ホロライブラバーズ ~難易度【オーディション】を脳筋でクリアしたい実況~    作:てらバイト

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蛇に逢うては蛇を斬る。



分かち、潰し、絶やすのだ。


陰陽交差

 

 

 

 

 

 

 

「ジビエ、ねぇ……つくづく理解できませんね。食用に育てた家畜ではなく、あえて臭みの強い野生の獣をありがたがって食すなど」

 

 

 

草木も眠る真夜中の森。激しい戦闘の痕跡なのか、半ばから切り倒された木々に囲まれた開けた場所にて、一人の男の声だけが静かに木霊する。

 

 

 

「個人的には、丁寧な血抜きが必要不可欠という点もマイナスですねぇ。だって、たかが食事ですよ?いちいちそんな面倒な工程挟まないと臭みのせいで食べられないなんて、あまりにも億劫じゃあないですか」

 

 

 

つらつらと口に出すのは、他愛のない独白。男の主観が多分に含まれる愚痴のようなひとり言に返事や相槌は無く、それでいて武器同士がぶつかり合うような戦闘音なども一切していない。男の声を除けば、何一つ音のしない無音の世界がそこには広がっていた。

 

 

 

「特に熊とか狼だとかの肉食獣はその臭みがとりたてて強いとはよく聞きますが、やはり肉食嗜好の獣の肉っていうのは総じて臭いものなんでしょうか……あぁ、その理屈で言えば人間もそれに当てはまるやもしれませんね!豚に近い味で食べやすいとは言われてますが、果たしてどこまで信じて良いのやら。いくら味が良くても臭いんじゃあねぇ……」

 

 

「―――う…ぁ……」

 

 

 

……否。厳密に言うのなら、男のそれは独白ではなく。男からすれば“対話”…一対一の真っ当な会話であったのだ。

 

 

相手が返事も儘ならないほど衰弱している事を除けば、だが。

 

 

 

「そうそう、キツネ肉も相当臭みがキツイらしいですよ。なんでも、強烈なアンモニア臭が食欲を著しく減退させるのだとか。どうでしょう、同族のよしみ(・・・・・・)として一度試してみては如何です?ねぇ…獣人さん」

 

 

「……ッ!ぐ、うぅっ……!」

 

 

 

傷だらけで倒れ伏した獣人――白上フブキは、男の嘲り混じりの挑発を受け憤り、睨みつけながら身を起こそうとする。が、出来たのは男の顔を見上げる事だけ。今のフブキに今一度立ち上がる体力は、最早欠片も残されていなかった。

 

 

必死に歯噛みながら、しかし地べたで這いつくばることしか出来ない。

そんなフブキを見下ろす男――ハザマの眼光は冷ややかで、そして蛇のように鋭かった。

 

 

 

「重傷であろうと、なお敵を睨みつけるその気概は買いましょう。立派立派、学生の時分にしてはよく頑張りましたよ、ええ。大変よくできました~…ってね」

 

 

「こ…のぉ……!」

 

 

「けどね、身の程っていうのはしっかり弁えておかなきゃならない。戦場ではあなたのような彼我の実力差がわからない未熟者から死んでいくのだから。“一人では手に余るような相手を無策に追いつめてはならない”……学園では教えてもらわなかったのですか?」

 

 

おどけるように両手を広げながらゆっくりと歩み寄るハザマ。その周囲には、彼を中心に広がる謎の円…緑色のサークル(・・・・・・・)が展開されていた。

 

 

じりじりと近づいてくるそれに対し、警戒と恐怖の念を抱きながら小さく唸るフブキ。何故ならば、その緑色のサークルこそが彼女を追いつめた元凶であり、ここまで衰弱させられた原因そのものであるからだ。

 

 

 

「どうです、この『碧の魔導書』の性能は。近づくだけで生命力を奪う(・・・・・・)この能力…刃を振るう剣士にはお誂え向きだと思いませんか?」

 

 

 

その宙を漂うサークルを見た時、フブキはそれを障壁の類だと勘違いした。懐に潜り込まれた時の保険として、斬撃を阻むために展開した守りの一手だと。

 

 

しかしその予想は、サークルに触れた瞬間感じた命そのものを吸い上げられるような悍ましい感覚と共に瓦解する。

身を守るための盾?あれは、そんな生易しいモノなどでは断じてない。あれの本質は、相対する者を蝕み殺す絶死の猛毒であったのだ。

 

 

 

「……それだけじゃ、ないでしょ……」

 

 

「…ほう。“だけではない”、とは?」

 

 

「……その能力、だけじゃないっ…!鎖の性能も、段違いにっ、ゲホッ…!……でないと、説明がつかない……!」

 

 

「おや、バレてましたか。最後の最後まで気付かれないと思ってましたが意外と賢い…いや、そうでもないか。本当に聡明であるなら、こんな無様は晒さないですもんねぇ」

 

 

 

フブキが気付いたのはサークルの能力だけではない。先程見抜いたウロボロスの制約を無視するような連続高速機動から、『碧の魔導書』と呼ばれる魔道具(・・・)の能力が複数あるという絶望的な答えに辿り着いてしまったのだった。

 

 

サークルから離れようと瞬時に後方へ跳んだフブキが見たのは、空中を縦横無尽に駆けながら猛スピードで迫りくるハザマの姿。

ハザマ自身が口にした『空間固定回数の制限』など初めから無かったかのような“固定”と“鎖の伸縮”の繰り返し、それに伴う超加速と停止による速度の暴力はフブキに反撃や逃走の猶予を一切与えず、じわじわと嬲り殺すように追いつめ…結果、立ち上がる事も出来ない程にまで生命力を奪われたのである。

 

 

フブキは抵抗しなかったのではなく、出来なかったのだ。

四方八方から襲いくる変幻自在な攻めを捌ききる卓越した技量を持ち合わせていなかったがために。

 

 

 

「―――未熟。あなたが敗北した理由を表すのなら、これが最も的確でしょうね」

 

 

「……ッ!!」

 

 

「ははっ、悔しくて言葉も出ませんか?…だが事実だ。己の力量も弁えず我武者羅に突っ込むからこうなる。良い勉強になりましたねぇ。……ま、それを活かす日は来ないでしょうが」

 

 

 

あまりの悔しさに視界がぼやけ、無意識の内に拳を握りしめる。そんなフブキに対し、ハザマはただ静かに、冷たい視線を向けていた。それはまるで、お前程度の才能ではどう足掻いても勝てないとでも言いたいかのように。

 

 

その瞳に宿るのは侮蔑、そしてほんの僅かな憐憫の色。ハザマは確かにフブキを見下していたが、格下の相手に対して優越感に浸っているのとはまた別種の、全く違う感情を孕んでいるようにも見える。それは、どこか懐かしさ(・・・・)を感じているような……そんな眼差しであった。

 

 

そうしてゆっくりと、しかし確実に迫りくるハザマに対し、フブキは為す術無くその光景を見ることしか出来ない。手も足も出ずに敗北し、更には憐れみの籠った視線で射抜かれても尚、倒れ伏す自分の身体は意思に反して指一本も動かせない。その受け入れ難い現実がどうしようもないくらい悔しくて、そして許せなかった。

 

 

しかし、どれだけ悔しかろうが、憎らしかろうが、現実は変わらない。変えられない。

既に勝敗は決した。完膚なきまでに敗れた自分には、生き残る手立ては残されていないのだから。

 

 

 

「ごめん…ミオ……私、勝てなかった……約束…守れなかったっ……!」

 

 

 

ギリギリまで保っていた精神が、失意と絶望に圧し潰されそうになった……その時―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(無様に負けて野足れ死ぬ…それがお前の望む最期か?シロ)

 

 

 

頭に響いたのは、もう一人の声(・・・・・・)

その声の主はフブキの大切な家族にして、欠けてはならない唯一無二の半身。

 

 

 

(ダっセェなぁ。出撃前に切ってた威勢のいい啖呵はどうしたよ?やられた仲間の仇を取るって息巻いてたお前は、一体どこ行っちまったんだよ。なぁ…何時までも地べた舐めてねぇで答えやがれ)

 

 

 

投げかけられる罵倒とも捉えられかねない厳しい叱咤の数々。ともすれば、折れた心を再び奮い立たせようとする激励にも聞こえる。しかし、それを受けたとてフブキの心は未だ失意の底にあった。

 

 

一度ついた心の折り目は、そう易々と消えはしない。

 

 

 

(それとも、諦めるか?オレは別にそれでも構わねぇぜ。主人格はあくまでお前だ、お前が心からそう決めたんなら異論は無ぇ。黙って従うさ)

 

 

(…けどなぁ、これだけははっきり言っとくぜ。お前がここで退いたんなら、次の犠牲者はおかゆところね…お前を信じて送り出してくれた仲間になるだろうな)

 

 

 

ピクリ、と。

反応を示さず力なく垂れていた獣耳が僅かに跳ねた。

 

 

 

(あの蛇野郎が目撃者を生かして返すとは到底思えねぇ。お前の後は、当然アイツら二人組を狙うだろうよ……ヘドロと戦って消耗したアイツらを容赦無くな)

 

 

(負い目を感じる必要は無いぜ?アイツらだって危険を承知でこの作戦に臨んでんだ、こういう結末も覚悟の上さ。だから…シロ、お前は悪くない。ここで野垂れ死んだって、誰もお前を責めやしない)

 

 

「―――」

 

 

 

まるで健闘を称えるような、優しさに満ち溢れた声音のよう。

そう感じた瞬間、フブキは……刀を支えにしながらゆっくりと立ち上がった。

 

 

暖かな助言に背を押されて……などではない。

その胸に灯ったのは、激しい憤怒の諸相。自分の弱さが仲間の死を招くと知った怒りの熱が、フブキの身体を突き動かしたのだった。

 

 

自分が諦めたせいで、大切な仲間も死ぬ?

――認めない。己の未熟を理由に、あの二人を道連れにしていいわけが無い。

 

 

負い目を感じる必要は無い?

――ふざけるな。そんな腑抜けた精神()、たとえ神仏が赦しても私が許さない。

 

 

長く、深く息を吸い込み、そして一息に吐き出す。

顔を上げたフブキの目に諦観は無く。覚悟と決意に燃える焔が宿っていた。

 

 

 

(……何故動ける?立ち上がる体力も気力も、とうに底をついた筈だ)

 

 

 

ハザマの疑問は尤もだ。あれだけ痛めつけ生命力を奪い、とどめとしてご丁寧に心までへし折ってやった死に体の狐が、どういうわけか再び息を吹き返すなど。

 

 

道理に合わない。意味が分からない。

頭に占める多大な困惑は警戒となって身体を巡り、進めていた足を止める程にまで膨れ上がっていた。

 

 

 

(ったく、ここまでお膳立てして漸くかよ。相変わらず世話が焼ける奴だよなぁお前は)

 

 

(他人に流されやすいし、かと思えば変な所で意固地になったりしやがる。扱いにくいったらありゃしねぇ。だが…その眼は良い。やると決めた時に見せるそのキマった瞳だけでお釣りがくる。……ハハッ!今、最っ高にいい顔してるぜ、シロ)

 

 

(―――腹は括った。斬るべきクソ野郎は目に焼き付けた。なら……次はどうする?)

 

 

先を促す声には応えず。

フブキは、そっと鞘を引き抜いた。

 

 

 

―私達は、二人で一つ。個であり、群に非ず。

 

 

―陽と陰。白と黒。表裏一体の番いなり。

 

 

 

「―――行こう、クロ(・・)

 

 

 

瞬間、広がる一雫の波紋。

フブキの影が水面のように揺らぎ、波打ち……瓜二つの真っ黒なフブキがハザマ目掛けて跳び出した。

 

 

 

「なッ―――」

 

 

「ラウンド2だ、クソ蛇野郎ォッ!!」

 

 

 

―インフェルノディバイダーッ!!

 

 

―牙昇脚

 

 

 

意表を突いた非の打ち所がない奇襲。それでも反撃がかみ合ったのは、ハザマが強者たる所以か。白刃と足刀は衝突し、相殺。目前まで迫っていたハザマを大きく吹き飛ばすことに成功した。

 

 

 

(…チッ、無傷かよ。あの一瞬でとんでも無ぇ蹴り放ちやがって。アイツ、本当に人間か(・・・・・・)……?)

 

 

 

手応えの無さに思わず歯噛みし、警戒を高める。これまで打倒してきた十把一絡げの雑魚とは別格の存在を前に、黒いフブキ…クロは気を引き締めなおすと同時に、密かな高揚を覚える。かつて無い強敵との邂逅に自然と口角は吊り上がり、その面貌には獰猛な笑みさえ浮かんでいた。

 

 

それでも尚無策に跳び込まなかったのは、精神鍛錬により培った自制心と、守るべき半身の存在による所が大きい。クロは満身創痍の相方を置いて自分を優先する程他者に無関心ではなく、また獣でもない。状況を俯瞰して判断を下せる冷静さも持ち合わせていた。

 

 

 

「……どうなっている?一度ならず二度までも(・・・・・・・・・・)。最早偶然と片づけられる範疇を超えている。まさか…確率事象(コンティニュアムシフト)』……?

 

 

 

対するハザマは、まるで予想外の出来事に直面したかのような表情で硬直していた。閉じていると錯覚する程に細められていた両の目は見開かれ、驚愕を露わにしている。

 

 

それは突如として現れた色違いの獣人に対して、ではなく。

女が手にする武器そのもの(・・・・・・)に向けたものであった。

 

 

その目線の先にあるのは、身の丈と同等の大きさを誇る大剣。何の変哲も無い無骨なそれを、しかしハザマは食い入るように見つめていた。

 

 

『何故こんなところに存在しているのか』、とでも言いた気な懐疑な眼差しで以て。

 

 

 

「おい、何ジロジロ見てやがる。女が大剣振り回すのがそんなに珍しいか?」

 

 

「……いえ、別に。こんな時世だ、女子供が巨大な武器で大立ち回りしようと何ら不思議には思いませんよ。私のツレ(・・)にも似たようなのが居るので、つい重ね合わせてしまっただけです」

 

 

「はっ、そうかよ。だったらそのツレとやらを呼んだらどうだ?二対一で余裕勝ちできる自信がテメェにあんなら話は別だけどよ」

 

 

「…二対一?面白い冗談ですねぇ。そんな死にかけのお荷物(・・・・・・・・)を勘定に入れるとは、中々にイイ性格をしていらっしゃる」

 

 

「……あぁ?」

 

 

「まぁその考え方自体は否定しませんよ。使えるものは、たとえ仲間であろうと何でも使う……実に効率的で、それでいて非常にエコロジーだ。クク、私は好きですよ」

 

 

「……ほざいたなクソ野郎。言うに事欠いてお荷物だと?……殺す。テメェのようなクズは今すぐに―――」

 

 

「―――待って、クロちゃん」

 

 

 

姿勢を下げ今にも飛びかかろうとしたクロを止めたのは他でもない、足手まとい呼ばわりされたフブキ本人だった。

 

 

一歩前へ出、向き直る。

交わす視線の奥、その瞳には、一片の迷いも見受けられない。

 

 

 

「……あなたは強い。客観的に見てこの場における一番の強者はあなたで、多分この考えに間違いは無いと思う。そんなあなただからこそ、立つのもやっとな私を見て戦力外と決めつけるのは極自然な事で、当然の帰結」

 

 

「もし仮に私があなたの立場なら、多分似たような事を思うかもしれない。無傷の敵と瀕死の敵、警戒すべきはどちらかなんて分かりきってるから。あなたのその判断は、きっと正しいんだ」

 

 

「……話が見えてこないな。結局、何が言いたいので?」

 

 

「……絶対的優位による慢心は思考、判断を鈍らせる。ただそれが言いたくて」

 

 

 

一呼吸分間をおいてから、フブキはゆっくりと口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「二対一じゃなくて、三対一(・・・)だよ」

 

 

 

全身に走る悪寒。

ハザマが直感に従い咄嗟に振り向く、その先には―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――くはっ♪」

 

 

 

業火纏い嬉々として斬りかかる、一人の剣鬼。

 

 

 

 

 

鬼炎煉獄衝(きえんれんごくしょう)

 

 

 

 

 

刹那、空気が爆ぜる。

燃え盛る二条の剣閃により生み出された爆炎はハザマを飲み込むだけでは飽き足らず、周囲一帯を一瞬にして焼き尽くした。

 

 

熱が風に乗り熱波と化しながら、フブキ達の頬を荒々しく撫でてゆく。そして、轟轟と燃える烈火の内より跳び出し着地する影が一つ。

 

 

彼岸花の入った黒い和装に、額より突き出た二対の角。

遅れてやってきた最後のメンバー…百鬼あやめの姿がそこにはあった。

 

 

フブキがあやめの接近に気付いたのは全くの偶然だった。立ち上がるのもやっとな極限状態は集中力を限界まで引き上げ、結果としてハザマの後方から迫りくるあやめの熱気に誰よりも早く察知するに至ったのだ。

 

 

逸るクロを諫めたのは、炎に巻き込まれるのを防ぐ為。

一歩踏み出し話しかけたのは、あやめに注意が行かないよう気を引く為。

 

 

全ては、あやめにとどめを刺させる為の布石であった。

 

 

 

「いや~、遅れてすまんかった!不肖、百鬼あやめ。遅ればせながら助太刀に参った余!」

 

 

 

そんな当のあやめはまったく悪びれてないような、どことなく不遜さを感じさせる快活な声で笑顔を見せている。戦場に於いてもマイペースを崩さないあやめらしさにフブキ達は破顔し…次の瞬間、その笑顔を凍らせる事となる。

 

 

原因は、あやめの身体にあった。

左腕に付けられた切り離した袖が、何か鋭利な物で斬られたかのように更に短くなっており。そしてそれに付随するかのように……左腕の肘より先が消失していた。

 

 

その姿を夢幻ではない現実だと強調せんばかりに、二刀流を旨とするあやめが振るう二振りの内一本は、掌ではなく左腋に挟み込まれている。

 

 

学園で見る立ち姿とはかけ離れた、痛々しい出で立ち。

それはまるで、何者かに袖ごと斬り落とされたような―――

 

 

 

「あ、あやめちゃん……!?その、腕……!」

 

 

「ん?あぁ、これか。これは、あれだ、その~…………うん、落とした(・・・・)!」

 

 

「落としたって…はぐらかさないでよ!一体誰にやられ―――」

 

 

「―――皆まで言ってやるな、シロ。明かしたくないって事はそれ相応の理由があるってこった。詮索屋は嫌われんぞ?」

 

 

「く、クロ……」

 

 

「……まぁこの羅刹斯のことだ。大方、“他人の手は借りず自分の手だけでケリつけたい”とか思ってんだろ。問い詰めるだけ無駄無駄」

 

 

「ぬぉ、何故バレた!?クロ様よ、いつの間に読心術など身に付けたのだ。余の心、全部まるっとお見通しではないか!」

 

 

「んな訳あるかド阿呆。顔に出過ぎなんだよお前は」

 

 

 

四肢欠損という重傷でありながら明るく振舞う姿を見たフブキは、一抹の不安を覚える。それは、あやめの身を案じての事。

 

 

腕を半ばから斬り落とされるという経験が今まで無かった為に、その苦痛が如何程のものなのかという実感は湧いてこない。しかし、想像ぐらいはできる。それが想像を絶する痛みである事くらいは。

 

 

ただ腕を振るい、断面が空気に撫でられるだけで耐え難い激痛が走っているはず。

加えてよくよく観察してみれば、腕の断面からは血が一滴も零れていない。手の指を浅く切ったのとは訳が違う重傷であるにも拘らず。

 

 

まさか、焼いたというのか?

失血死のリスクを回避する為に、自らの腕を。

 

 

……何故、そこまで?

その狂気染みた行動と信念の出所は一体―――

 

 

 

(―――違う、今考えるべきはそこじゃない)

 

 

 

思考を中断するように頭を振る。

これ以上の思案は蛇足だ。身体を張って助けてくれたあやめに対する侮辱にもなってしまう。

 

 

それに、今はより優先すべきことがある。

あやめの治療と、今しがた焼き払われた男の遺体回収だ。本来は捕縛が理想であったが、こうなっては致し方ない。身元を割る為にも、燃え尽きる前に遺体だけは回収しなければ。

 

 

そうして炎へ向けて一歩踏み出したフブキの前に広げられた、白く細い腕。

あやめだ。燃え広がる炎を生み出した張本人が、行く手を阻むように制止を促した。

 

 

 

「……手応えはあった。斬った感触もある。が、…………はぁ~、やっぱり腋挟みじゃダメかぁ。普通に握るのとじゃ訳が違うしなぁ~」

 

 

 

ぽつりと呟かれた、自信に欠ける“らしくない”声音。

警戒を解かず細められたその双眸は、燃え続ける炎を瞬き一つせず睨みつけていた。

 

 

 

「……あやめ。お前、確かに斬ったんだよな」

 

 

「うむ、それは間違いない。だが…浅かった(・・・・)。生半可な手合いならそれでも“倒せた”と断言できたんだろうが……」

 

 

 

一拍おいて出たのは、無情にも否定の言葉。

 

 

 

「―――あの蛇(・・・)がこの程度でくたばるとは、余はどうしても思えんのよなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「火に焼べられる薪とは、きっとこんな気持ちなんでしょうねぇ」

 

 

 

燃える音に混じった、男の声。

それは確かに、燃え上がる炎の内から聞こえた。

 

 

 

「無造作に投げ込まれ、燃やされ、黒く炭化するまで轟々と。……暑さには耐性があるつもりでしたが、流石にこのレベルはいただけない。三途の川が見えかけましたよ、まったく」

 

 

「そん、な……!」

 

 

「アレ喰らって生きてるだと…!?チィッ、化け物が……!」

 

 

 

ザッザッ、と響く地を踏む足音。

まだ生きている。その事実に慄きながら再び構えだす二人とは対照的に。

 

 

あやめの眼だけが、爛爛と輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ふはっ……!良いぞ良いぞ、そうこなくてはなぁッ!!」

 

 

 

意気軒昂と鬼が吼える。

長い夜は、未だ明けない。

 

 

 












暑くて水とアイスしか受けつけねンだわ。
絶対太るンだわ……
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