陸軍艦娘隊、前進!   作:磯風とユキカゼ

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遅くなりました


第2話 輸送船団との合流と最初の戦い

翌4月10日

横須賀鎮守府司令部

 

そんなこんなで、子犬一匹を陣容に加えた我々陸軍艦娘隊(仮)は、船団護衛の為の打ち合わせを行っていた。本来であれば、あの後直接船団についていく予定だったが、軽巡洋艦を中心とした深海棲艦の偵察艦隊が現れた為、出港を遅らせていた。

「次の輸送船団は、台湾までの第197船団とブルネイ方面への第24次東南亜方面船団の往路、そしてパラオまでの第45次南洋方面船団の往路となる。まず、東南亜船団の一部と南洋船団を率いて宿毛湾へ入港。ここで第197船団と合流する。そしてそのまま高雄に入港。第197、東南亜船団を分離してそのままパラオ行となる」

「船団はタンカーがメインですか?それともばら積み?」

「タンカーがメインだな。船団は最大時で44隻、護衛には軽空母の龍驤以下軽巡名取、駆逐艦文月、三日月、初春、朝潮。および台南と高雄の基地海軍航空隊が対潜哨戒と直掩にあたる」

なるほど。一番危ない九州と台湾の間や台湾から先の外洋航路をうち含めて7隻で護衛しようということか。

ん?

「閣下。私が気にすることではないとは思いますが、東南亜船団と第197船団の復路は誰が護衛するのですか?」

「東南アジア方面は完全に掌握している。それに次の東南亜船団は4隻だ。高雄からは海防艦4隻での護衛に切り替える。第197船団は物資の積み込みもあるからな、しばらく停泊する。その間に南洋方面の復路が高雄に戻ってこれるだろう。気にしなくても問題はない」

「失礼しました」

自分の立場では知る必要の無い事だったと謝罪すると、提督は、はっはっは!と笑った。

「いや、謝ることはない。君の心配は妥当だし、それを気にする立場でもある。元居た所を考えればその考えが出るのは当たり前のことだ」

と、そんなこんなで打ち合わせが終わり、あきつ丸のいる桟橋に戻る。そこでは、あきつ丸と何人かの妖精が指揮を執って物資の積み込みが行われており、大量のドラム缶や一斗缶、木箱に麻袋にと様々な物資が集積され、積み込まれるのを待っていた。

「隊長殿!お帰りなさいであります!」

「ただいまー。これ全部積むの……」

「燃料が2万リットルと少々、保存食が4万食、弾薬に至っては8万発以上。備蓄用なんですかねぇ」

目録を手に持っていた妖精がそう言った。って、燃料2万リットル!?

「2万リットルって……燃料用のドラム缶は統一規格で容量200リットルだから……」

「概算で100コですね。まぁこの船自体揚陸艦なので、それだけの物を運ぶ力はありますよ」

「これ絶対海軍の使用分もあるよね……好き嫌いって訳じゃないけど」

「いえ、海軍の分は保存食2万食分と機関砲弾2500発分だけですね」

これ殆ど陸軍(うち)の!?

「マジでか……」

「マジです」

何か反攻作戦でもやるのだろうか。何も聞いていないから、まだ軍令部の中でしか話が進んでいないのだろう。

「積み込みはあと1時間半で終わる予定であります。それまでどうされますか?」

「分かった。じゃあ私も指揮手伝うから、人手を積み込みに割いて」

「了解であります!班長、指揮所から二人程手伝いにいかせてくださいであります」

「了解しました。おい、須藤!藤山!積み込みの手伝いにいけ!」

須藤と藤山と呼ばれた妖精二人が駆け足で物資の方に向かった。

「さて、あ、そこ!バランス悪くなるから慎重に積んで!」

 

………

 

桟橋に置いてあった物資は全てなくなり、艦内に収まった。一部の食品類の収められた木箱は航空機用格納庫にはみ出し(?)その一角を占拠しているが、まぁ燃料用ドラム缶や弾薬箱といった可燃物がこんなとこにあったり、飛行甲板にはみ出したりするよかマシだ。

「積載完了であります。固定も確認しました」

「了解。出港予定の1400まで各員待機。一応高射機関銃砲の確認もしといてね」

この船には、単装の7.5cm高射砲2基に加え、飛行甲板に20mm高射機関砲を7基増設できる。さらに、艦内武器庫に行けば、海軍から貰ったルイス式の7.7mm機関銃とビッカース式の水冷12.7mm機関砲が合わせて2丁ある。いくら護衛に空母と基地航空隊が就くとはいえどこかで空襲に遭わないという保証も無い。

「了解であります」

砲要員からの報告はすぐに上がってきた。

「高射砲・機関銃共に問題なし。増設機関砲及び機関銃の展開を進言されています」

「許可します。ただし、弾倉の装填はしないように」

船内は未だせわしなく、何かの拍子に暴発なんて御免被る。船内の弾薬庫に置いておくことにした。

そうこうしていると、14時になった。

「積み荷の固定と安定、問題無しか?」

「固定可能な物は全て固定、容易にひっくり返らないように安定させているであります。問題なし!」

「了解。あきつ丸、出港!」

「了解であります!出港!」

「見張り員、民間船を注意しなさい」

船の底のエンジンが揺れと音をもたらし、あきつ丸は岸壁から離れた。パラオまでの大航海の始まりであった。経路は事前に策定した物に則り、相模湾の沖合いで船団と護衛の艦隊に合流する手筈だ。

「相模水道に入ります」

「了解。海上交通の要衝だから、特に警戒するように」

こんなご時世でも海上交通は盛んだ。特に、この辺りは首都圏への輸送の中継場所である港湾都市横浜や東京港の出入口である。今もひっきりなしに貨物船や定期フェリー、機帆の漁船などが出入りしている。

「魚なんて釣れるのかねぇ……」

深海悽艦のこともあり、無暗に外洋に出ることは出来ない。そのため、漁獲出来る品も多くない。サケやイワシ、サンマなど沿岸近くまで寄ってくる魚は安定しているが、マグロを始めとした回遊魚など、遠洋漁業でしか獲れない魚はほとんど流通していない。陸軍船舶隊も海軍も漁業保護までは手が回らないのが実状だ。

そういえば、クルーが一人いや一匹いない気がする。

「あれ?クオンは?」

「そういえば先程から顔を見ていないであります……まさか置いてきてしまったとか!?」

「それはない……と思う。私が乗った時に後ろちょこちょこ付いてきてたし……」

船内スピーカーで呼び掛けようと思ったその時、ブリッジの船内電話が鳴り響いた。番の妖精が受話器を取る。

「こちら船橋……はい……はい。わかりました。隊長!」

受話器から口を放した妖精が私を呼んだ。

「どうした?」

「航空機格納庫の荷物の番をしている妖精から通達!仔犬が一匹、航空機格納庫にいるそうです!犬の処遇を求めています!」

「毛色は!?」

「黒だそうです!」

「そっち行くから逃げないように見張っといて!あきつ丸、所定のルートで艦隊と合流して!何かあった時には私の判断を仰がずにあなたが決めなさい!その際は事後報告でいいから!」

「了解!隊長がそちらに向かう!逃げないように見張られよ!」

「了解であります」

慌ててブリッジを飛び出し、格納庫まで走る。途中蹴っ躓きそうになるもなんとか耐え、格納庫の扉を開けた。

「隊長!」

そこでは木箱を挟んで乗組員と一匹の黒い子犬が対峙していた。クオンは見張りで立っていた乗組員たちを威嚇するでも吠えかかるわけでもなく、しっぽをぶんぶんと振っている。彼らのうち一人がこちらに気づき、助けを求めるような目でこちらを見ている。

「クオン!!」

「ワン!!」

呼ぶと尻尾を振ってこちらに駆け寄った。

「ダメじゃない……迷子になるんだから、私とあきつ丸から離れちゃダメよ?」

叱られたと思ったのか、少しうな垂れている。

クオンを抱き上げてブリッジに戻る。

「いたよー」

「よかったであります!クオン、勝手に出歩いちゃめっ!であります」

そんなこんなで、クオンの定位置はブリッジの一角となった。

 

……

 

14:30

相模湾沖合

 

少し船内で騒動があったものの、航行自体は順調に進み、無事に船団との合流を果たすことができた。

「護衛艦隊旗艦、龍驤より発光信号!」

「なんて言ってる?」

「『うちが今回旗艦の龍驤や。陸さんよろしゅうな。なんかあったら通信してくれてかまへんで』だそうです……」

発光信号で関西弁ってどうやって送るんだろうか。

「じゃあ返信の替わりに無線つなごっか」

「はっ!」

周波数を海軍のものに合わせ、返答を考える。

「周波数合わせました。いつでもどうぞ」

無電妖精が電話型の送受信機を寄越してくる。

「こちら、陸軍艦娘隊旗艦あきつ丸。パラオまでの案内と護衛感謝する。船団に海神(わだつみ)の加護があらんことを」

『えらい粋な返しやないか!艦隊の防空はまかせとき!』

明るい関西弁が返ってくる。この声の主が龍驤の艦娘だろうか。

 

船団は一路14ノットで西を目指し、熊野の沖合で不幸にも台風によって沈んだトルコ海軍のフリゲートとその乗組員に哀悼の意を表しながら(沈没事故の後、当時の陸軍でオスマン帝国から設計図を買い取り、このフリゲートを設計母体とした武装輸送船が作られたりもした)、出航から10時間弱で種子島と枕崎の間を通って東シナ海に出た。

太平洋側の陸地近くを航行しているときは釣り針を垂らして毒魚を釣り上げたり、あきつ丸や妖精たちと碁に将棋を打って遊んだりする余裕もあった。

しかし、東シナはいまだにどちらの勢力圏下か怪しい海だ。厳密には勢力圏がまだら模様のように入り乱れていると言っていい。まっすぐ進めばそこは敵潜水艦をの遊弋する海域かもしれない。

あきつ丸にも一応ソナーは搭載されているが、聴音機型であるため、今いる位置では使えない。

船団の動きに合わせ取り舵と面舵をこまめに繰り返し、網目のように細い安全航路を、まさに縫うように進んでいった。

台湾の陸地が見えたのは、出航から3日後のことであった

 

4月13日

 

台湾 基隆(キールン)

 

「ついたぁ~」

「燃料・真水・食料の補充に6時間ほど掛かりますので、しばらく桟橋で休めそうです」

「市街の観光は無理でも少しは羽を伸ばせるかな……半々に分けて交代で休憩しよう」

「了解です」

部下の妖精さんを交代で休ませつつ、私も桟橋に降りて麦茶をもらう。

すると、燃料補充の指揮を執っていたあきつ丸が近づいてきた。

「お疲れ様。順調?」

「お疲れ様であります。各種物資の補充は滞りなく進んでおります!」

「そ、よかった」

「ここからはパラオまで一直線。順調にいけばまた3日とちょっとで到着しますな」

そう、あと3日。3日を乗り切れば、私たちは自分たちの拠点に辿り着ける。

その3日間が艦娘隊にとって一番初めの地獄であった。

 

日も傾きだした頃合いに第197および東南亜船団を分離し、補給の済んだ船団は、一路パラオに向け南進を始めた。

横須賀~基隆とさほど変わらない距離であるため、所要日数は3日と見積もられている。そしてここが一番危険なポイントである。太平洋を最短距離で突っ切るため、必然的に会敵する可能性が高くなる。夜間は潜水艦、昼間は航空機。どちらも脅威だ。

「全員、対空と対潜の見張りをしっかりするように。ここからは半ば敵地も同然。気を引き締めていきなさい!」

「「「「了解(であります)!」」」」

初日の夜は何事もなく終わった。

 

翌14日

午前9時41分

護衛艦隊旗艦龍驤

 

「駆逐艦三日月より入電!我、敵偵察機視認。機種デバステイター!距離600、方位

108、高度4000!」

「まずいなァ……見つかってしもたか……。艦隊と船団に下令、対空戦闘用意!当直の戦闘機隊は直ちに発艦や!急げ!」

「対空戦闘用意!」

 

同時刻

あきつ丸艦橋

 

「私たちもやるわよ。対空戦闘準備。高射砲、高射機関砲、射撃準備。予備機関銃も展開しなさい!」

「はっ!」

「予備機関銃の操作に当たる者は防弾装具着用の上、警戒に当たれ!」

龍驤からの通信を得た私たちは、慌ただしく対空戦闘の準備を始める。この中で戦闘経験のある者は私とほかに何人かいるのみだから、部隊としての初の実戦である。

「いい?海軍の艦艇と違って、この船の対空装備は多くない。増設の予備機関銃を含めても駆逐艦の方が多いくらい。それに口径も小さい。

だから、可能な限りひきつける!海軍の12cmや12.7cmと違って、こっちには7cm半2門しか積んでないから、よく引き付けて撃ちなさい!無駄弾出したやつはあとで腹筋100回だからね!」

伝声管と艦内通話を用いて指示を回す。あきつ丸が初陣な以上、私がどうにかしないといけない。

一抹の不安を抱えながら、迎撃に向かう零戦を見送る。

 

零戦隊が会敵したのは10分後、その迎撃を突破した攻撃機隊が船団上空に現れたのはさらにそこから15分後であった。




遅くなりました(2回目)

ホントに遅くなりました。
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