうか。

そんな益体も無い思考で時間を潰していると、やがて光が弱まり瞼の裏に焼き付いた白い膜が薄れていく。そしてゆっくりと目を眇めたハザマの視界に映ったのは…桃色の何か。

ひらひらと舞う何かはまるで祝い事の際に使う桃色の紙吹雪のようで。しかし肩に付いたそれを手に取ったハザマはすぐに別物であると気付く。これは…桜の花弁だと。

 

 

 

目が眩んでいるとはいえ、まさか紙と花を見間違えるとはね。

喉奥で押し殺す様に笑ったハザマが辺りを見回すと、こちらを見下ろすように聳え立つ巨大な鳥居、巫女が奉納の神楽を舞う神楽殿、やけにデフォルメされて犬の様にも猫の様にも見える狛犬の様な何か(・・・・・・・)、そして奥には歴史を感じさせる荘厳な拝殿が鎮座していた。風が戦ぐ音だけの静謐な空間の中で、それらは意思を持った生物の如くハザマに敵意と威圧感を放っており周囲には剣吞な雰囲気が漂っている。

 

 

今まで年齢性別種族問わず蛇蝎の如く嫌われてきたハザマは、物に嫌われるという奇妙な事態に直面しようとも動じることはせず、何食わぬ顔で飄々と笑った。

 

 

 

嫌われることには慣れている。

今更物風情に煙たがられるから何だというのか。

 

 

 

「そちらから引きずり込んでおいてその対応は無いでしょう…粗茶の一つや二つ出してくれてもバチは当たりませんよ~?」

 

 

 

戯ける様に声を発せど、返す声の沙汰は無く。

やれやれとわざとらしく首を振るハザマは、その実ここがどの様な場所なのか既に見当を付けていた。それもその筈、ヒントはそこら中にあったのだから。

 

 

ここまでお膳立てされれば、余程の無知蒙昧でなければここがどのような場所か察せられるというもの。自分が跳ばされたのは何処かしらの神社の境内という事に気付いたハザマであったが、境内のとある一点を凝視しながら訝しげな表情で腕を組みその場から一歩も動こうとはしなかった。何故なら…ハザマの記憶の中にこのような神社は現実に存在していないからだ。

 

 

ハザマが真っ先に疑問を抱いたのは珍妙な形状の狛犬…ではなく、桜の木(・・・)であった。

実際に桜が植えてある神社は存在しているものの、その多くは鳥居の前に、或いは参道の両脇に数本ある程度。そしてそのどれもが一般的な大きさの域を出ないものである。

 

 

しかしハザマが先程から注視しているのは拝殿の両側にあり、その二本共が拝殿よりもでかい(・・・・・・・・)巨大な桜。樹齢1500年を超すもので漸く10mの高さになると考えれば、歴史ある拝殿が霞む程の大きさの桜がどれだけ異質かは最早言うまでもない。

 

 

故にハザマがこの非現実的な境内を作られたものだと断定し、この規模の空想世界(・・・・)を作り上げた術者の才覚と技量に一握りの感心を抱くのと同時に。

あまりに非効率な術の使い方に対し茫然自失の念を向けてしまうのは無理からぬ話であった。

 

 

 

幻想を空想する事なかれ…“空想顕現術”において初歩とも言えるルールをこれ程の“管理者”が破るとは……あの巨大な桜にどんな思い入れがあるかは知りませんが、創作物でしか出てこない様な大きさの木を二本だ、莫大な体力消費は避けられない。リスクリターンが嚙み合っていない事は明白だ」

 

 

 

空想顕現術。

自らが思い浮かべた理想の空間を創造し現実世界に顕現させる術。作り出した空間に特殊な能力を付与することが可能な術で、熟達すれば空間内の味方とそれ以外とで付与させる能力を変化させる事も出来る。強力無比な空間を自在に操る点と扱える者が極少数な事からこの術の使い手は“管理者”と呼ばれ、殊集団戦に於いては無類の強さを発揮する…しかしその反面、顕現中は体力と精神力を大きく消費するというデメリットが存在し、その消費量は空間内に存在する生物、物質が現実離れしたものである程増大する。

 

 

ハザマが口にしたルールとは正にこのデメリットに起因するものだ。

幻想を空想する事なかれ…『己が理想を追い胡蝶之夢が過ぎれば、必ず己の首を絞める事になる』という戒めと警告こそが、この言葉に籠められた真意なのである。

 

 

 

「一応、特別な思い入れがある物ならば顕現時の消費が抑えられる!なーんて説もありましたが、結局は眉唾ものでしたからねぇ。もしそれを承知の上でやっているのであれば…考えられる意図は二つ」

 

 

 

一つ、巨大な桜を創造せざるを得ない理由…桜に関する特殊な制約や縛り(・・)を設けているから

 

 

二つ、消費など度外視で己が理想の空間を作りたかったから

 

 

 

さて、どちらでしょう?

周りには自分以外誰もいない虚構の世界。ハザマは何の気なしに問いかけを零し

 

 

 

 

 

 

 

キヒッ!考えるまでもねぇ、後者だ

 

 

 

即断即答。

何者かが嘲笑混じりの答えを返した。

 

 

 

「くく、意見が合いましたね?いやぁ、私もあんな威厳の欠片も無い(・・・・・・・・)愛嬌全振りの狛犬を見た時点で察してはいましたよ。ここの管理者は随分と自分の欲に素直だなぁと。……しかしながら、この空間は管理者の理想であって空想の産物。空間内に多少風変りな好み(・・・・・・・・)が出る事にまで一々口出しはしませんよ、ええ。何せ私は部外者だ。縁もゆかりも面識も無い相手の事をとやかく言うつもりはございません」

 

 

穏やかなハザマの語りは一見管理者の趣味趣向に理解がある様に聞こえなくも無いが、節々に悪意が散りばめられた言葉の羅列はこの語りをどこかで聞いている管理者を不快にさせるには充分な煽りだった。あとは適当に餌を撒いて獲物が飛びつくのを悠々と待てば良い。

実に単調。あまりに無聊。それでもハザマは、どこまでも愉しそうに笑みを深めた。

 

 

 

くつくつと蛇が揚々に嗤い

 

 

 

ギリリ、と誰かが歯噛みした。

 

 

 

「魔除けの役割を持つ狛犬を自己流に改造するのも、彩の為に桜を植えるのも管理者の自由であり特権だ。リスクを承知でやっているのならば結構、好きにすれば良い……でもね、これだけは言わせて頂きたい」

 

 

 

ハザマはスーツに付着した桜の花弁を鬱陶しそうに払い落とし桜を見上げる。そしてニヤニヤと人を小馬鹿にした顔で臆面もなく言い放った。

 

 

 

 

 

 

「デカければ良いってモノでもないでしょう、度し難い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっきから黙って聞いてればボロカス言いやがってぇ!もう泣いて謝ってもぜってー許してやんないにぇ!!!」

 

 

 

 

さっきまでの静けさは何処へやら。

幼さが残る舌足らずな怒声が空気を震わせた。

 

 

 

 

(ようやくお出ましか。随分と待たせてくれる…)

 

 

 

目当ての人物が漸く姿を見せた事に安堵するハザマ。このまま長時間放置されればどうしてやろうか、と物騒な思考に耽る前に管理者が現れてくれたのはハザマにとっても有難かった。無駄な苛立ちでストレスを抱えるなど御免被る。そう心中で呟き振り返った先には―

 

 

高さ20mを越える鳥居の上、地上から見上げる程の高所にて。仁王立ちをした鮮やかな赤髪の少女が怒りの眼差しでハザマを見下ろしていた。眉を吊り上げ自身の髪色と同じように頬を紅潮させた様は間違いなく怒りに依るものであり、その原因がハザマの口撃である事は誰の目から見ても明らかであった。

 

 

怒り心頭といった様子でフンス、と鼻を鳴らした少女は自分の作り上げた空間にケチを付けた眼下の男に物申す為、危険を承知で姿を見せた。少女とて管理者たる自分が敵の前に姿を見せる事の危険性は重々理解していたが、どうしても自身の中で渦巻く感情の荒波を抑えることが出来なかったのだ。

 

 

何故なら、空想空間とは管理者にとって自身の理想と願望が詰まったかけがえのない宝であるからだ。現実では見れない、作れない、あり得ない物でさえ実現できる夢の様な力。その力を惜しむ事無く作られた空間は、管理者の思いが籠められた理想の世界といっても過言では無いのである。

 

 

自分の力だけで作り上げた、謂わば子供の様な存在。唯一無二の世界。

そんな万感の思いを籠めて作られた我が子を否定されて怒らない親がいるだろうか?

幼い頃から夢見た世界を、努力の末に実現させた理想を否定されて憤りを覚えない者がいるだろうか?

 

 

答えは、少女の表情がはっきりと物語っていた。

 

 

(本当は今すぐあの全身まっくろくろすけをバチボコにしてやりたいけど、まずみこお手製の【電脳桜神社ver3.5】の魅力を教えてやるのが先!みんなでフルボッコにするのは後でもできるにぇ!)

 

 

 

やったるでぇ!と意気込み怒りに燃える巫女服の少女―さくらみこ。

眼下に居る“いい歳して指ぬきグローブとシルバーチェーンを身に着けた厨ニコーデ野郎”にこの空間の美しさと素晴らしさを聞かせてやろうとみこは大きく息を吸い込み、

 

 

 

 

 

「あ、自己紹介は不要です。興味ないので」

 

 

 

 

ガチン

 

 

 

「にぇ?」

 

 

腹部より金属音。

見やると、そこには自身のリボンを咥える鎖の蛇が―

 

 

 

 

 

―蛇皎

 

 

 

「ぎにゃぁあああああああああ!?」

 

 

 

噛ませたウロボロスを思い切り引っ張り自身の後方へ投げ飛ばす。勢いよく空中へ投げ出されたみこは絶叫をあげながら宙を舞い…拝殿に頭から突っ込んだ。

 

 

ドゴシャァ、と何かが潰れる音を聴き届けたハザマの表情に一片の悔いは無く、むしろ何かをやり遂げたような晴れ晴れとした顔だった。

 

 

 

「あなた方の目的は盗まれたデータの奪還、及び侵入者の捕縛でしょう?なら御託は置いといてさっさと始めましょう。時間は有限だ、その方がお互いにとって有益で……って、聞こえてませんかね?もしも~し、まさか今ので死にました~?」

 

 

 

何の反応も返してこないみこにハザマは嘲るように声を掛ける。

その直後、みこを投げ入れた拝殿から返礼代わりの熱線が放たれた。

 

 

油断を狙った一撃をヒラリと避けたハザマは拝殿に意識を向ける。先程まで微塵も感じられなかった複数の気配(・・・・・)が自分に対して敵意を向けているのを感じ取り一人ほくそ笑む。

 

 

 

(全員…ではなく三人(・・・・・・)、と。結構結構、やはり子供相手は楽ですねぇ。非常に御しやすい)

 

 

 

単純であれば尚良い。

そんなハザマの内心を知ってか知らずか、姦しい怒声と共に三人の少女が姿を見せた。

 

 

 

「おいテメー何してくれとんじゃあ!?今のはよぉ、みこがカッコイイ登場から圧倒的エリート巫女っぷりを見せつける流れだったろぉ!何いきなりぶっ飛ばしてくれとんねん!!」

 

「そーだよ、女の子を鎖で乱暴するなんて最低!これ以上みこちが頭打ってもっとポンコツになったらあなた責任取れるの!?」

 

「すいちゃん、それ擁護してる…?まぁ、ボクも概ね同意見だけどさ。同じ生徒会の一員として、仲間の知能低下を黙って見過ごすわけにはいかないんだよね~」

 

 

 

現われたのは変形させた腕を元に戻している眼鏡をかけた茶髪の少女、三人の中で一番背が高くスレンダーな体型の水色の髪が特徴的な少女、そして無傷の状態(・・・・・)で騒いでいる赤髪の巫女、さくらみこの計三人。三人共が一度見たら記憶に残る個性的で特徴のある外見をしており、人の目を惹きつける不思議な魅力を醸し出していた。

 

 

ハザマは三人の戦力分析をしながら時間を稼ごうと会話を試みた。三対一であろうと後れを取ることは無いだろうが、更にもう一人(・・・・)加わるとなると多少面倒と判断した上での選択である。

たかが学生、されど学生。ハザマは逃走中の自分を炙り出した学生の手腕を侮る事はせず、油断無く三人を見据えた。格下と軽んじて足元を掬われるなどたまったものではない。

 

 

 

……というのは建前で。実を言えば本当の理由は別にあるのだが、当然ながら相対する少女たちは知る由も無い。しかしそう難しい事では断じて無く、むしろ深読みすればする程馬鹿を見るような、他愛のないありふれた単純な感情で。そして誰もが一度は抱く人間らしい思い。

 

 

 

誰であれ、自分一人だけが割を食うなど我慢ならないだろう。

とどのつまり、理不尽や不公平に対する叛逆(細やかな反発)である。

 

 

 

―と言う訳で、準備をお願いしますよ―――さん。ずっと影でいるのも飽きたでしょう?(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

苛立った誰かの舌打ちは一瞬で風に溶け、誰の耳にも届く事はなく。

しかしハザマ一人だけが、はっきりと認識していた。

 

 

偶の運動も大事ですよ?

心の中で存分にからかい溜飲を下げたのか、ハザマはいつも通りのにやけ顔で口火を切った。

 

 

 

 

「おや、あの登場は俗に言う“前フリ”なのかと思い遠慮なく投げ飛ばしたのですが…いやぁすみません!まさか成り行き任せの軽挙妄動とは露程も思いませんでした。管理者とは思慮深く常に悠揚迫らぬ落ち着いた印象を持っていたのですが、どうやらその認識を改める必要がありそうだ」

 

 

「…けいきょもうどう?ゆうよう、せまらぬ?……や、やばいで。みこ、あいつが何言ってるか全然わかんない」

 

 

「知識マウント取るのやめろ糸目野郎ー!みこちがそんな難しい言葉知ってる訳ないでしょ!で、さっきの言葉ってどういう意味?誉め言葉?

 

 

「えぇー、そこでボクに振るー?う~んそうだなぁ、簡単に言うと…めちゃくちゃ煽られてるよ、みこち

 

 

は?

 

……あーもうみこ怒ったよ、完全にキレた。35Pのデザイン馬鹿にした事も、みこの大事な桜を否定した事も、みこを思いっきりぶん投げたのも!全部ひっくるめてお返ししてやるにぇ!往生しろや糸目毒舌厨ニ不審者!!

 

 

「本当の事を言われただけ何もそこまで怒らなくても……やれやれ、最近の若者がすぐキレるっていうのは本当のようですねぇ。まるで幼児だ」

 

 

この世界の主たる管理者の怒りに呼応する様に風が吹き荒れ、桃色の花弁が更に広範囲に散っていく。学友と共に声を荒げていた時とは比べ物にならないプレッシャーがみこの身体から溢れているのを肌で感じたハザマは腐っても管理者か、とみこの評価を改めた。

 

 

…さて、そろそろいいでしょう。

準備は整った。ハザマは頃合いを見計らい、仕上げとして未だコソコソと隠れているもう一匹を盤上に誘き出そうと桜の木へと呼び掛けた。

 

 

 

「さて、もう始めますか?ではその前に……そこな獣人さん!居眠りしてる所恐縮ですが、そろそろ戦うそうなので降りてきては如何です?

 

 

 

「「「ッ!?」」」

 

 

 

「…にぇ?」

 

 

 

みこを除いた全員が驚愕に目を見開き顔を強張らせる。

静まり返った空気の中、観念したのか人間大の黒い影が桜から勢いよく躍り出た。

 

 

 

「ウチ、隠形には自信あったんだけどなぁ……こんなに早くバレるなんて思わなかったよ。あと、寝てないからね?」

 

ミオちゃん!?い、いつみこの空間に入って…あれ、知らなかったのみこだけぇ!?)

 

 

花弁と共に舞い降りたのは、刀を携えた黒い獣人の少女、大神ミオであった。

姿と気配を消した自分をあっさりと見つけた男を前に、ミオは警戒を強めながら油断なく身構える。

 

 

 

「そう気を落とさずに。あなたの隠形はよく出来ていましたよ?姿はしっかりと消えていたし気配も丁寧に散らしていた。素晴らしい、実に見事な腕前です!若い美空にしては(・・・・・・・・)、ね」

 

 

「なーんか引っかかる言い方だなぁ…それなら、あなたはどうやってウチの居場所を掴んだの?獣人だって事も見抜いてた様だけど…隠形はしっかり出来てたんだよね?」

 

 

隠形だけでなく自身の種族さえも看破した男に対し、ミオはダメもとで疑問を投げる。

しかしミオの予想を裏切る形で、ハザマは誤魔化すでもなくあっさりと答えを返した。

 

 

「気になりますか?ではお教えしましょう。答えは…あなたが獣人であり、狼だからですよ

 

 

「獣人…?狼、だから…?」

 

 

「ええ…私の古い知り合いに狼男が居ましてね?その男とは元々仲は良好ではなかったのですが、意見の相違やお互いの意向の衝突が何度も起きた結果、最終的に顔を見合わせる度に殺し合う関係になりまして。それからというもの、皮肉な事に少しばかり匂い(・・)に敏感になってしまったんですよ~!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの老い耄れを思い出させる様な獣の匂いにね

 

 

 

………ッッ!?…初対面の人にこんなこと言いたくないけど…ウチあなたとは仲良くなれそうにないかも…!」

 

 

「おや、気が合いますねぇ!こちらとしても躾のなってない子犬(・・)の相手は願い下げなので、どうかそのまま消えてくれると助かります。視界に入るだけで肌が栗立つんですよ、あなた」

 

 

突如苛立ちを露わにした男の豹変具合と身も凍るような鋭利な殺気を受け、ミオは思わず身震いするも何とか食いしばりその場で踏み止まる事に成功する。しかしその表情に余裕はまるで無く、それどころか何かに恐怖している怯えの色が垣間見えた。

 

 

 

「どうしたの、ミオ?何か顔色悪いけど大丈夫…?具合悪いならボクたちでやるから無理しなくてもいいんだよー?あの超失礼な真っ黒糸目はミオの分までボコボコにしておくからさ」

 

 

「そうだよミオちゃん。あんな季節感ゼロの指ぬき糸目、三人で充分だから!元々生徒会だけの案件(・・・・・・・・)なんだし無茶しなくてもいいって!」

 

 

 

ミオの様子がおかしい事に気付いた二人、ロボ子と星街すいせいはミオに無理せず下がれと声を掛けるが、当のミオに二人の声は全く届いておらず。まるで得体の知れない化け物を見てしまったかの様な顔面蒼白の面持ちでハザマを見ていた。何故か?

 

 

 

敵の殺気に中てられ身が竦んだから?否。

 

 

対峙した時点で彼我の実力差に気が付いたから?否。

 

 

 

 

ミオは気付いてしまったのだ。

まるで生物としての在り方を冒涜する様な作りをした、この男の異常性に。

 

 

 

(遠目で見てた時から不気味に感じてたけど、近くで見たらよく分かる…獣人の話をした途端、中にもう一人増えた(・・・・・・・・)……!コイツ、普通じゃない……なんで、なんで一つの身体から二人分の気配がするの!?

 

 

一つの身体に二つの魂。

ミオが気づいたハザマの異常性とは、全く別の二つの魂が一つの器の中で共存している事であった。それは幼少期のトラウマや強いストレスによって新たな人格を形成する解離性同一症とは似て非なる物であり、全くの別物だ。ミオはそれに気づいてしまったが為に動揺を禁じ得ないのである。

 

 

本来、ハザマの様な状態は例え天地がひっくり返っても起こり得ない。何故なら魂とは波長が合わない別の器―他者の肉体等に移そうとするだけで強い拒絶反応を示し、定着するどころか器に入れることすら儘ならない非常に繊細なものだからである。

 

 

もし仮にハザマと同じ状態を再現しようと二つの魂を強引に一つにまとめた場合、二つの魂同士が反発し合いもう一方が消えるまで互いを攻撃し続けることだろう。その時生じる器と魂へのダメージは非常に深刻で、最悪の場合身体の内側から食い破られる様な痛みと肉体が崩壊していく恐怖を味わいながら消滅していく事となるだろう。それ程までに魂とは繊細で扱いが難しく、肉体という器との繋がりが密接且つ重要なエネルギーなのである。

 

 

故に、魂同士の共存は生じ得ない。それは呪術を学び魂の仕組みについて理解が深いミオにとっての常識であり、かねてより呪術を扱う者へ伝えられてきた不変の道理であった……この男が現れるまでは。

 

 

ガラガラと自身の常識が崩れる音がする。

理解の範疇を越えた存在にミオは錯覚だ、信じないと即座に何かの間違いだと否定する。しかしいくら在りえないと頭が理解を拒もうとも、己の鋭敏な感覚器官は残酷なまでに事実を突きつけてくる。目を逸らすなと訴えている。今すぐ逃げろと本能が叫んでいる!(・・・・・・・・・・・・・・・)

ミオは本能の悲痛な叫びに抗う事なく後退る…直前、瞬時に足を石畳に叩きつけ踏み止まった。

 

 

 

 

大神ミオの心は、折れる寸前で持ち堪えた。

 

 

 

 

(……違うッ!ウチ達が今すべきなのは尻尾を巻いて逃げることじゃない、増援が来るまで持ち堪えること。多分だけど、侵入者騒ぎでバトロワが中断になっても応援が来るまでまだ時間が掛かる。だからそれまで……ここで耐え凌ぐ!)

 

 

静かに息を整える。迷いは、とうに消えていた。

 

 

 

「大丈夫、ウチもやる…いや、やらなきゃダメなんだよ(・・・・・・・・・・・)。さっきから妙に胸の奥が騒めいてさ、抑えようとしても煩くて堪らないんだ…きっとね、ウチの魂はこう言ってると思うんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

“コイツラ”は野放しにしちゃいけないってさぁ!

 

 

 

只ならぬ気迫と真剣味を帯びたミオの突然の発破により瞬時に意識を戦闘用に切り替えた

三人は、温厚で優しく包容力のあるミオのいつになく本気で余裕の無い表情を見たことで悟る。目の前の男は四人がかりで相手取らなくては勝てない難敵であると。

 

 

そこから先は、正に一瞬だった。

 

 

 

「…手加減無用って事だね?おっけ~、それじゃあ始めっから全力でいくよ~?」

 

 

―リミッター解除

 

 

 

ロボ子が自身に掛けられているリミッターのロックを外し、容赦なく敵を殲滅する戦闘モードへ移行し

 

 

 

「お、ロボ子さん初っ端から飛ばすねー。ならすいちゃんも流れに乗っちゃおうかなー…?よしっみこち、ステージとマイクのセッティングお願いね!」

 

 

―ミュージック……スタート!

 

 

 

すいせいが指を鳴らし、辺りに軽快でポップな音楽を流し仲間のボルテージを高め

 

 

 

「も~すいちゃんは相変わらずみこ使いが荒いにぇ…しゃ~にぇえ、エリートみこの本気、見せたるでぇ!」

 

 

―空想顕現・共鳴想起『(えにし)

 

 

 

みこがすいせいの歌唱効果を高めるステージセットを瞬く間に顕現させ、相棒である狛犬を呼び寄せた。

 

 

あっという間に戦闘準備を整えた頼もしい仲間達に感謝しつつ、ミオは目の前の敵に集中する。ここから先は一瞬の気の緩みが命取りとなる事は火を見るよりも明らかであるからだ。

 

 

 

 

「一応聞くけど、投降する気は無い?そっちは一人でこっちは四人。どう考えてもそっちが圧倒的に不利だよ?それでも、やる?」

 

 

「…これは異なことをおっしゃる。質問を質問で返すようでなんですが、あなたは自分より年下の子供とじゃれ合った時に命の危険を感じるのですか?もしそうだとしたら見下げ果てた臆病さだ、一周回って尊敬に値する。

……あぁそうだ、始める前に一つ訂正をしておきましょうか。あなたは今四対一と言いましたがそれは誤りです。正しくは…四対二(・・・)だ」

 

 

 

 

その刹那、影が揺らめく。

ハザマの影がまるで意思を持つ様にゆらゆらと独りでに動き出し、形を変える。それは周りにどす黒い瘴気を撒きながら少しづつ人の形を象っていき、その場で沈黙。段々と瘴気が晴れた先には、黄色いローブを羽織った男が立っていた。

 

 

その風貌は隣に立つハザマと見紛う程、瓜二つであり。

ローブの男は気怠げな様子でミオ達を一瞥した後、怫然とハザマを睨んだ。

 

 

あ゛~かったりぃ……おいハザマちゃんよぉ、この俺様の手を煩わせんじゃねぇよ。こんな餓鬼共テメェ一人で片せただろうが」

 

 

「そんな、滅相も無い!私は戦闘専門外の只の元諜報員(・・・・)ですよ?一人で片づけるなんてとてもとても……」

 

 

「ケッよく言うぜ……まぁいい。ここ最近はウザってぇ魔族以外処理(・・)してなかったからなぁ…偶には活きの良いメスガキを足蹴にすんのも悪かねぇ。キヒヒッ!

 

 

「やる気が出たようで何より……あぁ、お待たせしてすみません皆さん!役者も揃った事ですし、早速始めましょうか。時間もあまり無いようですしね?」

 

 

 

まるで陽炎の如く虚空から姿を現した新手に各々が驚愕と警戒を見せ、臨戦態勢を取る。ミオは予想していた中で最も最悪な展開となってしまった事に苦々しく顔を歪め、それでも果敢に抗うべく闘志を、心燃やす。

 

 

 

―何が何でも食い止める…絶対に!

 

 

 

その様子を見た男―テルミは凶悪な笑みを浮かべ、剝き出しの殺気を少女たちに容赦無く叩きつけ凄惨に嗤う。その脳内では、久方ぶりの人型相手を長く楽しむ為にまずどこから壊すか、何秒もつのか。暴力を伴う己の享楽を満たす事しか頭になかった。

 

 

 

―すぐには壊れんじゃねぇぞ?餓鬼共

 

 

身体ごと圧し潰すようなプレッシャーに空間が軋み、唸りを上げる。

それが開戦の合図となった。

 

 

 

 

学園の地下にて、邪悪な蛇と学園生徒の死闘が勃発した。








久しぶりにハザマさん出したら楽しくてつい筆が乗っちゃったんだぜ。
ぶっちゃけクロエちゃん視点書くよりもずっと楽…


話の3分の2以上がハザマさん視点とかこれもう主人公だろ… コンナハズジャナイノニィ!



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