ホロライブラバーズ ~難易度【オーディション】を脳筋でクリアしたい実況~    作:てらバイト

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やれ腹が減っただの、やれもっと食わせろだのと……




最近のゴミは随分と厚かましいですねぇ。廃棄物の分際でよく喋る。


狂気の軛

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰も…いない……?」

 

 

 

現場である使い古された廃墟。明かり一つ無い薄暗くだだっ広い空間の中で、フブキの困惑した声が虚しく反響した。

 

 

 

 

 

 

 

 

時を遡る事およそ数分前。夜の中静かに佇む廃墟が肉眼で捉えられる地点にて三人の獣人…フブキ、ころね、おかゆが息を殺して闇に紛れていた。

 

 

学園侵入者の潜伏先を目の当たりにしながら、すぐさま突入しない理由。

それは、ころねが口にした不可思議な一言に起因していた。

 

 

 

 

「匂いが、混ざってる(・・・・・)……?」

 

 

「おうよ。腐りきったヘドロみたいなのと…死臭?みたいなモンが、あっこからプンプン漂ってる。前来た時はこんな異様な匂いはせんかったのに……うえぇ……」

 

 

「ヘドロに死臭か~。ねぇAちゃん、あの廃墟って今はもう使われてないんじゃなかったっけ?」

 

 

『はい。おかゆさんの言う通り、あの()食品工場は一年程前に閉鎖されています。閉鎖の経緯は省きますが立入禁止になってからは随分と年月が経っているので、ころねさんの言う異臭が食品ロスの類でないのは確かです』

 

 

「そっか~……何だか一気に雲行きが怪しくなってきたね、この件。廃墟から死臭とか、どう考えても普通じゃないもん」

 

 

 

 

ころねが感じ取ったのは、寂れた廃墟には似つかわしくない只ならぬ異臭であった。

ヘドロにせよ死臭にせよ、電気の通っていない僻地から感じ取るにはあまりにも異質な匂い。何かの間違いであってほしいがしかし、ころねの嗅覚がどれ程優れているかを知っている者からすれば、その言葉の持つ正確さを否が応でも感じ取ってしまう。

死臭は間違いなくあの廃墟から漏れ出ている。これは揺るぎない事実であった。

 

 

あの廃墟には、一体何が潜んでいるのだろうか。

閉口した三人の背筋に、冷たい何かが走った。

 

 

 

 

「……それでも、行こう。ころねが嗅いだ異臭が本当だろうと、何かの間違いだろうと。私たちのやる事は変わらない…そうでしょ?」

 

 

 

 

そんな重い沈黙を破ったのは、凛としたフブキの一声だった。

これから向かう先に如何程の脅威が蠢いていたとしても、噎せ返るような悪意が口を開けて待っていたとしても、臆して引き返す訳にはいかない。

 

 

何故なら、ミオ達の仇があそこに居る。復讐に燃えるフブキがあの廃墟に立ち入る理由は、それだけで十二分に達しているのだから。

 

 

そして、その思いを抱いているのはフブキだけではない。犯人の潜伏先の発見に尽力したころねとおかゆの二人も、同じく志を共にしている。フブキの試すような発破に負けじと笑みを返し、先陣を切るフブキと共に廃墟へと歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

そして一行は遂に廃墟まで辿り着き、中への突入を敢行し……冒頭へ至る。

 

 

想像していた景色とは違う光景に、フブキ達は思わず顔を見合わせた。理由は単純、廃墟の内部は人の気配や、何者かが潜伏していた形跡……生活していた痕跡が欠片も存在していなかったのだ。一目でそうだと判断出来る程度には荒廃した世界を前に三人は硬直し、足を止めざるを得なかったのである。

 

 

ここに犯人が居るのではなかったのか?

もし居た(・・)と仮定するとして、誰の目にも触れず廃墟を出入りするなど可能なのか?

そもそも……本当に此処が潜伏先なのか?

 

 

焦りによりフブキの脳内で様々な憶測が飛び交う中、ふとある事に気が付く。

 

 

匂いが、しないのだ。

敷地に近づくにつれて強まっていた匂いが、ころねの言っていた異臭が、確実に薄まっている(・・・・・・・・・)

 

 

すぐさまころねに目配せをすれば、帰ってきたのは首肯。それを受けたフブキは確信する。

潜伏先はここで間違いない(・・・・・・・・・・・・)、という事を。

 

 

何故なら、窓がいくつも割れ外気が入りやすい廃墟にも拘らず外の異臭がまるでしないのは、どう考えても不自然であるからだ。外の匂いを嫌った滞在者が、意図的に消臭でもしなければ成立しない不可思議。

すなわち……この匂いの薄い空間こそが、犯人と思しき人物がこの場に居たという何よりの証拠なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんな夜更けに物見遊山の肝試しですか?非行極まりないですねぇ、まったく」

 

 

 

 

そして、フブキの推理が正解だと言わんばかりに。

通路の奥から見知らぬ男の声(・・・・・・・)が響いた。

 

 

 

 

「「「……ッ!?」」」

 

 

『なっ……ありえない!遠隔とは言え、生体感知をすり抜けるなんて!

 

 

 

 

オペレーターの焦りの声を聞きながら瞬時に身構える。コツ、コツと革靴の音を鳴らしながら三人の前に姿を見せたのは、スーツを身に纏った長身瘦躯の男だった。正体を隠す為か、顔の上半分を覆うように仮面をつけている。

 

 

 

 

「おまけに凶器を携えながら不法侵入ときたものだ……若気の至り、で済ませるレベルじゃあない。これはしかるべき機関に通報せざるを得ませんねぇ」

 

 

「…よく言うよ、通報されて困るのはそっちでしょ」

 

 

「人聞きの悪い。私は生まれてこのかた、犯罪に手を染めた憶えなどありませんが―――」

 

 

「不法侵入、不法滞在、傷害罪に機密情報持ち出しによる窃盗罪。あなたには、これだけの嫌疑がかけられています……下手な抵抗は止めて投降してください」

 

 

 

 

フブキは、根城を突き止められても飄々とした態度を崩さない男に苛立ちながらも投降を勧告した。

 

 

どれだけ私怨のある犯罪者が相手であろうとすぐに斬りかからなかったのは、何もフブキ達が特段我慢強いからではなく、相手が観念して投降するかもしれないという〝みなし”の意味合いが強い。

 

 

投降勧告(それ)で済むのであれば、相手に罪を償う意思があるのであれば、フブキは溜飲を下げるつもりであった。ミオ達の仇討ちを直接下せない事に一抹の不満はあれど、贖罪の念を蔑ろにする程己は修羅に堕ちてはいないのだから。

 

 

ただし、もし相手が真っ当な情緒を持たぬ下種であるならば。

その時は……

 

 

 

 

(この手で、叩き斬る)

 

 

 

 

凄まじい剣気を迸らせ、鯉口を切る。

ひりつく空気を纏ったフブキのその所作は、友の仇の為ならば斬り捨ても辞さないという覚悟の表れであった。無論、ころねとおかゆの二人も口には出さずとも、同じ心持ちで男の返答を待った。

 

 

だからこそ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「傷害?…………あぁ、そういえば学園で四人ほど足蹴にしてましたねぇ。いやぁ、弱すぎて今の今まで忘れていましたよ。ご学友ですか?」

 

 

 

何の感慨も見せず、罪の意識が毛ほども無い男の言葉はフブキの逆鱗を痛烈に逆撫でた。

 

 

 

 

 

「……お前かッ!!!」

 

 

 

刹那、フブキは憤怒と共に斬撃を抜き放つ。

凍てつく氷の刃は空気を引き裂きながら男の下へ直進し、突貫してゆく。

 

 

それは、一度に籠められる魔力の限界を超えて放たれた魔剣。基礎にして奥義たる一太刀。人体の急所たる喉元にでも当たれば、いとも容易く首と胴を泣き別れさせる威力を秘めた一撃である。

無論、喰らえば必殺。掠っただけでも再生困難な凍傷は避けられないフブキ渾身の初太刀は、その勢いを落とすことなく男へ迫り―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天井より飛来した黒いなにか(・・・)に飲まれた。

 

 

 

 

「なっ……」

 

 

『せ、生体感知に反応多数!うそ……こんな数(・・・・)一体どこから……!?』

 

 

 

 

頭の中で鳴り響く聞きなれた声と、工場内一帯を虫が這いずり回るようなザワザワとした奇怪な音がどこか遠くに聴こえる錯覚を覚えながら、フブキは戦況報告に耳を貸さず…もとい聞く暇も無く、ただ自身の斬撃を文字通り食らった(・・・・)なにかから目を離すことが出来なかった。

 

 

避けられるでもなく弾かれるでもなく、攻撃を食べられるという非現実的な現実を前に、脳が今以上の情報処理を拒んだが故の結果であった。

 

 

呆然と立ち尽くすフブキを余所に男はその名状し難い黒いなにかへと軽い調子で話しかけようとし、その様を見てフブキは更に混迷を極めた。

 

 

話しかけるなど…それではまるで、そのなにか(・・・)は意思疎通が可能な生命体のようじゃないか、と。

ありえないと懇願するように、フブキは目の前の現実を否定し思わず一歩後退る。全身に走る嫌な寒気と震えの一切合切、全てを無視しながら。

 

 

しかし、現実はあまりにも非情であった。

フブキのその悍ましい想像を裏付けるかのように、粘状のヘドロのようななにかはぐちゃぐちゃと音を立てながら脈動。内から三つ穴の開いた白い面を浮かび上がらせながら、機械音を思わせる奇声を発した。

 

 

 

 

「なん 、これは。つめ くて、不味 。……足りない、もっと血肉が欲し 。ワレ もっと肉 食らわせ !」

 

 

「不味いって、自分から食いついたんでしょうに。食欲が旺盛過ぎるのも考えものですねぇ、まるで見境が無い……」

 

 

 

 

ドロドロとしたコールタールのような粘液が、そのなにか(・・・)が言葉を発する度に地面へ滴っていく。ノイズ混じりのようなしゃがれた声質と生理的嫌悪を抱かせる見た目に反して喋り口は比較的流暢ではあるものの、その半端な知性を連想させる妙な歪さが却って不気味さを際立たせているようであった。

 

 

そんな人ならざる化生へ呆れた様子で、それも人と接するような調子でヘドロと会話をする男。が、それも一瞬。

 

 

ご安心ください(・・・・・・・)

そう続ける男の蛇の如き眼光が、喜悦を滲ませながら三人を射抜く。

 

 

 

 

ここに来て、フブキ達は察した。

 

 

ヘドロと何かが腐ったような異臭の正体を。

この廃墟が人食い工場と呼ばれる所以と、近隣で行方不明者が相次いでいる理由を。

そして、敵の術中に嵌りこの場に誘き出されてしまった自分達の窮地を。

 

 

むざむざと、見せつけられるように。

 

 

 

 

「本日の晩餐なら、ほら!向こうからわざわざ足を運んでくれましたよ!」

 

 

 

 

 

 

「大食い冥利に尽きますねぇ。三匹も釣れた(・・・・・・)

 

 

 

 

残酷な宣告と共に、どす黒い悪意が牙を剥いた。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日は素敵な一日!笑顔で始まり笑顔で終る、充実を約束された素晴らしき日曜日!

 

 

それも、今までの人生で上から五本の指に入るくらい最高の休日なの!

 

 

初めて友達と待ち合わせをして、夜が更けるまで遊んで、次の予定も建てられて、締めくくりを彩るように思いっきり身体を動かしてから、最後はベッドに入って朝までぐっすり。

 

 

ほら、こんなにも満ち足りた一日なんてそうそう無いよね?ある訳ないよね?それくらい幸せに溢れたかけがえのない一日!私が思い描く中で最も幸福度の高い休日、それが今日だったの!

 

 

 

 

けれど、そう上手くいかないのが人生の気難しいところ。

 

 

 

 

良い事尽くめで一日を終われたら。幸福に包まれながら眠りに就けた方がいいと思うよね?私もそう、ずっと楽しい事が立て続けに起きてほしいって、切に願ってる。ほんとだよ?

 

だからかなぁ。そんな細やかな幸せを邪魔するような人は大嫌いなの。無意識ならともかく、そう言う事をしてくる人って大概悪意ありきだから救えないよね。しつこくて、面倒で、やんなっちゃう!

 

どれくらい嫌いなのかって?そうだなぁ、「そんな輩は蝮に当たって死んでほしい」って寝る前に必ずお星様にお祈りを捧げてるくらいかな。かれこれ10年近くお願いしてるからそろそろ叶うと思うんだけど、みんなの願いはどう?もう叶えてもらったかな?それともこれから?

 

 

まだの人がいたら、一際輝く一番星を選んでやってみるといいわ!その方が叶えてくれやすいって、おばあさまがよく口にしていたもの!

 

 

 

 

あぁ、いけない。話が逸れちゃった。

 

 

 

 

つまり、私が言いたいのはね……あれ?何だっけ?

 

 

綺麗な笑顔の作り方の話だっけ?……違うよね、そんなつまらない話じゃない。

 

一番星の見つけ方云々…でもない。なんだかロマンチックだけど、今はどうでもいいや。心底どうでもいい。

 

 

あれでもない、これでもない……あっそうだ、思い出した。

 

 

 

 

人の幸せを邪魔するなら殺されても文句は言えないって話しだったよね!

 

 

 

 

 

 

 

 

違う?いいえ違わないわ。私に間違いなどありはしないわ。少なくとも、この場においてはね。

 

 

たとえどれだけ高尚な理念があったとしても。そうしなければならない事情があったとしても。人の幸せを奪っていい理由になんてならないんだよ。人間も獣人も、魔族も天使も機人も……神様にだって、そんな権利はありはしない。

 

 

あなたも、あなたも、あなたも。もちろん私も。誰であれそんな暴挙は許されないの。それ程の大罪。どうしようもない罪過。許されていい筈が無いんだよ。

 

 

お前も、お前も、お前も。だからこうして報いを受けることになる。情状酌量なんか無い。例外も必要無い。全部まとめて、私が裁いてあげる。

 

 

あぁ、理解を放棄してはダメ。諦めと言う感情は心を殺す毒なんだから。そう難しく考えずに落ち着いて、私の言葉を頭の中で反芻するの。大丈夫、私に出来て他の人が出来ないなんてあるわけないのだから。

 

 

……わからない?理解が出来ない?そう、それは残念。理解の無いまま裁いたところで、それはただの殺害でしかない。そんなの、あまりにも救いが無いじゃない。

 

 

……まぁ、でもいっか。別に私は謝罪とか懺悔が効きたくてこうしている訳ではないのだし。今回は大目に見てあげる。それじゃあ……

 

 

 

 

 

 

 

 

次はキレイになって生まれ直してきてね!約束だよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

バキャッ

 

 

 

 

そんな小気味の良い音が、振り下ろした足下から聞こえる。

今日だけで二百を超える破砕音。どれだけ耳当たりが良い音でも、いい加減飽きてきたよ。

骨の砕ける音も、白骨死体を踏み潰すのも、正直言ってうんざりだなぁ……

 

 

死霊術師にこんな事思うのはおかしいかもだけど、もう貴女が直接前に出た方が早いんじゃない?ねぇ、るしあちゃん。

 

 

その方が、お互いの為だと思うのだけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

「このっ、瘋癲女がぁ!よくも……よくもみんなをっ……!」

 

 

「嘆くことは無いわ。すぐにみんなと同じ所に送ってあげる」

 

 

 

 

決断はお早めに。

でないと、貴女の大切なお友達がどんどん減っていってしまうわ。

 

 

 

 













メンヘラを書く時、メンヘラもまたこちらを覗き、手招いているのだ。
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