任務種別:編成・単発
任務内容:一人目の艦娘と出会い、親睦を深めよ!
4/9 1000時
広島県宇品 船舶司令部
何故だ。何故私は船舶司令部の司令室前にいるんだ。
「伊丹中尉、入ります」
「応、来たか。入れ」
部屋の主から入室を許可を頂いたので、片開の戸を開けて入る。落ち着いた配色と、豪華とは言えないが質素で堅実な造りの調度品。両側面に書類の束をまとめた棚に囲まれた部屋の真ん中にある執務机に、部屋の主はいた。
この方は佐伯宗作中将。陸軍船舶司令部司令、つまりこの部隊の長であり、陸軍海上輸送の総元締めである。私が士官学校にいた頃の校長でもある。
「時に伊丹、お前確か海軍との合同研究に出たことあったよな?」
「ええ、2年前に桐島大佐の副官として参加しましたが……それが何か?」
海軍との合同研究。それは5年前から出現した、我々人類の敵、深海棲艦と名付けられた敵の研究だった。陸軍は、深海棲艦との直接的な戦闘はほとんど経験せず、これまた謎の存在である艦娘という味方も海軍艦艇を模した者ばかりであった。そのため、表向きには海軍との情報共有をしたい、裏向きには少しでも対深海棲艦戦で(海軍に取られた)遅れを取り戻したい、陸軍の上層部が海軍の上層部に掛け合って開かれたものだった。装備を運用する、妖精と呼ばれる謎生命体は、割といた。今では、一部部隊を除き、要員全てが妖精という部隊も多い。
それはさておき、中将が何故そんな事を引っ張り出したのか疑問に思っていると、中将はとんでもないことを言い放った。
「お前に、艦娘の部隊を率いてもらう」
「……はい?」
「つい先日、陸軍船舶の艦娘、いわば船娘が誕生した。便宜上、艦娘と呼ぶがな。まだ一人だか、時機に海軍と同じ六隻編成が作れるようになるだろう」
六人!?原作だと三人しかいないよどういうこと!?
「お前は俺の知る限り、暁部隊の中でもっとも優秀だ。だから、お前に貴重な艦娘たちを預ける」
「でも私は一介の中尉、それも女ですよ!」
そんな重要な部隊を預かる立場には無い。精いっぱいの反論を唱えたが、焼け石に水だった。
「性別でとやかく言う奴なんざクソ喰らえだ。それに、階級もどうにでもなる。後から正式な辞令が届くと思うが、とりあえず二階級特進だ。おめでとう」
「えっと……ありがとうございます?」
「なぜそこで疑うんだ……まぁいい。早速だが、横須賀に向かってくれ。そこで彼女が待っている。合流の後、そのままパラオに行ってもらう。」
「パラオですか?」
パラオと言えば、南方統治の拠点、南洋庁があり、海軍の大規模な泊地がある。守勢に回ったとしても攻勢に転じたとしても、この国の要衝であることは間違いない。
「ああ。そこを拠点に活動してもらう。主任務は艦娘の運用だが、海軍ほど大規模なものにはならんだろう。副次任務としてパラオの防衛もある。パラオにはお前の指揮する部隊……仮に艦娘隊としよう。これ直属の航空隊と防衛部隊が既に展開している。海軍ともうまくやってるらしい。彼らも上手に使え」
「はぁ……」
「分かったら早くいけ!迎えの機はもう来とるぞ!」
「はっ!伊丹少佐、新編部隊の指揮に就きます!それでは失礼します!」
「応。気を付けてな」
その声を背中に受けながら退出した。なんかすごいことになったぞ……。
急いで寮に戻り、可能な限り手早く荷物をまとめ、迎えの自動車に飛び乗って飛行場に向かう。
軍の敷地を出ると市街地が広がる、しかし、建物の数も、道行く人もあまり多くない。日本全土に受けた空襲のせいだ。帝都では皇居の外堀に不発弾が落下したらしい。全くどこから飛ばしてるんだか。
そんなことを考えながら、出る前に中将から頂いた資料に目を通していると車が止まった。ってあれ?海?
「中尉殿、着きましたよ」
運転するのは船舶司令部に詰めている妖精の一人だ。中尉殿といったのは階級章が変わっていないからだろう。
「間違ってない?大丈夫?」
「中将閣下の指定はここなんですが……」
「アイツ何考えてんの?分かった。それならいいわ。ありがとう」
ドアを開け、外に出ると塩分を含む風が制帽を飛ばしそうになる。慌てて帽子を押さえ、海風に懐かしさを感じながらトランクから荷物を取り出す。
「少佐殿~!こちらで~す!」
桟橋の方で手を振るのは、後輩の内海だった。
「内海!あなた生きてたの……って、飛行艇!?」
「先輩お久しぶりです!それと、ご昇進おめでとうございます!おかげさまでぴんぴんしてます!今は船舶司令部で働いてます」
「それならよかった。で、なんで飛行艇なの?」
一番気になるのはそこだ。陸軍では飛行艇の運用をしていない。
「佐伯中将が海軍に無理言って貸してもらったそうです」
「そんな無茶苦茶な……」
「ほんとです……」
二人で呆れ返っていると、側面扉が開き、海軍の妖精が顔を出した。
「準備できました。いつでもどうぞ」
「分かったわ」
「じゃあ先輩、私はここで!」
「わざわざありがとうね」
「いえいえ!失礼します!」
内海は俺が乗ってきた車に乗って帰っていった。
「荷物をお積みしますね」
「ああいや、自分でやるわ。気持ちだけで十分よ」
「いえいえ!我々は少佐をもてなすように命令を受けています。我々の面子を建てるためにも、なにとぞ」
「そういうことなら、お任せしましょうかしら」
手荷物だけを持って乗り込む。機内は広く、ゆったりとしていた。戦前、南洋航路の花として飛びまわった機体なだけはある。
「発進します」
「いつでもどうぞ」
そして、洋上をいくらか滑走したのち、飛行艇は飛び立った。乗り心地は最高で、資料を読んでいたら、そのまま寝落ちしていた。
「少佐殿!つきましたよ!起きてください!」
「んく……うーん……」
海軍の妖精に起こされるまで寝ていたらしい。機体は既に着水し、係留の作業が始まっていた。
「乗り心地はいかがでしたか?」
「とても良かったわ。普段からこれを使いたいものね」
「陸軍機ではだめなのですか?」
「あっちもいいけど……結局重爆のキャビンか軽爆の後部座席か、はたまた輸送機の固い椅子だからね。ここと比べたら全然よ」
「なるほど。では、この先もお気をつけて!」
「ありがとう」
飛行艇を降りてからは忙しかった。鉄道駅まで車で移動した後、来た列車に飛び乗って横浜に出る。そこから横須賀線に乗り換えてそのまま横須賀へ……。
同1600時
神奈川県横須賀市 国鉄横須賀駅
「うぇっぷ……」
線形が悪いのか、単純に自分が弱いのか。
「伊丹少佐だな?待っていたよ」
横須賀のホームを出ると、一人の海軍将校が待っていた。物腰柔らかで、嫌な感じはしない。
「あなたは?うっぷ」
「私は横須賀鎮守府の長だ。皆からは横須賀提督と呼ばれている。」
本名を言わないのは何か理由が気持ち悪いトイレはどこ!?
「これから君の艦娘のところに……まずは出す物を出してスッキリしてくるといい。トイレはあっちだ」
「ありがとうございまふ……うっぷ」
口に手を当てながらトイレの個室に駆け込み、食道で何とか抑えていた物を出し切る。
「オゲェェェェェ!ゲホッゲホッ!ウェェェェェェ!!」
出し切ってから水筒の水で口の中をゆすぐ。気持ち悪い感覚は無くなり、だいぶスッキリした。トイレから出ると、まだ横須賀提督はいらっしゃった。
「大丈夫かね……冬の日本海など、よく荒れているが……」
声音と表情的に、心から心配している様子だった。皮肉ではない……と思う!!
「大丈夫です。これでも船舶隊所属ですし……鉄道で長距離移動をしたことが無くて……」
そういうと、提督は目を丸くし、そしてはっはっは!と大きく、よく通る声で笑った。
「いやすまない。鉄道酔いか。分かるぞ。斯く言う私も、あまり陸上の長距離移動は得意ではない。まぁ君も海に好かれているようだからな。これ以上の立ち話も難だ。彼女たちも待たせているからね」
「ハッ!」
海に好かれている?どういうこと?
聞こうと思ったが、予定を押しているらしい。提督の用意したダットサンに乗り込んだ。
「出してくれたまえ」
「分かりました」
「……運転手も妖精さんですか」
「海軍は人手、いや、人間の手はほぼ無くなったに等しい。私や君の行く先のパラオの提督を含め、人間は上層部か開発部くらいにしかいない。鹿一人で二つの鎮守府や基地を指揮しているのは当たり前。幌筵や単冠、宿毛湾を始めとするいくつかの泊地は近隣鎮守府の出張所のような存在になってしまった。特に北方の第四艦隊は司令部が大湊なのに展開しているのは主に幌筵と単冠だ……全く深海棲艦め」
横須賀提督は溜息をついた。それがどのような意図によるものかはわからないが、海軍の士官不足は深刻そうだ。
「陸軍も似たようなものですよ。近衛や古参の師団など、一部はまだ人間がいますが、それでも全体的には妖精さんの方が多い。航空隊や船舶隊、上陸戦用の特別師団に至ってはそちらと同じです。にしても……幌筵に単冠と大湊、だいぶ離れているように思えますが」
片や千島列島の北の端、片や北海道から数十キロ。大湊とはだいぶ離れている。
「そこは問題ない。海底電纜が敷設済みだ。新たに途中の島々に中継局を置いた無線も設置する予定だ。………お互い大変だな」
「全くです」
今度は二人揃って溜息をつく。あちらも色々気をもんでいるようだ。
「せっかく軍都横須賀に来たのに、市内観光が一切できないのが残念です」
そう。この後、艦娘との顔合わせが済んだら、彼と打ち合わせを行い、そのまま出航するのだ。
「今度来た時に案内してあげよう。パインがいいかね?」
こんなものを読んでいる諸兄に解説は不要だと思うが念のため。パインとは、横須賀にある料亭小松のことだ。もちろん、海軍御用達である。
「いやさすがにそれは……」
不幸なことに、こんなご時世でも、海軍と陸軍の仲の悪さは一部においても健在だ。船舶司令部や航空本部はそういうのに緩い方だが、海軍のその手の事情は一切知らない。
「はっはっは。今となっては利用客も艦娘か妖精、提督くらいだ。少なくとも提督連中に、陸軍を問答無用で敵視するやつはおらんさ」
提督は、まぁ露骨に皮肉を飛ばしそうな奴はいるが、と付け加えた。
それでもだ。
「はぁ……」
「まぁ君の展開先のパラオの提督はそんな奴じゃない。航海はからっきしだが、砲術は上手い。頭も切れる。女性将官として優秀だ。きっと上手くやれるさ……っと、そんな話をしていたら着いたな」
埠頭には、空母のような軍艦が停泊していた。
「到着しました、閣下」
「うむ」
戸が、先に降りていた運転手によって開けられた。
「ありがとうございました」
妖精にそう言って降り、外に出されていた鞄を手に取る。
「いえいえ、この程度。我々妖精にとっては朝飯前ですので」
「では頑張り給え、伊丹少佐。我ら海軍は陸軍との共同に重きを置いている」
横須賀提督は運転手の妖精と共に車で引き返していった。私は見えなくなるまで敬礼をした。今後の協力でも力を貸してくれそうだ。
敬礼を解いて、船を眺める。中々に立派で、船尾には大きな扉があった。これは揚陸艦?
「しっかし」
ほっぽりだされたけどどうすりゃいいの?
「あの……」
うろうろしていると、背中から声がかかった。
「はい?」
振り向くと、そこにはグレーで統一された軍服(もっとも、下はスカートだが)を着た色白の美少女がいた。
「あなたが提督殿ですか?」
「あなたは?」
「私は艦娘、陸軍特種船のあきつ丸であります。あなたが提督殿ですか?」
こ、これが、艦娘!?
可愛すぎやしないか!?
「あ、いえ。私は提督じゃないわ。陸軍中尉……じゃなかった、陸軍少佐の伊丹 奏よ。今日から君の指揮を執るわ。よろしくお願いしますね」
「伊丹少佐殿……で、ありますか。こちらこそ、これからよろしくお願いするのであります。時に少佐殿」
「何?」
「少佐殿の鞄が……」
「鞄がどうし……なっ!?」
後ろに置きっぱなしの鞄に目をやると、御犬様が小便を引っ掛けているではないか!
「あーあ……」
「ワン!」
犬は、小が済んだのか、こちらに向くとお座りの姿勢を取った。
よく見ると、豆柴だった。人間を警戒する素振りは一切見せず、手招きするとこちらの足にすり寄ってきた。毛並みはぼさぼさである。そういえば、何年か前に豆柴を飼うブームが起きてたっけ。
「こいつは……」
「野良のようでありますが、如何しますか?」
あきつ丸がいつの間にか抱きかかえていた。
「幸いにも、小便掛けられたのは、書類用の気密防水鞄。万が一に海に落としても二日は中身が無事なように出来てるから中身の心配はいらない。だから特にコイツをどうこうする気もない……でも、コイツが誰の物かもわからないとどうしようも……誰かに聞かないと……」
「同感であります」
そんなところに、一人の艤装を付けた金髪長身の少女が通りかかった。
「あ、そこの君!ちょっといい!?」
「あら~?私に何か用ですか~?」
胸部装甲をたゆんたゆん揺らしながらこちらに来た彼女は、重巡洋艦の愛宕と名乗った。
「すまないけど、この犬はここで飼っている子?」
「あらあら~迷って入って来ちゃったのかしら……少なくとも、うちの飼い犬じゃないわ~」
「ありがとう。どうしたものか……」
「行く宛も無さそうだし、うちじゃ引き取れないわね~……」
「そ、それなら我が隊で引き取るのは如何でありますか?」
犬を抱えたあきつ丸が進言した。犬も「ク~ン」と鳴き、ダメですか?と言っているようだった。確かに軍用犬は番犬にもなるしこの子や妖精たちのよき癒しとなることだろう。
「そうね……じゃあこちらで引き取りましょう。提督には侵入した野良犬を引き取ったと伝えてください」
「了解で~す」
「お願い。ごめんね、使い走りにして」
「いえいえ~ちょうど提督の所に行く予定でしたから、平気ですよ~」
愛宕は、金髪を揺らし庁舎に向かって歩いていった。
「さて、あきつ丸。艦内の風呂は使える?」
「はい。使える状態であります」
「缶焚きの妖精には迷惑をかけるけど、こいつを洗ってやらないと。命名はその後で」
「了解であります!」
あきつ丸に艦内を案内されながら船内の風呂に向かった。風呂自体はあまり大きくはないが、そこらの一般家庭にあるものよりは大きい。しかも、今は停泊中なので真水使い放題である。
石鹼も使って洗い上げると、先ほどまでのボサボサな毛はどこへやら。もふもふで手触りの良い、きれいな毛並みとなった。
洗い終わると、子犬はパタパタと身を振るい、水っ気を飛ばす。
「うおっ!?待て待て!ちゃんと拭いてやるから!」
「少佐殿ー!名前を考えたであります!」
………なーんか嫌な予感がするなぁ。
「よし、言ってみて」
「黒王号であります!」
……………。
「却下」
「何故でありますか!?」
「長い」
そう言うと、あきつ丸は口を尖らせた。
「むゥ……じゃあ黒王号から三音取って、クオウはどうでありますか?」
「短くなったし響きも良いけど、ちょいと言いにくいわね……クオンなんてどうかしら?」
「クオン……良い響きであります!お前の名前は今日からクオンであります!」
「ワンッ!!」
任務成功!
報酬:あきつ丸
2021/8/4追記
主人公の性別を変えました。はい、ゆりゆりしてないとやる気が起きないからです()