ホロライブラバーズ ~難易度【オーディション】を脳筋でクリアしたい実況~ 作:てらバイト
吹き荒れる魔力の暴風の中で浮かんだ感情は、歓喜だった……なんて思うのは、不謹慎だろうか。それとも、能天気だろうか。
まぁいずれにせよ、私は同じように笑みを浮かべるのだろうけど。そう考えたらこの思考すら無意味なのかもしれない。結果が変わらないのであれば、そこまで難しく考える必要なんてないものね。
さて、それはともかくとして。全力で魔力を練っている所悪いけど、さっさとるしあちゃんの首刎ねて終わらせてしまおう。最後まで見れないのは残念でならないけど。
……え?〝待たなくていいの”って?
う~ん…私から煽った手前、切り札はちゃんと見ておきたいんだけどね。でも、実戦であんな大きな隙晒されて見逃す程、私優しくないっていうか、お人好しでもないっていうか……ねぇ?あんなの、狙ってくださいって言っているようなものでしょう。
……そうっ!要するにこれは私を前にして隙だらけなるしあちゃんが悪いんだよ!
それにホラ、見逃したら馬鹿にされてるとか舐められてるって思われて、逆に失礼じゃない?そうだよね?……そうそう、そうだよ一周回ってね!流石おばあさま、私の言いたい事全部分かってくれるね。信じてたよおばあさま、大好きだよおばあさま!
ヨシっ……それじゃあ気を取り直して。
大きく踏み込んで、大鎌を振りかぶって……最後は振り下ろすだけ。
呆気ない。さっきまで騒がしかった激情がウソみたい。残念だね、るしあちゃん。どれだけ感情を爆発させようとも、必ずしも結果に結びつきはしないだなんて。あぁ…なんて残酷なのかしら。
だからと言って手を緩めるような真似はしない。
「バイバイ。るしあちゃん」
これで、私の秘密は暴かれない。
ガギン
けれど、響いた音はあまりにも甲高くて。
両手に伝わる感触は、骨肉を断ったそれとは大きく異っていた。
そう、これはまるで……硬い岩盤とは知らずにメスを入れてしまったかのような、異様で異質な硬さ……ありえない感触ッ……!
「どう?ビクともしないでしょ」
視線の向こう、見上げた先。そこには、
「一人一人、それぞれの強度は脆いかもしれない。簡単に壊れてしまうくらい弱いのかもしれない。けど、束ねて集めて、みんなを一つにまとめたら。137人分の想いを混ぜ合わせたら、こーんなにも硬くて大きくなるんだよ。あははっ、素敵でしょ?」
血に塗れた包丁を胸に抱きながら、狂気に染まった瞳で私を見つめて、それでいて離さない。
「でも、本当は使いたくなかった。これは術者の血と痛みが不可欠だし、何より…みんなの負担が大きすぎる。だから使わずに終われるなら、それで良かった。そうであってほしかった……」
「お前さえいなければ」
耳に残るような憎しみ深い歯ぎしりが、私の鼓膜を刺激する。
「お前みたいな異常者がいなければ、こうならずに済んだんだ」
華奢な身体のどこに隠していたのかと思う程の途方も無い魔力が、私の頬を激しく撫ぜる。
「お前があの墓地に立ち入らなければ、るしあ達はこんな目に合わなかった」
この世に現存するありとあらゆる悪感情が、私の身体目掛けて突き刺さってくる。
「償え」
……困るなぁ、ほんと。
「贖え」
殺そうって決めたのに。疑わしきは滅するって、そう誓った筈なのに。
今になってそんな人間味あふれた表情をするだなんて、卑怯だわ。
心が揺らいでしまうじゃない。
「お前の命で清算しろッ!!」
「もっとイジメたくなるじゃない!!」
直後、振り下ろされる巨腕。身を引き即座に跳べば、さっきまでいた位置目掛け白い拳がめり込み、容易く地面を割り砕く。アレをまともに喰らったらどうなるかは…ちょっと想像したくない。
距離を離し向き直る。そこには、地面から透過するように現れた巨大な骸骨が姿を現していた。主を守る為に地の底から這い出てきたであろう巨躯からは、アンデッドとは思えない程の
見上げるだけで首がここまで痛くなる相手は、これが初めてかもしれない。
(全長は、少なくとも10mは確実にあるかも。130人ちょっとの集合体、か……はったりじゃあなさそうだね)
私が過去討伐したアンデッドの中で…違うな、あらゆる魔物の中で群を抜いてデカい。なるほど、切り札にするだけはある。感じる圧と膨大な魔力が、そこらの野良アンデッドとはまるで比較にならない。それ程の差を感じる……
けれど、やりようが全く無い訳じゃない。
巨体になる事で破壊力と再生能力を増す
巨体になってしまった事で浮き彫りになった
ただデカくなるだけで勝てると思われてるなら、ちょっと…いや、かなり心外だよ。るしあちゃん。
自分よりも遥かに大きな化物を仕留める。それこそが
(戦法はさっきと変わらない。寄って殴っての繰り返し。ただそれだけでいい)
さっきと違うのは、やりやすいか否かの違い。その程度の差異。
上から次々と降り注ぐ拳の雨を掻い潜りながら巨大骨の挙動を推し量る。あのアンデッド、思った通り破壊力や魔力量は間違いなく強大だけど、反面小回りはきいてない。死角に入った時、腕の取り回しが緩慢なのがいい証拠……うん、確定かな。
さっきの群体相手よりも、今の巨人の方がずっとやりやすい。
これは、確信だ。
(……なんて皮肉。手を突き刺してまで出した切り札より、雑魚を並べ立ててた方がよっぽど強い)
このアンデッドの集合体が弱いとは言わない。戦闘における質量の大きさは、そのまま直接勝敗に結びつけられるほど重要な要素だから。大きければ大きい程、堅牢で強靭。それは、常に不変の論理。
けれどそれは裏を返せば、攻撃有効範囲の増大…的が大きくなる事と同義。被弾確率の上昇は、否が応にも避けられない。
そしてこの弱点こそが私の狙い目でもあり……貴女の敗因になるんだよ、るしあちゃん。
「よぉく見ててね。このおっきなお友達も、さっきみたいに奪ってあげる」
「奪う……そ。出来るものならしてみれば?」
「あはっ……それじゃあ、遠慮なく……!」
……この反応、随分と淡泊に聞こえる。さっきみたく大袈裟に喚き散らすかと思ってたのに。
これは、自信の表れかな?『この重厚な拳打の雨に晒されてる限り、
(だとしたらごめんね。変な希望持たせてしまって)
真っすぐ放たれた拳を真上に跳び避け、落下の勢いをそのままに蹴り穿つ。
黒々とした闇を、振り下ろす脚に纏いながら―――
(
―飛鎌突
体重と重力を乗せた踵が白骨の手の甲に突き刺さる。
足先がめり込んだ部分からは、
そのまま手を踏み台に勢いよく跳び出しもう片方の手も同様に蹴りを入れれば、打撃痕を中心に同じように浸食が始まった。
【宵闇の浸食】はやっぱり便利だ。こうして軽く触れるだけで相手の行動を大きく阻害できる。私は不器用だからおばあさまみたく意のままに操れたりはしないけど、これ以上を求めるのは贅沢かな。だって、今のままでも十分強力だもの。
さて、何はともあれ両腕は封じた
これでもう、拳打は放てない。
「……!いけないっ、離れて!」
……へぇ、存外冷静。ここで一旦退かせるんだ。想像よりもずっとクールで、的確な判断。やるね、るしあちゃん。
けど、ちょっと遅かったかも。
「そんな必死に逃げないでよ。傷つくなぁ」
―蛇境滅閃牙
闇を身体に纏い、すかさず疾走する。狙いは脚と、
(おばあさま。どっちがいいかな?私はやっぱり、……ふふっ、だよねぇ。もう一つの方一択だよねぇ!)
そうやって笑い合う内にアンデッドの足元が目前まで迫る。通りすがりに抉ろうと更に加速した瞬間、標的の足が突如視界から消えた。
なんて機敏…咄嗟に片足を上げたんだ。巨体に似合わない機敏な動作に思わず驚かされる。けど……問題無い。だって、本当の狙いは……
「あっ……」
直角に方向転換し、真の標的へと突き進む。
足は
堅牢なアンデッドの守りは、もう間に合わない。術者本体までの道程を阻むものは、私の眼前からやっと綺麗さっぱり消え去ったんだ。
(あぁ、長かった。これで終れる……いいえ、終わってしまうんだね)
欲を言えば、あともう少しだけ
私の秘密に触れた以上、排除するという結末に変化は生じないだろうけれど。ここまで真っすぐな
先約が無ければ。この時間に鉢合わせなければ。あと一刻でも邂逅が遅れてさえいれば。そんな後を引くような名残惜しさが、ふつふつと胸の内から沸き上がる錯覚をしてしまう。
目に見えない虫に、内側からじわじわと臓腑を食い破られていくような。
そんな、最低な気分。
(だから、貴女で上書きさせて。るしあちゃん)
この不快感を消してくれるなら、もう誰だっていい。
自棄めいたぐちゃぐちゃな思考の中、そのまま加速する。
この子の死が、
……なんて、半端な気持ちを抱いたのが間違いだったのかもしれない。
ゴシャ、と響く鈍い音。
それは、下から突きでた〝何か”が、私を空高く打ち上げる衝突音そのもので。
「がふ…ぁ……ッ!」
馴染み深い鉄の味が、喉の奥よりせり上がる。
迎撃された。その信じ難い事実を認識すると共に、全身を駆け抜ける激痛を自覚した。
「つぶれろ」
声の方へと意識を向け……はっきりと目にする。
地面から新たに生えた
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
屈んだ頭上からガチン、と金属音が鳴る。先程から何度も聴いた、蛇の口を模したアンカーが閉じる音。
その音を合図にすぐさま駆け出し抜刀。加速の勢いを乗せた居合を胴へ向けて抜き放ち、
「おっと、危ない」
ヒラリ、と跳ばれ躱される。冷気を纏った刀身が
(けど、それは織込み済み……!)
そのままその場で一回りし、再度刀に勢いを乗せる。空中に身を投げ出した男に、追い打ちの剣閃を見舞う。
―
前方を斬り払う対空斬撃。完璧なタイミングで放った私の一撃は、確かに男の中心を捉え―――
―
空中ではありえない高速機動で、軽々と跳び越えられた。
ザシュッ
「あ、ぐぅッ……!」
左肩に走る痛みと熱に思わず声が漏れる。鋭い刃物で斬られたような傷と、距離の離れた位置で血の滴るナイフを持つ男を見る事で、何が起きたのかを理解する。
――斬られたんだ。あの一瞬で。
「ふむ……構えや太刀筋、更には技名も
くつくつと一人呟き笑う男を見ると、空間を裂きながら男を囲うように漂う鎖が―――この戦闘で私を大いに苦しめる元凶がいやでも目に映る。
遠距離武器としての性能も十二分に厄介な鎖だけど、一番はそこじゃない。問題なのは、鎖の
(距離を空ければ鎖の射出で滅多打ち。必死の思いで近づいたとしてもナイフと体術で凌がれて、鎖の伸縮で逃げられる……)
まるで剣士の天敵のような存在だ。近中遠、全てにおいて隙が無い。
ふと手にした刀と鎖の射程を見比べていると、剣道三倍段という単語が頭に浮かんだ。十数メートルに及ぶ鎖を刀で相手取るには、一体どれ程の技量が求められるのか。現実逃避にも似た弱気な考えが思考を鈍らせていくようで……
(……迷うな。切り替えろ。余計な事考えながら戦える相手じゃない)
溜め込んだ息を吐き集中しながら思考を整える。相対して数分、未だ十合にも満たない戦闘の中で、あの鎖についていくつか気付いたことがあった筈だ。
まず一つに、射出角度の限界。鎖自体は地上でも空中でも射出が可能で、角度を調節すれば真上に跳ぶことも真下に急降下する事も出来るようだった。
けど私の記憶が正しければ、自分の後方…背中側から鎖を射出した場面は一度も無かった。
ただ単に出す必要が無かった可能性も勿論ある。温存、もしくは敢えて見せていないという線だって。
けど、もし〝出さない”のではなく〝出せない”のだとしたら。形勢を覆す大きな足掛かりになり得る。そしてもう一つは―――
「来ないのなら、こちらから行きますよ?」
―
「ッ!」
真っすぐ伸ばしたアンカーを基点に、男が弾丸のような速さで距離を詰めてくる。私はあの鎖が抱えているだろうもう一つの弱点を確かめる為、回避や防御ではなく迎撃を選んだ。
少し多めに魔力を喰うけど、これで実証出来るのなら儲けもの。手元に籠めた魔力全てを、鋭く冷たい冷気に変換する……!
―
前方に人間大の氷結晶を生み出す。巨大な氷の壁を見た男は即座にアンカーを地面に射出し、固定。アンカーをブレーキ代わりのようにして勢いを殺し、強襲を取りやめた。
ここまでは想定通り。問題は、この後。男がどう行動するかによって、私の疑念は確信に変わる……!
(同じようにアンカーを射出するなら、ただの思い違い…けどもし、何もせずに留まるのなら……)
5mくらいの間隔で、氷越しに睨み合う。
5秒、10秒と時間が過ぎても、男の動きに変化は無い。石像のように固まったまま、一歩も動かない。
そうしている内にパキン、と結晶に罅の入る音。
音を立てて崩れ去る結晶を見ながら、私は最後の仮説の答えを得た。そしてそれは、この戦いの勝敗を左右する程に重要だという確信があった。
「気づきましたか。この鎖の……ウロボロスの
だから、想像もしなかった。自分の不利になるような事を自分から口走るだなんて、思ってもみなかった。
「既に察しているとは思いますが、ウロボロスには運用にあたっての制約がいくつか存在します。細かい部分は省くとして、重要なのは主に二つ。射出角度と空間固定回数の制限です」
「この制限というのが非常に困りものでして…死角となる背面には出せないだの、空間固定を連続して使えるのは二回までだの、色々と面倒な仕様なんですよ」
「固定回数制限なんて特にそうだ。二回使った後は間を置かないと再使用は不可で、その間はただの遠距離武器に成り下がる。長い間使ってきましたが、このじゃじゃ馬っぷりにはいつまで経っても慣れませんよ~……まぁ馬じゃなくて、蛇ですが」
朗々と、流暢に。おちゃらけるような男の語り口を前に、私は言葉を挟めなかった。自分の弱点を声高に語る男の奇行とその意味に、理解が及ばなかったからだ。
私が怪しいとふんでいたのは、空間固定は連続で行えないのではないかという点であり、今まさに男が口にした弱点と同じもの。さっきまでの戦闘で、鎖の射出を凌いだ後に攻撃の波が軟化する妙な間に気付いて、そこからこの考えに至った…謂わば、何回もの観察があった上で見つけられた弱点だった。
だからこそ、男の言動が解せない。ここでそれを明らかにするメリットは、どう考えても一つも無いのだから。
見破られたと悟ったから、というには些か思い切りが良すぎる気がする。もし見破られたとしても、虚実を織り交ぜて惑わせる事も出来た筈なのに、言葉の中にはそういった嘘特有の悪意がまるで感じられない。
狙いが、意図が、全く読めない。一体、何を考えて……?
「不思議ですか?自ら情報を開示するのが」
「っ!……そう、だね。意味が分からな過ぎて、いっそ不気味に思えてくる」
「不気味って…ひどいなぁ。懇切丁寧、馬鹿でも分かるように教授してあげたというのに」
内心を見透かされた気がして、殊更に不気味に見える。けど肝心の目的は、これっぽっちも見えてこない。
〝こんな時、ミオが居てくれたら”。そんな弱音を零すよりも、男がゆっくりと口を開く方が僅かに早かった。
「もう面倒くさくなったので、さっさと終わらせようかなと」
「…は?」
「ですから、もう終わらせてしまうから話したんです。ほら、よく言うでじゃないですか。冥土の土産に~、って。以前から何故わざわざ殺す相手にペラペラと、とは思ってたんですが、同じ立場になって漸く謎が解けたんです」
「何も知らずに息絶えるのは、あまりにも不憫だ……そうは思いませんか?」
そう締めくくった直後、全身に悪寒が走った。
原因は分かりきっていた。今までの人生で感じてきた敵意や殺気が児戯に思えてしまう程の重圧を、真正面からもろに浴びてしまったからだ。
震えが、恐怖が、止まらない。この震えが武者震いの類でない事は、誰の目から見ても明らかで。
そんな中で私が出来たのは、刀を取り零してしまわないよう柄を必死に握りこむ事だけだった。
「見せてあげますよ……『碧』の力を」